“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第6回:超ゴージャスな160万円のCDトランスポート 「ESOTERIC P-0s」を聴きに行く!! 前編 |
■ なんせ160万円!!
筆者は、自分で原稿書いているくせにAV Watchのファン。記事を結構マメに読んでいる読者の一人でもあるのだが、読者諸氏は3月13日の記事にすんごいものが載っていたのを、ご記憶ではないだろうか。
『ティアック、160万円のCDトランスポート「P-0s」の受注を再開』
ぬわにぃ! CDプレーヤー(正確にいえばトランスポーターで、さらに機能が少ないのだが)のくせに160万円ですよあーた! ひらがなで書くと“ひゃくろくじゅうまんえん”ですよ! あ、いや、ひらがなで書くとちょっとすごいかなーと思ったんですが一緒でしたか。
ま、とにかくだ、ちょっとその160万円ってのすごくない? ちょっとそのゴージャスなのがどのぐらいゴージャスなのか聴きに行ってみようじゃないの担当クン、さっそくTEACにプッシュプッシュ、ということで我々取材陣(といっても2人)は、TEAC本社にお邪魔してその「P-0s」を聴かせて貰えることになった。
TEACと言えば、オーディオファンならまずどこかで必ずお世話になったメーカーであろう。かく言う筆者も紅顔の美少年であった(笑うなソコ!)20代前半の頃は、TEACの8トラックオープンリール、TEACの8トラックミキサー、TEACのパッチベイ、TEACのACノイズフィルタと全面的にTEACまみれになりながらせっせと音楽作りに励んだものである。
もともとTEACってのは、プロの技術をコンシューマにまで降ろしてくれるマニアックなメーカーというところがあって、音楽青年はもちろん音楽おじさんのハートにジャストミートな製品を数々リリースしてきているのである。
■ 音の頂点を目指す!!
そのTEACが、高級ブランドとして設立したのが「ESOTERIC(エソテリック)」。ESOTERICブランドは今から13年前、オーディオがステータスだった時代が過ぎ去った頃にスタートしている。
「なんだか実用品としてのオーディオみたいな流れになっちゃって夢もだんだんしぼみつつある中で、もっと趣味性のある、徹底的にいい音を追求するためのブランドを、ということで立ち上げたんです」と企画グループ マネージャーの原田氏。P-0sの企画担当者というからには、きっとアレだよ気むずかしい頑固オヤジだよとか思っていたのだが、原田氏は実に気さくな人で、筆者のアホな質問にも軽快なテンポでぽんぽん答えてくれる。
そしてこのESOTERICブランドの頂点に位置するのが、今回の「P-0s」である。このCDトランスポートの基本コンセプトは、「電気的に精度が出せれば、メカの精度は関係ないんだという誤ったデジタル指向に対する挑戦」からスタートしたと言えるだろう。
正面 | 背面 | 電源ユニット |
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おっと、ここでCDトランスポートなるものについて簡単に説明しておこう。通常のCDプレーヤーというのは、CDからデジタル信号を読み出すデジタル部分と、そのデジタル信号を人間の耳に聞こえるようにアナログに復元するDAコンバータ部から成っている。CDトランスポートは、このCDプレーヤーのうちDAコンバータ部分がない。
つまりCDトランスポートからは、CDから読み出したデジタル信号が出ているだけで、別ユニットのDAコンバータを使わないとCDの音が聞けないというモノなのだ。
■ 今のCDプレイヤーが抱える問題とは
さて、では普通のCDプレーヤーとP-0sは技術的にどこが違うのだろうか。まずそれには、普通のCDプレーヤーの構造とその問題点を知ることが先決だ。
CDプレーヤーのピックアップは、レーザーを照射してCDの記録面からの反射を得ていることは、AV Watchの読者なら先刻ご承知だろう。原理的には平面であるCDの表面を、内側から外側へピックアップを移動させてデータを読んでいくわけだが、実際にはそれだけでは済まない。というのも、CDには2つの微妙な形状の歪みがあるからだ。
その1つは縦方向の歪み、つまりCDの反りだ。CDは一見完全に真っ平らなように見えるが、実際には少し反っている。規格では±0.5mmまでの反りまでは許されている。もしCDが回転しているところを真横から見たら、CDの縁が微妙に上下しているのがわかるはずだ。この反りは当然レーザー照射の焦点距離のズレとして表われることになる。
もともとCDのピットの深さは0.1μmしかないのにそれが±0.5mm、つまり最大で1mmもズレるんだから、レーザーピックアップにしてみればもうエラいことである。そこでピックアップレンズはこの焦点距離のズレを追いかけるため、えらいこっちゃえらいこっちゃと言いながら、それこそ上へ下への大騒ぎして、四六時中フォーカスを変えている。
しかしこのフォーカスを変えるという機能は、フォーカスがズレたのを感知してから動くわけであるから、その瞬間必ずいくらかの読みとりエラーが発生していることになる。
そして、CDにはもう1つ、横方向のズレも生じている。原因は、CDの中心点のズレだ。CDの中心点がズレていると、本来レーザーピックアップの真上にあるべきピットが横にズレる。このような中心点のズレを「偏芯」という。
読んで字のごとく、芯が偏っているのだ。中心がズレてるなんて、CDの作りがヘボいからだ、なーんて思われるかもしれない。筆者も初めて知ったのだが、実は世の中にあるCDは残らずと言っていいほど、中心点が微妙にズレているそうだ。CDのピックアップはこの横のズレを追いかけるのに、ピックアップレンズを水平に動かすことで対応している。
ポータブルCDプレーヤーのピックアップレンズが乗っている台の部分は、このような制御を受けられるようバネの上に乗っかっていて、ぷるるんと簡単に動くようになっている。このような機能は、たとえ6,980円で吊るし売りされているCDプレーヤーにも、必ず備わっている。
この2つの方向のブレを追いかけるため、ピックアップのレンズはいつも暴れん坊将軍顔負けの大暴れしている状態にある。考えてみればこんな状態で信号が読めているのが不思議なぐらいだ。CDからのデータはデジタル信号であるから、エラーがあっても補正回路のおかげで矛盾のないデータに置き換えられる。
しかしそれは単に矛盾がないというだけで、CDに記録されていたデータと同じであるという保証はまったくない。つまり補正が働けば音が途切れたりはしないが、音質までは同じではなくなってしまう。TEAC技術陣はそこが問題だと考えたわけである。
■ P-0sの“秘密”
「CDからの読みとり段階でのエラーを極力抑える」。そこがP-0sのキモと言っていい。
まずCDの反りによる縦方向の動きだが、TEACではこれを無くすために、微妙にお椀型になっているターンテーブルにCDを押しつけて固定するという方法を開発した。もちろんお椀型といってもぼっこり凹んでいるわけではなく、ほとんど目に見えない精度での話。これが単なる平面のターンテーブルだと、ラベル面方向への反りは平たくなるが、記録面方向への反りはそのままだ。
そこで微妙にお椀型になっているところへ押しつけることで、両方の反りがなくなるというわけ。TEACはこの方法を13年前に開発し、「VRDS(Vibration-free Rigid Disc-clamping System)」と名付けている。
次に偏芯による横方向の動きは、TEACではレンズを動かすのではなく、本当にピックアップ全体(キャリッジ)を動かして追従させるという恐るべき方法を取った。口で言うのは簡単だが、実際にそれがどのぐらいの距離を移動させるかというと、なんと0.1μm単位であるという。
この0.1μmというのはどのぐらいの長さかというと、そもそもあーた髪の毛の太さが60~80μmなんである。つまり髪の毛の太さの800分の1! あ、あほか! つまりこれは、たばこの煙の粒子1個分ぐらいしかないようなところをCDの回転に合わせて行ったり来たりさせようというわけである。……そりゃ160万円もするだろうよそんなことしてりゃ(号泣)。
【超高精度の超高い超すげえモーター】 |
「高級オーディオの世界ではね、DAコンバータがよくなってくると今度はメカニズムの差が支配力を持つようになる、と考えたわけです」。
なるほどぅ。なんだかCDもすんごいことになってきちゃってるなぁ。
(以降、次週の後編に続く)
□ティアックのホームページ
http://www.teac.co.jp/
□製品情報
http://www.teac.co.jp/av/TEAC_ESOTE/p0s.html
□関連記事
【3月13日】ティアック、160万円のCDトランスポート「P-0s」の受注を再開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010313/teac.htm
(2001年4月11日)
= 小寺信良 = | 無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp