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第314回:Steinbergのポスプロソフト「NUENDO 4」を試す
~ Cubase 4の上位DAWとしても使える強力な機能を搭載 ~




NUENDO 4

 先日、ヤマハから、Steinbergのオーディオ・ポストプロダクションソフトウェア「NUENDO」の新バージョン「NUENDO 4」が発売された。

 ある意味では「Cubase」の上位版ともいえるこのNUENDO、音楽制作用のDAWとしてとらえたときにどう見えるのか、Windows Vistaにインストールして試した。



■ ProTools対抗ポストプロダクションソフトの現在


パッケージ
※写真は初期バージョン。
 現行パッケージとは異なります

 NUENDOの最初のバージョンが登場したのは2000年。ポスプロに対応したCubaseとは別のラインナップのシステムとして登場し、大きな話題となった。また、強力なサラウンド機能を備えていたことから、DVD制作用などとして注目を集めるとともに、「ProTools」の対抗馬と目された。

 スタジオにおいて圧倒的なシェアを持つProToolsがDSPベースのシステムであるのに対し、NUENDOはCPUベースであり、PC以外にはハードウェアの制約を受けないオープンなシステムだ。そのため、非常に安くシステムを構築できるというメリットがあり、注目されたというわけだ。

 登場から8年が経過し、NUENDOも4世代目となった。ProToolsの置き換えという意味では、必ずしも成功していないかもしれないが、ポスプロ用、MA用のシステムとしては一定の地位を得るに至った。MacとWindowsのハイブリッドであった点も成功要因のひとつともいえるだろう。

 一方でCubaseとの関係という意味では、当初とはちょっと変わってきたようにも思う。NUENDOの最初のバージョンが登場した際に存在していたCubaseは、Cubase SXの初期バージョンであったため、NUENDOとはユーザーインターフェイスも異なり、機能的にもNUENDOのほうがかなり豊富なものに見えていた。しかし、2003年のCubase SX2、NUENDO 2の発表で、ユーザーインターフェイスは共通化されて見かけ上そっくりとなった。

 また、オーディオエンジン部分も双方ともにVST2.3テクノロジーが搭載されたことで基本的には共通化された。2004年のCubase SX3、NUENDO 3の発表後、NUENDOのバージョンアップはしばらくストップしてしまったが、その間に新しいテクノロジーを数多く取り入れたCubase 4が先にリリースされてしまい、NUENDO 4登場まで2年近くかかった。最新技術を搭載したシステムという点においてはCubaseとNUENDOの立場が逆転してしまったのだ。

 なお、Cubase 4は4.1になってVistaおよびVista 64bitに対応したが、NUENDOは初期リリースのバージョンが4.1であることもあって、同梱のDVD-ROMでVista 64bitなどにもインストール可能となっている。

 では、そのNUENDO。Cubase 4ユーザーから見ると、どのように見えるのだろうか?



■ Cubase 4ソックリのインターフェイス。外部デッキ連携などに対応

 起動してみると、まさにCubase 4ソックリな画面で、どこが違うのかすぐには気づかないほどだ。確かに細かく見てみると微妙な違いはある。たとえば、「トラックカラーの表示/非表示」といったボタンがあったり、トランスポートパネルの色も微妙に違ったり……。またメニューを見て、おや、と気づくのは、「ネットワーク」という項目があることだ。


起動画面はCubase 4にソックリ メニューに「ネットワーク」の項目を用意

 Cubaseにも以前からVST System LinkというS/PDIFやADATを通じたネットワーク機能があるが、NUENDOでいうネットワークは、通常のLANのネットワークのことで、ネットワーク上のNUENDOユーザーとプロジェクトの共有などができるようになっているのだ。

 今回は、NUENDOのマシン1台で使っていたので、実際のテストはしなかったが、各プロジェクトごとにアクセス権を設定して、ネットワーク上での作業ができるようになっており、これはCubaseにはできない大きなポイントのようだ。


ネットワーク接続した他のPCと共同で作業が行なえる

 メニューの中身を見ても、やはりNUENDO特有な項目がある。とくに目立つのが「デバイス」メニューにある「9-pinデバイス」というもの。これこそ、まさにNUENDOが最初から得意としてきた機能で、ソニーの9ピンプロトコルに対応したビデオ/オーディオデッキとPC側のシリアルポートを同期させるための機能だ。

 実際に同期の設定画面を見ると、これもCubaseとは明らかに異なり、9ピンデバイスとの同期を中心にかなり拡張されたものとなっている。この同期設定をした上で、9ピンデバイス用のトランスポートパネルを開けば、外部ビデオデッキなどとの同期が可能となるわけだ。

 使い方自体はCubaseにおけるMIDI-SyncやMTC同期などとまったく同じなので、戸惑うことはないと思うが、やはり外部デッキとの連携したビデオ用のサウンドの編集では、NUENDOが必須なんだと実感できる。


「デバイス」メニューの「9-pinデバイス」では、ソニーの9ピンプロトコル対応の外部ビデオデッキなどと、PCのシリアルポートとで同期が行なえる


サンプリングレート192kHzに対応

 一方、Cubaseユーザーにとって、明らかにいいと思えるのが192kHzのサンプリングレートに対応していることだろう。SONARもLogicもDigital Performerも、そしてliveだって192kHz対応しているのにCubaseだけが96kHzまでの対応になっている中、NUENDOは192kHz対応可能となっているのだ。

 基本的に同じオーディオエンジンを搭載しているのだから、Cubaseも192kHz対応は簡単だろうと思うのだが……。まあ、本当に192kHzでのレコーディングが必要だという人がどれだけいるのかは疑問ではあるものの、この点はNUENDOのCubaseに対する大きなアドバンテージとなっている。

 ところで、今回のNUENDO 4には、Cubase 4にはない強力な機能が追加された。それがオートメーションパネルというものだ。Cubaseではボタン化されていなかったツールバーのオートメーションのアイコンをクリックすると、ややノッペリとしたパネルが現れる。使ってみると、これがかなり便利な機能なのだ。

 まさにオートメーションをコントロールするためのもので、チャンネルごとにオートメーションのパンチイン・アウトを設定したり、パンチアウトの値をプロジェクト終了位置まで適用する「Fill To End」、パンチアウトの値をパンチインの値に適用する「Fill TO Punch」という機能があるなど、なかなか便利だ。

 また面白いのが「Virgin Territory」という機能で、これをオンにしておくと、前後は無視して、記録した部分のみオートメーションが適用されるようになっている。さらに、オートメーションを再生させる際、ボリュームのみ読み込まない、EQのみ読み込むといった設定が可能なのもなかなか便利なところだ。


オートメーションパネルを搭載 チャンネルごとのオートメーションのパンチイン/アウト設定などが行なえる 記録した部分のみオートメーションを適用できる「Virgin Territory」機能を備える



■ MIDI機能は別売オプションによりCubase 4以上の充実

 ところで、Cubase 4となった際、大きな機能強化として打ち出されたのがメディアベイだが、これはNUENDO 4でも同様に搭載されている。MA作業において膨大なライブラリから検索していくといった用途には向いているのかもしれない。同様にトラックプリセットなども使えるようになっている。

 メディアベイに対応するエフェクトの規格であるVST3準拠のプラグインエフェクトがNUENDOには38種類。また、同梱されているVST2のプラグインも含めれば計60種類ものエフェクトが利用できる。NUENDO 4で新たに登場したものとしては「PostFilter」などがある。これは1/2/4/8倍音を設定してゲイン/リダクションできる整音フィルタだ。


Cubase 4同様、メディアベイを搭載 トラックプリセットなども使える 整音フィルタ「PostFilter」を搭載

 そのほか、サラウンドに関しては、5.1chはもちろん、8.1chさらには10.2chといったプリセットまで用意されており、どんなサラウンドにも対応できるようになっている。

 ただNUENDO 4でも、Cubase 4と比較して足りない機能もある。具体的にいうとMIDI機能で、プラグインのソフトシンセが入っていないのだ。正確にいうと、VB-1など古いソフトシンセはDVD-ROMの中に収録はされているので、手動でインストールできるが、Mystic、Prologueなど、Cubase 4にある強力な6つのソフトシンセが入っていないのだ。


5.1/8.1/10.2chなど各種サラウンド音声に対応 標準では、Mystic(左)、Prologue(右)など6つのソフトシンセを搭載していない


MIDI機能を大幅に強化する「NUENDO EXPANTION KIT」を別売オプションで用意

 それを補強するための「NUENDO EXPANTION KIT」というものもリリースされ、これを使えばすべての機能がCubase 4以上となるようになっている。NUENDO EXPAINTION KITを追加することで、6種類のVSTiのほかに、ドラムエディタ機能、プロフェッショナルな譜面作成機能、そしてMusic XMLインポート&エクスポート機能が追加されるとカタログに書かれている。

 ただ、試してみたところ、譜面機能については「Cubase 4」と同等だったが、ドラムエディタは標準のNUENDOでも装備していた。


ドラムエディタは標準で装備 譜面機能はCubase Studion 4相当のものを搭載

 NUENDO 4本体、NUENDO EXPANTION KITともにオープンプライスとなっているが、店頭予想価格はそれぞれ25万円前後、4万円前後となっている。つまり両方セットで29万円というわけだ。この価格設定を見ても、コンシューマ用というわけではないが、ネットワーク機能なども含め、業務用ソフトとしては高機能でProToolsなどと比較して、コストパフォーマンスの高いシステムであるといえそうだ。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□steinbergのホームページ
http://www.steinberg.net/714_0.html
□製品情報
http://www.steinberg.net/1456_0.html
□関連記事
【2006年11月13日】【DAL】ブラウザ追加などで効率化した「Cubase 4」
~ 「SoundFrame」搭載。ヤマハ傘下入りで変化は? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061113/dal258.htm
【2005年11月7日】【DAL】楽器の国内最大イベント「楽器フェア」レポート
~ MIDI機能を強化したProTools7などが登場 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051107/dal211.htm

(2008年2月18日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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