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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第352回:デジカメの新時代を拓く、カシオ「EX-F1」
~ 特殊撮影に特化したネオ一眼の動画撮影能力をテスト ~



■ ネオ一眼に新風

 デジカメ業界は今一眼レフがアツい。コンパクトデジカメでは物足りない人たちが、こぞってハイエンドに向かう流れの中で、価格的にもこなれたものが多く出てきたことは喜ばしいことだ。またベテランユーザーにとっても、手持ちのレンズを生かせるというのは、ボディだけ気軽に買い換えて最新の技術についていけるというメリットがある。

 その一方でレンズ交換ができない、いわゆる「ネオ一眼」が苦戦している。一眼が流行っているなら、そういうのもレンズを外せるようにしたらいいのに、と思われるかもしれない。だがレンズシステムとして出すと言うことは、長期に渡ってサポートしなければならないため、撮像素子の面積やフランジバックを固定しなければならない。さらにレンズもそれに合わせたバリエーションを展開しなければならないということで、設計上の制約が大きい。つまり売れなくても辞められないという覚悟がないと、一眼には参入できないということである。

 逆の意味では、その制約を解消するという意味で、「ネオ一眼」という解がある、ということのようだ。レンズ固定なので、その都度最高の撮像素子が使え、レンズも1回きりのカスタムで設計できる。高画質と自由な発想を盛り込んだ、スペシャルなカメラを作ることができるわけだ。

 「EXILIM RPO」を名乗るカシオ「EX-F1」も、そんなスペシャルなカメラである。高速読み出しCMOSを搭載することで、カメラに何ができるかを追求したモデルだ。その中にはハイビジョン動画撮影機能も含まれており、AV Watchとしても見逃せない製品である。

 写真としての連写機能などは、僚誌デジカメWatchに任せるとして、本コラムでは、EX-F1の動画機能を中心にテストしてみることにした。動画デジカメとしては三洋Xactiが早くから道を切り開いてきたが、デジタルカメラの元祖とも言えるカシオはどのようなアプローチなのだろうか。早速試してみよう。


■ スポーティな流線型のボディ

 従来ネオ一眼と言えば、一眼よりもやや小型という印象だが、EX-F1のサイズ感は普通のデジタル一眼とほとんど変わらない。最近は一眼レフも小さくなっているので、寸法では一眼よりも大きいかもしれない。

 デザイン的には、グリップ側が大きく張り出した形状で、奥行きもあるので、かなり深く握る感じだ。鏡筒部とボディ接続部の流線型のラインなどは、スポーツカーのような美しさがある。

 まずは光学部から見ていこう。レンズは35mm換算で36~432mm/F2.7~4.6の光学12倍ズームレンズ。フィルタ径はかなり大きく、62mm。前玉の大きさも、コンシューマのビデオカメラでは見かけることのないサイズだ。

ネオ一眼にしてはやや大ぶりなボディ 前玉はかなり大きなレンズ部

機能割り当て可能なリング部

 動画はSDモードではこの画角だが、ハイビジョンとハイスピード撮影時は一回り内側のエリアが撮影される。仕様には表記がないが、過去のカメラと比較すると、だいたいワイド端で45mmぐらいではないかと思われる。

 鏡筒部にリングがあり、フォーカス、ズーム、フレームレートに割り当てができる。リングでフレームレートが可変するというのは、なかなかユニークだ。

 レンズ横には、フォーカスレンジ切り替え、逆光補正、AEロック/AFロックボタンがある。鏡筒部とボディのつなぎ目あたりある左右の穴は、マイクだ。グリップ部との間にあるライトは、AFの補助光やセルフタイマー時にタイミングを知らせるLEDである。

 カードスロットはSD/SDHCメモリーカード、マルチメディアカード、マルチメディアカードplusに対応し、31.9MBの内蔵メモリも搭載している。


レンズ脇の左右にある穴がマイク グリップと鏡筒部の間にAF用補助LED

 撮像素子は1/1.8型660万画素CMOSで、有効画素は600万画素。最近は1,000万画素越えの撮像素子も珍しくないが、ハイスピード読み出しが可能なのがポイントだ。静止画は最大2,816×2,112ピクセル、動画は1,920×1,080/60i、1,280×720/30p、640×480/30pでの撮影が可能。資料にはビットレートがないが記録分数から計算すると、フルHD撮影時でだいたい14Mbps程度ではないかと思われる。

 また動画はハイスピード撮影も可能で、300、600、1,200fpsに切り替えできるが、フレームレートによって撮影可能な画素数が変わる。動画フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264準拠で、MOV形式となっている。

 上部には自動でポップアップするフラッシュが付けられているが、動画的に注目なのは、同時にLEDビデオライトも装備していること。撮影中にメニュー操作でONにすると、自動でポップアップして点灯する。高さは相当あるが、付属のレンズフードを付けていると画角下に影が出る。フードはフレアを嫌う場合以外は、なくてもいいだろう。

 静止画用シャッターはグリップ部前方にあり、ズームレバーはその周りにある。上部のリングは、右側が優先モード切替ダイヤルで、左側が連写機能切り替えダイヤル。連写ダイヤルの前にある穴が、スピーカーだ。

 動画用のRECボタンが背面に別にあり、動画と静止画は特にモードを切り替えることなく行なえる。動画撮影中も、静止画は20枚撮影撮影可能。

フラッシュとビデオライトを備える 上部には撮影モードと連写モード切替ダイヤル 背面には動画専用録画ボタンがある

 多彩な機能の割には背面はシンプルで、動画の録画ボタンの周りに動画モード切替スイッチがある。メニュー操作は円形十字キーで、周囲にはメニュースクロール用のダイヤルがある。液晶モニタは2.8型ワイド23万画素で、ビューファインダは0.2型20万画素となっている。

 背面から見て右側がSDカードスロット、左側が接続端子となっている。さすがにハイビジョン撮影可能なだけあってMini HDMI端子も装備している。また外部マイク端子があるのも、デジカメには珍しい機能だ。

背面右にSDカードスロット 左側に端子類

 バッテリはグリップ部に底から挿入するスタイルで、別途充電器が付属する。


■ レンズの良さが出る動画

ハイビジョン動画フレームはコントラスト差の枠で表示される

 では早速撮影してみよう。東京は週末ぐずついた天気だったが、うまく晴れ間を狙って撮影することができた。動画での注目はやはりフルHD撮影になるわけだが、液晶画面には静止画用の画角が表示されている。HDの画角はそれよりも一回り狭い範囲で、モニタには中央部に若干コントラストを変えたフレームとして表示される。

 室内などではこのぐらいのコントラスト差でもフレームが見えるのだが、日中の屋外ではほとんど見えない。実際に撮影を始めてみて、案外寄りすぎていたことに気づくというパターンが多かった。コントラスト差で見せるアイデアは面白いが、もう少しはっきり差があったほうが使いやすい。

 フォーカスの追従性は、やはり静止画のカメラらしい動き方だ。つまり動画でFIXの画角で撮っていても、撮影中に細かくフォーカスを探そうとするので、絵が前後にふらふらするケースがあった。これは三洋Xactiでも長年指摘されてきた問題である。また撮影ボタンを押した直後に少しフォーカスを取り直すような動きをするのが気になる。ただ結果的には、大きくフォーカスを外すこともなく、ビデオカメラ並みに優秀と言っていいだろう。

 マニュアルフォーカスも、センターを拡大するフォーカスアシストがあるので、使いやすい。ただ液晶モニタの解像度がそれほど高くないので、フォーカスの山は探しにくい。

 またモード切替の順番が、オート→マクロ→無限遠→マニュアル、という順番なので、せっかく近いところまでオートで合っていても、マクロや無限遠を経由するため、マニュアルモードになったときにはフォーカスが明後日のほうに設定されてしまい、かなり戻さなければならなかった。静止画ではシャッターの半押しで簡単にフォーカスの取り直しやフォーカスロックできるので、オートからすぐにマクロモードに行ける方がニーズに合うのだろう。

 だが動画的な見地からすると、モードの並び順はオートの次がマニュアルで、オート時のフォーカス値をそのまま引き継いでいてくれるほうが使いやすいと思う。このあたりは製品の性格上、悩ましいところだ。

 映像的にはかなり満足のいく、端正な絵が撮れる。特にビデオカメラ特有の菱形絞りではない、丸いボケが楽しめるのは新鮮だ。しかしその反面、動画撮影時には物理的な絞りは開放のままで、単にシャッタースピードとISO感度の相関でF値を求めているだけのようなので、絞り優先でF値を変えても被写界深度が変わらない。いつも同じ深度というのも、表現としては困るケースもあるだろう。


静止画サンプル
写真のような動画が撮れる 遠景のディテールはややごまかし気味 深度表現も綺麗だ

 画質的には、遠景の細かい部分が甘くなったり、少しボケた背景などに立体感がなくなってしまったりするころがある。ディテールがぼけてしまうのはH.264アルゴリズムの癖なので、動画カメラメーカーはオプションのパラメータを用いて細かく制御規制を行なっている。そのあたりのノウハウを積み上げるには、もう少し時間が必要だろう。

動画サンプル

ezsample.m2ts (107MB)

ez_room.m2ts (26.1MB)
ハイビジョン撮影のサンプル 室内サンプル
編集部注:動画サンプルは、付属ソフトでAVCHDフォーマットに変換後、Image Mixer 3 SEで編集、出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ スーパースローモーションが楽しめる

 動画機能のもう一つのウリが、高速読みだしCMOSの特性を生かした、ハイスピード撮影である。ビデオカメラでは、ソニーのハンディカムシリーズがこの機能を「なめらかスロー録画」という名前で搭載しているが、フレームレートは240fps固定で、しかも秒数が限られている。

 しかし本機では300、600、1,200fpsから選べる上に、撮影中に30fpsから300fpsに移行できるモードも備えている。30は普通の速度なわけだが、そこからここぞというタイミングで一気に10倍速スローに移行できるわけだ。よく車などのCMで、カーブのかっこいいところからスローモーションになる映像を見たことがあるかもしれないが、ああいう映像が撮れるのである。

 フレームレート変更のきっかけは、SETボタンを押すか、レンズ部のリングに割り付けることができる。画質が落ちるのが残念だが、撮れるのは間違いなく驚異の映像である。誰もが憧れたミルククラウンの映像も、これなら撮影できるだろう。また時間的な制限もないので、とりあえずいろいろ撮って、いいところだけを使うといった使い方もできる。

 ただ、fpsによって撮影画角がかなり変わる。特に1,200fpsでは上下がものすごく狭い範囲になるので、動く被写体をアップで狙うのは難しい。

撮影モードごとの画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
静止画
36mm

432mm
HD
300fps
600fps
1200fps

ハイスピード撮影サンプル
モード 解像度 サンプル
30-300fps 512×384
ez30-300.mov (3.45MB)
300fps
ez300.mov (3.54MB)
600fps 432×192
ez600.mov (1.56MB)
1,200fps 336×96
ez1200.mov (1.20MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 そのほか、シーンモードの一部には、YouTube専用のモードも備えている。HD画質では撮影できないが、それ以外のSDやハイスピード撮影は可能だ。このモードでは、YouTubeの制限に合わせて、1ファイルが100MB以下に設定される。PC用ソフトとしてYouTube専用アップローダも付属するなど、かなり本気でYouTube対応を行なっている。


■ 再生機能も充実

動画のカットは3パターンから選択する

 撮影した動画の再生は、本体のHDMI出力を使うのがもっとも簡単だ。サムネイルには動画、静止画が混在して表示されるが、どちらもテレビに出力することができる。静止画はスライドショー形式で表示することもできるが、動画のほうはクリップを順に連続再生する方法がないようだ。

 本体には動画の編集機能も備えている。最近ではビデオカメラでも編集機能を切り捨てる傾向にあるが、ハイスピード撮影では思いがけず長尺になってしまうことがあるので、本体である程度の整理ができるのは重要だ。

 映像の編集は、選択ポイントより前をカット、中間部をカット、後ろをカットというバリエーションが選べる。再生は通常の速度のほか、スピード調整もできる。また一時停止中はコマ送りも可能だ。編集した動画は分離するわけではなく、あくまでも一つのクリップのままである。オリジナルをそのまま削除してしまうので、プレイリスト編集のような気軽さはないが、実ファイルをアップロードするといった用途を考えれば、直接編集のほうが価値が高いだろう。

 ビデオカメラでも最近標準搭載されてきた、動画から静止画を切り出す機能も搭載している。普通に1枚切り出すこともできるし、9面マルチ画面の状態を切り出すこともできる。

動画から静止画が起こせる「モーションプリント」 動画同時撮影の静止画 モーションプリントで動画から起こした静止画

 PC付属ソフトとしては、メディアプレーヤーとオーサリングソフトがセットになった、Arcsoftの「TotalMedia Extreme」が付属する。本機で撮影できるのは、MOVのH.264ファイルだが、現バージョン7.4.1のQuickTimeでも再生は可能だ。もちろん、再生や編集にTotalMedia Extremeを使用することもできる。

 PC付属ソフトとしては、メディアプレーヤーとオーサリングソフトがセットになった、Arcsoftの「TotalMedia Extreme」が付属する。本機で撮影できるのは、MOVのH.264ファイルだが、フルHDで録画したファイル(1,920×1,080ドット/60i)は、現バージョン7.4.1のQuickTimeでは再生できなかった。これも三洋Xactiと同じ現象である。ファイルとしてはH.264の規格に準拠しているが、QuickTimeの方が1080/60iに対応していないようだ。したがって、フルHDで録画した場合の再生や編集は、TotalMedia Extremeを使用する必要がある。

TotalMedia Extremeメイン画面 メディアプレーヤー画面 オーサリングしたのちAVCHDフォーマットに出力可能

 オーサリング機能を使えばAVCHDフォーマットに出力できるが、やはり微妙にフォーマットが異なるのか、AppleのFinal Cut ProやCanopus EDIUS Neoでは編集できなかった。CanonのHF10に付属のピクセラImageMixer 3 SEでは読めたので、これを使って編集している。


■ 総論

 元々はデジカメなので、正直言って動画撮影機能はそれほど期待していなかったのだが、フルHDでかなり綺麗に撮れるのに驚いた。圧縮アルゴリズムに少し難はあるが、びっくりするぐらいの良いカットが撮れることもあって、なかなか油断ならない。ビデオカメラでも、下手をすれば絵の良さや画質でこれに負けているものもあるのではないだろうか。

 動画撮影時の難点としては、ビデオ用の画角が見えにくいことと、液晶の角度が変わらないので、ローアングルが撮りにくいことが挙げられる。静止画ではちょっとしゃがんで撮るのは一瞬だが、ビデオではしゃがんで5分10分というのはあり得る話なので、普通のカメラの設計ではきつい。

 液晶の角度が多少変えられるか、あるいは以前のキヤノン機のようにビューファインダをやや上向きに付けて、ウエストレベルファインダっぽくすると、カメラとしても面白かったかもしれない。

 また特筆すべき点として、バッテリがものすごく持つ。通常通り1時間半程度の撮影をして、動画再生チェックなどしても、まだバッテリの目盛りが一つも減っていない。電力の使い方がビデオカメラとは全然違うからだろうが、それでもこれだけの絵が撮れる可能性があるのならば、各メーカーのビデオカメラ設計陣も、これまでの常識をもう一度見直した方がいいかもしれない。

 今回は時間がなかったので静止画はあまり撮らなかったが、機会があったらじっくり写真も撮ってみたいカメラだ。予想通りの進化をたどってきたビデオカメラの世界に、こういう突然変異的なカメラが登場すると、また盛り上がってくる。写真のブームに匹敵するような動画のムーブメントを期待したいところだ。

□カシオのホームページ
http://www.casio.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.casio.co.jp/release/2008/ex_f1_rd.html
□製品情報
http://dc.casio.jp/product/exilim/ex_f1/
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(2008年4月2日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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