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第324回:三洋のコンパクトPCMレコーダ「ICR-PS1000M」
〜 ヤマハが協力したEQ搭載。16bitでも良好な音質 〜



ICR-PS1000M

 ICレコーダではオリンパスと並ぶ老舗である三洋電機から、フラグシップモデルとしてリニアPCMに対応した「ICR-PS1000M」が発表された。

 同社としてはすでにリニアPCMに対応した製品は発売していたが、このICR-PS1000Mは音楽録音に最適化し、その音作りにおいてヤマハの協力も得て開発したという製品だ。発売を前に製品を借りることができたので、その音質などをチェックした。


■ 小型軽量、単3電池1本で駆動するPCMレコーダ

 既報のとおり4月11日、三洋電機は記者発表会を開催し、2機種3モデルのICレコーダを発表している。いずれもリニアPCMでのレコーディングに対応したものだが、今回紹介するのは実売価格35,000円前後と、同社製品の中では最上位モデル。ソニーの「PCM-D50」や、ZOOMの「H4」などと同様、X-Y型のステレオマイクを搭載したモデルで、これまでの三洋電機のICレコーダの中ではかなり大きめの異色製品だ。とはいえ、ローランドの「R-09HR」と比較すると明らかにコンパクト。大きさ的にはオリンパスの「LS-10」と同程度だが、ICR-PS1000Mは電池込みで92gとLS-10の165gに比較してとても軽い。

X-Y型のステレオマイクを搭載 ローランド「R-09HR」(右)と比較

 その軽さの大きな理由になっているのが電池。なんと単3電池1本で駆動する。しかもリニアPCM(16bit/44.1kHz)でのレコーディングではアルカリ電池で約24時間30分、三洋電機のニッケル水素充電池のeneloopでは約23時間録音できるというスタミナを持っている。ちなみに、アルカリ電池、eneloopのそれぞれで最適に動作するように、モード切替が用意されている。

電源は単3電池1本 アルカリ電池/eneloopそれぞれに適したモードを用意

 スペック的には最高で16bit/48kHzと、今盛り上がっているリニアPCMレコーダの中では、やや見劣りするものの、音作りの点でヤマハがバックアップしているということもあり、ちょっと期待できそうだ。

 この発表会には筆者も参加し、完成直前の製品を軽く触らせてもらった。また当日、サックス奏者がBGMをバックに演奏するものを録音するという機会があったので、ヘッドフォンでモニタしながら座っていた席から録音してみた。が、録音レベル設定をする機会がなく、渡されたものでいきなり録音という段取りだったこともあって、音質的には期待したものにはならなかった。また、著作権の問題などもあって、そのデータを持ち帰ることができなかったので、正確な分析はできていないが、性能的にこんなものであるわけはないだろうと、改めて完成した製品を借りて試してみた。

 手元に届いたICR-PS1000Mを改めて持ってみると、やはり確かに軽い。まずは野外に持ち出して、野鳥の声を録音してみることにした。

PCMの48kHzを選択

 あらかじめ録音モード設定においてPCMの48kHzを選択。また録音ピークリミッターはデフォルトのON、Low CutフィルタもデフォルトのOFFにし、当然ALC(Auto Level Control)はOFFにしておいた。録音レベルは0〜30で設定でき、マイク感度の高・低の設定ができるようになっている。ここではマイク感度を高に設定するとともに、録音レベルを20前後でモニタすると音量的によさそうだった。

 ところが、レベルオーバーしているわけではないのに、やや大きめな入力があったり、風切り音が入ると、ピリピリピリという高い音の妙なノイズが入る。もしかして、レベルメーターに表示されていないだけで、ピークを超えたのかとも思ったのだが、そういうわけでもなさそうだ。入力レベルをグっと下げると、そのピリピリ音はなくなるが、これではまともな録音ができない。

録音ピークリミッターはON Low CutフィルタはOFF ALCはOFF

 一度部屋に戻って試行錯誤してみたところ、どうやら原因はピークリミッターにあるようだった。このピークリミッター、確かにピークを超えると、リミッターとして効くことはわかったが、ピークに達するずっと前から抑えにかかり、しかも妙なノイズが入るため、まともに使うことはできない。これは明らかに改良すべき点だろう。

 そこで、このリミッターをオフにすると、これまでが嘘のようにいい音でモニタに入ってくる。ステレオ感もよく、しっかりと空間を捉えることができる。このステレオ感を強調して録音するためのステレオワイドというモードもあるが、これをONにすると妙に音が広がりすぎる気がするので、ここではOFFで録音している。また標準でウィンドスクリーンが添付されているが、ちょうど風がほとんど吹いていなかったので、これをはずして録音してみた。実際の音を聴いてみてほしい。

ステレオワイドはOFFにした 標準でウィンドスクリーンが添付

 ICR-PS1000Mでは16bitでのレコーディングしかできないため、音質劣化を防ぐためノーマライズ処理はしていない。また、他の機種と比較しやすくするために波形編集ソフトを用いてノーマライズ処理をし、音量をアップさせたものも用意しておいた。

【屋外での録音サンプル】
サンプル
(鳥の声 PCM、16bit/48kHz)
オリジナル
bird.wav
(4.94MB)
ノーマライズ
bird2.wav
(4.94MB)
編集部注:録音ファイルは、16bit/48kHzで録音した音声を保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 6bit/48kHzということもあり、音の解像度的に甘さを感じる面はあるが、まずまずの性能という感じだ。ただ、価格的にはR-09HRやDR-1などとほとんど変わらないことを考えると、音質で選ぶならやや厳しいかもしれない。


■ ヤマハがEQ開発などで協力

 ところで、興味があるのは三洋電機のレコーダにヤマハがどのように関わっているのかという点だ。これについて、記者発表会で確認したところ、とくにヤマハのチップなどが入っているというわけではなく、ヤマハからアドバイスを受けて開発したということのようだった。

 具体的には、まずはレコーディング時にEQで音を調整できるようにしたこと。つまりEQの掛け録りを可能にしており、ここには5バンドのグラフィックEQが搭載されている。プリセットとして、FLAT、SUPERBASS、BASS、MIDDLE、BASS&TREBLE、TREBLE、SUPER TREBEに加え、RECOMMEND、そしてユーザーが設定できるUSERの9種類がある。このEQそのものは三洋電機で開発したものだが、プリセットについてはヤマハが協力しているとのことだった。ちなみにRECOMMENDというのは低域の150Hzを持ち上げるとともに4kHzを若干下げた設定。確かに普通に録る場合、このRECOMMENDを使うといい感じに録音することができる。ただし、先ほどの野鳥の声、また後で紹介するCD再生音の録音はFLATで行っている。

5バンドのグラフィックEQを搭載 RECOMMENDは、低域の150Hzを持ち上げ、4kHzを若干下げた設定

 この掛け録りEQのほかにも、LowCutフィルターやリミッターを入れるというアドバイスなども受けているという。さらに音量調整を従来機種の30段階ではなく、マイク感度切替を含めた60段階にして細かく調整できるようにしたのもヤマハからのアドバイスとのことだった。

 ちなみにICR-PS1000Mには、この掛け録りEQとは別に、再生用のEQも用意されている。これも5バンドのグラフィックEQだが、ROCK、POP、JAZZ、BASS1、BASS2など録音用とは異なるプリセットで、こちらはヤマハとは関係がなさそうだ。

 さて、このICR-PS1000Mには全273ページという分厚いマニュアルがついてくるのだが、使い勝手はなかなかよく、ほとんどマニュアルなど見なくても操作できる。また、デフォルトでは「BEEP音設定」という項目が「音声ガイド」となっており、何かの設定をするたびに「音声に設定しました」、「PCM、48kHz、16bitモードに設定しました」などと女性の声でアナウンスしてくれるので、これで十分という感じだ。

再生用にもEQを用意 音声ガイドも利用できる



■ タッチコントロールにも対応


タッチコントロールに対応

 ユーザーインターフェイスという面では1点、ほかの機材ではあまり見かけないユニークなものがある。それが本体下側にあるタッチコントロールというもの。これは非常に小さいエリアながらノートPCのタッチパッドのように指でカーソルを動かしたり、ボリュームを動かすことができるようになっている。しかも、これが指紋認証センサーになっているのも面白いところ。ここに指の指紋部分をスライドさせることで、指紋を登録することができ、ロックをかけると、再度指紋認証しないと再生などができなくなるのだ。

 このロックというのはICR-PS1000Mの機材本体にかけるのではなく、メディアにかける仕組みになっているから、メディアを抜き出しても読み出すことはできない。ちなみに、そのメディアはmicroSDが用いられている。ただし、microSDは本体に付属していないため、別途購入する必要がある。

指紋登録中の画面 指紋認証時の画面 記録メディアはmicroSD

 一通り触ってみたので、最後にCDを再生したものを録音するテストを行ってみよう。素材もいつものようにTINGARAのJUPITERを使わせていただいた。

録音サンプル : 楽曲(Jupiter)
【音声サンプル】(7.49MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、16bit/48kHzで録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ICR-PS1000Mには三脚穴が用意されているので、三脚を用いて左右それぞれのスピーカーから約50cmのところに設置。先ほどの野鳥の声を録音したときと同様に16bit/48kHzで、リミッターもLowCutフィルターも、掛け録り用のEQも何も設定しない形で、音量のみ調整した上で録音してみた。

 R-09HRやPCM-D50、DR-1などの結果と聴き比べてみると分かるが、やはり解像度が低いという印象は否めないが、そこを除くと音質的には結構いい。16bit/48kHzという面では、ケンウッドのMGR-A7が同等なので、これと比較すると断然ICR-PS1000Mのほうがいい。掛け録り用のEQをRECOMMENDにはしていないが、とくに低音が痩せている感じはしないし、音のバランス的にもしっかりしている。波形表示させると15kHzあたりがやや落ちているように見えるが、録音時にこの辺を持ち上げるともう少し音が改善するのかもしれない。

 ぜひ次期製品においては24bit/96kHzの、より高音質の製品にもチャレンジしてもらいたいところだ。



□三洋電機のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0804news-j/0411-2.html
□製品情報
http://www.sanyo-audio.com/icr/ps1000m/index_ps1000m.html
□関連記事
【4月11日】三洋、X-Y型マイク搭載のリニアPCM/MP3レコーダ
−ヤマハが協力。単3×1本で最長22時間のPCM録音
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080411/sanyo.htm
【ポータブル リニアPCM/DSDレコーダ一覧】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080228/pcmrec.htm

(2008年4月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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