ソフトウェアで実現するノイズリダクションのシリーズの最終回。今回は比較的高級なプロ仕様のソフトを使ってみる。取り上げるのは、前回紹介した「Samplitude」のオプションである「DECLICKER Plug-In」、SonicFoundryの「NoiseReduction2.0」、そしてSteinbergの「DeClicker」と、「DeNoiser」の計4本だ。
このすべてに共通するのがDirectXプラグインソフトであるということ。今回は、DirectXプラグインとは何なのかも含めて紹介する。
【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。
Arearea (C)REALROX |
【今回実験に使ったサンプル】 | |||
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【オリジナル】 約469KB(original.mp3) |
【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
■ Samplitudeのオプション「DECLICKER Plug-In」
DECLICKER Plug-In |
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直販価格:23,000円 |
当然、メーカーはSamplitudeと同じはずなのだが、現在発売されている製品はMAGIXではなくSEK'Dとなっている。実は、Samplitudeも前バージョンまでSEK'Dがリリースしていたのだが、5.9からMAGIXへと移行したため、DECLICKER Plug-InもそのうちMAGIXブランドとなるのだろう。いずれにせよ国内においては、フックアップが販売しているので、サポートの心配はいらない。
もちろん、オプションという扱いなので、Samplitudeがインストールされていることが前提となり、操作もSamplitude上で行なうことになる。前回扱った「Dihissing」および「Noise Reduction」は、[Effects]メニューから直接選択できたのに対し、DECLICKER Plug-inの場合は[DirectX Plug-ins]というメニューを選択する。
すると、現在組み込まれているDirectXプラグインの一覧が表示されるので、この中からDECLICKERを選ぶ。すると、ようやくDECLICKER Plug-Inの設定画面が表示される。その設定画面はパラメータが2つあるだけで、結構単純。
さっそく、プチプチしたレコードノイズ風のクラックルノイズ/クリックノイズ入りのデータにかけてみたところ、結構きれいにノイズが取れる。波形を見ても、ところどころ突き出しているノイズデータがなくなっていることがわかる。
これまで扱ってきたこの種のノイズリダクションの中では、一番いい結果になっているように思う。
【DECLICKER Plug-Inの効果】 | ||
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【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(sa_de.mp3) |
■ DirectXプラグインとは何なのか
さて、このDirectXプラグインという言葉を初めて見たという方もいると思うので、簡単に説明しておこう。
名前からもわかるようにこれは、MicrosoftのDirectXの仕組みを利用したプラグイン形式のソフトで、音楽ソフトの世界では広く使われている。現在数多くのDirectXプラグインソフトというものが存在しており、そのほとんどがエフェクトソフトである。つまり、リバーブやイコライザ、コーラス、ディレイ、フランジャー、ディストーション……といったもの。市販のソフトもあればフリーウェアやシェアウェアもある。
こうしたDirectXプラグインは、もちろん単独で使うものではない。ベースとなる波形編集ソフトやHDDレコーディングソフトなどの上で使うものであり、現在多くの波形編集ソフトがDirectXプラグインに対応している。前回と今回取り上げたSamplitudeもその1つ。また、この連載でたびたび登場するSonicFoundryの「SoundForge」もそうだ。さらに、有名なところでは「DigiOnSound」、「WaveLab」、「CubaseVST」、「Cakewalk」、「LogicAudio」などなどがある。
最近になって、MicrosoftもDirectXプラグインという呼び方をするようになったが、つい1、2年前までMicrosoft自体ほとんどこの機能をアピールしていなかった。それどころか、国内ではDirectX担当者でもあまり知らなかったようだ。
技術的にいうと、DirectXプラグインはDirectXのDirectShowのフィルタという機能であり、これを組み込んでおくとDirectXプラグインに対応したソフトならどれでも利用できるようになる。
ただし、SamplitudeのDECLICKER Plug-Inはちょっと例外で、Samplitudeがインストールされていないと、インストールできないし、基本的にはSamplitude上でしか使えないことになっている。ただ、試してみたところSoundForge上でもDECLICKER Plug-Inを利用することができた。
なお、WindowsではDirectXプラグインのほかにVSTプラグインというものも存在する。これはドイツのSteinbergが開発したプラグインの仕組みであり、これも広く普及している。ただし、VSTプラグインはVST環境に対応したソフトで使うことが前提で、現在これに対応しているものは先ほどもあげたCubaseVST、WaveLab、LogicAudioなどで、DirectXプラグインに比較すると少ない。ただ、VSTプラグインはMacintoshでも普及しており、多くのVSTプラグインがハイブリッドとなっている点が魅力だ。
■ 4つのプラグインがセットとなった「NoiseReduction 2.0」
Noise Reduction 2.0 |
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標準価格:60,000円 |
これもDirectXプラグインなのだが、1つのソフトというわけではなく、以下の4つのプラグインがセットになっている。
それぞれを簡単に説明すると、まず「Noise Reduction」はヒスノイズをはじめ、ハムノイズや、エアコンのノイズや騒音など、恒常的に続く均一なノイズを取り除くもの。前回紹介したSamplitudeのNoise Reductionにもかなり似た機能だ。実際の操作も、まずノイズだけをキャプチャし、それをソフトが分析した上で、その成分を引き算する。そのため、単純なヒスノイズ除去ソフトやハムノイズ除去ソフトと違い、使い方が面倒になる。
具体的にいうと、まず曲の頭や最後にあるノイズだけの部分を選択し、Capture noiseprintという機能を用いて取り込む。すると画面には取り込んだノイズの成分表示がされ、これを元に全体からこの成分を引く。
これまで筆者自身、何度かこのソフトを使ってノイズを取ったところ、非常にいい結果が得られた。しかし、この連載で用いているサンプルで試したところ、それほどいい結果にはならなかった。おそらく、ノイズ成分が大きすぎるためなのだろう。確かに、これほどまでに大きなノイズが乗っているということは現実には少ないだろうから、今回公開したMP3データはあくまでも参考として捉えてもらったほうがいいかもしれない。
Noise Reduction |
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【Noise Reductionの効果】 | ||
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【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(nr_hiss.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(nr_hum.mp3) |
続いて、「Click and Crackle Removal」は、前述のDECLICKERと同様のソフト。こちらは、Noise Reductionと違い、下準備はいらないので、即適用することが可能だ。これも、まずまずの結果となった。
【Click and Crackle Removalの効果】 | |||
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【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(nr_cl_cr.mp3) |
さらに「Vinyl Restoration」というものもあるが、これがレコード専用のノイズリダクション機能。クリックノイズやクラックルノイズを取り除くとともに、スクラッチノイズといわれるレコードの溝をこする際に生じるノイズも取り除いてくれる。このサンプルでの結果はClick and Crackle Removalとそれほど大きく違わなかった。しかし、実際のレコードで試すとはっきりとした違いが見えてくるかもしれない。
【Vinyl Restorationの効果】 | |||
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【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(nr_vi.mp3) |
そして4つ目の、「Clipped Peak Restoration」は、今回の対象外の機能となるが、音量オーバーでクリップしてしまったものを元に再現するためのプラグイン。アナログの場合、音量オーバーすると歪んだ音になり、デジタルの場合はクリップノイズという特有の割れた音になる。Clipped Peak Restorationは、それら双方を元に戻すためのものである。
■ SteinbergのDirectXプラグイン「DeClicker」、「DeNoiser」
DeClicker | DeNoiser |
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実売価格:約5万円 | 実売価格:約5万円 |
Steinbergのプラグインだから、当然VSTプラグインだと思っていたら、これはDirectXプラグイン。また、「for WaveLab」と書いてあるが、WaveLabがインストールされていない状態でインストールでき、Samplitude上でもSoundForge上でも使えた。
ただし、このそれぞれのソフトには強力なプロテクトがかけられており、パラレルポートに接続するキー(ドングル)をつけておかないと、起動することができない。
DeClicker、DeNoiserそれぞれにドングルが用意されているので、双方を使うとなると、接続がかなり面倒になる。なお、今回はSoundForge上で使用した。
まず、DeClickerは起動すると波形が表示されるとともに、数秒でノイズの分析を行ない、ノイズが除去される。プレビュー機能で、リアルタイムに効果を聞きながらThresholdおよびDeplopを調整した結果が、以下のMP3データである。
【DeClickerの効果】 | |||
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【オリジナル+クラックルノイズ】 約472KB(cracle.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(dc.mp3) |
また、DeNoiserもSonicFoundryなどと異なり、予めサンプリングする必要はなく、主に3つのパラメータのみで調整するタイプのもの。やはり内部的にノイズ成分を分析して除去しているとのことだが、ヒスノイズに関してはそこそこの結果が得られたが、ハムノイズはあまりきれいにとることはできなかった。やはり得意・不得意というのがあるのだろう。
【DeNoiserの効果】 | ||
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【オリジナル+ヒスノイズ】 約472KB(hiss.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(dn_hiss.mp3) |
【オリジナル+ハムノイズ】 約472KB(hum.mp3) |
→ | 【処理後】 約472KB(dn_hum.mp3) |
以上、5回に渡って数多くのノイズリダクションソフトを見てきたがいかがだっただろうか? ノイズと一口にいってもいろいろな種類があり、そのノイズの種類によって効果的に除去できるソフトと、まったく効かないソフトがあることがよくわかったと思う。また、ここでは3つのサンプルを元に行なったが、ノイズのレベルによって、また曲によっても違いは出てくるだろう。
もちろん、本当はノイズリダクションなど使わずにいい音でレコーディングできるのがベストであるが、すでに入ってしまっているノイズを取り除いたり、アナログをデジタル化する際に避けられないノイズを取り除くには非常に有効な手段だ。用途や予算に合わせて、ぜひ活用していただきたい。
(2001年7月30日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp