【バックナンバーインデックス】

第16回：「プライベートライアン」を超える戦闘シーンが展開? 「スターリングラード ENEMY AT THE GATES」

スターリングラード

(c)2001 By Film Management. DOS Ploductions GmbH &Co.KG,Swanford Films limited and Little Bird Limited and Paramount Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

価格：4,700円 発売日：2001年11月21日 品番：PCBH-50037 仕様：片面2層 収録時間：約131分 画面サイズ：シネスコ(スクイーズ) 字幕：英語、日本語、吹き替え用字幕 音声：1.英語(ドルビーデジタルサラウンド5.1ch) 　　　2.英語(ドルビーデジタルサラウンド2.0ch) 　　　3.日本語(ドルビーデジタルサラウンド2.0ch) 発売元：日本ヘラルド映画 販売元：ポニーキャニオン

　個人的な趣味で申し訳ないが、私は軍事的なものに興味を惹かれてしまう。そんな私の興味を惹いたのが、夏に公開された映画「スターリングラード」。第2次大戦中、ソ連とドイツの戦闘の中でも最大規模のスターリングラード攻防戦を扱った映画だ。

　監督は「薔薇の名前」や「セブン・イヤーズ・イン・チベット」を撮ったジャン=ジャック・アノー。「薔薇の名前」は正直よくわからない難解なストーリー展開であったが、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」は展開もわかりやすく、なによりもチベットの山々を写した情景は素晴らしい。「薔薇の名前」も修道院の荘厳さがよく現われていた。

　スターリングラード攻防戦は、何ヶ月にも及ぶ攻防で街自体が廃墟と化した有名な歴史的事実。そんな作品を撮った監督が、この廃墟をどのように再現するか興味があったし、「スナイパー同士の対決」というテーマも面白い。映画館で鑑賞したものの、やはり手元に欲しくなってDVDを購入してしまった。

■ 冒頭15分の戦闘は圧巻。狙撃の緊張感も伝わる

　最初の15分は圧巻の一言。主人公のヴァシリが幼少のころの描写から、スターリングラードへ向かう列車のシーンに切り替わり、ボルガ川を渡ってスターリングラードへ向かうことになるのだが、その対岸に見えるスターリングラードの一面が廃墟と化している。戦闘の大きさを1カットで端的に表わし、見るものに戦場の臨場感を伝えてくれる名シーンだと思う。

　渡河中にもドイツの爆撃や銃撃があり、ヴァシリと同じ船に乗った兵士が続々と銃弾に倒れていく。ヴァシリが助かったのは単に運がよかっただけ。渡りつくとすぐにライフルと弾を渡されるのだが、ライフルは2人に1丁という悲惨な状況。相手が機関銃や戦車などで武装しているにも関わらず、ソ連の戦術は肉弾突撃のみ。しかも、退却すれば味方の機関銃で撃たれてしまう。

　宣伝コピーでは「プライベートライアンを超える戦闘シーン」というものがあったが、確かに、「オマハビーチ」以上の臨場感がある。ドイツ側の装備の良さや、味方に撃たれるまで士気の下がっているソ連兵の描写など、歴史的な事実も感じ取ることができた。

　この時点では、ヴァシリは「名もなき兵士」の一人。その後は政治将校ダニロフと出会い、敵将校を狙撃してみせることで、彼の手で「敵将校を倒す狙撃の名手」というプロパガンダにより一躍有名になっていく。

　そして、ライバルとなるケーニッヒ少佐が到着。ストーリーはこの2人との対決が中心となる。「スナイパー同士の対決」は、期待通りに緊張感たっぷり。おとりを置いたり、同じ場所に何日もとどまったりと、心理戦を展開していく。この戦いを描く映像表現が良い。スコープからの風景と、肉眼からの映像とを織り交ぜ、さらに引いた映像で状況を表現。思わずスナイパー本人になるような感覚にとらわれる。何よりも印象的なシーンは、得物を待ち、待機している時の目。待機時はカムフラージュしているが、スコープと銃口、そして目だけが強調され、狙撃の緊張感を高めていたように感じた。

　ヴァシリは、今でもスターリングラード（現ボルゴグラード）にレリーフが飾られているそうで、ロシアでは有名な人物。実話を元にしているが、特典映像のインタビューによると、当時の資料はプロパガンダで強調され、不正確なものばかり。ほとんどを想像で構成したという。想像で補ったことにより、この2人の対決の緊張感がよく表わされていたと思う。

■ 戦争中に恋愛できるものなのか?

　「スナイパー同士の対決」と同時に、この作品のテーマとなっているのは「ラブストーリー」。これまでの戦争映画でもラブストーリーを扱ったものは多いが、戦地で戦う兵士と故郷で帰りを待つ恋人、という図式がほとんど。しかし、この作品では最前線で戦う中でストーリーを展開させている。それも政治将校ダニロフとの三角関係のオマケ付き。

　最前線でのラブストーリーを持ち込む手法はなかなか斬新ではあったものの、私としてはどうもなじめなかった。ソ連軍には女性兵士も多数いたことは知識としてはわかっているし、中には恋愛もあったであろうが、やはり「スナイパー同士の対決」というテーマにフォーカスを絞って欲しかったと思う。とはいえ、展開としては両テーマともうまく絡み合っており、破綻はなかった。131分、飽きることなく映画を見ることができる。

　違和感を感じる点といえば、劇中で話している言葉が気にかかる。所々でドイツ語が飛び出すものの、劇中で交わされる言葉はほとんど英語。ソ連とドイツが戦っているという実感がどうも沸かない。昔の映画では、例えば「空軍大戦略」あたりはドイツ側はドイツ語、イギリス側は英語で会話して臨場感がかんじられたものだ。特にロシア兵に投降を呼びかけるメッセージがドイツ語なまりだったりするところは違和感たっぷり。

　私自身はドイツ語もロシア語もわからないけれど、だからこそそれぞれの言葉の持つリズムが気にかかる。まあ、ジュード・ロウはロシア語を、エド・ハリスはドイツ語を話せないだろうけど……。

■ 画質は水準値。サラウンド感は物足りない

　画質としては、水準値といっていいだろう。フォーカスが少々甘いように感じるが、色もコントラストも自然。、廃墟の情景を感じさせてくれる。

　音声は、ドルビーデジタル5.1chとドルビーサラウンドを収録。私としては、スナイパーものは銃弾の通過音が重要だと考える。スナイパーの位置を特定する手法として、銃弾の通過音で方向を、通過音と発砲音の時間差で距離を測る方法がある、と聞いていたからだ。5.1ch環境であればその音で臨場感を感じられると期待していた。

　しかし、通過音はさほど立体感がなく、前から後ろに抜けるだけ。それに狙撃のシーンは要所要所に入るだけで、当初期待していたほどの臨場感は感じなかった。正直言って物足りない。

　しかし、スナイパーは居場所を明かせば死に繋がるだけに、めったやたらに射撃しないものだろうから、このシーンが意外と少ないのは正しいと思う。逆に、狙撃までに自分を高めるスナイパーの心情を描き、兵士の実情をよく伝えていたと思う。

　通過音以外は特に気になるところはなく、爆撃シーンや機関銃の発射音など、臨場感が高いし、セリフもクリアに聞き取れる。マニアックな楽しみはできないものの、映画の鑑賞には問題はないだろう。

■ 一通りの映像特典を収録するも、物足りなさも感じる

　パッケージはブックケースに、観音開きになるパノラマジャケットが入る仕様。観音開きの両面には主人公ヴァシリと恋敵ダニロフが相対している。なぜヴァシリとケーニッヒとの相対でないのかは不明。

　映像特典はメイキング、スタッフ/キャストのインタビュー、オリジナル予告編、そして未公開映像と、最近のDVD作品によくある一通りの内容を収録。

　メイキングでは、あの廃墟をセットで再現したと知って驚いた。旧東ドイツに実際に建設したそうだ。メイキング中では「タイタニック以上」と自慢していたが、なるほど、半舷の船を作る以上の手間がかかったであろうことは想像に難くない。

　ヴァシリ役のジュード・ロウと、ケーニッヒ役のエド・ハリスは、元特殊部隊隊員に狙撃手としての訓練を受けて撮影に参加したのだとか。劇中での演技は、その訓練の成果が現われているように感じた。

　個人的には、あまり知識のない軍事的、歴史的な背景についての解説も欲しかった。例えば映画で使われた兵器の解説や、スターリングラード攻防に向かうまでの歴史的解説などだ。劇中で「あの戦車はなんだろう?」という疑問を自分で解決しなくてはならない。メイキングでは兵器も当時のものを用意したと言っているだけに、気軽にその疑問を解決できる手段も用意して欲しかった。

　不満点は多いものの、映画本編は（概ね）楽しめる内容であったし、なによりも廃墟での戦闘シーンは圧巻。よくここまでのものを作ったと思う。インタービューやメイキングで知った事実も多く、DVDを購入してよかったと感じている。

●このDVDについて
購入済み 　買いたくなった 　買う気はない

前回の「スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス」のアンケート結果 総投票数1,785票
[購入済み] 1,008票(56%)	[買いたくなった] 678票(38%)	[買う気はない] 99票(6%)

□ポニーキャニオンのホームページ
http://www.ponycanyon.co.jp/
□製品情報
http://www.ponycanyon.co.jp/wtne/dvd/011121star.html

(2001年11月30日)

[fujiwa-y@impress.co.jp]