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第18回:デジタル時代のノイズリダクション


~ その2: シェアウェアでお手軽にノイズリダクション!! ~


 前回からスタートしたノイズリダクションの第2回目。今回から実際にノイズリダクションソフトを使って、ノイズを除去する実験を行なっていく。まず最初に取り上げるのはオンラインソフトである「WAVclean」と「WAVhum」。それぞれ2,000円、2,400円のシェアウェアではあるが、これがかなりの効果があるのだ。さっそく、その効果のほどを見ていくことにしよう。


■ 実験の前に素材を用意

 これから、さまざまなノイズリダクションソフトを用いてノイズを除去する実験を行なっていくのだが、その際必要になるのがノイズの入った素材だ。

 前回、3つの代表的ノイズとして磁気テープなどで入る「サー」というヒスノイズ、電源から混入する「ブーン」というハムノイズ、レコードの埃や傷によって生じる「プチプチ」というクラックルノイズを紹介するとともに、その音をMP3ファイルとして掲載した。今回は、これをうまく利用したいと思う。

 本来ならCDをテープに録ったものを取り込んだり、アナログケーブルを経由してハムノイズを入れ込んだりすべきなのだろうが、ノイズ以外の面での音質劣化も大きいだろうから、ここではあえてオリジナル音とノイズをミックスさせて素材を作ることにした。とくにクラックルノイズとなると、素材のレコード化が必要であり、ほとんど不可能。そういったことも、この方法を取った理由でもある。

 また音楽の素材として使うことにしたのは、Arearea(アレアレア)という女性2人組ユニットの「愛のあかし」という曲の中の30秒。この曲は、7月1日にBC RECORDSから発売したマキシシングル「唄わなきゃ」に収録されている曲だ。私もこのレコーディングで少しお手伝いをしたということから、好意でこの実験に使わせていただけることになった。

 【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ
 AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。

Arearea (C)REALROX
http://www.arearea.net/

今回は、Sound Forge 5.0を用いて各ノイズとミックス。ノイズのほうはそれらしい雰囲気になるようにレベルを調整している
 この曲をPCでCD-ROMドライブからキャプチャし、Sound Forge 5.0を用いて各ノイズとミックスさせた。いずれも曲のほうのレベルはいじっていないが、ノイズのほうはそれらしい雰囲気になるようにレベルを調整している。

 実際の実験においてはWAVファイルで行なっているが、サンプルとしてデータ容量を小さくするためにMP3に圧縮して公開している。これでも、効果のほどは十分わかると思う。

【今回実験に使ったサンプル】
【オリジナル】
約469KB(original.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【オリジナル+ハムノイズ】
約472KB(hum.mp3)
【オリジナル+クラックルノイズ】
約472KB(cracle.mp3)


■ WAVcleanでヒスノイズ除去に挑戦

 まず最初に試したのは、「WAVclean Version 1.71」。このソフトは新井清嗣さん作のシェアウェアで、主にヒスノイズを除去するためのソフト。新井さんのホームページ「Excla」から誰でも簡単にダウンロードできる。2,000円のシェアウェアではあるが、とりあえず60日までであれば100秒間の長さの曲のノイズ除去が可能だから、ぜひ試してみるといいだろう。

 起動した画面は、かなり初心者向けのユーザーインターフェイスで、ノイズリダクションという概念を洗濯という言葉で表現している。設定パラメータも主なものは、「よわく~つよく」で表されている強さだけ。ここでの強さ設定で物足りなければ、「ごしごし」というところにチェックを行なうことでより強くノイズリダクションをかけることが可能。また、このノイズリダクションを強くかけることで原音のレベルが小さくなってしまう場合には、「大きく」をチェックすると音量を少し上げてくれる。

 さらに、音質が変化してしまって気になる場合は、「曇りどめ」というパラメータもあり、これを調整することで、ある程度原音の雰囲気を取り戻すことが可能だ。この曇りどめは通常は0に設定されている。

 使い方はいたって簡単。WAVcleanからWAVファイルを読み取り、各パラメータを設定した後に、「洗濯はじめ」ボタンをクリックするだけ。Pentium III 667MHzのマシンで30秒のサウンドを処理したところ、10秒程度で処理が終わった。洗濯前と洗濯後の音を聞き比べられるので、その効果がとてもわかりやすい。

 デフォルトの設定では強さが35で、曇どめが0となっていたので、これで実行してみたところ、ヒスノイズはあまり取れていない。そこで強さを80まで上げると、かなりすっきりと取れる。しかし、まだ微妙に残っているように感じるので、さらに90にすると、今度は音質がおかしくなった。さらに、曇どめを50に設定すると、なんとなくいい感じに。また「ごしごし」をオンにすると、さらに強くなるので、強さを35に設定。すると、最初の80の設定にも近いものになったが、どうだろうか? もう少し、いろいろと設定してみると、さらによくなるかもしれない。

【WAVcleanの効果】
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【強さ80】
約472KB(c80_0.mp3)
【強さ90+曇どめ50】
約472KB(c90_50.mp3)
【ごしごしON+強さ35+曇どめ60】
約472KB(c35_60g.mp3)


■ WAVhumでブーンというハムノイズを取り除く

 続いて今度は、同じく新井さんの作品「WAVhum」だ。名前からもわかるように、ハムノイズを除くためのソフト。現在のバージョンは1.5となっているが、現在バージョンアップ中ということで、新規ユーザーの登録はストップし、詳細はホームページ上にもない。ただし、ソフト自体はダウンロード可能であり、雰囲気だけは味わうことができる。ただし登録しない状態だと数秒しか使えないようになっているのが残念なところ。早く最新バージョンが登場して欲しいところである。

 ただ、個人的に以前に登録しており使うことができたので(実は、パスワードを紛失してしまったので、今回新井さんに再発行していただいたのだが……)、その結果を元に紹介しよう。

 WAVhumのユーザーインターフェイスは、見てもわかるとおり、先ほどのWAVcleanをさらに簡略したようなもの。パラメータは強さのみだから、操作はいたって簡単。

 さっそくWAVcleanと同様の方法で試してみることにした。デフォルトの設定は強さが50となっていたので、そのまま実行。すると、確かにハムノイズはきれいにとれているが、音質というか音そのものがが明らかに変質してしまっている。

 そこで、40、30と設定を変えて行なってみた。30までいくと、音質変化はほとんどなくなったが、今度はノイズが残ってくる。ただ今回加えたノイズはブーンというハムノイズというよりも、ヒスノイズっぽいものであり、音量的には小さい。どの設定で妥協するかは好みの問題だろう。

【WAVhumの効果】
【オリジナル+ハムノイズ】
約472KB(hum.mp3)
【強さ50】
約472KB(hum50.mp3)
【強さ40】
約472KB(hum40.mp3)
【強さ30】
約472KB(hum30.mp3)



■ 波形エディタから呼ぶことで、より使いやすくなる

 なお、WAVclean、WAVhumの登録ユーザーは、現在さらに一歩踏み込んだ使い方が可能になっている。新井さんは、Exclaのホームページ上で、Gretchen、Mephistoという2つの波形エディタを発表しており(Mephistoはβ版)、これらの機能としてWAVclean、WAVhumのエンジンを呼び出せるのだ。

 これを見てもわかるように、Gretchen、Mephisto上ではWAVclean、WAVhumという名前ではなく、ノイズ除去機能の中のヒスノイズ除去、ハムノイズ除去という扱いになっている。そのダイアログも、WAVclean、WAVhumのものとは異なる。

【Gretchen】 【ヒスノイズ除去】 【ハムノイズ除去】

 また、それぞれハイパスフィルタ、ローパスフィルタが搭載されており、これらを併用できるのだ。せっかくなので、Gretchenを用いてヒスノイズ、ハムノイズそれぞれの除去を試してみた。パラメータとしてはハイパスフィルタ、ローパスフィルタはオフにして、ヒスノイズのほうは強めの60、ハムノイズは30に設定している。

【Gretchenの効果】
【オリジナル+ハムノイズ】
約472KB(hum.mp3)
【強さ30】
約472KB(ghum30.mp3)
【オリジナル+ヒスノイズ】
約472KB(hiss.mp3)
【強さ60】
約472KB(ghiss60.mp3)

 同じエンジンを使っているから、結果としては近いものになっているが、こちらのほうが波形を見ながら設定できる分、より使いやすく感じる。

 WAVclean、WAVhumは見た目がかわいく、かつ安いシェアウェアであるため、他の市販ソフトと比較して機能的に見劣るような印象がある。しかし、今回の実験の結果からもわかるように、かなり使えるソフトである。

 実は、作者の新井さんは、元某有名楽器メーカーのエンジニアとして勤務し、歴史に残るシンセサイザを開発した経歴を持つ方だ。以前、お会いしたことがあるが、とても気さくな方で、かつ豊富な知識や経験を持っている。そのため、見た目にはかわいいが、これらは「羊の皮をかぶった狼」ともいえるソフトに仕上がっている。また、このノイズリダクションのエンジンは、他社のソフトにも搭載されており、大きな実績も持っている。

 ぜひ、サンプルとして公開したMP3の音を聞くだけでなく、実際にレコードや、テープからキャプチャして、その効果を試していただければと思う。

(2001年7月9日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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