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第323回:ニンテンドーDS用ソフトシンセ「KORG DS-10」開発者に聞く
〜 パッチングなどに対応。オリジナルに匹敵するほどの出音を実現 〜



ニンテンドーDS用ソフトシンセ「DS-10」

 すでにコルグからも発表されている通り、同社の往年の名機であるアナログシンセサイザ「MS-10」をコンセプトとしたニンテンドーDS用ソフトシンセ「KORG DS-10」が7月24日に発売される。発売元はコルグではなくAQインタラクティブという会社になるのだが、Amazon.co.jpでの限定発売というやや特殊な形で販売される予定だ。

 DS-10についてコルグの広報に問い合わせたところ、「DS-10に関する販売、広報などはすべてAQインタラクティブが担当するので、そちらに問い合わせて欲しい」という返答があったので、さっそく連絡を取ったところ、動いているデモ機を見せてくれるとのことだったので、さっそく訪ねた。

 実際に機材を触らせてもらうとともに、開発に関するさまざまな話を伺うことができた。お話を伺ったのはDS-10のプロデューサーである株式会社AQインタラクティブの岡宮道生氏と、開発プロデューサーである株式会社キャビアの佐野信義氏のお二人だ。そこで、まずはそのインタビュー内容について紹介しよう。(以下敬称略)


■ 音源やデザインはコルグが担当

藤本:今回DS-10を開発することになった経緯について教えてください。

DS-10プロデューサー 株式会社AQインタラクティブの岡宮道生氏

岡宮:AQインタラクティブという会社はパブリッシャーであり、さまざまなタイトルをリリースしていますが、DS用ソフトは何百というタイトルが出ており競走の厳しい世界です。そこで何か変わったアプローチで出したいなと考えていました。

佐野:そんな中、会社の先輩である岡宮と二人で飲み屋で音楽を起点にして何かできないだろうか、と話をしていたのです。これまでも音ゲーなどの話はしていたけれど、ゲームを離れてDSとして何かできないだろうか、と。そこで、ふと言ったのが「DSってコルグのMS-10とかMS-20に似ているね」という話。酔った席でもあり、「これをシンセにできたらすごいよ、面白いよ」と盛り上がったのです。

岡宮:しかも、佐野はコルグの人たちと面識があるとのことだったので、連絡を取ってみようということになりました。

佐野:私が面識があったのはLegacy Collectionのチームだったのですが、連絡すると言ってしまった手前、翌日問い合わせてみたのです。そうしたら、なんとコルグではDSで音楽ツールを作るために研究調査をはじめていたところだったので、我々のDSをシンセにしたいというアイディアと合致したのです。

藤本:それはいつごろの話なのでしょうか?

岡宮:一昨年の秋ですね、2006年の9月か10月でしょうか? そこから話がスタートしたんです。

藤本:それは、AQインタラクティブがアイディア出しをして、コルグが開発をするということなのでしょうか? また、佐野さんの所属は株式会社キャビアとなっていますが、その辺の関係性についても教えてください。

岡宮:まずAQインタラクティブはパブリッシャーであり、キャビアはその子会社の開発スタジオという位置づけです。

DS-10の開発プロデューサー 株式会社キャビアの佐野信義氏

佐野:といっても場所も同じところにあるので、会社というよりも社内的には部署という感覚ですが。そして我々は単にアイディアを出したというのではなく、実際に開発を行なっているのです。

 さらに、今回、プロキオン・スタジオという会社にも参加してもらいました。プロキオン・スタジオはニンテンドーDS用ソフトのサウンド周りの開発などをしている会社で非常に実績のある会社なので、完成度を高めるためにはぜひ同社の力が欲しいと連絡をしたところ、応じてくれたのです。

藤本:ますます関係性がよく分からないのですが、各社はどんな役割分担になっているのでしょうか?

佐野:まずシンセの音源部分はコルグが開発しています。そしてシンセを除くシーケンサやミキサーなど音の通り道全般についてはプロキオンが担当しています。そしてUIなどその他全体のまとめをキャビアが担当し最終的な販売をAQインタラクティブが行なうという分担ですね。

 ちなみにツマミやフォントなどのデザインはコルグから提供してもらっています。プロトタイプが上がってきたのが昨年の夏。UIはなく、音が鳴るだけのものでしたが、なかなか感激でした。矩形波にフィルターがかかり、レゾナンスを効かせて音がうねるのをDSのスピーカーで聴いたのですが、最初はビックリしましたよ。このマシンでここまでの音がでるのかって。

 また、お互いに思惑があったのですが、共通していたのは「売れるもの」というよりも「好きなもの」という点。そのために楽しいケンカが続きましたね。

藤本:結構最初の時点で、このDS-10の仕様は固まっていたのですか?

佐野:個人的には、シンセとして機能してくれさえすればいいだろうと思っていましたが、社内で議論すると、やはりそれは無謀だということで、とにかくシーケンサを入れることにしました。その後、いろいろとアイディアを出しながら今の形へとなってきたのです。


■ タッチペンでシーケンサ操作など充実の機能を搭載

藤本:具体的にはどのような仕様になっているのですか?

佐野:簡単にいうと、まず音源としてはモノラルのアナログシンセであるMS-10相当のものが2台、それに4トラックのドラムマシンとなっており、アナログシンセはモデリング音源で、リアルタイムに生成するタイプのものであるのに対し、ドラムマシンのほうはPCMとなっています。

藤本:このアナログシンセ、やはりコルグのLegacy Collection同様かなりよくできていますよね。とくにパッチングができるあたりも面白いですね。

佐野:そうですね。画面的にはVCOやエンベロープジェネレータなどのパラメータをいじるものと、パッチングのものと2種類用意しておりますが、パッチングに関していえばMS-10とかMS-20とまったく同じというわけではありません。LFOをVCOやVCFなどに送るためのパッチングというのがメインとなっています。

 ただVCOやエンベロープジェネレータなども送ることは可能なので、リングモジュレータやFM音源的な使い方も可能ではあります。またオリジナルのMS-10との違いとして、ブーストというパラメータを追加した点もポイントです。これを利用することで、最近っぽいキックの音などが出せるようになっています。

VCOやEGなどのパラメータが操作できる パッチングも可能

藤本:一方のドラムマシンがPCMということは、何かの音源をサンプリングしているのですか?

佐野:いいえ、実はこれもDS-10の音をサンプリングして鳴らす仕組みになっています。ユーザーが自由に音を作ることができ、あまりサンプリングということを意識せずに使える仕様になっているので、2台のアナログシンセ同様に使うことができます。

岡宮:演奏させながら音色を変化させることができないという制限があるので便宜上ドラムマシンと呼んでいますが、ノートも自由に変更できるので、ベースマシンとして、またほかの音源としても利用することが可能です。

藤本:そのシーケンサについても教えてください。

佐野:シーケンサは2つのアナログシンセ用それぞれに用意されているほか、ドラムマシン用としても同等のものが搭載されています。それぞれ16ステップのシーケンサとなっており、ゲート、ボリュームなどもコントロールできるようになっています。アナログシンセに関しては16個のパターン登録もできるようにもなっています。

 さらにソングモードというものもあり、これでパターンをチェーンすることが可能で、最大で100小節分の登録ができます。また裏技的には、ソングモードでループもできるため、ずっと鳴らし続けることもできるようになっています。

アナログシンセ用にそれぞれシーケンサを用意 ドラムマシン用にも同等のシーケンサを搭載

藤本:ドラムマシン用のシーケンサとシンセ用のシーケンサに違いはありますか?

佐野:基本的には同じものですが、シンセ用は「カオスモード」でコントロールできるのに対してドラムマシン用のものは、それができません。

岡宮:カオスモードはコルグのKaossPadと同様、X-Y軸にシンセのパラメータをアサインしてタッチペンを使ってパラメータを動かすというものです。その動きをシーケンサに記録することができるようになっているのです。Kaossilatorのように簡単にフレーズを入力することもできますよ。

シンセ用シーケンサでは、KaossPad同様の「カオスモード」が利用可能 タッチペンでパラメータを操作。その動きをシーケンサに記録できる

藤本:なるほど、これもなかなか面白いですね。シーケンサがオフの状態でカオスモードでタッチペンを動かすと、スムーズに音色などが変化していきますが、これをシーケンサに記録した場合はどうなるのですか?

佐野:シーケンサは16ステップなので、強制的にクォンタイズがかかりブツ切れになるので、雰囲気は変わりますが、これもまた面白いところです。一方で、スムージング機能というものも搭載される予定で、これを使えば、かなりきれいに再現されます。

岡宮:記録できるのはカオスモードだけでなく、キーボードモードでの演奏も可能となっています。タッチペンでタッチスクリーン上のキーボードを演奏すると、それがリアルタイムレコーディングされるわけです。さらにスウィング機能も搭載する予定で、これによってさまざまなノリを出すことが可能になります。

藤本:かなりいろいろな機能、画面が搭載されていますよね。これの切り替えはどのように行なうのですか?

佐野:全体構成を表すマップ画面があり、これで選択すれば、各画面へ一発でアクセスできるようになっています。これまでに説明した画面のほかミキサー画面、またエフェクト画面もあります。エフェクトは1機のみの搭載で、ディレイ、コーラス、フランジャーの3種類のいずれかを選択する形になっています。

キーボードモードでの演奏時にもリアルタイムレコーディングが可能 全体構成を示すマップ画面 ミキサー画面も用意

藤本:よく、これだけの機能を盛り込んだなと思いますが、マシンパワー的に問題はなかったのですか?

岡宮:ゲーム専用機でここまで音作りに特化したソフトは今まで無かったので正直不安でした。コルグさん自身も「ここまでできるんだ!」と驚いていたほどです。CPUパワー的には結構ギリギリまで追い込んでいるようですが、開発陣の技術力にも感謝です。


■ 出力はDSのアナログ音声のみ。同時演奏機能も搭載予定

藤本:発売までまだ2カ月以上ありますが、まだ開発が続くのですか?

佐野:音源部分はほぼ完成しているので、音源についてはあとは最終的なチューニングで音の気持ちよさを追求したいと思っています。一方で、まだ調整中なのがワイヤレス・プレイ機能です。

岡宮:ワイヤレス・プレイは、複数台で同時に演奏する機能です。またデータの受け渡しも可能にします。

藤本:同時演奏というのは、お互いで同期させての演奏なのですか?

岡宮:どこまで追い込めるか、まだ課題もあるのですが、できるだけ楽しめるような仕様にしていきたいと思っています。

藤本:DS間でのデータの受け渡しのほか、PCとの連携などはできないのでしょうか?

岡宮:そうした質問をときどき受けますが、今回はあくまでもニンテンドーDSで完結させたいので、外部との連携については考えていません。

佐野:出音がかなりいいので、あとはアナログ出力経由で外部ミキサーに入れて使ってもらえればと思います。

藤本:発売が待ち遠しいですが、もうAmazon.co.jpでの予約もかなり入っているのではないですか?

佐野:かなりマニアックに作っていったこともあり、好きな人には受けるだろうという確信は持っていましたが、正直いってこれほどまでに話題になるとは想像もしていませんでした。

岡宮:社内的には、マニアックな内容なので製品としてどうかという声もありましたが、おかげさまですでにかなりの予約も入っているため、我々もクビにはならずにすみそうです(笑)。ぜひ楽しみにしていてください。

藤本:ありがとうございました。


 このインタビュー中も音を出しながらデモをしてもらっていたが、その際に聴いていたのは内蔵スピーカーでの音。しかし、これが予想外に結構いい音がしていて遊ぶには十分という感じ。もちろん、細かな音色作りをするには厳しい面もあるので、ヘッドホンで音をモニタしてみたところ、普通のシンセとして遜色ない音質が出ているのだ。

 実は、実際に音を聴くまでこうしたオモチャの機材では、まともな音が出ないのでは、と期待はしていなかった。しかし、ここで聴く限り音響レベルにおいては、オリジナルのMS-10にも匹敵するほどの音が出せている。

 RolandのリニアPCMレコーダー「R-09HR」とステレオミニのケーブルを持参していたので、録音の許可をお願いしたところ、OKのお返事をいただいた。また、実際に取る音のシーケンスデータをその場で佐野氏に即興で作ってもらったので、それを収録している。

 方法としてはニンテンドーDSとR-09HRをステレオミニのケーブルで接続し、R-09HRは24bit/96kHzでのレコーディングモードに設定。音量的にはそれほど追い込まず、最大で-6dBを超えていないことを確認して録音を行なった。このデータを持ち帰り、いったんPCに取り込んだ後、聴きやすくするために、最大を0dBにノーマライズを実行。また、同じ音を何度も繰り返して録音していたので、重複部分をカットしてみた。結果として、まずリズム音を2小節、続いてそのリズムにベースを重ねた音を2小節、さらにシンセの音をかぶせたものを2小節という構成にまとめた。

 24bit/96kHzのままだと再生環境が限られ、16bit/48kHzに変換しても音の違いはまったく感じられなかったので、ここでは16bit/48kHzの音を非圧縮のWAVデータとして公開する。すでに、YouTubeでDS-10のサウンドを聴いたことがある人もいるとは思うが、よりリアルなサウンドで確認できるはずだ。

 S/N的にもまったく問題なく、低域のベース音もしっかり出ている。96kHzでのサンプリングレートでの音を聴いても高域まで延びている。周波数分析をかけてみたところ、横軸をリニアにとっても、Log表示させても確実な形で音が出ているのが確認できた。

 このようにデータで見ても、音響的にまったく問題ないレベルに仕上がっているといえそうだ。

録音サンプル : DS-10再生音
【音声サンプル】(2.78MB)
編集部注:録音ファイルは、R-09HRにて、24bit/96kHzのレコーディングモードで録音した音声をノーマライズ処理し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



□AQインタラクティブのホームページ
http://www.aqi.co.jp
□ニュースリリース(PDF)
http://www.aqi.co.jp/company/info/ir_info080312.pdf
□製品情報
http://www.aqi.co.jp/product/ds10
□関連記事
【AV製品発売日一覧】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/hardship/
【3月12日】パッチシンセ「MS10」風ニンテンドーDS用音楽ソフト
−「KORG DS-10」でスタイラス・ミュージックを提唱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080312/aqi.htm

(2008年4月21日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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