今回から、新たなシリーズとして“ノイズリダクション”について取り上げていく。ここでテーマとするノイズリダクションは、コンピュータ上でソフトウェアを用いて処理するものだ。第1回目である今回は、まずノイズにはどんなものがあるか、そして現在どんなノイズリダクションソフトがあるかについて紹介していく。
■ ソフトウェアによるノイズリダクション
ノイズリダクションといって、すぐに頭に浮かぶのが「Dolby B」とか「Dolby C」といったカセットテープでのノイズリダクションではないだろうか。また、高級テープデッキの場合、dbxといったものもあったが、これらを用いるとテープ特有のヒスノイズを軽減することができた。
しかし、記録メディアがCD-RやMDといったデジタルメディアが主流になった今、ノイズリダクションという機構はほとんど見かけなくなった。確かにデジタルtoデジタルでコピーする場合、基本的にはノイズが混入することはほとんどない。厳密なことをいえば、データを圧縮する際などに劣化が生じることはあるが、アナログ時代のノイズとは別物と考えていいだろう。
では、デジタルオーディオ全盛の時代には、ノイズリダクションはまったく不要になったかというとそうでもない。たとえば、昔のLPレコードやカセットテープをCDとして復活させたいといった場合、ノイズリダクション処理をして、できるだけクリアな音に仕上げたいところだ。また、自らレコーディングを行なう場合なども、混入するノイズをカットしたい。
そんなニーズに対し、大きな威力を発揮してくれるのが、ソフトウェア処理によるノイズリダクションだ。ちょっと調べてみたところ、結構いろいろな種類のソフトが存在する。素人が即使える手軽なものから、完全にプロ向けのものまでさまざま。もっとも手軽なものとしては「WAVclean!」や「WAVhum」といった2千円程度のシェアウェアがあるし、プロ向けのものとしてはSonic Foundryの「Noise Reduction 2.0」(60,000円)といったものまである。
ノイズリダクション専用のソフトがある一方で、「Easy CD Creator 5 PLATINUM」などのように、汎用的なソフトの一機能としてノイズリダクション機能が搭載されているものもある。また、「ミュージックCDデザイナー3」や「MP3 Studio Unreal2」、「Clean!1.5」のようにMP3や音楽CD-Rライティングソフトの機能として用意されていたりもする。
さらに、ソフトウェアの形態としても通常のソフトのほかに「Noise Reduction 2.0」や「DeNoiser」などのようにプラグインタイプのものも存在する。これら各種ノイズリダクションの詳細は次回以降詳しく紹介していくが、DirectXプラグイン、VSTプラグインといった仕組みがあることだけは知っておいていただければと思う。
製品名 | メーカー名 | 開発元 | 標準価格 |
---|---|---|---|
MP3 Studio Unreal2 | ランドポート | 303tek.com | 9,800円 |
Easy CD Creator 5 PLATINUM | ロキシオジャパン | Roxio | 11,800円 |
ミュージックCDデザイナー3 | メガソフト | メガソフト | 9,800円 |
DigiOnSound | デジオン | デジオン | 36,000円 |
MP3 Magic Washer | アンリアル | アンリアル | 6,800円 |
Clean! 1.5 | スタインバーグ・ジャパン | Steinberg | 9,800円 |
DeNoiser | スタインバーグ・ジャパン | Steinberg | オープンプライス |
DeClicker | スタインバーグ・ジャパン | Steinberg | オープンプライス |
RAY GUN | フックアップ | Arboretum | 19,800円 |
Samplitude Master 5.9 | フックアップ | MAGIX | 36,000円 |
Noise Reduction 2.0 | フックアップ | Sonic Foundry | 60,000円 |
WAVclean version1.7 | 新井清嗣 | 新井清嗣 | 2,000円 |
WAVhum version1.5 | 新井清嗣 | 新井清嗣 | 2,400円 |
■ 代表的な3種類のノイズ
今回は、ノイズリダクションそのものを紹介する前に、ノイズにはどんなものがあるのかをチェックしておくことにしよう。
一言でノイズといっても、色々な種類があるが、その代表的なものは以下の3つ。
【ヒスノイズ】 |
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MP3ファイル 約157KB(hiss.mp3) |
ヒスノイズの主な原因はテープメディアに起因するが、ミキサーやアンプを経由した結果ヒスノイズが乗ることもある。これは半導体が出しているもので、テープによるノイズとは若干音に違いはあるが、これも同じヒスノイズに分類される。
波形で見ると、高域で幅広く出るホワイトノイズに近い成分になっている。グラフィックイコライザなどを用いて高域をカットしてしまえば、ほとんど聴こえなくなる。しかし、このような処理ではオリジナルサウンドの高域まで消されてしまうので都合が悪い。
テープデッキには前述したように「Dolby B」、「Dolby C」また「dbx」といった機能が付いているので、これをONにするとオリジナルサウンドの高域をある程度残しつつ、ノイズを軽減することができる。
サンプル音は空カセットテープをDolby B/Cやdbxをoffの状態で再生したものをオーディオカードからレコーディングしている。また、データサイズを小さくするためにMP3へエンコード。その結果、16kHz以上の音がほとんどカットされていて、本来のヒスノイズとは若干ニュアンスが違って聴こえるかもしれないが、おおよそこんな感じの音と、雰囲気を感じてもらえればと思う。
●電源から来るハムノイズ
【ハムノイズ】 |
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MP3ファイル 約161KB(hum.mp3) |
電池で動作させるのであれば別だが、オーディオ機器、コンピュータ、レコーディング機器などほとんどすべてのものが、電力線から電源を持ってきている。そのため、ハムノイズが乗る可能性はいたるところにある。
実際にハムノイズが混入する経路は大きく2通りが考えられる。1つはオーディオ機器などの中にある交流を直流に変換する回路で、完全に直流化できずに残った交流成分がオーディオ信号にも影響を受ける「電源ハム」。もう1つは100Vから低電圧に変換するトランスで発生する磁場からケーブルや他の機器が影響を受ける「誘導ハム」だ。
こうしたハムノイズも、ノイズリダクションソフトで除去することは可能であるが、新たにレコーディングするのであれば、できる限り混入させないようにするのが基本だ。ハムノイズを混入させないための手法については、ここでは省略するが、基本的にはシールドをしっかり施したケーブルを用いたり、各機器でアースをしっかりとるといったことだろう。
MP3ファイルのハムノイズは、オーディオカードに接続したシールドケーブルの反対側の先を指で触ることで起こしている。実際にはここまで派手な音ではないが、微細な音が混入してくるケースは多い。
●レコードで発生するクラックルノイズ
【クラックルノイズ】 |
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MP3ファイル 約160KB(crackle.mp3) |
波形を見ると、ところどころ垂直に立っている線がクラックルノイズの正体だ。これはレコードの盤面にあるほこりや静電気などによって発生するもの。静電気防止のスプレーなどを利用することで、ある程度は抑えられるものの、レコードを扱う限りは完全に避けることはできない。
なお、このサンプルは以前、レコードをDATへレコーディングしたことがあったのだが、そのDATのデータをPCで吸い上げ、曲間にある空白部分をつなぎ合わせて作ったものだ。
このサンプルには入っていないがレコード特有のノイズはクラックルノイズのほかにもさらに2つある。1つはポップノイズというもので、レコード針をレコードの盤面に落とす瞬間に発生する低い「ボンッ」という感じの音。これはノイズリダクションで消すというよりも、波形エディタでその部分をカットしてしまうのが手っとり早いだろう。
もう1つは、レコードの傷によって発生する「バチッ」という感じのかなり大きな音。これをクリックノイズと呼んでいる。サンプルの中でも大きめのクラックルノイズはクリックノイズと呼んでもいいのかもしれない。
なお、このクリックノイズはレコードのほかにも、電源部分で生じる場合もある。特にタコ足配線など安定した交流電流になっていない場合、「バチッ」とか「プチプチ」といったノイズが入ることがある。
以上、主な3種類のノイズについて紹介したが、ほかにも入力音量が大きすぎて音割れしてしまうクリップノイズ、マイクが拾ってしまう騒音的なノイズなど存在する。こうしたものもノイズリダクションソフトで取り除くことができるのだが、完全オールマイティーなソフトは存在しない。
ヒスノイズ専門のソフト、ハムノイズ専門のソフトなどが存在するので、実際に音を聞いてノイズがどの種類のものなのかを見極めた上で利用することで効果を上げることができるのだ。
というわけで、次回から実際にノイズリダクションソフトを使っていくことにしよう。
(2001年7月2日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp