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第344回:戦略価格のDAW、Roland「SONAR V-STUDIO 700」
~ 「ProToolsからのリプレイスを狙う」意欲作~



 10月3日、Rolandは記者発表会を開催し、今年3月に同社の傘下に入った米Cakewalk社が開発した最新のDAWである「SONAR 8」、およびRolandが開発したSONAR用専用機をSONARと統合した音楽制作システム「SONAR V-STUDIO 700」を発表した。

10/3のRoland記者発表会の模様 SONAR V-STUDIO 700

 ソフトウェアであるSONAR 8は従来の延長線上である一方、システムとしてのSONAR V-STUDIO 700は、ProToolsからのリプレイスを狙った業務用システム。実売価格も40万円台と従来のSONARシリーズから考えるとかなり高価であるが、百数万円から数百万円のシステムとなるProToolsと比較すれば圧倒的に安いという位置づけ。発売自体はソフトウェア単体が12月末、SONAR V-STUDIO 700が来年1月中旬とまだしばらく先ではあるが、どんな製品となっているのか紹介していこう。


■ ProToolsからのリプレイスを狙う

 Cubaseを開発する独Steinbergを傘下に持つYAMAHAは、先日Cubase用のオーディオインターフェイスである「MR816 csx」/「MR816 x」およびコントロールサーフェイスである「CC121」をSteinbergブランドで発売したが、対するRolandも今回「Cakewalk by Roland」というブランドでハードウェアを発売した。ただ、両社の向いている方向はやや異なるようで、Rolandのほうが、より業務向きを狙ったものとなっている。

 それは価格の面からも明らかであるが、Rolandのマーケティング担当者に聞くと「今回のSONAR V-STUDIO 700は直接バッティングする製品はなく、新しい市場を切り開いていく。レコーディングスタジオはすでにProToolsが業界標準になっているだけに、そこに切り込むのは難しいが、ビデオ用の音楽制作であったり、よりハイグレードなホームレコーディングを目指すミュージシャンに提供していく」とのこと。

 さらにProToolsとの関係について突っ込んで聞いてみると「難しいことは承知しているが、できることならリプレイス需要を狙っていきたい。ProToolsのTDMのようなDSPは搭載しておらず、すべてCPUベースで処理しているが、CPUが非常に高速化した今、十分張り合える力は持っている。音質的にはProToolsのシステムを上回る自信を持っているし、圧倒的なコストパフォーマンスがあることにぜひ注目していただきたい。SONAR V-STUDIO 700のデメリットを強いてあげれば互換性。OMFでのインポート/エクスポートには対応しているが、ProToolsと直接の互換性がないため、ほかのスタジオとのデータのやりとりがある場合は、難しい面があるが、ここで完結できるのであれば、問題なく使うことができるはずだ」とする。


■ SONAR V-STUDIO 700

 では気になるそのSONAR V-STUDIO 700とはいったいどんなものなのだろうか?

 オーディオインターフェイスである「VS-700R V-STUDIO I/O」、専用設計のコントローラ「VS-700C V-STUDIO CONSOLE」の2つのハードウェアと、「SONAR 8 PRODUCER」の3点セットで構成されている。すでにSONAR 8を購入した人や、SONAR 7など既存のバージョンを持っている人には、アップグレード用の製品も用意するという。

オーディオインターフェイス「VS-700R V-STADIO I/O」

コントローラ「VS-700C V-STUDIO CONSOLE」 ソフトウェア「SONAR 8 PRODUCER」

 それぞれを説明すると、まずVS-700R V-STUDIO I/OはUSB 2.0接続のオーディオインターフェイスで、最大で19IN/24OUTというかなり大規模なもの。最高で24bit/192kHzに対応しているという。ここにはマイクプリアンプ、ファンタム電源を搭載した8系統のアナログ入力(XLR/TRS)、14系統のアナログ出力、またデジタル入出力としてはADATインターフェイス、S/PDIFコアキシャル、AES/EBUを装備するとともにMIDI、ワードクロックの入出力も備えている。USB 2.0のオーディオインターフェイスということで、RolandのUA-101を拡張したものでは……とも思ったが、見た目がまったく違うことからも想像できるとおり、使っているチップを含め別物だという。

「Fantom VS」MIDI音源ボード

 そしてこのVS-700Rには標準でFantom VSというボードが搭載されている。これはFantomサウンドを搭載したMIDI音源ボードであり、最大16パート128ボイスで1,400種類以上のサウンドを標準で搭載している。チップ的にはFantom Gと同等ものが採用され、ウェーブテーブルデータも同じものが使われているが、パッチが違ったり、回路が異なるため、最終的な音には違いがあるという。

 さらに、このVS-700Rにはエクスパンジョン・ボード ARXシリーズに対応した拡張スロットを1基装備していおり、Fantom VSとはまったく独立した音源として追加することができる。現在あるのはRolandの「SuperNATURAL」という技術を使ったドラム音源「ARX-01」、同じくSuperNATURALを使ったエレピ音源「ARX-02」の2つのみだが、これがそのまま利用できるというのもうれしいところだ。なお、Fantom VS専用のエディタソフトがあり、これがSONAR 8 Producerに統合された形になっている。これによって複数のソフトを切り替えることなく、SONARの画面上からシームレスな操作とエディットを可能にしている。

拡張音源ボード。左「ARX-01」、右「ARX-02」

 一方のVS-700C V-STUDIO CONSOLEのほうは、SONAR専用に開発されたコントロール・サーフェース。サイズ的には730×430.9×126.5mm(幅×奥行き×高さ)とかなり大きいので、これが置ける机となると、それなりの大きさが求められるので、自宅で簡単に置ける代物ではないが、使い勝手は抜群だ。

 ここにはタッチセンス付の100mmモータードライブ・フェーダーが9基搭載されているとともに、8つのロータリーエンコーダーとLCDディスプレイを搭載したチャンネル・ストリップ・コントローラを装備し、ジョグ/シャトル・ホイールを搭載したトランスポート・コントロールやサラウンド制御用のジョイスティックも搭載している。

タッチセンス付き100mmモータードライブ・フェーダー チャンネル・ストリップ・コントローラ

ジョグ/シャトル・ホイールを搭載したトランスポート・コントロール サラウンド制御用のジョイスティック

 展示されているものを少し触っただけだが、SONAR専用となっているだけにかなり使いやすく、とくにジョグ/シャトル・ホイールの部分はうまく設計されていてとてもいい感触だった。また、ちょっと目立つのが前後に動かす大きなレバー。これはDV-7シリーズなどEDIROLのビデオ編集機材に搭載されているのと同じコントローラだが、多目的に使える。いずれもSONARからはACT(Active Controller Technology)でコントロールできるようになっている。

V-STUDIO 700をシステムとしてセットしたときの構成図

 このSONAR V-STUDIO 700をシステムとしてセットしたときの構成が右の図だ。PC側からするとUSBケーブル1本ですべてのシステムが繋がっていることになる。VS-700RとVS-700Cの間はテレビのD端子と同じコネクタのケーブルが採用されているが、同じなのはあくまでも端子形状であって、中の配線はD端子とはまったく異なるので、D端子ケーブルを買ってきても使うことはできないので、注意してほしい。


V-STUDIO 700を2台接続した時の構成図

 さらに、オーディオインターフェイス部分だけは2台まで同時使用可能となっている。この場合オーディオ入出力は37IN/48OUTという仕様になる。ただ、ここまでチャンネル数が増えると、1本のUSBケーブルでというわけにもいかないため、これは別途USBケーブルを使って接続。さらに、2つのVS-700R間でタイミングが狂わないようワードクロックを用いて接続する形をとる。そのほかコントロールサーフェイスであるVS-700CにはEDIROLのビデオ機器、DV-7シリーズとUSB接続することでコントロール可能となっている。このオーディオインターフェイス2台、DV-7シリーズを接続した場合のシステム構成が右の図となっているので参照してほしい。


SONAR 8はWASAPIドライバをサポートする

 ちなみに2つのVS-700Rを接続した場合、SONARからはWDMでコントロールすることで、双方が見えて使えるが、従来ASIOではどちらか1つしか扱うことができなかった。しかし、SONARでは内部的に2つのASIOを統合できるようにしたとのことで、ASIOでも利用可能になっている。

 ただ、2つの異なるオーディオインターフェイスのASIOが統合できるのか、日本語版のベータで確認したところ、うまくはいかなかった。一方、このASIOやWDM、MMEに加えSONAR 8にはWASAPI(Windows Audio Session API)というWindows Vistaで実装されたオーディオドライバもサポートした。この辺に関しては、正式版が完成したあたりで改めてレポートしたいと思う。


■ ソフトウェア SONAR 8

 さて、ではソフトウェアのSONAR 8のほうは、従来のSONAR 7と比較して何がどう変わったのだろうか? 毎年この時期にバージョンアップを行なっているSONARだが、ほかのDAWと同様、そろそろバージョンアップのネタが尽きてきたというのが正直な感想。実際、SONAR 7とSONAR 8を比較したとき、見た目上の違いはほとんどわからない程度で、派手な違いはプラグインの追加のみだ。

 とはいえ、ソフトシンセのモニター音をリアルタイムにレコーディングできるようになったり、ループエクスプローラがオーディオとMIDIでシームレスになって見やすくなったり、また前述のASIO、WDM、WASAPIなどのドライバモード切り替え時に再起動が不要になるなど、使い勝手の面ではそれなりに進化はしている。

 なお、製品名称がSONAR 8からちょっと変更され、上のバージョンがSONAR 8 Producer、下のバージョンがSONAR 8 Studioとなり、従来までのEditionという名前が取れている。また価格は従来からと同様で、それぞれオープン価格だが、実売価格はProducerが85,000円前後、Studioが50,000円前後となる。

BEATSCAPE

 ProducerとStudioの差は、これまでどおり、ボーカル編集機能のV-Vocalの有無やディザリングエンジンの違い、そしてプラグインの違いとなっている。SONAR 7になかった新たなプラグインとしては、ソフトシンセのほうでは大きく3つ。REXファイル、ACIDループスを16個のパッドにアサインし、リアルタイムに新しいループを作っていくことができるBEATSCAPE、4Font社が開発したアコースティックピアノ音源のTRUE IANOS AMBER、そしてこれまで単独で発売されていたCakewalkのサンプリングシンセサイザのD-Proだ。


Guitar Rig3 LE

 一方、エフェクトもいくつか強力なものが追加されている。ひとつの目玉といえるのがNative InstrumentsのGuitar Rig3 LEだ。ご存知のとおりGuitar Rig 3はアンプのモデリングとギター用エフェクトを組み合わせた定番ソフト。さまざまな音楽スタイルに対応する50種類以上のプリセットが用意されている。

 またVC-64 Vintage Channel、LP-64 Linear Phase EQ、LP-64 Multiband Compressorに続く64bitエフェクトとしてTS-64 Transient Shaper、TL-64 Tube Levelerの2つが追加された。TS-64 Transient Shaperはサウンドのアタック感やエッジの太さを調整できるエフェクト。簡単な操作だけでトラックのグルーブが劇的に変化する。一方のTL-64 Tube Levelerは真空管コンプレッサ/リミッタの名機「Teletronix LA-2A」をパーツ/回路レベルから忠実にモデリングしたというもの。ビンテージ機材ならではの温かみ・深みのあるサウンドを作り出すことができる。

 そして音の広がり感をコントロールできる高機能なステレオ・イメージャーがCHANNEL TOOLS。いずれもSONAR 8 Producerのみにバンドルされているプラグインだが、レコーディング時、ミキシング時、マスタリング時でそれぞれ有効に活用できそうだ。

TS-64 Transient Shaper TL-64 Tube Leveler CHANNEL TOOLS


 以上、今回の発表会で得た情報、見た機材などを元に速報的にSONAR 8関連の情報をお届けした。より詳細な情報は、改めてソフトや機材を入手してからレビューを予定している。



□Rolandのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□cake walkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□ニュースリリース
http://www.roland.co.jp/news/0395.html
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/VSTUDIO700/

(2008年10月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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