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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第23回:コンシューマDVの最高峰「CANON XL1s」で撮る!
~ 超望遠2,160mmの世界も覗きました ~


■ 量販店で買える唯一のプロユース機

 ビデオカメラというのはスチールカメラと違い、プロ用とコンシューマ用にはものすごい隔たりがある。例えばカメラ量販店に行けば、シノゴやブローニー版といったプロが使えるスチール用カメラは買えるが、プロが使えるビデオカメラはまず普通のところでは買えないのである。それはそのはずで、プロ用のビデオカメラってのはレンズまで含めると1セット1,000万円は下らないという世界であり、これをひょいと店先へ来て「すいませんコレ下さい」と札束をどかどか積み上げて買っていく人はいない。

 で、「CANON XL1s」は、'98年に発売されプロ業界でも注目を浴びた高機能コンシューマ機「XL1」の後継機種となる。なぜかつてのXL1がそれほどまでに注目を浴びたかというと、それはなんといってもコンシューマ機ながらレンズ交換できる点が最大の理由であったと言える。アダプタを介して、AF一眼レフカメラ「EOS」シリーズ用の約50種類にも上るEFレンズがビデオカメラで使用できるわけだから、DVに対して抵抗がない若手よりも、むしろレンズの使い方を心得たフィルム育ちの熟練カメラマンに注目されたのである。

 新しいXL1sは、フォルム自体は前モデルXL1とほとんど違いがないが、機能的に「今風」に前進させたもの、と言える。また価格面でも、標準価格ベースで約10万円も下がって47万円になっているのも見逃せない。

 いわゆるカメラ量販店で買えて、プロユースとしても使えるという唯一の存在であるXL1sの実力を、実際に撮影しながらレポートする。


■ 強烈なボディデザイン

 まず、ボディデザインだが、奇抜とも言えるヒップアップのボディ形状と、白を基調としたカラーリングが非常に注目度が高い。前モデルのXL1とほとんど変わらないフォルムは、このデザインに対するCANONの絶対の自信がうかがえる。

一見すると複雑そうに見えるボディ。DV技術のすべてが集約されている感じだ

 形状に関しては好みもあるだろうが、重量バランスがかなり前重であるため、構えてみると腕にかなりの負担がかかる。ショルダーパッドの形状からすると、前のほうから肩に押し当てるような感じになるが、肩に担ぐタイプのカメラから比べると、腕にかかる負担は大きい。今回は、「16×ズーム XL5.5-88mmIS II(15万円)」を付けた状態で重さが2.86kgと、おそらくコンシューマ市場最重量であろう。このぐらいの重さというのは、だいたいA4サイズのオールインワンノートパソコンぐらいだろうか。これを両手で持って目の高さでずっと固定すると想像してほしい。

 しばらくテスト撮影してみたところ、前から押しつけるよりもむしろ、鎖骨の上にパッドを乗せるように構えると楽だし、安定するようだ。筆者自身も最初このスタイルに抵抗があったが、実際に持ち歩いて撮影してみると、次第に違和感なくなって、体の方がなじむようになってきた。

 カラーリングは、白を基調として黒と赤という、非常に目立つ配色である。前モデルのXL1でプロに不評だったのがこの点で、このような明るい配色はガラスの反射を受けやすいのである。つまりガラス越しに撮影した際に、カメラのボディがガラスに映り込んでしまうからだ。プロ用のカメラがことごとく黒っぽい色をしているのは、このようなニーズを反映したものである。

 反射もさることながら、このカメラを持っていると、めちゃめちゃ目立つ。撮影中には、必ず周りの人が振り返って見ているのがファインダのガラスの反射越しにわかって、結構アセるのである。また、「何してるんですか」と話しかけられたりもする。

 こういったことは、普段筆者が使っている黒っぽいボディの「SONY PD-150」ではなかったことだ。いやカメラを持つことで「目立ちたい」と思っている人にはたまらぬナルシシズムを感じる瞬間なのかもしれないが、そうではない人にとってはこのような目立つカメラはちょいと面倒かもしれない。


■ 手応えのあるレンズ回り

手持ち撮影の割にはかなり安定したFIX画像が得られる

【MPEG-2形式】sample1.mpg(6.93MB)

 今回使用したレンズは、XL1sと組み合わせでは最もオーソドックスなXL5.5-88mmIS IIという光学16倍レンズである。このレンズには、普通の手ぶれだけでなく、手持ち特有のゆったりした低周波のブレも吸収するという「スーパーレンジ光学式手ブレ補正」が搭載されている。その性能を試すために、敢えて三脚を使わず、手持ちで撮影してみた。

 このレンズは、確かに使いやすい。立って構えるだけでかなり綺麗なFIX画が撮れる。三脚がなくても、かなりがんばれる感じだ。またフォーカス送りみたいなことも、やりやすい。機械式ではなく電子式のフォーカスリングなのだが、リングの回転角とフォーカスの動きが感覚的にマッチするので、「電子式いやーん」な人でもこれならば納得できるのではないだろうか。ぼけ味もなかなか綺麗だ。

絞り解放でのぼけ足。小型カメラでは出せない味だ

 筆者は元々エンジニアなので、あまり精神論みたいな方向に走りたくないのだが、やっぱりこちらの思い入れに応えてくれるレンズというのは、撮っていて張り合いがある。例えばカメラ持って飛び出して、なんかテーマを決めて歩き回っているだけでも、結構色々と取れてしまうのは楽しいものだ。このあたりの「道具からインスパイアされる創造性」というのも、久しくコンシューマ市場には無かった手応えである。

 ただしオートフォーカスは、コンシューマ用小型DVカメラの水準からすると、遅いと言っていい。小型カメラは元々フォーカスが合いやすいのだが、どんな条件でもだいたい1秒以内にフォーカスが合う。

 しかしこのレンズでは、条件によっては2秒ぐらいかけてゆっくりフォーカスが合う場合がある。録画ボタンを押す前にしっかりアングルを決め、フォーカスをきちんとマニュアルで取ってから使うカメラであるということだ。わーっと現場に突っこんでいって、回しっぱなしで良いとこ使いするというような撮り方は難しいと思われる。

 たとえマニュアルモードであっても一発でフォーカスが取れるボタンが付いているので、これを併用するといいようだ。

ズーム途中でフォーカスが外れるポイントがある

【MPEG-2形式】
sample2.mpg
(7.78MB)

 またマニュアルフォーカスであっても、ズーム途中でフォーカスが外れるポイントがあるのがちょっと気になった。そのポイントでズームを止めると、あとからフォーカスが付いてくるのだ。

 バックフォーカスが調整できるレンズではないので、内部で微妙にフォーカスの追いかけっこをやっているようだが、それがちょっと追いついてこないようだ。



■ 計算されたカメラ本体設計

スミアに関しては、低価格モデルよりは出にくいが、上位機種としては出やすいほうではないか

 では次に、本体機能を見てみよう。

 CCDにはCANON独自技術である、「倍密度画素配列処理」が採用されている。これはRGB3枚のCCDのうち、G-CCDを水平・垂直方向にずらすことで画素数を実質約1.5倍に高めるという技術である。これにより、高S/N、高感度、低スミアを実現できるらしいが、スミアに関しては、正直言ってけっこう出やすいほうだと思う。NDフィルタがこのレンズには1/32が1枚しかないので、絞りを開け気味で撮るには、濃いめのNDを持っておくといいだろう。

 本体には液晶モニタはないが、本格的なビューファインダを備えているため、不自由はない。というのも、ビューファインダの設定をFARにすると、目をぴったりくっつけなくてものぞき込むだけでファインダが見えるからだ。ファインダは上下に回転するので、液晶モニタと遜色なく使えるというわけだ。

 表示はカラーであるため、フォーカスがわかりにくいのが残念だが、これは今どきのカメラとしては致し方ないところだろう。またファインダの画枠は、フルフレームではなくテレビフレームなので、絵の見切れには注意しなければならないあたりはコンシューマ機ライクである。

 パワースイッチ兼用のダイアル式モード切り替えは、大きくて使いやすい。簡単にカリカリッと動いてしまうので最初は心配だったが、使用していて特に問題はなかった。歩きながらの撮影で便利だったのは、ボディ横のスタンバイボタンだ。これを1秒以上押すと、その場で電源が切れる。メインダイアルでいちいち電源を切る必要がなく、さらに今まで撮っていたモードで撮影が再開できるので、重宝した。

本格的ビューファインダは、機能的に液晶モニタの領域までカバーできる 大きなモード切り替えダイアル。軽く回せて使いやすい よく使うアイリスとシャッタースピードはこのでっぱりにまとめられている

 また、比較的よく使うアイリスとシャッタースピードは、カメラからちょっと出っ張った「半島」のような部分にわざわざ付けられており、ファインダを覗きながら手探りで操作できるようになっている。これも非常に使いやすい配慮だ。

 ボタン類に関して全体的に言えるのは、基本的にモード呼び出しでこちょこちょいじるというスタイルではなく、プロ機には多い「1ボタン1機能」の原則で作られているところは好感が持てる。必然的にボタン類が多くなってしまうが、撮影中に変更が必要な機能というのはさっと使えなければ意味がないので、このような設計はまさにプロユースと言える。ボタンの配置は一見すると結構バラバラに離れているように見えるが、それが逆に使いやすい。関連機能が一カ所にまとめられると、触りたい機能が隣のボタンかもしれず、そうなると必ずファインダから目を離していちいち確認しないといけないからだ。またボタンやつまみが大きめなのも、手探りでの操作性に一役買っている。

 バッテリだが、さすがにこれだけの機能を動かすだけあって、あまり持ちがいいとは言えない。付属の中型バッテリパック「BP-930」で撮り歩いて、だいたい実質テープ走行で1時間弱のところでバッテリ切れとなった。実時間にして3時間あまりといったところだろうか。後半は雲を定点撮影したのでこのぐらいになったが、ずーっと撮り歩いていたらもっと少なかっただろう。

 SONYのカメラに慣れている身にしてみると、バッテリ残量が具体的に時間で出ないので、使っていてちょっと不安感がある。使っても使わなくても、常にバッテリの予備は必須であろう。


■ EF 望遠レンズを試してみる

さすが300mmの望遠レンズは巨大であり、かつ目立つ EFレンズの装着には、このレンズアダプタが必要。本体とEFレンズの間に噛ませる

 さて、XLシリーズ最大の特徴は、なんと言っても35mm一眼レフカメラ「EOS」シリーズ用のEFレンズが使えることだ。今回は300mmの望遠レンズ「EF300mm F2.8L IS USM(69万円)」もお借りできたので、早速試してみよう。なお、XL1sは撮像面が1/3型と、35mmフィルムを使用する一眼レフカメラよりも小さいため、装着したEFレンズはレンズ表記のおよそ7.2倍ほど望遠よりになる。つまり、300mmのレンズなら、約2,160mmの超望遠となるのだ。

 スチールカメラ用のレンズがそのままビデオに付くわけがないので、「EF Adapter XL(6万円)」を介して取り付ける。取り付けてみてわかったのだが、これはかなりしっかりした三脚でなければ耐えられない。

 普通にカメラ屋で売られているようなDVカメラ用三脚ごときでは全然ダメで、レンズの重さに耐えきれず、きちんと静止できないのだ。まあ今回は他に三脚を用意する時間がなかったので、無理矢理ではあるがこのまま使用することにした。実際の撮影では、レンズにも三脚を立てた方がいいだろう。

 レンズに付いているオートフォーカス機能ではフォーカスが合わないのは仕方がないとして、映像的にはまずまず良好な画質が得られている。正直言って筆者もこういったレンズを常時使うわけではないのであまり詳しいことはわからないが、とにかくフォーカスさえ取れれば問題なく使えるといった感じだ。


このレンズで撮影したサンプルがこれ。

300mmレンズでの撮影サンプル。これだけの望遠だと、別世界が覗ける

【MPEG-2形式】
sample3.mpg
(2.53MB)

ここがどのぐらい離れているかというと、このぐらいである。

撮影現場をデジカメで撮影した。35mmフィルム換算で41mmである。写真の赤丸の部分が上の写真に写っている部分になる

 直線距離にして、だいたい50mぐらいであろうか。普通のビデオカメラではとても撮ることのできない距離だ。

 既にEFレンズを数種類持っている人や、バードウォッチングなどをやる人にとっては、こういったレンズがビデオで使えるのであれば、かなり世界観が変わるのではないだろうか。また超望遠から超広角まで、特殊撮影を行ないたいプロとしても、このようなレンズバリエーションが多いカメラがサブとして1台あると重宝するだろう。苦労して特殊ビデオレンズを手配するよりも、ある意味現実的な解決策かもしれない。


■ 総論

 さすがにこのカメラを持って1時間も歩き回ると、次第に重く感じてくる。もちろんプロ用のカメラが7kg~11kgぐらいなので、XL1s自体は重いとは言えないのだが、やはり肩に重量を分散できないぶん、腕の方に負担がかかってくる。

 この手の大型DVカメラを手持ちで構えるコツとして、右腕の脇の下に500mlの小さなペットボトルを挟んで構えると、非常に楽になる。本来はギュッと脇を締めて構えるのだが、その姿勢が辛くなってきたときには有効だ。腕が疲れてきたら試してみるといい。

 しかしまあ基本的には、三脚あってのカメラだと考えた方がいいだろう。ちなみにSONY製の三脚にはLANC端子を利用した、ズームレバーとスタート/ストップスイッチが付いているが、これもXL1sで問題なく使用できた。

 XL1sは希望小売価格47万円、しかもレンズ別売とあって、これを買う人はかなりのマニアか仕事で使ってもとが取れる人、ということになるだろう。機能としてはDVカメラとして現状考えられることはほとんどでき、本格的な撮影に耐えられるモデルと言う意味で、やはり名実ともに文句なしのコンシューマ市場最高峰のビデオカメラと言ってもいい。特にボタン配列の工夫など機能に対するアクセスのしやすさといったところは、普及型モデルではなかなか実現できないレベルにある。

 もちろんXL1sを使いこなすには、ある程度のスキルが必要になるだろう。勝手に撮れちゃいました、というレベルでも使えるようオートモードもあるのだが、やはり面白いのは完全に各設定がマニュアルにでき、自分なりの撮り方ができるところだと思うのだ。スチールのカメラでも、今はプログラムAEがないものを探すほうが難しいが、ビデオカメラでもそういった傾向があり、完全にマニュアルで操作できるカメラは今や珍しくなってしまった。

 XL1sはレンズ回りなどはまだまだオートな部分があるが、それでも映像に取り組んでいて楽しいカメラに仕上がっている。最近すっかり主流になってしまった「デジカメとしても使えます」的な部分をばっさりカットしているのも、ビデオ野郎としては好感が持てる。

 じっくり腰を落ち着けて、とことんまで映像に取り組む。そう言う人が満を持して買うカメラ、がこれなのかもしれない。

□キヤノン販売のホームページ
http://www.canon-sales.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.canon-sales.co.jp/pressrelease/2001-07/pr_xl1s.html
□「Canon XL1s」の製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/dv/product/xl1s.html
□関連記事
【7月16日】キヤノン、レンズ交換可能なプロニーズ対応MiniDVカメラ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010716/canon.htm

(2001年8月22日)


= 小寺信良 =  無類のハードウエア好きにしてスイッチ・ボタン・キーボードの類を見たら必ず押してみないと気が済まない男。こいつを軍の自動報復システムの前に座らせると世界中がかなりマズいことに。普段はAVソースを制作する側のビデオクリエーター。今日もまた究極のタッチレスポンスを求めて西へ東へ。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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