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第6回:月に情熱を燃やした人々の人間ドラマ
「FROM THE EARTH TO THE MOON」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ TV放映されても手元に欲しいソフト

FROM THE EARTH TO THE MOON
[DVD MOON BOX]
価格:14,286円
発売日:3月14日
品番:PCBP-50391
仕様:片面2層 5枚組
収録時間:664分(本編)
画面サイズ:本編 ビスタサイズ(スクイーズ)/特典ディスク 4:3
音声:本編 1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
        2.日本語(ドルビーサラウンド)
    特典ディスク 日本語(ドルビーサラウンド)
(C)1998, Home Box Office, a division of Time Warner Entertainment Company, L.P. All Rights Reserved

 今回は、映画ではなくTVドラマを取り上げてみたい。題材は「月」。いや、アポロ11号で人類を月に立たせた「アポロ計画」を扱ったものだ。製作総指揮は、なんとトム・ハンクス。「アポロ13」でラベル船長を演じていたが、同作では役者としてではなく各話冒頭のモノローグで解説者として出演。監督も務めている。聞くところによると、なんでも彼は「アポロ計画マニア」だとか。

 パッケージは5枚組みで、本編は1話約55分、全12話の4枚組み。制作風景やインタビューなどを収録した特典ディスク1枚という構成。価格は税込みで15,000円、これだけのボリュームであればリーズナブルな価格だろう。1時間40分(2話)あたりに換算すると2,500円。映画DVDと同じレベルである。

 さて、この「FROM THE EARTH TO THE MOON」、「人類、月に立つ」と題されてNHKで放映されたことがある。実はこの放映時に録画したビデオも持っている。しかし、自分はどうしても欲しくてDVDを買ってしまった。

 放映時は吹き替えで、音声もステレオ。対してDVDでは字幕付きのオリジナル5.1ch英語音声を収録(もちろん、吹き替え音声も)、しかもソースはマスターHD素材を使用しているという。15,000円を出しても納得できる。



■ ロケットは宇宙飛行士だけでは飛ばない

 オープニングは、ケネディ大統領の「我々は月に行きます」という演説から始まる。米ソの対立が深まる'59年、「スプートニクショック」、「ガガーリンショック」など宇宙開発でソビエトに水を開けられた、アメリカの威信を取り戻すために行なわれた演説だ。その後、ここで示された10年という期間で人類を月に送り込んでいる。

 ケネディ演説当時のアメリカは、まだ「アメリカ初の人工衛星」を打ち上げただけで、有人宇宙飛行は準備中の段階。それも軌道飛行ではなく弾道飛行だった。つまり、地球を周ることなく、宇宙の底辺にようやく届いたあと重力に引かれて落ちてくるわけだ。ちなみに、ソビエトのガガーリンは軌道飛行を行なっている。米ソの格差は絶対的と思われた。

 現在、宇宙に人を送る手段としてまず頭に浮かぶのはスペースシャトルだろう。しかし、このスペースシャトルの初飛行は'81年。なんと初飛行から20年もの歳月が流れているのだ。有人軌道飛行もできない状態から「10年」という期間で月に向かうことは、常識的に考えるとまず不可能と思われる。しかし、実現してしまった。

 この物語はその不可能を可能にしてしまった10年と、その後のアポロ計画全てを扱っている。実話を元にしているため、ドキュメントタッチなのでは? と思われるかもしれないが、すんなりと物語に入っていけるドラマに仕上がっている。各話は「U-571」のジョナサン・モストウなど10人もの監督陣を擁して制作され、アプローチも異なっている。そのため、約11時間もの長時間でも飽きることはなかった。演出などは映画風。「1部55分、12部構成の映画」とした方が良いかもしれない。

 役者陣は映画などでは見覚えのない面々だが、それが逆にリアリティを醸し出し、「史実」を感じながら物語に入り込める。アポロ計画当時の宇宙飛行士や管制室の写真を見たことがあるが、実在の人物に似ている役者を起用しているように思えた。「アポロ13」で感じたトム・ハンクス、ケビン・ベーコンなど有名役者が実在の人物を演じる不自然さはない。

 第1話は、ケネディ演説が行なわれた'59年からスタートする。マーキュリー計画でのアラン・シェパードの「アメリカ人初の(弾道)宇宙飛行」、ジェミニ計画での宇宙遊泳、なども描かれ、「月」に向かうまでの過程を最初から追ってゆく。

 そして、アポロ計画。アポロ0号では当初から事故を起こし、その克服の中で、宇宙飛行士のみならず、技術者、管制官など、計画に関わる全ての人々の葛藤が感じられた。

 アポロ11号の人類初の月面着陸は、作品中では「あくまでエピソードのひとつ」という扱いで、自分の中では印象が薄い回である。映画にもなったアポロ13号の回は、映画とは違ったアプローチで、宇宙飛行士は一切登場せず、地上の管制官たち、マスコミがどのように立ち回ったかをメインに描いている。

 自分の中で印象深いエピソードは、月着陸船開発にスポットを当てた回だ。契約の受注から描かれ、7年の開発期間中にトライ&エラーを繰り返し、テスト、テスト、テストの連続。しかし、この開発者たちは宇宙飛行士ほどには注目を集めない。7年間をつぎ込んだ着陸船がロケットに積み込まれる際、ずっと見上げる開発責任者のシーンは感じ入るものがあった。

 11号以降、国民の関心が薄れるなかで続けられた17号までの飛行も興味深い。14号では一度引退した「アメリカ初の宇宙飛行士」アラン・シェパードの挑戦、15号では地球で地質調査実習まで行なった「冒険から学問へ」のステップアップなど、注目はされないが、自分の行動に確固たる自信を持った人々のエピソードだ。

 ロケットは宇宙飛行士だけでは飛ばない。当たり前のことではあるが、耳目はどうしても当事者に集まりがちだ。しかし、この作品では計画に関わる多くの人々を描き、その情熱を感じさせてくれた。


■ 冒険の達成感を味わえる作品

 DVDとしての評価は、画質はとても満足のいくレベル。特に圧縮の荒れなどは感じられず、ロケットの輪郭などはとてもシャープに表現されている。作品中では宇宙のみならず、管制室、着水時の海、飛行士や開発者の家庭など、さまざまなシチュエーションを描いているが、どのシーンでも色に不自然さを感じることもない。HDマスター素材をソースにしているメリットが活かされていると思う。

 音声はドルビーデジタル5.1ch。宇宙空間では船内シーン以外無音(空気がないので音が響かない)で、音が動くシーンは少ないが、ロケットの噴射音などは、サブウーファの効果がありありと感じられる。ただ、自分はTV放映時の印象が強く残っているため、日本語音声で聞くことが多いのだが……。

 DVDならではといえば、やはり特典ディスクだろう。特典ディスクには制作の様子や、インタビューが収録されている。本編の特撮は「アポロ13」よりも上。思わず本物の映像かと勘違いしてしまうほどだ。真っ暗な宇宙で機体に反射する陽光、無重量の中で拡散する噴射ガスなど、宇宙での描写は秀逸。しかし、その製作現場を見てみると、模型を使った撮影が多用されていた。

 もちろん、CG映像も使用されているが「アポロ13」の「CGくさいロケット」とは雲泥の差。特典ディスクでタネ明かしされ、ようやく気づいた程。特撮とCGをうまく融合させ、リアリティある映像をつくる「職人芸」にも感嘆した。

 作品を通して見てみると、技術用語など、所々に難解な部分もあるが、その難解さも雰囲気を盛り上げるガジェットになっている。特撮も秀逸で、車や建物などの小道具も計画当時のものを使用し、不自然さを感じることは全くない。「人はなぜ冒険するのか? それは人間の本能だから」と、何かの本で見た記憶があるが、自分にとってはその本能をくすぐられ、達成感を味わえた作品であった。


□ポニーキャニオンのホームページ
http://www.ponycanyon.co.jp
□製品紹介
http://www.ponycanyon.co.jp/wtne/dvd/010314from.html

(2001年9月14日)

[fujiwa-y@impress.co.jp]


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