【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第349回:ついに1,000万画素写真に突入したソニー「HDR-SR12」
~ HDDとメモリ両方で動画記録もサポート ~



■ HDでも高画素化へ舵をと取ったソニー

 新世代の撮像素子として注目をあびるCMOSも、そろそろHDに対してフル画素Overというのが現実的になってきた。ビデオカメラにもっとも早い段階でCMOSを持ち込んだのはソニーで、2005年にSDの3CMOS機「DCR-PC1000」をリリース、これはもちろんSDなので、ピクセルバイピクセルである。そして同年7月には297万画素単板CMOSのHD機、「HDR-HC1」をリリース。

 その後2006年1月に、初めて210万画素クリアビッド配列のCMOSを搭載したDVDハンディカム「DCR-DVD505」を発売。続いて同年3月に、HDカメラとして初めてクリアビット配列CMOSを搭載した「HDR-HC3」を発売した。クリアビッド配列のメリットとして、画素面積が拡大するためS/Nが稼げるという点に加え、画像処理により、実画素数を超える静止画が撮影できるところがポイントだった。

 そして今年1月にInternational CES 2008で発表された「HDR-SR12/11」は、566万画素クリアビッドCMOSを搭載し、撮影可能な静止画は1,020万画素に到達した。最近はコンパクトデジカメでも1,000万画素超えがトレンドになりつつあるが、HDR-SR12/11はビデオカメラでこれに並ぶ、現時点で唯一のカメラとなる。

 動画性能もさることながら、静止画がこれほど注目されるビデオカメラも珍しいだろう。今回は上位モデルのHDR-SR12(以下SR12)をお借りすることができた。さっそくその実力を試してみよう。


■ 小さくはないがシックな外観

 ではまずデザインから見ていこう。SR12/11は、この春のラインナップでも上位モデルに位置するわけだが、両者の違いはHDD容量とボディカラーである。SR12のほうがより大容量の高級モデルということで、黒を基調としたカラーリングになっている。


黒を基調としたシックなカラーリング ヒップアップした綺麗なラインを持つボディ

 一見すると鏡筒部とメディア部が合体したオーソドックスなスタイルに見えるが、後部がヒップアップしてスポーティな印象だ。もっとも昨今のメモリー記録型カメラに比べれば、小さくもないし軽くもない。サイズ感としては、HDV時代の名機「HDR-HC3」に近い。


鏡筒部に対して前玉は小さめ

 レンズはお馴染みカールツァイスで、35mm換算で動画40~480mm、4:3静止画37~444mmの光学12倍ズームレンズ。フィルター系は37mmだが、鏡筒部に比べるとレンズの前玉はかなり小さい。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
40mm

480mm
静止画(4:3)
37mm

444mm

 撮像素子は1/3型クリアビッドCMOSセンサーで、総画素数は566万画素。有効画素数は動画で381万画素、静止画で508万画素となっている。ただ静止画は最大で1,020万画素の撮影が可能だ。


レンズ下には逆光補正とカメラコントロールダイヤル

 レンズ脇に静止画用フラッシュ、斜め下にはマニュアル操作用のカメラコントロールダイヤルがある。以前はローラー型のダイヤルだったが、プロ機のようなつまみ型に変更されており、操作性はこちらのほうが格段に良い。つまみの真ん中がボタンになっており、設定のON/OFF、長押しでコントロールの切り替えとなっている。またレンズ下には逆光補正ボタンがある。

 液晶モニタは3.2型92万画素のエクストラファイン液晶で、解像度が高い。さらにこのパネルは、x.v.Color対応の広色域タイプとなっている。従来のモデルでは、撮影はx.v.Color対応でも液晶モニタが対応しておらず、正確な発色が撮影時に確認できないという問題があったが、これがクリアされた意義は大きい。

 液晶の脇にはホームやズーム、録画ボタンがある。これもフィルムタイプのボタンではなく、アクリルを上手く使ったデザインとなっている。液晶内側には、再生モード切替やワンタッチディスク、EASYモード切替などのボタンがあるまたメモリースティックポートもここだ。内蔵HDDは120GB。


x.v.Color対応になったエクストラファイン液晶 液晶内側のボタン類

 このカメラは、ポート類の蓋に執拗とも思えるほど手がかかっているのが特徴だ。メモリースティックポートもそうだが、AC、USB、映像出力部など、すべての蓋がスライドしたり、ヒンジがあったりする。以前のようにゴム板が填っていて、開けると蓋がプランプランするような部分が一つもないのだ。全部の蓋にきちんとバネが仕込んであり、シャキッとと開いてシャキッと閉まる。手抜きや成り行き部分がなく、みっちりデザインの手が入っている。


USBポートのカバーはスライドして開く 前方のポートはスライドしながら外側に開く アクセサリーシューのカバーもスライド

 背面のデザインもいろいろと考えられている。まず電源兼用のモードダイヤルと録画ボタンは、より洗練され、単調な背面部のいいアクセントとなっている。モード表示、アクセスランプもシンメトリックにまとめられており、視認性もいい。

 グリップ部は手のひらに合わせて緩くカーブを描いており、ホールドしても四角い箱を持たされている感じがしない。重さの割にはしっくりくる感じがするのは、おそらく親指を這わせるカーブが自然だからだろう。必要以上にオーガニックな感じはしないが、人間工学的な洗練度が高い。

 また本機には、クレードルも付属する。HDMI端子はないが、電源、USB、アナログAVの接続が可能だ。


背面のモードダイヤルがアクセントになっている 付属のクレードル



■ 解像感が高い動画

 ソニーのハンディカムは、「HDR-UX20」をやったばかりである。今回は多少時間帯を変えて、夕方に撮影を行なった。光量がやや少なくなった状態での撮影である。

 画質モードは、UX20に比べてDVDの上限であるHD-FSモードがないため、1モード少ない。16Mbpsの下が9Mbpsとずいぶん間が開いているが、HDDが120GBもあるので、基本はFHモードだということなのかもしれない。また今回はサンプルとして、SD解像度でも撮影してみた。SDモードでは、バッテリ残量表示がHDに比べて2倍ぐらい伸びる。やはりHDの画像処理は相当電力を食うようだ。

動画サンプル(HD解像度)
モード 解像度 ビットレート 記録時間
(120GB HDD)
記録時間
(8GBメモリ)
サンプル
HD-FH 1,920×1,080ドット 16Mbps 14時間40分 55分
ezsmhdfh.mts (25.0MB)
HD-HQ 1,440×1,080ドット 9Mbps 29時間40分 1時間55分
ezsmhdhq.mts (18.3MB)
HD-SP 7Mbps 36時間 2時間20分
ezsmhdsp.mts (15.0MB)
HD-LP 5Mbps 48時間 3時間
ezsmhdlp.mts (10.5MB)

動画サンプル(SD解像度)
モード 解像度 ビットレート 記録時間
(120GB HDD)
記録時間
(8GBメモリ)
サンプル
SD-HQ 720×404ドット 9Mbps 29時間40分 1時間55分
ezsmsdhq.mpg (15.6MB)
SD-SP 6Mbps 44時間 2時間50分
ezsmsdsp.mpg (13.0MB)
SD-LP 3Mbps 84時間20分 5時間25分
ezsmsdlp.mpg (7.09MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回のサンプルはHD-FHモード、x.v.Color ONを中心に撮影した。解像感はUX20よりも高く、上位モデルらしいかっちりした絵になっている。ただ線の細い枝の部分はギザギザになることがあり、画素縮小とアンチエイリアスと輪郭補正のバランスの中で無くなってしまうピクセルがあるのかもしれない。


静止画サンプル
かっちりした解像感が楽しめる 線の細い枝がギザギザになる

 今期のシリーズは顔検出が搭載されたこともあり、人物撮影には威力を発揮する。ただそれ以外の被写体の場合は、抜けのある絵ではフォーカスの追従性が今ひとつで、マニュアルで補正する必要があるケースが目立った。奥にディテールの細かいものがあると、そちらにフォーカスを合わせたがる癖がある。ただコントロールダイヤルは使いやすく、液晶も高精細で見やすいので、フォーカスをマニュアルで合わせるのはさほど苦痛ではない。


静止画サンプル
オートフォーカスはディテールが細かい部分に引っ張られる傾向がある

 ただ液晶モニタがタッチパネルなので、いろいろ設定を変えて撮っているうちに指紋だらけになる。その状態で直射日光があたると、汚れの反射で画面が見えづらいのが、ソニー機の宿命である。クロスで拭いてもそれほど綺麗に油が取れず、今度は拭き汚れになってしまうので、もうちょっとコーディングでなんとかできないものかと思う。

 オートホワイトバランスはニュートラルなトーンで、発色も無理した感じはなく自然だ。逆光のアングルでは、若干マニュアルで補正したほうがいいケースもあるが、あまり破綻することなく撮れる。以前は若干明るくしすぎる傾向があったが、今回は割とダイナミックレンジを広く取る方向に調整される。このあたりは、新しくなった画像処理エンジンの効果だろう。


静止画サンプル
コントラストの取り方は上手い 夕景モードでの撮影


動画サンプル

ezsample.m2t (198MB)

ez_room.m2t (32.4MB)
HD-FHモード/x.v.Color ONで撮影 室内撮影のサンプル
編集部注:動画サンプルは、Canopus HQ Codecに変換後、EDIUS Neoで編集し、HDV形式(.m2t)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ 確かに1,000万画素だが……

 動画の解像度もさることながら、1,020万画素の静止画が撮れるということで、こっちのほうも期待が高まるところだ。まず動画同時撮影の静止画は、枚数制限が無くなったのはUX20と同じである。同時撮影静止画の記録はそこそこ待たされるが、静止画記録中のサインが出ていても動画記録は停止できるため、Panasonic機のような不便さはない。

 一方静止画モードでの撮影は、モード切替や記録が早く、軽快に撮影できる。色味はビデオモードとそれほど変わらないが、コントラストは静止画なりに調整されている。等倍で見るとそれほどかっちりしたエッジではないが、独特のなめらかさがある。


静止画サンプル
発色もしっかりしている 独特の柔らかさが特徴か 端正なタッチの絵作り

 ただ1,000万画素オーバーの静止画としては、やはりボケ味の汚さを問題にしたい。これはビデオカメラ特有の菱形絞りに起因する部分だが、これだけデジカメに匹敵する画素数を持つにしては、このボケ味はそれ相当の絵として成立しない。せいぜい400万画素ぐらいならば「まあビデオの絵にしてはいいんじゃない? 」程度で済むかもしれないが、さすがに1,000万画素でこのボケ味は、画素数にフックするようなユーザーレベルから見れば、許容範囲を超えているのではないだろうか。

 地味ながら新しい機能としては、本体で動画からの切り出し機能が搭載された。以前は付属ソフトのPicture Motion Browserを使わないと切り出しできなかったが、切り出し専用モードに入ることで、複数のクリップから次々に静止画を切り出すことができる。ただし本体で切り出した静止画は、HD解像度のままとなる。


絞ったときの背景のボケの汚さは今後の課題 本体での静止画切り出し機能が付いた

 つまり本機では、撮影の仕方によって複数の解像度が存在する事になるわけだ。まず写真専用モードで撮影した場合は、最高画質で1,020万画素となる。動画撮影と同時に静止画を撮影すると最高で760万画素、Picture Motion Browserで動画から切り出せば補間技術により300万画素、本体で動画から切り出せば210万画素である。

静止画解像度比較サンプル
静止画モード撮影 動画同時撮影
ソフトウェア切りだし 本体切りだし


■ 現実的なコピー機能

 HDD+メモリーカードという組み合わせは、前回レビューしたPanasonicのHDC-HS9と同じ構成である。HDDからメモリへのコピーで難点があったHS9だが、SR12はバッテリ駆動でHDDからメモリへのコピーが可能だ。日付選択コピーと、クリップを指定してのコピーができる。


動画のコピー機能を搭載 コピーする映像の種類を選択
動画の選択方法を選ぶ バッテリ駆動でコピー可能

 テスト撮影したHD-FHモードの動画約11分をコピーするのに、約5分50秒であった。だいたい2倍速だと思っていいだろう。速度的にもまずまず妥当だし、なによりバッテリで動作できるので、現場でのバックアップや、ノートPCへ映像を取り込みなども可能になる。むしろHDDのほうを撮影ストレージとアーカイブ、メモリースティックで素材取りだしと編集、といった具合に、それぞれのメリットを生かしたサイクルで運用できるだろう。

 書き出したメモリースティックには、AVCHDのフォルダ構造が作られる。UX20でのメモリ記録と同じだ。SD画質で撮影した映像も、同じ手順でコピーできる。この場合は、メモリのルートにMP-ROOTというフォルダが作られ、その中の101PNV01フォルダにMPEG-2のクリップが収録される。

 これはPSPなどで使われている「メモリースティックビデオフォーマット」(MSVF)に準拠しているものと思われる。ただPSPが再生できるのは規定サイズのMPEG-4だけで、SR12で撮影した映像がそのままPSPで再生できるわけではない。


■ 総論

 ソニーハンディカムの中でもっとも売れ筋なのが、HDD搭載のSRシリーズである。事実上昨年あたりからのHDDカムコーダのムーブメントは、SRシリーズが市場を作ってきたと言っても過言ではない。

 SR12は、HDDカムコーダのハイエンドモデルとして、よく練られたモデルである。メモリー記録型のサイズ感から見れば若干大きく感じるのは致し方ないが、HDD記録型としては平均的なサイズだ。

 撮像素子の高画素化で動画の有効画素数にも余裕があり、HDらしい解像感が楽しめるカメラとなっている。またメモリへのコピーも、ユーザービリティを考えてみれば当然なのだが、バッテリ駆動で可能だ。

 クリアビッドのメリットを生かした1,020万画素静止画は、解像感や色味、S/Nなどテクニカルな面は十分だが、ボケ味まで含めた絵作りという点では、ビデオカメラ固有の絞りの問題がいよいよ露呈してきた感じだ。

 ビデオカメラの絞りは、常に動的に動かさなければならないため、羽根が多いと消費電力面で不利となる。もちろん製造面でも破格に複雑になるため、コストアップに直結する部分だ。したがって、昔レンズシャッター式の小型フィルムカメラなどで使われていた2枚の羽根を組み合わせた簡易的な絞りを、まあこう言っては悪いが「だましだまし使ってきた」わけである。

 2枚の羽根の組み合わせでは、絞りの形が円形にならず、菱形になる。するとその形状がボケの部分に影響し、光の部分は菱形の集合体になってしまうし、物理物のボケも汚く滲んだ感じになってしまう。

 絵の良さとコストをトレードオフした場合、コンシューマではどうしてもコスト優先に傾いてしまう。だからこの問題は、これまでレンズユニットを自社で製造するキヤノンぐらいにしか言ってこなかった。だが今回1,020万画素で大判プリントにも対応、と謳うレベルまで来たわけだから、この絞り問題にいよいよソニーも直面したということである。

 高画素は「いい絵」の十分条件かもしれないが、必要条件ではない。メーカーにはいい絵を求めるはずが、我々はいたずらに高画素を求めていなかったかという反省を含めて、もう一度きちんと考えてみなければならない命題であろう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200801/08-0117/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/HDR-SR11SR12/index.html
□関連記事
【1月17日】ソニー、フルHD録画対応のHDD内蔵型AVCHDハンディカム
-AVC High Profileに変更。マニア向けHDVカムも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080117/sony1.htm
【2月13日】【EZ】ソニー的オールマイティ「HDR-UX20」
~ 3メディア搭載のビデオカメラ登場 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080213/zooma345.htm

(2008年3月12日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.