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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第22回:お手軽フィルムスキャナ「PrimeFlim1800i」
~ 標準価格29,800円の実力を検証する ~


■ 夏の思い出はフィルムの中?

 8月といえば、夏休み。世の中景気悪いせいか、サラリーマンの皆様も昔のように「夏休みなんですかソレ遠い昔にそういうものがあったよーな記憶」とか、「10月にやっと夏休み取れましたってそれ夏じゃネエよもう」とかいったことも減っており、ちゃんとお盆前後にお休みが取れるようになってきているようである。かく言う筆者もこの記事が載る頃には、珍しく夏休みで実家に帰省しているはずだ。

 長期の休みともなると、「この夏オレはFF Xとともに生きる」と夕日に向かって固く誓っている人を除いて、大抵はどこか遠出をするか、実家に帰省するということになる。日本人というのは記録が大好きなので、どこかへ行くときに必ず何かしらの記録媒体を持っていく。今のところ考えられる記録媒体としては、フィルムカメラ、デジタルカメラ、DVカメラがあるが、デジタル系のものは加工や保存が簡単なので、気軽に撮れるのがメリットなのは言うまでもない。

 一方フィルムカメラはやり直しがきかないメディアであるため、デジタルエイジには敬遠されがちではある。が、よく考えてみると、法事とかなんとか、親戚レベルの集まりには、やっぱりフィルムのカメラが大活躍だったりしないだろうか。親戚のおじさんおばさん相手にデジタルカメラなど持っていくと、「まあなんでしょうねそれずいぶんと大層なものでまあ今東京に、あらー立派になって○○ちゃん」と話がややこしくなりがちだし、何よりも記録媒体を忘れてもレンズ付きフィルムがどこに行っても買えるというのはやはり圧倒的に便利だ。

 そういうわけで、我々デジタルエイジの間ではデジカメの存在が当たり前だが、一般社会的にはまだまだフィルムの存在というのも無視できない。だいたいよく考えてみれば、デジタルカメラが今のようにフィルム写真に匹敵する画質を持ったのも、ほんとにここ数年のことであり、それまでは写真といえばフィルムしかなかったではないか。なので、どの家でも必ず、写真というのはあるはずだ。

 だいたい自分で撮った写真って、みんなちゃんとアルバムとかに貼って整理しているのだろうか? 筆者のうちでは、子供を撮ったものは(妻が)子供のアルバムに貼って整理するが、自分関係の写真っていうのはどうも整理しようという気にならない。うちにも大量のネガと紙焼きが未整理のまま、靴箱の中に突っこんである。紙焼きの方は大部分無くしちゃったり人にあげちゃったり切り取ったりしているので、オリジナルはネガしかなかったりする。

 例えばこういうネガを、今更プリントに出すほどでもないけど、懐かしいからちょっと見てみたいと思ったとしよう。あの夏の思い出をもう一度というわけだ。しかしなにせネガなので、光に透かしてみてもニッコリ笑ったあの娘の笑顔も歯が真っ黒だったりして、どうしようもないのである。

 そこでだ。前置きが長くてそろそろ読者もこいつ何が言いたいのか、わからんやんけ! と思われてもアレなので本日のテーマに入るが、死蔵状態にあるネガフィルムもデジタルの力で思い通りにできるのではないか、考えてみればフィルムスキャナも最近破格に安いのがあって、仕事で使うわけでもないやつだったらそういうのでも結構行けるのではないか、と思い立ったのである。フィルムをスキャンしてしまえば、プリントするのも家庭のプリンタで十分できるし、デジカメの写真と一緒にCD-Rに整理もできるではないか。


■ ボタン一発での取り込みは甘かった

 というわけで買ってきたのが日本ポラデジタルが販売するフィルムスキャナ「PrimeFilm 1800i」である。USB接続の35mmフィルム専用スキャナだ。標準価格が29,800円、実売はこれから5,000円安といったところだろうか。

【PrimeFilm1800i 製品仕様】
対応スキャン原稿35mmフィルム(カラー/モノクロ、ポジ/ネガ)
スライドマウント
ストリップフィルム
光学解像度1,800dpi(約420万画素)
スキャン方式シングルパス方式
イメージセンサリニアアレイカラーCCD
最大読み取りサイズ36×24mm
光源冷陰極管ランプ
A/D変換RGB各色12ビット
インターフェイスUSB
対応OSWindows/Mac OS
ドライバソフトウェアPacific Image CyberView
Windows:TWAINドライバ
Mac OS:Photoshopプラグイン
外形寸法166×268×66mm(幅×奥行き×高さ)
重量750g

写真などで見る限りでは小さく見えたのだが、実際のものは予想外に大きい

 箱を開けて本体を取り出してみると……でっ、でけぇ……。写真で見るとトランスルーセントなプラスティックボディで中央部がくびれているという形状から、よくあるUSBハブぐらいの大きさのようなイメージがあったのだが、想像した以上にデカい。いや、フィルムスキャナの大きさとしてはこんなもんなのかもしれないが、このでかさで半透明筐体ってのはちょっと反則か。

 製品としては至ってシンプルで、正面にはSCANボタンがあるのみ。背面にはACアダプタの端子と電源スイッチ、USBポートがある。

 付属アプリケーションは、TWAINドライバと、本体のSCANボタンのためのユーティリティ、それから「Photoshop 5.0J LE」が付属する。Photoshop 5.0J LEバンドルはいささか古くさいような気がするが、PrimeFilmの製品発売が5月とあって、致し方ないところ。今ならPhotoshop Elementsのほうが妥当であろう。

 ちなみにドライバはかなりこまめに手を入れているようで、CD-ROMに入っていたバージョンが1.2なのに対して、日本ポラデジタルのサポートページからダウンロードできるバージョンは、2.41であった。

 スキャナとしてみると、今どきのUSBスキャナはバスパワーだけで動作できるものが多い。それなのに電源が必要なのはどうかと思ったが、どうもこのACアダプタのパワーは透過光を点灯するために必要なもののようだ。

スキャン中のPrimeFilm。ユニットがせり出してくるのは見ていておもしろい 本体のSCANボタンの動作を決めるユーティリティ

 スキャン動作は、下から透過用光源が、上にCCDという具合に、フィルムを挟み込む形でユニットがせり出してくる。なんで本体がこんなに奥行きがあるのかと思ったら、このユニットがずいぶん長いからなのだ。

 また、「ButtonKey」というユーティリティを常駐させておくと、正面のSCANボタンを押したときの動作を設定できる。ボタンを押しただけで自動的にスキャンするといった設定も可能だ。一応フィルムの種類が指定できるので、使用フィルムであるフジ(ネガ)のプリセットを使ってみたが、スキャンした結果はご覧の通り。

【オリジナル画像:約4.3MB】
フィルムの種類は合わせたのだが、そのままではかなり青い

 どう考えてもこれは正常な色味とは言えない。ちなみに回りがぼやーんと暗くなっているのは、ロシア製カメラLOMOで撮影したせいであり、もともとこういうふうに撮れているのである。

 色々なショットをスキャンしてみたところ、このサンプルでは青っぽいが、別のショットでは赤っぽいなど、ショットごとにかなり色が変わってしまう。いずれにしてもやはりネガフィルムのスキャンというのは一筋縄ではいかないようだ。

 そこでPhotoshop 5.0J LEからTWAINデバイスとして呼び出して、通常のスキャナと同じように設定をいじってやることにした。



■ キャリブレーションはかなり細かくできるのだが……

画像コントロールの中心となるCyberView。左上のボタンでモードを切り替える

 付属のPhotoshop 5.0J LEからTWAINデバイスとして読み込むと、「CyberView」という専用ドライバを通して各種設定ができる。スキャンプレビューしてみたところ、やはりプリセットでは同じような色味になってしまうので、細かく設定していくことにする。

 ここではフィルムタイプが選択でき、プレビュースキャンした結果に対してその設定結果がリアルタイムで確認できるようになっている。いろいろ試したところ、それぞれメーカーごとにカラーバランスがかなり異なる。しかしこれがホントにそれぞれのフィルムに対してキャリブレーションされた設定なのか、ちょっと疑問だ。

 そもそも色味のキャリブレーションするからには、単にメーカー名だけではなくフィルムにも種類があるだろうし、果てはレンズの特性も関係してくるはずであるのに、十把一絡げにフジはこう、コダックはこう、と決められるものだろうか。ここはあまりメーカー名にこだわらず、見た目で好みの色合いを選んだほうがいいようだ。

 画像の調整は「カラーコントロール」画面と、ガンマコントロール」画面の2つで行なう。「カラーコントロール」で設定できるパラメータとしては、明るさ、コントラスト、全体およびRGBそれぞれの露出時間、それからヒストグラムベースでの調整がある。

 このうち、明るさとコントラストだけはプレビュー画面でリアルタイムに設定結果を見ることができるが、RGBのバランスに関しては、設定を変えたあとに再度プレビュースキャンを行なう必要がある。これは設定値をハードウェアに反映させる必要があるのでしかたがないことだが、最も問題があるのはRGBのバランスなので、これを追い込むのはなかなか時間がかかる作業だ。

 カラーコントロールで大まかにバランスを取っておき、肌色の調整など細かいところは「ガンマコントロール」画面で行なう。ここではRGBそれぞれのガンマカーブがコントロールが可能で、さらにここの設定はリアルタイムでプレビューすることができる。

RGBの露出時間を決めて、カラーバランスを取る
(編集部注:画像をクリックすると編集ウィンドウ全体が表示されます)
ガンマコントロールは高機能だが、プレビュー画面が小さいので効果が把握しづらい
(編集部注:画像をクリックすると編集ウィンドウ全体が表示されます)

 そして本番のスキャンを行なってみた。すると驚いたことに、プレビュー画面で設定した結果と印象が違ってスキャンされてしまった。想定していたイメージよりも、コントラストがきつくなっているし、カラーバランスも若干ずれている。どうやらプレビュー画面上でソフトウェア的に調整した値をハードウェアに渡すときに、若干ずれがあるようだ。プレビュー画面で調整したら、こまめにプレビュースキャンを行なって、ちゃんと結果を見る必要がありそうだ。

【オリジナル画像:約4.1MB】 【オリジナル画像:約3MB】
これが設定画面内に表示されていたプレビュー画像 設定は前図のとおりであったにも関わらず、プレビュー画面とは違った結果が得られた
こちらは紙焼き(プリント)をフラットベッドスキャナで取り込んだ結果

 とりあえず色味さえ合えば、Photoshopが付いているのでなんとかなる。ただその色味を合わせるのが、トライ&エラーの連続なので、結構しんどい作業だ。画質的にはもちろんスキャナ側で調整した方がいい。しかし、小さなプレビュー画面を相手に奮闘するよりも、ある程度のところになったらもうスキャンしてしまって、あとはPhotoshopで調整してしまった方が早いという考え方もありだと思う。

 正直言って、CyberViewの小さいプレビュー画面と短いスライダーでは、細かい調整は辛いものがある。機能的にはPhotoshopの調整機能と遜色ないレベルなので、せめて操作画面がもう少し大きければ使い勝手が上がるのだが。

 またスキャン結果は、全体的に若干眠たい画像になる傾向がある。プリントする際には、アンシャープマスクを併用していく必要があるだろう。

 同じ写真の紙焼きを、フラットベッドスキャナ CanooScan FB636Uでスキャンしてみたのに比較すると、若干わざとらしさが鼻につくが、まあまあ透過原稿らしい発色の良さは得られているようだ。


■ 総論

 スキャナという周辺機器は、以前はグラフィックを扱う人が使う高級品というイメージであったが、撮像素子にCMOSセンサーが採用されるようになり、これが起爆剤になって破格に値段が下がったのは記憶に新しい。今ではCCDタイプでもA4サイズのフラットベッドスキャナなら1万円台から2万円台で買え、また性能も十分である。今にして思えば、昔買ったあんなバカでかくバカ高いスキャナはいったい何だったのか、まさにオレの青春を返せ状態である。

 しかしこれがフィルムスキャナとなると、反射ではなく透過でスキャンするため、光学的にもう一段階難しいもののようである。

 29,800円という低価格だからある程度スキャンできればいいや、と思っていたのだが、まあその通りの「ある程度」であったという感じだ。いや、潜在能力はあるような手応えは感じるのだが、基本的なキャリブレーションをもっと自動化してもらわないと、めんどくさくてやってられない、というのが正直なところだ。

 とにかくショットによってスキャンされるカラーバランスがまちまちで、このようにバランスが壊れているものを正常に修整するのはかなり大変。

全く同じ設定でショットによってこれだけ色が変わってしまうのでは、修正は地獄だ

 おそらくPhotoshopで相当ガンマカーブと格闘した人でないと、ちょっと使いこなせないのではないかと思う。ネガフィルムというのはとんでもなく繊細な色バランスの上に成り立っているのだ、ということを実感した。

 こんなことなら、紙焼きをフラットベッドスキャナでスキャンした方がとても楽だし、綺麗かもしれない。なまじ紙焼きという比較対象があるので、それにあわせようとするが故に余計に難しいということもあるだろう。

 低価格フィルムスキャナには確かに可能性は感じるが、現時点ではまだデジカメやプリンタのように「最近のデジタル機器ってスゴイ」と思えるレベルには、もうちょっと距離があるようだ。うちの写真整理は、結局もう少しネガのままで保存しておくことにした。あと数年経ったら低価格フィルムスキャナのレベルも上がるだろうし、そのときにまた改めてトライしてみたい。

□日本ポラデジタルのホームページ
http://www.poladigital.co.jp/
□「PrimeFilm 1800i」の製品情報
http://www.poladigital.co.jp/product/pf1800/index.html
□関連記事
【4月10日】日本ポラデジタル、3万円を切る低価格USBフィルムスキャナ(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010410/pola.htm

(2001年8月8日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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