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第17回:伝説の映画が高画質になってDVDで登場

笑う原爆(仮題)「太陽を盗んだ男」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ DVD化が待ち望まれた邦画

太陽を盗んだ男
ULTIMATE PREMIUM EDITION

(c)1979 東宝/フィルムリンク・インターナショナル
価格:6,600円
発売日:2001年9月21日
品番:ASBY-1937
仕様:片面2層 + 片面1層
収録時間:約149分(本編)
画面サイズ:ビスタ(スクイーズ)
字幕:英語字幕
音声:1.日本語オリジナル ドルビーデジタル モノラル
   2.日本語リミックス ドルビーデジタル5.1ch
発売元:アミューズピクチャーズ株式会社
販売元:アミューズソフト販売株式会社

  世の中には、DVD化が待ち望まれている作品がいくつかある。邦画では「太陽を盗んだ男」が、個人的にも、世間的にも、その中に必ず入る作品であることは間違いないと思う。

 監督は、長谷川和彦(通称ゴジ)。監督デビュー作「青春の殺人者」('76年)で、「キネマ旬報」ベストワンなど各映画賞を総ナメにした鬼才。それから、3年の歳月を経て満を持して制作されたのが「太陽を盗んだ男」('79年)だ。

 ただ、劇場公開時には興行的にあまり振るわず、その後、長谷川監督が監督した映画はない。「25年間にわずか2作品しか撮っていない監督」になっている。その間に、もちろん、いくつか企画はあったのが、全てポシャッてしまい、映像特典の中で語っている、連合赤軍を題材にした映画も結局頓挫しているようだ。

 このように、わずか2作品しか監督していないのに、その2作品ともが邦画界に強い存在感を放っている。特に「太陽を盗んだ男」は別格で、オフィシャルサイトによれば、「ネット上の某サイトで、DVD化希望の映画のアンケートをおこなったところ、一番多くの票を集めたのが本作であった。業界内でもDVD化の問い合わせがかつてなく多く、まさに満を持してのリリースといえる」と期待の高さが語られれている。


■ プロット:平凡な教師が原爆を作る

 この映画のストーリーは、平凡な一教師が原爆を作り上げる、最初の要求は「ナイター中継は最後まで放送しろ」('79年当時は21時前に中継を終了していた)。この、プロットができあがった段階で、ストーリーのすべてが決まったといっても過言ではないだろう。これ以上のストーリーは、20年以上前の映画ということで、未見の読者も少なくないだろうから、実際にDVDを見て確かめてほしい。

 原案・共同脚本は、高倉健主演のアメリカ映画「ザ・ヤクザ」などの「レナード・シュレイダー」。元々長谷川監督と中の良かったシュレイダーが、長谷川監督自身が胎内被曝していたこともあって、平凡な一般人が原爆を作り上げるというプロットを提案。そこから物語を膨らませていったという。あまりに膨らみすぎて台本が分厚くなり、でき上がった映画も2時間29分と長尺。しかし、その長さを感じさせないハイテンポでストーリーが展開する。


(c)1979 東宝/フィルムリンク・インターナショナル
 主演は沢田研二と、菅原文太。中学の理科教師(城戸誠)を沢田研二、警視庁の警部(山下)を菅原文太が演じている。当時でも売れ子だった二人の初顔合わせの映画となった。また、水谷豊や、風間杜夫、西田敏行、戸川京子といった人達が顔を出してくるのも、違った面で楽しめる。

 実際の撮影は、本当のデパートを使ったモブシーン、10数台のパトカーと公道でのカーチェイスなど、日本映画離れしたスケールを実現している。皇居や、首都高などのシーンでは許可をとらず(とれず)、逮捕者も出ることが覚悟の上で、突撃、盗み撮りを敢行したという。ここら辺の話題は、ぜひとも特典ディスクを見て欲しい。当時の熱い状況が伝わってくる。


■ DVDとしてどうか?

 初回生産限定の封入特典「コレクタブルブックレット」の中で、制作プロデューサーは、「めざせ、ニッポンのク○イテ○オン!」(原文ママ。LD/DVDファンなら何を意味するは想像がつくだろう)を合い言葉に制作を開始したと語っている。その言葉だけでも、意気込みと、作品に対する愛情が伝わってくる。

 実際、東宝にオリジナル・ネガ原版を借りて、ダイレクト・ネガ・テレシネを行なっている。さらに、その際には、鈴木達夫撮影監督の指導のもと、長谷川和彦監督が立ち会って監修した。そのテレシネ後には、約3週間かけてデジタル画像修復システム「REVIVAL」でゴミや傷などを消去。加えて「HENRY」を使って、ネガ破損や、複雑に残存している大きなゴミを処理した。その上で、細かいゴミを1個1個、肉眼で確認しながら、根気よく約6千個を消去したという。

 その画質は、現在のDVDの最高画質ということはないが、20年以上前の邦画とは思えない高画質に仕上がっている。ゴミや傷なども通常に見た限りでは気になることはなかった。

 音声については、DVD制作開始当初はダナミックレンジの狭いフィルムのサウンドトラックしか残っていなかった。しかしその後、ME(音楽とSEのみ)ミックスの6mmテープが見つかって、ダイアローグのない個所を差し替えている。また、アメリカのスタジオで、オリジナル(モノラル)からダイアローグ、音楽、SEをある程度分離。そこから、ドルビーデジタル5.1chにリミックスした。

 こうやって、新たに5.1ch化されたため、新収録のドルビーデジタル5.1chは、完全なディスクリートではない。もちろん、ドルビーデジタル5.1chトラックが、迫力満点で音がぐるぐる回るということはないが、オリジナルのドルビーデジタルモノラルと聞き比べると、いかに努力して改善されたがよくわかる。ドルビーデジタルモノラルは、かなり聞きづらいが、それがかなり改善され、ダイナミックレンジも広くなっている。普通の映画として楽しめる範囲まで向上している。


■ 特典満載!!

 また、原案・脚本のレナード・シュレイダー監修のもと翻訳された英語字幕や、公開前に劇場で上映されて以来、誰の目にも触れることのなかった予告編も本編ディスクに初収録している。この予告編も、DVD用にオリジナル・ネガ原版からダイレクト・テレシネ。スクイーズ収録するという念のいれようだ。予告編をここまで、こだわって収録することは珍しい。

 注目したいのは、「エキセントリック・チャプター」と名づけられたチャプターメニュー。最近流行りの動画メニューではないが、「太陽を盗んだ男」ファンと自他共に認める樋口慎嗣特撮監督がDVD用に、チャプターを設定している。それぞれのチャプターにタイトルが付けられているのは普通だが、副題まで付けられているのは非常に珍しい。樋口慎嗣が、太陽を盗んだ男をどう受け止めているのかが伺えて、チャプターメニューを見るだけでも楽しい。

 さらに、特典ディスクには、収録時間約2時間36分という大量のコンテンツが含まれている。メインコンテンツ「The Legend is Lebon 映像証言:太陽を盗んだ男」(約84分)は、長谷川監督をはじめ、メインスタッフのインタビュー映像を中心にした、DVD用撮りおろしのメイキングビデオ。当時の撮影が、スレスレの状態で進められていたことがわかる貴重な内容となっている。

 また、熱烈な太陽を盗んだ男ファンを自認する永瀬正敏、樋口慎嗣特撮監督が長谷川監督に挑むトークセッション「熱・烈・対・談 俺の『太陽を盗んだ男』」(約35分)や、長谷川監督の友人でもある歌手の上田正樹がロケ地、発電所、科学技術館などをナビゲートする、WOWOWの番組の特別編集版「上田正樹が『太陽を盗んだ男』と歩くDVD特別編」(約16分)も収録している。

 加えて、劇場公開直前の'79年9月20日にオンエアされた「11PM」の特集「11PM“ステキ!! ジュリーってゲンバクみたいに強ョーイ男?!”」(約20分)、今回新たに作成された「太陽を盗んだ男 プレミアム・ニューマスター版PV」(約2分30秒)も入っている。

 静止画・文字情報は、キャスト18名、スタッフ22名の詳細プロファイル・デ-タも採録。主要キャストや、スタッフでは、出演作品などを除いたプロフィールだけで画面3ページ以上もあるという詳細のもの。


■ 6,600円は買いなのか?

 なお、DVDのULTIMATE PREMIUM EDITIONのほか、ニューマスターを使用した3,800円のVHSもあるが、ここはやはりULTIMATE PREMIUM EDITIONを買いたいところ。しかし、価格は6,600円。しかも、発売から3カ月近くたっているので、入手が多少困難になっているかもしれない。

 現在、特典満載2枚組みで4,000円を切るのが当たり前となったDVD市場では、6,600円は高いなと正直思う。でも、個人的には、邦画と、日本のDVD制作環境を応援する意味でも6,600円でも損はしていないと感じている。もちろん、長谷川監督の第3回監督作品への期待も込めて……。

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総投票数382票
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[買いたくなった]
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[買う気はない]
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32%

□アミューズビデオのホームページ
http://www.amuse-pictures.com/
□製品情報
http://www.amuse-pictures.com/taiyo/

(2001年12月10日)

[furukawa@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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