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第331回:ヤマハがPCMレコーダやUSBオーディオなどを発表
~ “Made in Japan”のSteinbergハード製品も ~



発表会でのデモ演奏

 既報の通り、6月17日、ヤマハが記者発表会を行ない、リニアPCMレコーダをはじめ、DTM・デジタルレコーディング関連の製品を数多く発表している

 その多くの発売が8月また9月ということで、実物を借りて試せているわけではないが、会場において、いろいろ触らせてもらい、話も聞くこともできたので、それぞれについて紹介していこう。


■ リニアPCMレコーダ「POCKETRAK CX」

POCKETRAK CX

 今回の発表会の案内状には「小型オーディオレコーダー及び音楽制作用各種製品」とあったので、個人的には「おや?」と思っていた。というのも先日、三洋電機から発表されたリニアPCMレコーダ「ICR-PS1000M」にヤマハが技術協力をしていたので、それに真っ向から競合する製品を出すのだろうか? と感じたからだ。

 しかし、会場に展示されているものを見て、すぐにその意味が分かった。ヤマハが今回発表した「POCKETRAK CX」は、「ICR-PS1000M」と基本的に同じ製品だったのだ。とはいえ、細かく見ていくとICR-PS1000Mと完全に同じというわけではない。

 ロゴ表記などのデザインは置いておくとして、まず1つ目の違いは指紋認証付きのタッチセンサー部がないという点。また実売想定価格が39,800円程度と。ICR-PS1000Mの実売価格より高いものの、ソフトとしてDAWである「CubaseAI4」がバンドルされるほか、2GBのmicroSDも標準添付される。さらに、ウィンドスクリーン、三脚穴にマイクスタンドを取り付けるためのアダプタも標準で添付されるなど、音楽制作系のユーザーにとっては一通りのものが最初からついてくるのは嬉しいところだ。


ウィンドスクリーンや、三脚穴にマイクスタンドを取り付けるためのアダプタも付属

 一方、音に対するチューニングという点でもICR-PS1000Mとは多少異なっている。もともとヤマハがプリセットを作ったというEQの設定も微妙に変えているほか、リミッターの設定も音楽用にかなり変えているという。また、ICR-PS1000MではマイクセンスのHiとLowの切り替えスイッチと30段階の音量設定の組み合わせで60段階となっていたものが、POCKETRAK CXでは40段階ずつとなっている。Lowの設定でレベルを大きくした場合とHiの設定でレベルを絞った場合は一部重なっているので、音量調整での使いやすさも増しているようだ。

 それ以外はICR-PS1000Mとすべて同じ。バッテリの持続性能などは抜群にいいが、スペック的には最高で16bit/48kHzであるため、個人的には24bit/96kHz対応の製品をヤマハにも作ってもらいたかったというのが正直なところではある。

□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061701.html


■ USBオーディオインターフェイス「AUDIOGRAM 6/3」

 次に紹介するのは、USBバスパワーで動作する小型のミキサー兼オーディオインターフェイス「AUDIOGRAM 6」(オープン価格、実売:18,800円前後)と、「AUDIOGRAM 3」(オープン価格、実売:14,800円前後)だ。いずれもドライバなしで動作する、16bit/44.1kHzのみという初心者向けのオーディオインターフェイスながら、DAW「Cubase AI4」がバンドルされているほか、さまざまな機能を装備している。ヤマハではUSB接続可能なアナログミキサー、MWシリーズを4ラインナップ発売しているが、これらと比較して、よりコンパクトで手軽なものになっている。


AUDIOGRAM 6 AUDIOGRAM 3

 まずは、ファンタム電源対応でコンデンサマイクが利用できる。AUDIOGRAM 3は1チャンネル、AUDIOGRAM 6は2チャンネルのマイクプリアンプを装備し、そのうち1系統がそのファンタム電源に対応している。またMIC/INST切り替えボタンにより、INSTにするとHi-Z対応となり、エレキギターやエレキベースなど直接接続できるようになるのだ。入力ジャックはフォン端子とXLR端子の両方が使えるコンボジャックだから、さまざまな機材と接続できるようになっている。

 AUDIOGRAM 6とAUDIOGRAM 3の違いは単にミキサーのチャンネル数だけではない。AUDIOGRAM 6には1つのつまみで調整可能な1ノブコンプレッサを搭載。スレッショルド、レシオといった初心者に難しい設定なしに、ボーカル、ギター、ドラムなどにコンプレッサをかけられるのはなかなか便利だ。

 またAUDIOGRAM 6は外部入力とPCからのオーディオの音量バランスを調整可能となっているほか、モノラル入力をワンタッチでステレオ入力に切り替えられるパンボタンなども搭載されている。

□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061704.html


■ “Made in Japan”のSteinbergハードが登場

Steinbergブランドの新製品

 DTM・デジタルレコーディングの観点からすると、今回の目玉製品といえるのが、Steinbergブランドの3製品だ。

 Steinbergがヤマハ傘下になって3年半が経過し、これまでもさまざまな共同開発製品が生まれてきたが、今度はMade in JapanのSteinbergハードウェアが登場した。思い返してみると、ヤマハ傘下になる以前はMIDEX 8やNuendo Time Baseなどハードウェア製品をいくつか出していたが、最近はそうした製品は登場していなかった。その一方で、YAMAHAブランドにおいてn12/n8、KX25/KX49/KX61など、Cubase 4のAIエンジンを利用してハードウェアと有機的な連携を図る製品がいろいろと出ていた。しかし、今回、YAMAHAブランドではなく、Steinbergブランドでハードウェア製品をリリースすることになったのだ。

 まず1つめは、Cubase専用のチャンネル・コントローラ「CC121」(オープン価格、実売:49,800円)。これはいわゆるフィジカル・コントローラなのだが、Cubase専用にしたということもあり、既存のフィジカル・コントローラとは発想がちょっと異なる製品だ。一般にフィジカル・コントローラというと、フェーダーが複数あり、スイッチ、ノブなどが用意されていて……というイメージだが、これにはフェーダーが1本しかなく、ぱっと見も多くのフィジカル・コントローラと異なる。


CC121

右利きの人なら右手にマウス、左手にCC121のAIノブを持って使う

 最大の特徴となっているのは、右側にあるAIノブ。右利きの人なら右手にマウス、左手にCC121のAIノブを持って使うというもの。現在マウスカーソルがあるノブに、このAIノブが自動的に割り当てられ、操作できるため、画面からまったく目を離さずに、操作できるのはなかなか便利。また、左側にあるのは100mmのモーターフェーダーと、Cubaseのチャンネル設定にあるのとまったく同じボタン。1チャンネル分と割り切っているだけにコンパクトにまとまっているわけだ。また中央部の上にあるのはチャンネルのEQ設定、また下にはトランスポート・スイッチが用意されている。

 実際にこれを使ってCubase AI4を操作してみたが、なかなか便利だった。ただ、約5万円という価格は高いというのが正直な印象。中央の黒い部分は省略してもいいので3万円以内であれば、すぐにでも買いたいところなのだが……。

 Steinbergブランド製品としては、CC121のほかに「MR816csx」(オープン価格、実売:139,800円)、「MR816x」(オープン価格、実売:99,800円)というFireWireオーディオインターフェイスも2種類登場している。こちらも、CC121と同様、静岡県にあるヤマハの豊岡工場で生産されるMade in Japan製品。スペック的にはアナログ8ch、デジタル8chの計16chの入出力を備えたオーディオインターフェイスで最高24bit/96kHzに対応。ともにDSPを搭載しており、ハードウェア側でエフェクトが使えるのが大きな特徴となっている。もっともDSP搭載のオーディオインターフェイスは、これまでにもいろいろな製品が出ているが、やはりAIエンジンに対応させてCubase用に作られているだけに、従来製品とはさまざまな違いがある。


MR816csx(上)とMR816x(下)

「クイックコネクト」機能では、Cubase側でトラックを選択後、レコーディングしたいチャンネルのボタンを押すと青く点灯。Cubase側でアサインされる

 まずは、とても便利に感じられたのが「クイックコネクト」という機能。これはCubase側でトラックを選択した後、レコーディングしたいチャンネルのボタンを押すとそのボタンが青く点灯すると同時に、Cubase側で自動的にアサインされるという機能。Cubaseユーザーならご承知のとおり、入・出力チャンネルの割り当ては多少面倒なところがある。とくに初めて使うユーザーだとVSTコネクションの設定なども含め、どうすればいいか戸惑うところだ。それが自動で行なわれるのは非常に便利だ。

 またDSPを使ったエフェクトはcsxでのみ利用できるチャンネル・ストリップ「Sweet Spot Morphing Channel Strip」、双方で利用可能なリバーブ「REV-X」の2種類がある。Sweet Spot Morphing Channel Stripはn12でも搭載されていたヤマハのK's LAB生まれのコンプレッサを改良した上で、3バンドのパラメトリックEQである「Musical EQ」を組み合わせたもので、csxに計8基搭載されている。

 一方、REV-Xはヤマハのマルチエフェクトとして著名なSPX2000やデジタルコンソールでも採用されているリバーブ。こちらは1基のみで、HALL、ROOM、PLATEの3種類から選択できるようになっている。


Sweet Spot Morphing Channel Strip REV-X

 いずれもVST3エフェクトとして使用することが可能であるため、すべてCubase上からコントロールできるようになっている。また、入力段において信号の流れをCubase上で表示させて、コントロールすることも可能。こうすることで、ハードとソフトを完全にシームレスにすることができる。

 また、なかなかユニークなのが3台までFireWireでカスケード接続することが可能で、この場合、アナログ24ch+デジタル24chの計48chでの入出力も可能となる。ここまでくれば完全に業務用システムとして使うことが可能だ。

 なお、Cubase以外のDAWでMR816 csxやMR816 xを使いたいというユーザーもいるだろう。そうした人のために、すべての機能をほかのDAWでも使えるように割り当てる機能も用意されている。具体的には付属ソフトのMR Editorを使って、各自が設定していく形となる。


Cubase上からコントロール可能 MR Editor

□ニュースリリース(CC121)
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061703.html
□ニュースリリース(MR816 CSX/X)
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061702.html


■ キーボードやミキシングコンソールも

 キーボードも2種類発表された。ひとつはMM6の88鍵タイプであるミュージックシンセサイザ「MM8」(オープン価格、実売:99,800円)、もうひとつがUSBキーボードスタジオ、KX25/KX49、KX61の最上位となる88鍵タイプの「KX8」(オープン価格、実売:69,800円)だ。


MM8 KX8

 まずMM8はMOTIFから受け継いだ70MBウェーブROMに音色が簡単に選べるカテゴリー・サーチ機能、アルペジエーターなどを搭載しつつ、88鍵のグレート・ハンマースタンダード鍵盤を採用し、よりアコースティックピアノに近い感覚のキーボードに仕上げている。

 一方のKX8も以前紹介したKX25などと同じスペックで、88鍵のグレート・ハンマースタンダードを採用したモデルだ。88鍵もあるが、USBバスパワーで駆動してくれるのもちょっとうれしいところではある。

 そのほかMOTIF XSのラック版であるMOTIF-RACK XS(オープン価格、実売:168,000円)、アナログのミキサーコンソールで40chのマイク入力を持つIM8-40(オープン価格、実売:600,000円)、32chのIM8-32(オープン価格、実売:520,000円)、24chのIM8-24(オープン価格、実売:450,000円)およびそれぞれのパワーサプライとして利用するPW8(オープン価格、実売:78,000円)も発表されている。IM8の3モデルはいずれもUSBオーディオ入出力端子を備え、2トラックの入出力が可能となっているのとともに、Cubase AI4がバンドルされている。


MOTIF-RACK XS IM8-32

□ニュースリリース(MM8)
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061705.html
□ニュースリリース(KX8)
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061706.html
□ニュースリリース(IM8シリーズ)
http://www.yamaha.co.jp/news/2008/08061707.html


 以上、今回発表されたヤマハ製品を一通り紹介したが、まだ発表会場で少し触った程度で、実際の音などを確認できていないが、かなりよさそうな製品が揃っている。特にSteinberg製品は、ぜひ改めてモノを借りた上でのレビューを予定している。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□関連記事
【6月17日】ヤマハ、ポータブルPCMレコーダなど音楽制作向け新製品
-Cubase AI4付属。簡易ミキシング対応USBオーディオI/Fも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080617/yamaha.htm

(2008年6月23日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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