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第332回:M-AudioのUSB 2.0オーディオ「Fast Track Ultra」
~ 「MX Core DSP」搭載。バスパワー用動作モードも ~



Fast Track Ultra

 M-Audioから、初のマルチポート対応のUSB 2.0オーディオインターフェイス「Fast Track Ultra」が発売された。

 AppleのMacBook AirからFireWireポートがなくなり、USB 2.0が残ったことから、FireWireが主流のオーディオインターフェイスも今後USB 2.0へと少しずつシフトしていく可能性が高くなってきている。M-AudioがリリースしたFast Track Ultraを試してみた。


■ FireWire製品と同様の使い勝手

背面

 Fast Track Ultraは、実売価格が49,800円前後というUSB 2.0対応のオーディオインターフェイス。スペック的には最高24bit/96kHzで、8IN/8OUTの比較的コンパクトな製品だ。8IN/8OUTのうち、アナログが6IN/6OUTで、同軸デジタルが2IN/2OUTとなっている。またフロントパネルには2つのコンボジャック(XLRとTRS)と、2つのXLRのキャノン端子の入力があり、いずれも+48Vのファンタム電源に対応している。またそれぞれにはOctaneプリアンプが搭載されており、フロントのつまみでレベル調整が可能となっている。

 リアパネルには、バランス対応の6IN/6OUTのアナログ端子と2つのインサーション用端子があり、このうち入力の4つはフロントのスイッチによりフロントとリアの切り替えを行なう仕組みだ。

 またこのFast Track Ultraで特徴的なのは、MX Core DSPというDSPを搭載していること。このDSPにより、入出力を自在にアサイン/ミックスできるようになっているとともに、ハード自体でエフェクトもかけられるようになっている。


海外モデルのFast Track Ultra 8R

 こうした仕様から、かなり力の入った製品といえそうだが、M-Audioに話を聞いたところ、やはり今後USB 2.0製品に力を入れていくが、まだ当面はFireWireが主流であり、USB 2.0はその下の位置づけとのこと。FireWire製品が24bit/192kHz対応であるのに対して、Fast Track Ultraが24bit/96kHz対応に留まっているあたりからも想像がつくところだ。

 ただ、国内では未発売ながら、海外ではFast Track Ultra 8Rという1Uラックマウントタイプで、8つのマイクプリアンプを搭載した製品もリリースされているなど、USB 2.0に力を入れ始めているのが感じられる。

 さて、実際にドライバをインストールして、PCに接続してみたところ、使い勝手などは同社のFireWire製品とほぼ変わらない。Fast Track Ultraのコントロールパネルにおけるドライバ設定画面を見ると、サンプリングレートの設定およびバッファサイズの設定などがある。通常モードにおいては、このバッファサイズを128samplesにまでしか落とせないが、high performance modeをオンに設定すると64samplesまでにすることができ、サンプリングレートを96kHzに設定した場合、Cubaseの画面で確認すると、レイテンシーは入出力ともに1.271msecにまで縮めることできる。


ドライバ設定画面 high performance modeでレイテンシーを縮められる

 さらに、このコントロールパネルにはmonitor 1/2、monitor 3/4、monitor 5/6、monitor 7/8という4つの画面があり、それぞれが各出力端子に何の信号を出すか決めるミキサー画面が搭載されている。これを見てもわかるとおり、それぞれ16chのミキサーになっており、構成的には外部からの入力8chと、PCの出力8chをミックスして、出力できる。また、フロント端子には、それぞれ独立したヘッドフォン出力が2つ用意されているが、headphone1が1/2chと同じ信号、headphone2が3/4chと同じ信号がモニターできるようになっている。


出力信号の種類を設定できるミキサー画面

 ここでユニークなのが、1/2chおよび3/4chのミキサーの一番下の段にsendが用意されていること。ここからセンドされた信号が前述のDSPを使ったエフェクトへと入り、ミキサーの一番右にあるmaster outの一番下のreturnへと戻ってくる。ちなみに、このセンド/リターンのエフェクトの設定は先ほどのドライバ設定画面にある。といっても、センド/リターン用ということで、それほど数はなく、リバーブがRoom 1、Room 2、Room 3、Hall 1、Hall 2、Plateの6種類、それにDelay、Echoの8つのみ。またエフェクトの数自体は1つだけで、全チャンネル共通で使う形になっている。

 このことからも分かるように、このエフェクトは、あくまでも外部出力用であって、プラグインエフェクトを外部のDSPで機能させるといったタイプのものではない。ただ、Fast Track Ultraの外部入力に直接エフェクトをかけて、出力するといった使い方も可能で、この際にはDAWなど一切不要というのはひとつのメリットといえるだろう。なお、入力系は書かれていないが、PCからの出力がどのようなルーティングになっているかを示す図がコントロールパネル内にも描かれている。

 ドライバ的には、WindowsであればASIO、WDM、MME、MacであればCoreAudio対応となっているがMMEとしてWindowsの一般アプリケーションから利用する場合は、1/2chに相当する1ポートのみが見える形だ。もちろん、この場合でもエフェクトをかけることはできるため、たとえばWindows Media PlayerでMP3やCDを再生させ、その音にリバーブをかけてヘッドフォンで聴くといったことができる。


コントロールパネルでPCからのルーティングが確認できる MMEとして利用する場合は1ポートのみ見える



■ USB給電用の動作モードが便利

 ところで、このFast Track Ultraに限ったことではないが、マルチチャンネルのUSB 2.0オーディオインターフェイス共通のウィークポイントともいえるのがACアダプタなど外部からの電源供給が必要である点だろう。FireWireの場合、6ピンコネクタであれば、通常1,000mA程度の供給ができるため、バス電源供給で駆動できる。それに対し、USBだと500mAまでとなっているため、バス電源だけではどうしても足りなくなってしまう。そのためFast Track UltraでもACアダプタが添付されているのだが、モバイルでの利用時など、ACアダプタを忘れてしまいがちだ。そうしたときにもとりあえず使えるようにFast Track Ultraでは、USBバス電源供給だけでも動作するというモードを備えている。

 この場合は入力はアナログの1/2chのみ、出力はアナログの1/2chおよび7/8chに相当するS/PDIF出力のみ、またヘッドフォンもheadphone1のみという制限はあるのだが、しっかりと動作してくれる。これなら、ライブで2chの再生のみしたいというときなら事足りる。なお、このUSBバス電源供給モードで利用するのに特に切り替えスイッチも設定もない。単純にACアダプタを接続していない状態でPCと接続すると、そうなるのだ。現在のモードがどうなっているかは、コントロールパネルのpower modeを見ると、分かるようになっている。

 アプリケーション側からは、通常通り8IN/8OUTのハードウェアとして見えるものの、コントロールパネルを見ると、3/4ch、5/6chがアクティブでなくなっていることが確認できる。この状態でも入力においては+48Vのファンタム電源もプリアンプも使えるし、DSPによるエフェクト機能も使える。また、この状態でもUSB 1.1に切り替わるというわけではないため、24bit/96kHzでの入出力同時使用にも対応しているから、マルチポートの入出力が不要なときは、特にACアダプタがなくても不自由することはなさそうだ。


USB給電時のコントロールパネル 3/4ch、5/6chがアクティブでなくなっている

 では、実際の音質はどうなのだろうか? いつものようにRMAAを使ってテストしてみることにした。

 今回使ったのはRMAA 6.1.1 Proで、ASIOドライバを使ってのテストだ。この最新版のRMAA Proでは、ASIOドライバの設定状況などがすべて表示されるのも面白いところだ。実際のテストにあたり、ループバックのための配線は、まずリアの1/2chの入力と1/2chの出力をバランスケーブルで接続。その後、24bit/48kHz、24bit/96kHzのそれぞれでテストした。リアの場合は入力レベルの調整はないため、メイン出力を適度な音量にコントロールして行なっている。結果的にはなかなかいい数値となっているのが分かるだろう。

 試しに24bit/96kHzでフロントの入力でもテストしてみた。プリアンプを通すため、若干の音の変化が出てしまうが、それでもいい結果にはなっている。


RMAA 6.1.1 Proで、ASIOドライバを使ってのテスト画面 ASIOドライバの設定状況などがすべて表示される

RMAA結果。24bit/48kHzで、右はAC電源無しの場合
24bit/96kHzでのテスト結果。中央はAC電源無し、右はフロント入力時

 こうしたテストをしながらも感じるM-Audio製品の便利な点は、サンプリングレートを変更してもPCの再起動やオーディオインターフェイスの再起動を必要としない点。唯一、high performance modeのオン/オフ時に必要となるが、これは一旦オンにしておけば、特に設定することもないので、なかなか使いやすい製品だ。

 ところで、ふと気になったのは、ACアダプタを使わない状態での音質。もし、USBバス電源での駆動の場合は音質が落ちるということがあると困るからだ。これについても24bit/96kHzと24bit/48kHzで試してみたが、ACアダプタを使う場合とほとんど違いはなかった。

Ableton Live Lite 6がバンドル

 以上、Fast Track Ultraについてチェックしてみたがいかがだっただろうか? 使い勝手も音質的にもなかなかいい製品といえそうだ。強いて難点をいうと、ボディーがすべてプラスティックであるため、ライブ用などとして持ち歩く場合の堅牢性が気になるところだ。逆に自宅やスタジオで使うという分にはまったく問題はないだろう。

 なお、アプリケーションはAbleton Live Lite 6がバンドルされている。すでにLive Lite 7がリリースされているが、アクティベーションしてユーザー登録するとLive Lite 7は無償でダウンロードできるようになっていた。


□M-Audioのホームページ
http://www.m-audio.jp/
□製品情報
http://www.m-audio.jp/products/jp_jp/FastTrackUltra-main.html

(2008年6月30日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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