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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第5回:実は激安な進化したモノリス

DTVの定番「Premiere 6.0」速報


■ 進化するモノリス“Premiere”

 AdobeのPremiereといえば、今やパソコンを使ったデスクトップ ビデオ(いわゆるDTV)の世界では、同社のPhotoshopと同じような位置のアプリケーションであると言える。つまりそれをやるならもうあれでしょこれで決まりでしょ、えっなにそんな他のソフトでどーすんですかあーた、だめだめ、みたいな感じの「定番アプリ」というやつである。

 Photoshopと同じような位置、と言ったが、そこに至るまでの過程は全然違っている。Photoshopがあまたの競合ペイントソフトを駆逐しながらじわじわと頂上へ上り詰めたのに対し、Premiereには最初から敵などなかったのである。専用ワークステーションではない、いわゆるパソコン内からビデオ映像を再生するという難事業を初めて軌道に乗せたのは、'91年に登場したAppleのQuicktimeであるというのはおそらく異論のないところであろう。

 いやその前にAmigaがあった、いやオレのPCではMPEGが動いていた、というアンチMac派のご意見もあろうことは承知だが、規格として組織的に成功させたという功績は認められるべきだ。そしてこのQuicktimeを唯一普通に編集できる、下世話な言い方をすれば「使い物になる」アプリケーションが、Premiereであった。その後マルチメディアブームなんてーのがあって、猫も杓子もアキバの雑居ビルの階段をわっせわっせと登ってはコアなCD-ROMを買い漁ったりしたわけだが、今考えるとその陰の立て役者はMacromind(現Macromedia) DirectorとAdobe Premiereであったと言っていい。

 こうしてパソコンでビデオという関係に火が付き、多くのメーカーがこの分野に参入してくるわけだが、その頃になってDTVという産業に目を付けた人々からすれば、Premiereはまるで「モノリス」のように初めからそこにズズーンとあったのである。現在出回っている多くのビデオ編集アプリケーションは、多かれ少なかれ必ずPremiereの影響を受けているし、モニタウインドウがあってA/Bトラックがあって、みたいなビデオ編集アプリケーションの基本的スタイルを我々に認識させたのもPremiereであった。

 さてそんなPremiereであるが、前回のメジャーアップグレードであるバージョン5.0のリリースが'98年。その後バージョン5.1のリリースもあったが、基本部分は変わらず、それ以降は細かなマイナーアップグレードでさまざまな技術的革新に対応してきた。そしてここでようやくメジャーアップグレード版、バージョン6.0の登場となったわけである。PremiereはDTVの未来をどのように導いてくれるのか、その注目度は高い。


■新概念「ワークスペース」

 なにはともあれ実際に触ってみよう。まず起動すると、ユーザーは「ワークスペース」という新しい概念に出会うことになる。これは作業目的に合わせたプリセットのようなもので、ウインドウやツール群の配置などを選ぶわけだ。もちろんこれらのセッティングは自由に変更して、自分のプリセットを作ることもできる。

 最初の選択肢としては、「A/Bトラック編集」と「シングルトラック編集」がある。読者もおっきい画像でこのダイアログ表示内容を確認して貰いたいのだが、ビデオ編集の経験が浅い人はA/Bトラックを、経験者はシングルトラックを選択せよ、という意味に取れる文章が書いてある。しかしこのダイアログの表現は、ちょーっと問題ありだ。バージョンアップしたユーザーがこのダイアログに出会うとおそらく「シングルトラック編集」の方を選択してしまうだろう。しかし、筆者が実際に使ってみたところ、「A/Bトラック編集」と「シングルトラック編集」はそもそも機能が違う。したがって編集のスキルでどっちを選ぶという問題ではないと思う。

 筆者が何を言いたいのか、具体的に説明しよう。「A/Bトラック編集」で編集すると、基本的に前バージョンの5.1とほぼ同等だ。

 モニタ画面が1つになっているが、これはプリセットでこうなっている。従来の2画面に変更することは簡単だ。

 一方「シングルトラック編集」では、トランジションエフェクトを使用するA/Bトラックが一本にまとめられている(図1)。「ビデオ1」と書かれた部分の右のボタンをクリックすると、A/Bトラック似の表示になる(図2)。しかし表示は似ていても、ここでのA/Bトラックの変更は制限がある。

図1 図2

 例えば図のようなトランジション設定があったとすると、あとから来るトラックをもっと前に移動させて重なりを増やし、長いトランジションにすることができない。しかし逆に後ろに下げてトランジションを短くするとかといった他の操作は全部できるのである。

 うーん、このような中途半端な制限を付けることに何の意味があるのか、筆者にはさっぱりわからない。いや、これがA/Bトラックが完全に変更できないのなら、話はわかるのだ。最初にA/Bトラック編集でベースを作った後、その上にレイヤーを重ねていくためにベーストラックをプロテクトするのだ、という意図なら、まあ理解できる。ところがマニュアルには「A/Bトラック編集モードとシングルトラック編集モードの間では切り替えないでください」というオソロシイ記述でモード切り替えを封印してあるのだ。

 むむ、切り替えたらどうなるのか。うわあどうしてあのときこんなことを……、うわーんオレのバカバカ、ってなことになっちゃうのかしら。ダメと言われるとやってみたくなるのが人情であり、そこは小さい頃からやっちゃダメって言われたことはきっちり確実にやってきた筆者である。おかげでエレベータに閉じこめられたりエンジンかけたとたん車がバックしたり消化器をぶちまけたりと、デンジャラスな目には沢山遭っている。っていうか読者も「どうせお前のマシンだ、逝ってよし」とそのあたりに期待しているにちげえねぇ。

 というわけで早速いろんなパターンの編集をやってみて両モードを行ったり来たりしてみた。が、別になーんも問題ないみたいだった。ちょっと安心したような期待はずれのような……。まあ実際にどんな突拍子もない編集がないとも限らないので、エクスキューズとしてマニュアルはこのような書き方にならざるを得なかったのかも。

 このモード機能に関しては思うことがまだ沢山あるのだが、筆者が根本的に誤解しているか、それとも機能が十分練られていないのかが判然としないので、あれこれ言うのは他のユーザーと意見を交換してからにしたい。


■強化されたDVサポートとWEB機能

 新しいPremiere 6.0では、パッケージの絵柄も「SONY VX-2000」とものすごーくよく似たカメラとi.LINKケーブル、http://という文字といつものおウマさんがデザインされ、DV完全対応とWebへのストリーム供給機能を大きく表現している。今回のバージョンアップには変更点は多いが、やはり重点はその部分だろう。

 Premiereには従来からキャプチャ機能は存在したが、今回のバージョンではそこを徹底的にブラッシュアップしたようだ。デバイスコントロールの設定では、現存するほとんどのメーカーとDVカメラのリストが揃っている。リストにあるということは、動作検証済であると考えていいだろう。当然バッチキャプチャもサポートだ。

DVデバイスコントロール バッチキャプチャ

 Web出力に関しては、Terran Interactiveの「Save for Web」が付属する。さまざまなフォーマットに対応したビデオストリーミングツールだ。わかりにくいストリーミングに関する設定も、ウイザード形式で進めていくことができる。もちろんストリーミングフォーマットであるWindows Media Export、RealMedia Export、Apple Quicktimeもインストールされる。

 前回のZooma!、VideoStudio5.0の記事を読んでいただいた方はお気づきのことと思うが、1つのアプリケーション内でDVキャプチャからWeb吐き出しという流れを完結させることが、現在DTVにかせられた命題であると言えよう。この動きは去年の段階ではまだプロ用のシステムに見られるだけであったが、1年かかってその波が汎用アプリケーションにまで及んできたと見ていい。


■大改革のエフェクト周り

 おそらくユーザーから一番注目されているのは、エフェクトの強化であろう。従来のエフェクトは、キーフレームが設定できるものとできないものがあった。

 またキーフレームが設定できるものでも、すべてダイアログの中だけで行なわなければならなかった。しかし今回からAfterEffectsで採用されていたような方法に変更された。

 タイムライン上に直接キーフレームを設置し、エフェクトのコントロールも常時パレットの中に表示させるという方法になったため、格段に自由度が増した。また同時にAfterEffectsのプラグインと互換性ができたため、エフェクトのバリエーションも大幅に増えた。

 筆者が最初に新Premiereを見たのは、今年2月に行なわれたMacWorld Expoであったが、Adobeブースに詰めかけた多くの人からは「これでAfterEffectsを買わなくて済む」という意見を多く聞いた。確かにPremiereがAfterEffectsを飲み込んでしまったかのような印象も受ける。

 実は数年前からプロ用スイッチャー(ハードウエア)では、だんだんエフェクタの機能を内蔵するように変化してきている。Premiereもなんとなくその流れ、つまりエフェクトって特別なものじゃないんだヨ、ちょっとしたところでよく使うものなんだヨ、だからいつも手元に置いておきたいんだヨ、という映像の作り方の流れに呼応してきているのかなぁ、という印象を持った。


■十分すぎるタイトル機能

 さらにPremiere単体の機能アップではないが、製品パッケージとしてタイトル機能の充実ぶりはすごい。というのも、Inscriber Technologyの「Title Express」とPinnacle Systemsの「Title Deko」がバンドルされているからだ。えーと上記製品を知らない人には上の文章がまるで悪魔の召還呪文のように見えるかもしれないが、これは2つともに文字タイトル専用のソフトウエアである。

 Title Expressは膨大なプリセットから選ぶことで素早くスーパーインポーズする文字を作成するタイプのもの。文字の配置からデザインまできっちりプリセットされているので、レギュラー番組やデザインの時間のない時には強力な武器となる。

 Title Dekoもプリセットを持っているが、基本的には文字タイトルをマニュアルで細かく作り込んでいくタイプのものだ。一文字づつの文字のカーニングはもちろん、イタリックではなくマニュアルによる文字の傾斜など、とにかく文字に関するデザインはなんでもできる強力なツールだ。

Title Express Title Deko

 両者ともかつてはプロ用システムとして販売されていた製品のプラグイン版である。通常のタイトル制作と同じように[新規作成]メニューからそれぞれを選択するというスタイルで、別アプリケーションとして起動する。クオリティは言うまでもなく、放送レベルだ。とりあえずこの2本があれば、もはや文字をいじるためにわざわざIllustratorやPhotoshopを起動することはもうないだろう。


■実は激安なPremiere

 さて、新しいPremiere 6.0、皆さんの判断は「買い」だろうか。Premiereは欲しいけど高くて手が出せなかった人も多かったと思うのだが、実は最近の値段をよくよく見てみると、Premiereは昔に比べたら全然高くないのである。オンラインのアドビストア価格では69,500円、今なら乗り換えキャンペーンで(5千本限定だが)48,000円で買えるのである。乗り換え対象商品としては先週紹介したデファクトスタンダード、Ulead VideoStudioの名前も挙がっている。計算すると、たとえVideoStudioを新品で買ってそのまま乗り換えキャンペーンで買っても、そのまま買うよりもまだちょっと安いということになる。またPremiereはオープンプライスなので、ストリート価格はもうちょっと安いのかもしれない。

 もし既に乗り換え該当製品を持っていて、さらに上位のビデオ編集アプリケーションが欲しくなってきている人には、願ってもないチャンスだ。筆者から見れば、Title ExpressとTitle Dekoだけで考えても、その元となった製品の値段を知っているだけに、ものすごいお買い得感を感じたりするのだが。

□アドビのホームページ
http://www.adobe.co.jp/main.html
□製品情報
http://www.adobe.co.jp/products/premiere/main.html
□関連記事
【2月21日】アドビ、Webストリーミング編集を強化したPremiere 6.0予約開始
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010221/adobe.htm

(2001年4月4日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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