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第40回:シャープ「IM-MT880」に見るNet MDの実力



 明けましておめでとうございます。本年も引き続きDigital Audio Laboratoryをよろしくお願いいたします。2001年末は24日のクリスマスイブが振り替え休日だったので、Digital Audio Laboratoryはほぼ半月ぶりの掲載となる。しかも来週もお休みと、まだしばらく冬休み気分が抜けそうにないが、徐々にエンジンを温めつつ、今年もパワー全開でがんばりたいと思う。

 さて2002年の第1回目のテーマは、昨年ソニー、シャープなどから対応機器が発売された新しいオーディオ規格「Net MD」だ。なんとなく興味は持ちつつも、詳しいことは知らなかったのだが、冬休み前に担当編集者がシャープの「IM-MT880」を送ってくれたので、年末年始はこれでいろいろと遊んでみた。そこで、今回はIM-MT880でNet MDの実力を探ってみたい。


 2001年末に編集担当者と、年明け第1回目は何にしようかと打ち合わせをしていたところ、Net MDをやってみないかと持ちかけられた。ニュースなどで読んでいて、興味はあったので、2つ返事でOKした。

 そして12月28日に自宅に宅配便で送られてきたのが、年末に発売されたシャープの「IM-MT880」である。すでにソニーの「MZ-N1」とともに店頭に並んでいるので、見かけたことのある人も多いだろう。いずれもポータブルタイプのMDレコーダであるが、ソニーとシャープがNet MD対応機器を出していたよなという認識はあったのだが、どこがどう違うのかなどは、あまり認識していなかった。

 実は、恥ずかしながら、通常のMDは使っているが、MDLPについてはATRAC3を使っているという机上の知識があるだけで、触ったことがなかった。MD関連に詳しい方には、多少まわりくどいかもしれないが、知らない人も多いと思うので、まずはMD、MDLP、Net MDの関連について簡単にまとめおこう。

 ご存知のようにMDは60分、74分、80分という3つのメディアが存在し、ATRACといオーディオ圧縮技術を用いてデータが記録される。それに対し、後から登場したMDLPという規格では、通常のMDの録音時間よりも多くの時間を記録できるようになっている。具体的には2倍の録音が可能な「LP2モード」、4倍の「LP4モード」の2種類がある。つまり、80分メディアで160分、320分もの録音ができるのである。

 ちなみに、「MD-DATA」でなく、通常の音楽用のMDの場合、PCの記録デバイスとして用いることはできないが、74分メディアのデータ容量は約140MBで、80分メディアは約160MB。CD-Rの容量を考えれば、そこにそれだけの時間のデータを記録できるはずがないのだが、通常のMDではATRAC、MDLPではATRAC3という圧縮技術を用いて、長時間録音を可能にしている。

 実はこのATRAC3、すでに数多く出荷されているネットワークウォークマンや、VAIOミュージッククリップで採用されているのと同じデータ形式。ビットレートでいうとLP2モードは132kbps、LP4モードは66kbpsとなる。まあ、通常MDLPを用いる人は転送ビットレートなんか考えることもないだろうが、実はMDLPとはそういうものである。

 それに対し、Net MDとは、MDLPと完全な互換性を持ちつつ、PCとの接続を可能にし、データ転送ができるようにしたもの。PCとの接続という点においては、ネットワークウォークマンやVAIOミュージックとほぼ同じといっていいだろう。違いはメモリースティックなどの半導体メディアを使うか、MDを使うかという点だ。

 メモリースティックだと、128MBタイプのもので8,500円程度であるのに対し、MDだと80分が1枚150円程度。80分メディアは約160MB程度の容量を持つのだから、コスト的にかなり有利な製品である。

 メーカーとしては最初から、こういった製品を出すことをロードマップに入れていたのだろうが、確かにこの共通性を考えたら「Net MD」が登場するのは自然の流れだろう。ちなみに、ATRAC3に対応したシリコンオーディオはシャープも「イミューゼ WA-HP1」というヘッドフォン型の製品を一度出したことがあったが、Net MDで再参入ということになる。


■ リッピングからエンコード、転送まで行なう「OpenMG Jukebox」

OpenMG Jukebox

 IM-MT880のパッケージを開けると、中には本体、クレードル、ACアダプタなどとともに、「OpenMG Jukebox」が入ったCD-ROMも同梱されている。これは、ソニー製のソフトで、従来のATRAC3系のポータブルプレーヤーにも付属していたが、今回のソフトはNet MD対応のバージョン 2.2となっている。

 ちなみに、先日ちらっと人から借りたソニーの「MZ-N1」に添付されていたのもまったく同じソフトだった。試しにドライバだけインストールしたら、双方のハードウェアで同様に使うことができた。

 v2.2とはいえ、基本的には従来のものと何も変わっていないので、あまり説明することもない。このソフトはCDのリッピングからATRAC3へのエンコード、プレイヤーへのデータ転送などを可能にした統合ソフトだ。

 使い勝手などは、一般のMP3ツールとそう大きくは変わらない。CD-ROMドライブに音楽CDをセットし、「CD情報取得」というボタンを押すとそのアルバムのタイトルや曲名、アーティスト名などが表示され、PCに取り込みたい曲を選んで録音ボタンを押すとATRAC3へとエンコードされる。

 ただし、このアルバムのデータベースはMP3ソフトでよく使われているCDDBではなく、OpenMG独自のものだ。すでに添付のCD-ROMに約8万曲のデータベースが収録されており、これをHDDにインストールしておくことで、ネットにアクセスしなくても、情報を得ることができる。

 またネット上での検索機能もあるのだが、今回はなぜかうまく動いてくれなかった。ただ、動いたとしても、常時接続の環境であっても、データベースをHDDにインストールしておかなくてはならないのは、ちょっと気に入らないところだ。

 以前OpenMG Jukeboxを使ったときはCDNOWにアクセスして情報を得ていたが、CDNOWの日本のサービスが終了したため、この機能が使えなくなっている。また、手元のCDを試してみたところ、比較的洋楽が多いためか、半分程度のアルバムしかヒットしなかった。

「CD情報取得」ボタンでアルバムのタイトルや曲名、アーティスト名を表示 録音ボタンでエンコード CD情報の検索ダイアログ。HDDのCDデータベースが利用できる

選択できるビットレートは3種類

 エンコードの設定は、MP3エンコーダと違いあまり変更できる余地はなく、選べるのはビットレートのみだ。ここで選択できるのは132kbps、105kbps、66kbpsの3種類である。前述したとおり、MDLPはLP2モードが132kbps、LP4モードが66kbpsであって、105kbpsという規格は存在しない。

 そのため、PC上でのエンコードに105kbpsを使うことができても、後でNet MDへ転送する際には132kbpsにコンバートされてしまう。Net MDでの利用に限ればあまり意味のない設定のようである。

 なお、最終的にNet MDへデータ転送可能なソースは何もCDばかりではない。HDDなどに保管されているMP3やWMA、そしてWAVファイルなども利用することができる。インポートタブをクリックすると、ファイル選択が可能になり、ここでMP3ファイルなどを指定すると取り込むことができる。ただし、この時点ではATRAC3には変換されず、単にプレイリストに追加されるだけだ。実際にエンコードするのは後でNetMDへ転送するときである。必要があれば手動でATRAC3へ変換することも可能だが、通常は転送時の変換で問題ないだろう。

インポート画面 フォーマットの最適化


■ チェックイン/チェックアウトとデータの転送時間

 このように機能面から見れば、OpenMG Jukeboxも一般のMP3ツールとほとんど変わらないが、MP3ツールにない機能が追加されている。それが著作権管理の機能である。これは著作権保護技術の統一を図ることを目的とした国際的業界団体「SDMI」が定めたルールに則った機能で、エンコードしたデータは3回しかコピーできないようになっている。

 OpenMG Jukeboxで、エンコードしたデータの「残りチェックアウト回数」の項目を見てみると、そこに数字が示されている。CDやMP3からエンコードした時点では3となっており、Net MDに1回転送するとその数値が1つ減る。

チェックイン/アウト画面 曲のプロパティ

 この転送をチェックアウトと呼んでおり、CDなどからエンコードしたデータは3回までしかチェックアウトできない。ただし、Net MD側で不要になった場合、チェックインという作業をすることによって、回数が戻るようになっている。チェックインするとNet MD側では再生できなくなるものの、ほかのメディアへのチェックアウトが可能になる。

 なお、3回チェックアウトして、残りが0となってもPC上での再生は可能。SDMIでは「元のデータは4回までコピーできる」と定めているため、3回チェックアウトしてもPC分の1回が残っているわけだ。

 このように、チェックアウト回数を制限しているため、最初ちょっとわかりづらいが、OpenMG Jukeboxを使っている限りはそう難しいことではない。また、一度エンコードしたデータは、確かにファイルとしては存在するがチェックイン・チェックアウト管理はOpenMG Jukeboxを使わないとできないため、単純にATRAC3ファイルをコピーしても再生することはできない。ここがMP3とは大きく違う点である。

 さて、ではそのチェックアウトにはどの程度の時間がかかるのだろうか? CDから132kbps、66kbpsのそれぞれにエンコードした3つの曲を連続して転送するのにかかった時間を測定してみた結果が、以下の表だ。


曲の時間転送時間転送速度
132k(LP2)66k(LP4)132k(LP2)66k(LP4)
1曲目4:171:050:483.95倍速5.35倍速
2曲目5:151:150:524.20倍速6.06倍速
3曲目4:421:100:474.02倍速6.00倍速
14:143:302:274.07倍速5.81倍速

 この結果からすると132kbpsのLP2モードで、曲の時間の4倍速、66kbpsのLP4モードで6倍速ということになる。実際のデータ転送自体はもっと速く行なわれているが、各曲データを書き込む最後の部分で結構時間がかかっているようだ。

 少なくても、USBの転送速度がボトルネックになっているわけでなさそうなので、MDデッキ自体の速度が向上しない限り、USB 2.0対応のNet MD機器が登場しても、転送時間はほとんど変わらないと思われる。


 IM-MT880を使ってみて、個人的にはシリコンオーディオよりNet MDが本命かなというような印象を持った。やはりメディア価格が圧倒的に安く、いくつものアルバムを持って歩けるというのは大きなメリットに思う。

 ただ、ソフト、ハードはまだまだ進化してもらわないと困る。IM-MT880のスペックを見ると内蔵バッテリでの連続再生時間はLP2モードで約11時間、LP4モードで約12.5時間とある。ほとんどのシリコンオーディオプレーヤーよりも長いのだが、ソニーのMZ-N1はそれぞれ38時間、42時間と圧倒的な差を付けられている。ここはシャープにもぜひがんばってもらいたいところだ。

 また、IM-MT880もMZ-N1も単体で録音ができて便利なのだが、そのデータはあくまでもMDプレーヤー側で再生することしかできず、PCに取り込むことができない。著作権保護の機能などから制限されているのかもしれないが、これはぜひ解禁してもらいたいところである。

 先日、ケンウッドとイーヤマが共同で発表した「AVENUE」という製品を見せてもらったが、ここにもNet MDが搭載されており、こちらはOpenMG Jukeboxとは違うオリジナルソフトが用いられていた。このように、今後、各メーカーがNet MD対応製品を出してくると思うが、ぜひお互い競い合って、いい規格に仕上がっていくことを期待したい。

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□IM-MT880の製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/immt880/index.html
□関連記事
【12月6日】シャープ、「Net MD」対応ポータブルMDレコーダ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011206/sharp.htm

(2002年1月7日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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