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第5回:激しく泣ける「リトル・ダンサー」 |
怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。 |
読者諸兄は覚えておられるだろうか。当AV Watch開設当初に連載していた「買っとけ!! DVD」というコラムを。――4月6日掲載の「宇多田初のライブDVD"BOHEMIAN SUMMER 2000"」を最後に、約5ヶ月間も開店休業状態になっていた同コーナーだが、このたび復活!! 以後、ご愛読のほどをお願いします。
なお、念のために付記するが、同コラムが一時休載していたのは販売元とトラブルがあったとか執筆者が失踪したとかいうわけではなく、ただただ担当者が他の記事で忙しかっただけ。毎週楽しみにしていた読者諸兄には、この場を借りてお詫びを申し上げます。
さて、今回紹介するのは「リトル・ダンサー」。原題は「Billy Elliot」。2000年冬に日本公開されたイギリス映画で、公開当時「泣ける映画」としてかなり話題になった作品だ。宣材には、メインコピーの「家族の愛に世界が泣いた!」をはじめ、劇場関係者の「頑張りますと涙目のお客様」(?)というコメントまで、あらゆる人々の涙を誘うべく、さまざまな文句が並んでいる。
映画を見て泣く――そのカタルシスは、一種独特のものだ。私にとってそれは快感を伴なう悪癖でもある。「なんで死ななあかんのやー」とか叫びつつ、めがねが曇るぐらい大泣きする。すると、なんだか体中から悪いものが出尽くしてすっきりした気分になる。これだから「泣きもの」映画はやめられない。何度も見た作品だと、BGMを聞いただけで涙が出てくる。
しかし、日常は血も涙も無い冷酷なキャラクターで通しているため、人目のある劇場で大泣きするわけにはいかない。そこで、DVDをはじめとするパッケージメディアの出番である。1人で視聴でき、音も劇場クラス、しかも廉価。DVDは「泣きもの」好きの私にとって欠かせないメディアの1つとなっている。
■ 男が男に男泣きできる作品
ところで「リトル・ダンサー」だが、発売日の深夜に近所のTSUTAYAで購入。初回特典として、素っ気ないキーホルダーが、ジュエルケースの上に取り付けられたケース幅と同じ箱の中に封入されていた。
そして明け方まで視聴。泣きました。とにかく泣きました。もうダダ泣きである。
特典のキーホルダー |
では、どこで泣いたのか。この作品の場合、特に男性がシンパシーを覚える場面が多い。というのも、ビリー、ビリーの兄(ジェイミー・ドラヴェン)、ビリーの父(ゲアリー・ルイス)の、それぞれの世代の生き様を描いているからだ。そこが単なる子役映画と大きく異なるところで、舞台となった'84年当時のイギリスにおける産業構造の変化、それによる価値観の多様化、そして共同体の崩壊といった現象が、当時の、そして現在の日本の状況と重なる。その中で生きる男たちの姿が自分とダブり、強い共感を得るのだ。
たとえば、閉鎖寸前の炭鉱に勤める父親。「もうだめかも、この会社」と思いながらも、長男(ビリーの兄)の主導するストライキに参加する。なぜなら、彼にとって地元の炭鉱こそが世界のすべてだったから。炭鉱を中心とした共同体の中に組み込まれている状態が正常であり、バレエなぞに熱中するビリーを男らしくない=炭鉱夫らしくないと叱りつける。しかし、炭鉱という基盤が不安定なため、何をやっても説得力がない。そんな父親とビリーは、コミュニケーション不足に陥る。これはまさに、減給されてリストラ寸前の、現代のお父様方の姿そのものではないだろうか。その父親が、中盤からは一転して力強い協力者に転向。オーディションの旅費のため、ストを破って仕事に行くくだりには本当に泣かされた。
また、バスに乗って首都ロンドンに向かうビリーに、故郷を離れて都会へ向かった自分を重ねる人も多いのではないだろうか。寂れて未来のない共同体から離れる本人もつらいが、残る者もつらい。バスを見送るビリーの兄は、車中のビリーに対し、必死に何かを訴えかけている。それも大泣きしながら。だが、ビリーにも観客にもその台詞は聞こえない。「俺もそのうちこの町を出るぞ」なのか、「本当は俺も町を出たかったんだ」なのか。故郷に兄弟のいる私は、このシーンでもかなり泣いてしまった。
中盤以降、こういうシーンが次々と出てくるので、めがねは曇るし、鼻水は出まくるは、しかも首筋まで痛たかった……。
■ マイ・ベストDVD!! 70年代ロックも懐かしい
DVDとしては、画質は上の中、音質は上の下といったところ。室内シーンが多いのだが、暗部ノイズはほとんど見られない。また、赤、緑とも能天気なまでに鮮やか。フォーカスも鋭いところは鋭く、アップの微妙な表情の変化や衣服の質感もそれなりに描写している。
音声はドルビーデジタル5.1ch。派手に移動する音はないものの、音場再現は非常にリアルで、さすが5.1chだと感じた。デッドな家庭内から天井の高いロイヤルバレエ学園へ移ると、こちらまで粛とした気分になる。ただし、日本語吹き替えがドルビーサラウンド収録なのが残念。
個人的に気に入ったのは音楽だ。T-レックスやザ・ジャムといった、'70~80年代前半のグラムロックが当時の雰囲気を盛り上げてくれる。ドルビーデジタル収録の音質も良く、「初期のT-レックスってこんなに音が良かったの?」と驚いたほどだ。
T-レックスは「コズミック・ダンサー」、「ラブ・トゥ・ブギー」、「ゲット・イット・オン」(!)など。父親と初めてケンカし、家を飛び出した傷心の場面では「チルドレン・オブ・ザ・レボリューション」が流れる。機動隊に追われる場面ではザ・クラッシュの「ロンドン・コーリング」。ザ・ジャムの「悪意という名の街」も、ビリーの見事なダンス付きで収録されている。ロック少年だった人にはたまらないのでは。
これらのクラシックロックが、ピアノ演奏のバレエの練習曲の合間に入ってくる。練習曲の間はバレエに対し盲目的に取り組むビリー、ロックの場面では自分を素直に出すビリーという具合に描き分けられているようにも感じる。
なおロック系の曲は、兄のコレクションの一部という設定。ストなんかやってるけど、当時の田舎町としては先進的な男だったのだろう。だからこそ、弟を都会に送り出したバス停での別れの場面が今でも気になっている。
ともあれ、私にとって「リトル・ダンサー」は、泣けるストーリーが最高で、画質も音楽も良しの大満足なDVD。これまで見たDVD中でもマイ・ベスト1だと思う。
ただし、人目を気にせず一晩泣きまくった後遺症は激しく、実家からの電話だけでも涙腺が緩むようになってしまった。更正のためハードな作品も大量に見なければと思う今日この頃である。
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(2001年9月7日)
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp