ソフトウェアで実現するノイズリダクションのシリーズの4回目。通算で20回目となる今回はノイズリダクション専用のソフトおよび、波形編集ソフト/HDDレコーディングソフトの一機能として用意されたノイズリダクション機能を用いて、どの程度ノイズ除去ができるのかを試してみたいと思う。今回とりあげるのは「DigiOnSound」、「Ray Gun」、「Samplitude Master 5.9」の3本だ。
今回も素材として用いるのは、Areareaの「愛のあかし」という曲に、ヒスノイズ、ハムノイズ、クラックルノイズのそれぞれを合成したもの。なお、私の手元ではすべてWAVファイルで作業しているが、ダウンロードしやすいように、すべての作業終了後にMP3にエンコードして公開している。
【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。
Arearea (C)REALROX |
【今回実験に使ったサンプル】 | |||
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【オリジナル】 約469KB(original.mp3) |
【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
■ 国産の波形編集ソフト「DigiOnSound」のノイズリダクション機能
DigiOnSound |
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標準価格:36,000円 |
まずDigiOnSoundについて簡単に紹介すると、マルチトラックの波形編集ソフトということになる。音楽向けのマルチトラックHDDレコーディングソフトとは目的が多少異なるが、複数のサウンドを同時に編集でき、トラック間でコピー&ペーストといった作業が可能。
このトラックの数は無制限であり、複数のトラックを同時再生することができる。また編集・エフェクト機能もいろいろ搭載されており、具体的には以下のような機能がある。
見てわかるように、この機能の中にノイズリダクションというものが用意されている。これはエフェクトの1つとの位置づけであり、操作自体はいたって簡単。適用範囲を選択の上、エフェクトメニューのノイズリダクションを選択すると、ダイアログが現れる。ここには3つのパラメータがあるが、ここで用いるのはいちばん上の効果の強さの設定のみだ(下の2つのノイズゲートについては、記事末のコラム内コラムを参照)。
実際試してみたところ、ハムノイズ、クラックルノイズにはまったく効果はなく、使えるのはヒスノイズのみだった。これまでに紹介したソフトと同様、強く設定するとノイズとともに原音も影響を受け、とくに高音域がカットされてしまう。いろいろ試してみたところ、30%程度に設定した結果がまずまずのものとなった。
【DigiOnSoundの効果】 | ||
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【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
→ | 【強さ30%】 約472KB(d_hi_30.mp3) |
■ ノイズリダクション専用ソフト「Ray Gun」
Ray Gun |
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標準価格:19,800円 |
なお、Ray Gunはノイズリダクション専用のソフトであり、以下の3つの機能を装備している。
とりあえず、ここではWindowsでスタンドアロンで起動させてみた。黒い画面には左から「Noise Reduction」、「Pop」、「Filters」という3つのセクションがあり、それぞれ独立したノイズリダクション機能となっている。この中の「Noise Reduction」は、主にヒスノイズを除去するためのものであり、テープヒス、エアコン・ノイズ、コンピューターのファン・ノイズ、その他のバックグランド・ノイズに効力を発するとある。
またマニュアルによると、ダウンワード・エキスパンジョンという技法が使用されていて、これによってノイズ成分のみの音と原音を分離するそうだ。この分離のためにeducated guess機能が働き自動的にノイズ成分を検出。その成分をスペクトラム解析し、512個のフィルタースレッショルドをそれに適合させた上で、ダウンワード・エキスパンジョンをリアルタイムにかけるという。
実際、ここにはThreshold、Attenuationという2つのパラメータが置かれている。Thresholdはノイズと原音の境界を調整するもので、Attenuationはノイズ成分をカットする量を決定するもの。この2つを調整して、ノイズリダクション処理を行なう。
ここでは、ヒスノイズ入りのデータを読みこませ、調整してみたところThresholdを+10dB、Attenuationを-10dB程度に設定した結果まずまずのサウンドとなった。
同様にポップノイズ、クラックルノイズなどレコードのノイズを除去するのがPop機能だ。クラックルノイズ入りのデータを、これを用いて除去してみたところ、結構きれいに取れた。ただ、前回と同様やはり元のクラックルノイズが強すぎたのだろう、どうしても一部残ってしまった。
そして、いちばん右にあるのがハムノイズ除去のためのフィルタ。ここにはスライダーボリュームはなく、「Rumble」、「50Hz Hum」、「60Hz Hum」の3つのスイッチを設定するだけ。ここでは当然50Hzのハムノイズが入っているので、それを選択してみたのだが、どうもほとんど効果が現れない。試しに60HzやRamleをオンにしてみたが、これも同様だ。Noise Reduction機能で無理矢理ハムノイズを除去することはできるが、ヒスノイズの場合よりもさらに音質は劣化しやすく、あまりいい方法とはいえないようだ。
【Ray Gunの効果】 | ||
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【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
→ | 【Threshold +10dB/Attenuation -10dB】 約472KB(r_hi.mp3) |
【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
→ | 【Pop機能】 約472KB(r_pop_80.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
→ | 【50Hz Hum】 約472KB(r_hu_50.mp3) |
■ HDDレコーディングソフト「Samplitude」の強力なノイズリダクション機能
Samplitude Master 5.9 |
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標準価格:36,000円 |
Samplitudeシリーズはかなり強力な機能を持ったソフトだが、全体的な機能の詳細は近いうちに紹介することを予定しているので、ここでは省略する。今回は、これまで紹介してきたソフトと比較しても、非常に強力なノイズリダクション機能について、順にチェックしていく。
まずはヒスノイズ。ヒスノイズ用には「Dihissing」という機能が用意されており、これは高音域の信号レベルがある一定以下になると、自動的にその信号をカットする仕組みになっている。Dihissingのダイアログを見ると、これまでのものと見比べてもちょっと複雑。パラメータとしてはノイズと音声信号を区別するためのレベル設定である「Absorption」と、ノイズ除去の強さを設定する「Reduction」がある。
これはRay Gunのものとかなり近いものだが、その設定結果が画面左側のグラフに表示されるところが異なる。また、「Test Stereo」ボタンをクリックすることで、ノイズリダクション結果を聞くことができる。
さらに、「Inverse Dehissing」にチェックを入れておくと、除去するノイズ成分のみを聞くことができるのも興味深い。実際に、そのノイズ音をMP3で以下に掲載しておいたが、この音を聞きながら原音が乗らない範囲で、できるだけ大きなノイズ成分がでるように調整できればベストな設定ということになる。
【Inverse Dehissing】 | ||
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約472KB(invdeh.mp3) |
その結果の音を聞いていただけるとわかると思うが、ヒスノイズが取り除かれ、かなりクリアな音になっている。
一方、ハムノイズについてはどうだろうか。実はこれが、ヒスノイズよりもさらにスッキリ取り除くことができる。ハムノイズ除去には「Noise Reduction」ダイアログを用いるが、その方法はこれまで紹介してきたものとは明らかに異なる。予めノイズのみを取り出しておき、それと同じ成分を原音から引き算するという仕組みになっている。
そのため、この機能を用いるためには予めハムノイズ成分を取り出しておく必要がある。方法としては、曲の頭や最後にある楽曲は無音状態で、ハムノイズだけの部分を選択し「Get Noise Sample」というコマンドを実行し吸い上げておく。
次に曲全体を選択した上で、Noise Reduction機能を起動。いまのサンプルを読み込み実行する。このダイアログの中にはいろいろなパラメータがあるが、プリセットだけでも十分に除去できる。音を聞いてみれば、いかにきれいに取り除けたか確認できるはずだ。
実はこのサンプリングして引き算するというNoise Reduction機能の手法はハムノイズだけでなく、ヒスノイズにも有効であり、便利に使うことができる。
以上の2つがSamplitudeに用意されているノイズリダクション機能である。が、実はオプションでクラックルノイズ、ポップノイズなどレコードのノイズを取り除くための「Samplitools DECLICKER Plug-In」というものがある。これについては、次回紹介する予定にしている。
【Samplitude Masterの効果】 | ||
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【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
→ | 【Dihissing】 約472KB(s_hi.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
→ | 【Noise Reduction】 約472KB(s_hu.mp3) |
【コラム内コラム:ノイズリダクションとノイズゲートの違い】DigiOnSoundのノイズリダクションのダイアログの中に、ノイズゲートというものがあった。また、ほかのソフトでもノイズゲートという機能を持ったソフトがいろいろあるが、これはノイズリダクションとはどう違うのだろうか?ノイズゲートは、独立したエフェクタとしても存在しているもので、その名の通りノイズを遮断するための門のようなものだ。しかし、その仕組みがノイズリダクションとは大きく異なる。ノイズリダクションは曲全体からノイズを取り除くものであるのに対し、ノイズゲートは無音時のノイズを遮断するためのものなのだ。 通常ノイズは、本来必要な音と比較して非常にレベルが小さいため、あるレベル以下の音量になったら全面的に音を止めてしまうというのがノイズゲートなのだ。ただし、これを強く設定してしまうと、曲の初めや終わりで、ブチッと切れてしまう。そのため、通常はそこを滑らかにゲートの開け締めをできるようにしてある。さきほどのDigiOnSoundの場合なら、「音のアタック」という設定がそれだ。 このノイズゲートをノイズリダクションとうまく組み合わせることによって、より効果的なノイズ除去ができることになる。
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(2001年7月23日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp