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第340回:YAMAHA、音楽制作ソフト「SEQUEL」新バージョン
~ 共通レイテンシーASIOドライバが登場 ~



SEQUEL 2

 9月1日、YAMAHAからSteinbergのループシーケンスソフト「SEQUEL」(シーケル)の新バージョン、「SEQUEL 2」がリリースされた。起動画面を見る限り従来バージョンとほとんど違いがないように見えるが、内部的にはさまざまな機能強化が図られている。

 またこのバージョンアップによってSEQUEL本体ではないが、「共通レイテンシーASIOドライバ」(Generic Low Latency ASIO Driver)なるものが登場し、ASIOドライバが存在しないオンボードのサウンド機能も低レイテンシーで動作するようになっている。このドライバのことも含め、主にSEQUEL 2の新機能について紹介していこう。


■ SEQUEL 2 新たな機能

 国内では昨年6月下旬に発表されたSEQUEL。大ヒットというところまでは行っていないようではあるが、簡単で誰でも音楽制作ができるソフトとして、それなりに浸透してきた感はある。Macには「GarageBand」というApple純正の強力で簡単に使えるループシーケンスソフトが存在しているが、Windowsには、これまでGarageBandに近いコンセプトのソフトがあまりなかったのは事実。

 もちろん、ループシーケンサという意味ではACID、SONARをはじめ、さまざまなソフトがあったが、とにかく簡単で誰でもすぐに音楽が作れるソフトとして、SEQUELは一定の評価を得てきた。もっとも、SEQUEはWindows専用のソフトではなく、MacとのハイブリッドとなっているためにMacユーザーも大きなターゲットではあるが、とりわけWindowsユーザーには高く評価されてきたように思う。

 そのSEQUELが1年ちょっとでSEQUEL 2になったのだが、いろいろな機能が追加されているので、ひとつひとつ見ていこう。

従来機能のピアノロールエディタ

 まずはMIDI、ソフトシンセ関連の機能からだ。SEQUELには従来と同様、ソフトシンセとしてHALionOneが搭載されており、これでさまざまな楽器の演奏ができる。ループ素材の中にはオーディオのもの、このHALionOneを使ったMIDIのものが混在しているが、初心者ユーザーであれば、各素材がどちらなのかをあまり気にする必要もなく、曲を組み上げていくことができる。

 しかし、多少MIDIキーボードが弾ける人であれば、MIDI音源を設定したトラックにはキーボードからリアルタイムレコーディングすることができるとともに、ピアノロールエディタでエディットも可能。ここまでは従来どおりだが、SEQUEL 2ではもっと手軽に演奏ができるように、バーチャルキーボードという機能が搭載され、PCのキーボードを使っての演奏ができるようになった。

新機能のバーチャルキーボード PCのキーボードを使って演奏出来る

 分かりやすさ、親しみやすさの面では、各トラックにアイコンを表示させることができるようになった。あらかじめ数多くの楽器のアイコンが用意されているので、これらを割り当てるのが便利だが、ちょっとユニークなのは、それぞれのアイコンというか画像の解像度が結構高く、各画像の好きな部分を拡大してアイコンとして利用することが可能になっている。もちろん、必要あれば、自分で持っているデジタルカメラなどの画像を利用することもできる。

親しみやすいアイコン表示 各画像の好きな部分を拡大して利用出来る

メディアベイ機能も、より使いやすく進化している

 また、SEQUELの一番の特徴ともいえるループ素材を選ぶためのメディアベイも、より使いやすく進化している。メディアベイはCubase 4にも採用されているユーザーインターフェイス機能で、楽器名(カテゴリ)や曲のジャンル(スタイル)でループ素材を見つけ出していくというもの。

 基本的には従来と変わらないが、1つのカテゴリ(サブカテゴリ)にいくつのループが含まれているかを表示することができるようになり、検索でヒットしなかったカテゴリは反転表示するようになったのだ。文章にすると、あまりピンとこないかもしれないが、実際に使ってみるとかなり使いやすくなったことが実感できる。


■ フィジカルコントローラとの連動

 このようにSEQUELの基本コンセプトは、音楽制作経験、楽器経験のない人でも手軽に音楽が作れるというところではあるが、これまでDAWなどを使ってきた人でも、手っ取り早く曲のプロトタイプを作成するためにも、かなり便利なツールとして利用できる。
リモートコントローラ割り当て機能

 まず挙げられるのが、フィジカルコントローラに対応した、リモートコントローラ割り当て機能だ。これはSEQUEL 2にあるさまざまなパラメータにフィジカルコントローラを割り当てるというもので、フェーダーやパンなどの操作をマウスではなく、外部接続のフィジカルコントローラで行なえる。

 割り当て方はとても簡単で、割り当てたいパラメータを画面上で選択し、それをコントロールするつまみや操作子をいじれば、それだけで割り当てが完了する。一度割り当ててしまえば、あとは録音中、演奏中などに操作することで、その動きを記録することも可能。その後は効率よく操作することができ、その動きをオートメーションとして記録していくこともできるのだ。

フリーズ機能にも対応

 一方、多くのDAWが搭載しているフリーズ機能にも対応した。フリーズ機能とは、ソフトシンセやエフェクトを再生時にリアルタイムに演算して音を出すのではなく、予めそのトラックをオーディオデータに変換してしまうことで、再生における負荷を大きく下げることができるのだ。使い方は単純で、フリーズさせたいトラックのフリーズボタンを押すだけ。その後、フリーズを解除したいときには、再度そのボタンをクリックすれば、通常に戻る。

 さらにループ素材に対する自由度という面でも、SEQUEL 2は大きく進化している。もともとSEQUEL 2には世界のトップクラスコンテンツメーカーによるループを5,000種類以上収録しており、ヒップホップ、R&B、ダンス、エレクトロニック、ポップ、メタル、ワールドなどのジャンルがそろっているのに加え、インストール時にユーザー登録すれば、あらたに500種類もの素材を入手できるようになっている。

 さらに、そのままではメディアベイでカテゴリーやスタイルでの検索できないもののACIDデータやAppleLoopsなども取り込んで利用することができる。ユーザーコンテンツとしてインポートする際に、多少なりともカテゴリー名をつけるなどしておけば、ある程度検索はできるようになるし、メディアベイでテキスト検索をかければ、結構使えてしまうので、便利だ。

ユーザー登録すれば、500種類もの素材入手可能 取り込んだACIDデータなどを検索

フリーワープ機能

 そしてすごいのが、こうしたループ素材はもちろん、そうなっていないオーディオデータをも読み込み、細かくタイムストレッチ編集できることだ。これをフリーワープ機能とよんでいるのだが、たとえば、スネアのタイミングを3拍目の頭に持っていこうと思ったら、波形を見て、その部分にアンカーを設定し、マウスで3拍目の頭へとドラッグしていけば、そのタイミングで音がなるループ素材へと変身してくれる。

 もちろん、そのオーディオのフレーズが2小節分であるとか4小節分であるかといった情報も自由に設定することができる。これに似た感じの機能はCubaseにも用意されているが、自分で録音したサウンドをループ素材として活用したい場合など、結構便利に使うことができる。


■ 共通レイテンシーASIOドライバ

共通レイテンシーASIOドライバ

 こういった機能が、SEQUEL 2に追加されたのだが、もうひとつ紹介しておきたいのが冒頭でも紹介した、「共通レイテンシーASIOドライバ(Generic Low Latency ASIO Driver)」だ。これはWindows専用の機能だが、これまでもSteinbergのソフトにはASIOドライバに対応していないサウンドカードをASIOで利用するための「ASIO DirectX Full Duplex Driver」というものが標準で装備されていた。それは今回のSEQUEL 2でも同様なのだが、それに加えて、この共通レイテンシーASIOドライバというものが追加されている。

共通レイテンシーASIO設定メニュー

 一言でいってしまえば、オンボードのサウンド機能などでもレイテンシーを小さくして利用できるのだ。ためしに、オーディオ設定をこれに変更した上で、HALionOneを割り当てたソフトシンセのトラックを作成し、外部のMIDIキーボードから演奏してみたところ、違和感なく演奏できる。感覚的には20msec~30msec程度のレイテンシーかなと思ったが、設定メニューを開くとデフォルトが10msecとなっているようだった。これ以上小さくすることはできないようだが、なかなか安定して動いてくれる。

 ためしに、このSEQUEL 2をインストールした状態で、Cubase 4を起動してみると、やはりそこには「Generic Low Latency ASIO Driver」というものがあり、利用可能になっていた。このCubase上の表記を確認すると、ドライバ設定画面での表示の倍の20msecとなっていた。レイテンシーの意味のとり方に違いがあるのかもしれないが、やはりそういうことであった。このドライバだけを単独でインストールすることはできないようだが、これもSEQUEL 2のひとつの魅力かもしれない。

Cubase 4のドライバ設定画面では表示は倍の20msec

 ちなみに、同様なことを実現するフリーウェアとしてASIO4ALLというものがある。Cubase 4などを標準のサウンド機能で使いたいということであれば、このASIO4ALLを利用するのが便利だとは思うが、Steinberg純正のドライバを入手するために、SEQUEL 2を買うという選択もあるだろう。

フリーウェアとしてASIO4ALL


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□Steinbergのホームページ
http://japan.steinberg.net/jp/home.html
□製品情報
http://japan.steinberg.net/jp/products/music_production/sequel_2.html

(2008年9月1日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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