“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第45回:超小型マルチカメラ「D-Snap」
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■ 突然現われたMPEG-4カメラ
えー筆者がまだ紅顔の美少年テレビ番組編集者であったころ(笑うなソコ)、ビデオ編集用メディアといえば問答無用に1インチVTRであった。おそらく普通の人は見たことすらないと思うが、これはオープンリール型のビデオテープを使用する。オープンリールの何が面倒って、それはテープの掛け替えである。なんせ先頭まで全部巻き取ってしまわないと次のテープが掛けられないので、もうそれだけでバカみたいに時間がかかる。そんな巻き戻しの合間に仲間内で「あと5年もしたら記録もディスクになってたりしてー」、「いやいや手のひらに乗るチップになったりしてー」という冗談とも期待とも付かぬことを言っていたものである。
そこから時は流れて15年余、プロユースでは今もってリムーバブルメディアとしてチップはおろか、一部を除いてディスクすら現われていない。テープレスの映像記録というのは、映像技術史の延長線上にある大きな目標なのである。しかしコンシューマレベルにおいては、徐々にこれが実現の方向へと向かっている。
筆者の記憶では、最初に製品化されたソリッドメディアに映像を記録するビデオカメラは、Sharpの「インターネットビューカム」こと「VN-EZ1」であったろう。最初の製品化が'99年3月、MPEG-4の規格がまとまって間もない頃だ。これ以降、この分野にかけてSharpはリーディングカンパニーであり続けることになる。というのも、MPEG-4記録カメラというジャンルに他社がまったく追従しなかったのである。
VN-EZ1の発売から約3年、ようやくシャープ以外の大手家電メーカーからMPEG-4カメラが大々的に販売されようとしている。それが今回取り上げるPanasonicのSV-AV10、通称「D-snap」なのである。
サイズ的にはフリップ型ケータイより若干厚みがある程度 |
D-snapはレンズ位置やモニタの構造から、写真で見ると一般のビデオカメラのちょっと小さいヤツ、ぐらいに見えるかもしれない。しかし実際のサイズは、ほとんどフリップ型のケータイ程度である。このボディに動画・静止画・ボイスの録再生に加え、MPEG-2AACの音楽再生機能が詰まっている。Panasonicではこんな感じでインフォマーシャルを行なっているので、参考になるだろう。
さっき某カメラ量販店の売り場を覗いてきたのだが、これがなんとDVカメラコーナーに一緒に置いてあったりしたもんだから、多くの人が思わず立ち止まって「なによコレどゆこと?」ってな具合で手に取っていた。販売作戦もなかなかうまくいっているようだ。
■ まずはスペックをチェック
MPEG-4カメラなんて誰もが知ってるAV家電というわけではないので、まず先に本体周りの基本スペックから押さえていこう。
カラーバリエーションは、シルバー、ブルー、レッドの3種類。レンズはF3.6の単焦点で、光学ズームやデジタルズーム機能はない。撮像部はデジカメなどでおなじみのCCDではなく、有効画素数33万画素の1/4インチCMOSセンサーだ。CMOSは低価格スキャナなどでおなじみの撮像素子ですな。静止画撮影用にフラッシュも装備している。
前面にはレンズ、マイク、フラッシュを装備 | 液晶モニタは明るいところでも十分な輝度を持つ |
液晶モニタは2インチ。記録メディアはPanasonic製品ということだけあって、もちろんSDカード。本体にはUSBなどの外部接続端子はなく、パソコンとのやりとりはすべてSDカード経由で行なう。ただし製品パッケージには、SDカードリーダーは同梱されていない。そのほか端子としては、ヘッドホン出力とアナログAV入力兼用端子と、充電用DC INがある。電源は充電式バッテリを本体に内蔵し、充電は本体で直接行なうことになる。
SDカードは本体上面にセットする | 端子類は底面にあるため、コネクタを挿した状態では寝かしておく |
充電時間 | 連続記録時間 (MPEG-4) | 連続記録枚数 (静止画) | 連続記録時間 (VOICE) | 連続再生時間 (音楽) |
---|---|---|---|---|
約120分 | 約60分 | 約1,200枚 | 約90分 | 約90分 |
■ 気軽に使えるカメラではある
電源を入れるたび現われるモード選択メニュー |
だいたい概要を掴んだところで、実際に使ってみよう。まず電源投入だが、電源ボタンを2秒押しすると、モード選択画面が現われる。このモード画面は、電源を入れるたびに毎回現われる。一応最後に選択されたモードが選ばれた状態になるのだが、それを明示的に決定してやらなければならないという仕様は、ユーザーによって意見が分かれるだろう。
● 動画機能
まず注目の動画記録をやってみよう。動画記録は「MPEG-4 Video Codec V3」で、画質には4つのモードがある。各モードとも音声はビットレート32kbps、サンプリングレート8kHz、Monoで共通だ。
モード | 画像サイズ | 映像ビットレート | 64MBメモリ記録時間 |
---|---|---|---|
ファイン | 320×240ドット | 360kbps | 約20分 |
ノーマル | 176×144ドット | 220kbps | 約32分 |
エコノミー1 | 176×144ドット | 100kbps | 約60分 |
エコノミー2 | 176×144ドット | 64kbps | 約80分 |
そのサイズゆえ、ホールドにはちょっと工夫が必要 |
本体のホールドだが、普通のビデオカメラみたいに鷲掴みにすると、本体があまりにも軽すぎて、安定しない。さらにこれだと上面にあるシャッターを薬指で押さなくてはならないので、妙に力が入る。それよりもむしろ鉛筆を持つみたいな持ち方のほうが取り回しが楽のようだ。また、そんな感じで軽く構えて撮る感じのカメラであり画質なのである。
液晶モニタの反応は、なかなか速い。現状のデジタルカメラとほぼ同等の感覚で被写体を追うことができる。しかし録画されるムービーはだいたい8fps程度なので、画質劣化を差し引いたとしても、撮影中と撮影後の映像では印象にかなりギャップがある。
実際の画質は、サンプルを見ていただこう。撮影された動画は、ASFファイルとなるので、必要なコーデックが自動ダウンロードされ、Windows Media Playerで見ることができる。
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ビデオに慣れた目からすると、画質そのものよりもコマ落ち感に違和感を感じる |
また動画記録はカメラだけでなく、付属ケーブルからアナログ信号も録画することができる。このページでは、ドラマを録って見ようという展開になっており、そうかそうかそういうのもアリかと実際にやってみた。
電源がOFFでも映像が流れ始めると自動的に録画が開始されるモードがあるので、ビデオのタイマーと連動した録画も可能だ。ただしビデオからの録画にはそれなりの時間がかかるので、ACアダプタを使用しなければならないが、それは仕方ないだろう。……ん? ちょっと待て。「仕方ないだろう」ってあーた、それを見るときはどーするのだ。AC駆動でしか録りきれないほど長いものを、バッテリだけで最後まで再生できるのだろうか。一応バッテリで60分ぐらい録画できるので再生もそのぐらいできそうだが、他にもいろいろ使ってたらとても保たないのでは……。
また長時間記録最大の欠点を発見。なんとMPEG-4の再生には、1ファイル内の早送りといった機能が全然ないのだ。つまり30分ぐらい見た途中で他のモードに切り替えたり電源を切ったら、次に続きから見るのはもう不可能なのである。いやまた30分我慢して最初から見れば別だが、バッテリもないし。あの……まあいいや、次行こう。
● 静止画機能
モード | 記録枚数 |
---|---|
ファイン | 約440枚 |
ノーマル | 約880枚 |
エコノミー | 約1,760枚 |
静止画撮影は、メモリを有効に使える手段として、動画よりも満足度が高い使用法であろう。これも画質モードがファイン、ノーマル、エコノミーの3種類ある。画像サイズは640×480ドットのVGAサイズ固定で、モードは圧縮率の違いのみ。
記録枚数の比からすると、モードごとに2倍の圧縮率になっているようだ。しかし現実にはファインモードで64MB SDカードに440枚も撮れれば、もうOKだろう。
最短撮影距離は約50cmなので、あまり小さいもののアップには向かない。D-snapのモニタ上ではフォーカスがわかりずらいので、この距離は覚えておく必要がある。
実際に撮影してみると、本体のモニタでは圧縮モードの違いがほとんどわからない。どれも結構綺麗に撮れているように見えてしまうのである。しかしパソコンに転送して実際のサイズで見ると、現在のデジタルカメラのレベルからすれば、ファインモードでも物足りない感じは否めない。使い方としては、いわゆる「写真」としてよりも、メモやスナップ、そしてシール印刷という、トイカメラ的な使い方をせよ、ということであろう。簡単に撮れて手軽は手軽なのだが、筆者の感覚では縮小して個人のWEBサイトに載せるぶんには問題ないものの、そのままのサイズで載せるのは無理、といったところだ。
ファイン | ノーマル | エコノミー |
---|---|---|
本体のモニタ上ではほとんどわからないが、パソコン上で見るとかなり違いがある |
■ オーディオ機能はかなりいける
次にD-snapの半分を占める、オーディオ機能を試してみよう。
● ボイス機能
ボイス録音は、レンズ下にあるマイクを使ったボイスメモ機能だ。録音される音はやや硬めで、圧縮くさい丸まった音質劣化がなく、非常に明瞭。圧縮設定などはなく、音質は固定で、64MBのメモリに約240分の録音が可能である。筆者は今までMP3プレーヤーや「Psion 5mx」などの付加機能であるボイスメモを頻繁に使ってきたが、ボイスメモ専用機ではないデバイスの録音クオリティとしては、上質の部類に入るだろう。
難点といえば、マイクの特性上「フカレ」に弱いようで、口元に近づけてのメモ録音はポップノイズが多く、実用的ではない。また録音に至るまでメニュー操作が必要なので、ボタン一発すぐに録音、というわけにはいかない。どちらかというと準備時間が取れる、会議や取材録音といった用途だろう。
本体での再生は、ジョグダイアルで早送りもできて、長時間の録音でも効率よくポイントを探せるのは便利だ。長時間記録はこうでなくちゃね。
一方ボイス録音したファイルをパソコン上で見ると、拡張子がVM1となっており、特にアプリケーションへの割付けはない。またプロパティが読みとり専用の隠しファイルになっていることから、どうもパソコン上ではストレートに再生させたくないようだ。
● 音楽再生
SDカードで音楽を扱う上でのキーとなる「SD-Jukebox」 |
D-snapでは、MPEG-2 AACのサウンドファイルを再生する音楽プレーヤーとしても使える。ただしAACのエンコードおよびファイル転送には、別売の「SDオーディオPCレコーディングキット」なるものが必要である。これはアイテム道の藤原クンが昨年大自爆したものと同じもの。PanasonicのAACエンコード環境は、このキット1本にまとまっているようだ。
キットのメインは、SD-Jukeboxというソフト。一見よくあるCDプレーヤーソフトみたいな外見だが、CDからAACへのエンコードおよびMP3からの変換などを行なう。またSDカードへのセキュア転送は、このキットと同梱のリーダー/ライターでしか行なえない。
付属のヘッドホン。音質はいけてない |
一般的といわれている96kbpsでCDからリッピングし、SDカードに転送してD-snapで聴いてみた。WMAが96kでCD相当などと謳った時には全然賛同できなかったが、AACの96kは割といい感じだ。MP3特有の閉塞感もなく、逆に外側に向かってツルッと一皮剥けたような、なかなか開放感のある音質である。ただ付属のインナーイヤーヘッドホンは、この手の製品にありがちなオマケ程度のもの。ちゃんとしたヘッドホンで聴けば、より爽快感を得られるだろう。
欲を言えば、プレーヤーとしてD-snap側になんらかのEQが欲しかったようにも思うが、まあ機能的にギリギリだろうから贅沢は言わないでおこう。
■ 総論
最近PanasonicではH"(エッジ)の端末にもSDカードを搭載しており、ボイスメモや別売のカメラユニットを使った画像保存といった方向も打ち出している。ある意味D-snapは、電話機から電話機能を全部取っ払って、とにかくSDカードを使ってできることを一度まとめてみました、というようなデバイスなのかもしれない。ボディ形成やバッテリ形状など、携帯電話技術を連想させる部分も少なくない。
D-snapを十分楽しむためには、湯水のようなメモリ量が必要だ。音楽をCD2~3枚分入れて、写真100枚ぐらい撮って、ビデオを30分ぐらい撮って、とやっていたら、とても128MBぐらいでは歯が立たない。まさかこれはSDカードの販促物として作られたのではあるまいな、と勘ぐりたくなるぐらいである。
現在発表されているSDカードの最大容量は512MBだそうで、ロードマップによると今年中には1GBを達成しそうである。店頭で大容量SDカードを探したのだが、現時点では256MB以上のSDカードはほとんど市場に出回っていないようだ。
D-snapで撮影した映像は、そのクオリティから保存や記録には向かない。その場で「へーこんなちっちゃくてほんとに写ってる写ってる、面白いネー。」で瞬間的に映像を消費して終わっちゃう感じなのである。ある意味、若さと時間は永遠だと思っている若い人に持たせるものなのかもしれない。おじさんぐらいになっちゃうと、どうせ子供撮るなら嫁入りぐらいまで残しておきたいなどとセコいことを考えがちなのヨ。
だが基本的にはおおむね気に入ったデバイスだ。作りもしっかりしているし、小さいのでとりあえずバッグの隅にでも突っ込んでおいてジャマにはならない。プライベートなメモデバイスとして携帯しようか、と考えているところである。
□パナソニックのホームページ
http://www.panasonic.co.jp/
□製品情報
http://www.panasonic.co.jp/products/dvc/DIGICAM/av10/
□関連記事
【2001年12月18日】松下、SDカードを使用する携帯電話サイズのMPEG-4カメラ
―AACのステレオ再生、ボイスレコーディング機能も搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011218/pana.htm
(2002年1月30日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp