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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第353回:ポケットサイズのハイビジョンハンディカム「HDR-TG1」
〜 ハイビジョンがついにここまでハンディに 〜



■ ハンディなハンディカム登場

 ハイビジョンカメラが小型化できなかったのには、複数の要因がある。中でも撮像素子は、カメラ全体のサイズに与える影響が大きい。まずこれを高画素化しなければ、全体を小型化できない。なぜならば、レンズが小さくできないからだ。また同時に低消費電力化しなければ、バッテリサイズが小さくならない。

 しかし撮像素子が小型化すると、1画素あたりの光量が減るという問題がある。またレンズを小型化しすぎると、微細な製造上の歪みを吸収できなくなる可能性が高まる。SD時代には大した解像度は必要なかったが、ハイビジョンでは事情が変わってくる。

 小型化はセールス上のメリットが高いが、使いやすさ、画質とのバランスを考えると、そう簡単には踏み込めない領域であったわけだ。しかし4月3日にソニーが発表した「HDR-TG1」(以下TG1)は、ビデオカメラとして思い切ってこの部分に踏み込んできた初の製品となる。4月20日発売で、店頭予想価格は13万円前後。

 TG1では、これまでのビデオカメラのメインフィーチャーであった「運動会・学芸会用」ではない、日常撮りを中心とした「ハイビジョンスナップ」を提唱。これまでのユーザー層ではない部分にアプローチしたいと考えている。

 実はこれまでも、ビデオカメラ業界は様々な手段を用いて、いわゆるパパママ用途以外の提案を繰り返しては失敗してきた。ソニー製品では一連のMicroMVシリーズも、その一つだろう。

 これまでそれらのアプローチが上手くいかなかったのは、ユーザーの映像リテラシがそれに付いていけないという問題が大きかったように思う。今では何か面白いシーンがあれば、ケータイを取り出して写真や動画を気軽に撮るようになってきた。取り出すものがケータイからこれに変わる、ということで考えれば、そろそろ行けるのかという気がしないでもない。

 フルHD記録で世界最小・最軽量を実現した縦型ハンディカムTG1を、さっそく試してみよう。


■ 常識破りのサイズ

体積で200ccを切るサイズ。従来の常識ではあり得ない大きさだ

 TG1最大の特徴といえば、これまでのフルHD機ではあり得なかったサイズだろう。外形寸法が32×63×119mm(幅×奥行き×高さ)、体積では200ccを切る。重量も300g程度で、片手で十分ホールドできる重さだ。

 デザイン的にはシンプルな縦型で、突起類はほとんどなく、スマートだ。表面の金属部分は丈夫なチタンで、傷や汚れに強い。グリップ部の黒っぽい部分は濃いブラウンで、全体的に茶系でまとめている。カメラのカラーリングとしては、珍しい色調だ。

 では順にスペックを見ていこう。レンズは過去小型モデルで採用されているバリオ・テッサーで、光学10倍ズームレンズ。動画の画角は35mm換算で43〜507mm、静止画は4:3画角で38〜380mmとなっている。動画は計算すると約11.8倍だが、これは撮像素子の読み出し範囲を変えて稼いでいる。

シンプルな縦型で手には馴染みやすい レンズ上部に静止画用フラッシュを装備

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
43mm

507mm
静止画(4:3)
38mm

380mm

 レンズカバーはスタンバイ時にも閉じるスタイルで、開くときは下方向へ格納される。横幅がないので、こういうスタイルになったのだろう。なかなか苦労の後が忍ばれる設計である。レンズ上部には静止画用フラッシュがある。なおフィルタ類は装着できるようになっていない。

 撮像素子は1/5型クリアビッドCMOSで、総画素数は236万画素。レンズの違いから有効画素数が少し違うが、おそらくHDR-UX20に搭載されたものと同じではないかと思われる。

 液晶モニタは2.7型21.1万画素クリアフォト液晶プラスで、開くと内側にEASYボタンとバッテリインフォボタンがあるのみ。液晶枠にもボタン類はなく、昨今のデジカメ以上に非常にシンプルだ。もちろんハンディカムは以前から液晶タッチパネルを採用しているので、従来のハンディカムと同等の機能を使うことができる。

 背面は円形のスライドスイッチがあり、右側が動画と静止画の切り替え、左側がズームレバーとなっている。中央部が動画の録画ボタンだ。静止画用のシャッターは、ヒンジ部分にある。背面カバーは大きく開くようになっており、バッテリとメモリースティック Duoスロットがある。こうしてみるとボディ内の1/3はバッテリで、カメラ機能は残りの部分にすべて集約されているということだろう。

液晶脇にもボタン類はなく、ボディにも2つだけ リング状に配置されたモードレバーとズームレバーがユニーク 背面のフタは大きく開く。中にはバッテリとメモリースロット

 内蔵の記録メディアはなく、8GBのメモリースティック PRO Duoが同梱されている。MARK2のロゴは、AVCHDでフルHD記録に対応したメモリースティックであることを示している。

 グリップ側には電源ボタンがあるが、能動的に電源を切っても、液晶モニタを開けると自動的に電源が入る。常時スタンバイ状態で使うカメラということだろう。HDMIミニ端子のみ本体前面に近い部分にあり、ACアダプタとアナログAV出力は下の方にある。これはクレードル使用中にもHDMIだけは使えるようにという配慮だろう。

8GBのメモリースティック PRO Duoが付属 グリップ側にある電源ボタンとHDMI端子 底部には集合端子、アナログAV出力と電源コネクタはカバーされている

付属のUSBアダプタとケーブル。キャップで一つにまとめることができる

 本体にUSB端子がないが、別途変換コネクタが付属する。USBケーブルとともにまとめておくためのキャップもわざわざ付けられており、ケーブル類をかっこ悪くあれこれと持ち歩く必要がないあたりは、よく考えられている。

 底部には三脚用の穴と集合端子がある。底部は丸みを帯びているが、三脚穴の周囲が平らになっており、液晶を閉じた状態では自立する。だが液晶を開いてしまうと自立できず倒れてしまう。以前のハンディカムは、小型機でも自立できるよう小さな足を付けたりしたこともあったが、このあたりも今回は相当割り切っている。

 そのほか付属品として、円形のクレードルも標準で付いてくる。USB、アナログ出力、ACアダプタなどの接続が可能だ。その代わりというわけではないのだろうが、ビデオカメラには付きもののリモコンは付属しない。ボディと同色の革製リストストラップも付属しており、細かいところまでよく配慮されている。

付属の円形クレードル ボディと同色のストラップも付属



■ 動画をスナップするスタイル

 メモリ記録のみのハンディカムは、昨年発売されたHDR-CX7以来となるわけだが、当時はまだフルHD記録ではなかった。しかし今回のTG1は、画質モードに関しては今期発売のUX20のメモリ記録モードや、HDR-SR12と同じになっている。また扱いやすいSD画質モードをサポートし続けているのも、今回のようなスタイルでは使い出があるだろう。

動画サンプル(HD解像度)
モード 解像度 ビットレート 記録時間
(8GBメモリ)
サンプル
HD-FH 1,920×1,080ドット 16Mbps 55分
ezsm_fh.m2ts (28.9MB)
HD-HQ 1,440×1,080ドット 9Mbps 1時間55分
ezsm_hq.m2ts (19.7MB)
HD-SP 7Mbps 2時間20分
ezsm_sp.m2ts (15.2MB)
HD-LP 5Mbps 3時間
ezsm_lp.m2ts (11.0MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


周辺部にやや収差を感じる

 今回のテスト撮影は、このボディを三脚に乗せてもあまり意味がないだろうということもあって、画角や画質モードサンプル以外はすべてハンディで撮影した。ズーム倍率によっては周辺部のレンズ収差が気になるところもあるが、ハンディで撮る分にはあまり問題にならないかもしれない。

 自分で撮っておいてこんなことを言うのは何だが、高解像度の大画面でテスト撮影したものを試写すると、テレ側の映像は手ブレで酔ってしまう。自然な手ブレではなく、手ぶれ補正範囲を超えたときに急にガツンと動くタイプの揺れなので、予想が付かないという居心地の悪さもある。ハイビジョンスナップとは言いながらも、あんまり気軽に撮っていると見るときに辛くなる。ハンディで撮るなら、ワイド端を基本において撮った方がいいだろう。

動画サンプル

ezsm_sm.m2ts (154MB)
FHモードで撮影後、ImageMixerでスマートレンダリング編集した
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 発色に関しては彩度が高めで、張りのある絵作りとなっている。そもそもこのタイプのカメラで画質云々というのは趣旨が違うのだが、レンズの出来については、思ったよりも悪くはない印象だ。若干レンズフレアが出やすい傾向もあるが、スナップと割り切って、気にしないほうがいいだろう。

彩度は高めで印象はいい ボケ味はあまり良くない 画面中央やや左にフレア

 それよりもやはり、ハイビジョンカメラをポケットに突っ込んで持ち歩けるというインパクトのほうが大きい。また形状が四角いので、鞄の中でも収まりが良いところもポイントだ。常時スタンバイ状態なので、液晶を開いてすぐに撮影が可能になる。

 得意の顔検出機能は、動画にも応用が可能だが、ホワイトバランスまで含めてフルオートにしないと働かない。顔検出では、フォーカスやホワイトバランス、露出などを制御しているが、一部マニュアルで使っている場合は、他の機能だけでも動くようにしてくれたほうが良かった。


■ 使い勝手は慣れが必要

 常時スタンバイで使用するのは、三洋Xactiの操作感に近い。個人的に気になったのが、円形のズームレバーだ。親指で円の中心の向こう側を動かすので、どうも逆手で操作しているような違和感がある。時折どちらに倒すと寄るのか、頭の中で混乱する感じがあった。

 また動画と静止画の切り替えレバーも同心円の反対側にあるので、ズームするつもりでモード切替を選んでしまうこともあった。同じ円系だということから、左右どちら側のレバーを回しても、ズームできるような錯覚を起こしてしまうのである。デザインとしては面白いが、少し慣れてきたあたりのときに、とまどいがあるだろう。

 また静止画ボタンも親指で操作するため、テレ端で動画撮影しているときに静止画を撮ろうとすると、カメラのホールドが不安定になりやすい。シャッターボタンとしては、急に押せと言われてもやや押しにくい位置にあるので、動画撮影を開始したら、親指を軽くシャッターボタンに当てておくといいだろう。

 動画と静止画の同時撮影は、同じメモリに両方を書き込むことから、静止画の保存に若干待たされる。動画の撮影停止はすぐに出来るが、静止画モードへの切り替えがすぐにできないといったジレンマがある。

静止画サンプル
静止画モードで撮影 動画同時撮影 本体で動画から切りだし

 動画モードでも画素補間で3Mピクセルの静止画が撮れるのであれば、もう割り切って静止画モードは無くても良かったのかもしれない。ハンディ専用とも言える作りからすれば、3倍ズーム程度に落としてでもレンズをもっと極端にワイドにふったほうが、目的に適う面白いカメラになったように思う。


■ 総論

 再生機能は今期のハンディカムと変わらないので割愛させていただいて、今回はやや早めの総論である。

 TG1は、小さいからといって特にマイナスポイントのないカメラだ。レンズにしても、このサイズでよくまとまったなと感心する。おそらくこのジャンルに参入するビデオカメラメーカーは、他には当分現われないだろう。強いてあげれば、三洋Xactiが次のハイビジョン製品でどれぐらいまで小型化してくるかぐらいのことである。

 これまでこの手のサイズ感は、デジカメ側からのアプローチでは実現してきた。Xactiもそうだが、キヤノンでは「PowerShot TX1」もある。それをビデオカメラ側からやってのけた意義は大きい。

 ボディデザインからわかるように、TG1はいわゆる運動会カメラとは違った価値観でとらえるべきカメラである。しかしそう宣言する割には、内容的にはいわゆるパパママカメラと同スペックというのが残念だ。単に小さくしたら使い方が変わるというのではなく、もう少し踏み込みというか、機能面からわかるコンセプトが欲しかった。

 例えばデジカメの世界では、リコーGR DIGITALのような、独自の価値観で独走するタイプの製品がある。ビデオカメラでそれがやれるのはソニーしかないわけだが、機能の独創性という意味では、前回のカシオ「EX-F1」に完全にやられてしまった。これを見たあとでTG1を見てしまうと、一見チャレンジのように見えるが意外とコンサバな製品に思えてしまうのは残念だ。

 一方で全く別の用途として、取材のような報道活動用途ではかなり便利だろう。筆者は仕事上、よくSD解像度のXactiでインタビューなどを収録するが、それの高解像度版として活用してみたい。バッテリが連続撮影時間で95分というスペックだが、実はSDモードに変えると2時間を超える。さらにSD動画と同時でも、2.3Mピクセルの静止画が撮れる。緊急時用に普段はHDで待機、長時間インタビューはSDに切り替えと使い分ければ、実はかなり使い出のある取材ギアなのである。

 最近は新聞記者にも小型ビデオカメラが支給されるなど、映像に対する意識は変わってきている。ハイソなお兄ちゃんお姉ちゃん狙いも結構だが、そういう取材特機としてTG1は結構行けるのではないだろうか。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200804/08-0403/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/HDR-TG1/index.html
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(2008年4月9日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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