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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第47回:こだわりの暴走列車「カノープス MTV2000」
~64,800円のTVキャプチャカードとは何か~


■ まだまだ上があった!

 昨年アキバで行列を作らせたヒット商品は数々あるが、「まーだいたいこんなもんじゃないの?」程度で停滞していたTVキャプチャクオリティにカツを入れ、TVキャプチャカードの頂点として君臨したのがカノープスの「MTV1000」であった。その理由はいろいろと考えられるが、やはりカノープスらしい安定した動作と、エンコード品質がキーだったろう。

 そのカノープスからさらなる頂点を目指した新キャプチャカード「MTV2000」がまもなく発売される。「まだ上があるのか」、「もういいだろその辺で」という声も無いわけではないだろうが、まだまだカノープス技術陣はそんなもんじゃ容赦しないのである。お値段もグンとふるって64,800円(税別、実売は5万円台になりそう)。どうよ。いやどうよって言われても困るとは思うが。

 MTV2000のポイントは、高機能フロントエンド・デジタルシグナルプロセッサ「Triple 3D Video Processor」と、「10Tap デジタルゴーストリデューサー」搭載による画質補正である。また「DVD-MovieAlbum for Canopus」が付属するので、もしDVD-RAMドライブを持っていれば、DVD-RAMへ向かってダイレクトにテレビ番組などを録画することができる。

 TVキャプチャカードとしては破格のスペックと価格のMTV2000。その実力を早速試してみよう。


■ まず新機能をチェック

MTV2000のハードウェア。ドータカードが目立つ

 カード本体を眺めてみると、まず目に付くのがドータカードとして取り付けられている「Triple 3D Video Processor」だ。上面に貼ってあるステッカーが、熱で焼かれた3年間挿しっぱなしのビデオカードを想像させるかもしれないが、違うのだ最初からこういう色なんである。ここが3次元Y/C分離、3Dノイズリダクション、タイムベースコレクタ(TBC)、オートゲインコントロール(AGC)といった新機能を提供するエンジン部分になる。

 いっぽうソフトウェア環境としては、前モデルMTV1000とほとんど変わりない。すなわち映像視聴の中心は「MEDIACRUISE」であり、予約録画は「TV Recording Manager」である。当然上記のハードウェア設定部分が増えているわけだが、先日リリースされたMTV1000用のアップデートプログラムにもこの設定が存在するところを見ると、ソフトウェアは両製品共通のようだ。もちろんMTV1000にはTriple 3D Video Processorがないので、設定は使用できなくなっている。

視聴の中心はMEDIACRUISE。スキンを変更すれば精悍なイメージになる

ソース設定に現れるビデオプロセス機能

 ダイアログに現われる設定としては、ビデオプロセッシングとして「3次元Y/C分離」、「ノイズリダクション-弱」、「ノイズリダクション-強」が選択できる。つまり3次元Y/C分離とノイズリダクションは併用できない。加えて別パラメータとして「ゴースト低減機能」が選択できる。

 一応基本的なことを押さえておくが、テレビの受信状態が既にかなり良好な場合、ノイズリダクションやゴースト低減機能を使っても、それ以上画質が良くなるわけではない。これらは入力信号に問題がある時に使用すべき機能だ。筆者宅では難試聴対策のため、地上波もCATV経由で見ているので、受信状態はかなり良好である。したがって地上波を見ている分には、ノイズリダクションやゴースト低減機能を使う意味合いは薄い。

 一方良好な受信状態でも効果を発揮するのが、3次元Y/C分離。ビデオ撮影部分の画像に対して明確な差は認められないが、テレビ番組に挿入されるスーパーの輪郭部分に発生する細かいちらつきがかなり低減される。現在地上波の番組では、人物のしゃべりなどに対してもいちいちスーパーを入れて強調するので、これが効果を発揮する局面も少なくないことだろう。

 しかしこれらビデオプロセッシングのパラメータを変更するためには、いちいち設定ダイアログを開かなければならない。番組を見る際にチャンネルごとに設定するといった使い方には対応していない。なお、編集部がいつものようにサンプルを作ってくれたので、そちらも参照していただきたい。


TVチューナの画質評価も同時にするため、編集部でRF入力からの録画を行なった。
 素材には、カノープス株式会社のプロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用している。
 そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをキャプチャした(すべてCBR)。
 上の各サムネイルは、左の画像の赤枠内を拡大したもの。各モードの画像をクリックすると全景が表示される。なお、静止画は「PowerDVD XP」で再生しキャプチャした。

(c)CREATIVECAST Professional

 MTV1000(参考)MTV2000
設定なし3次元YC分離ONノイズリダクションON
10Mbps
VBR
(MAX15Mbps)
  10Mbps(VBR) 3次元YC分離ONの動画サンプル mtv2_15m.mpg(22.8MB)
8Mbps
(CBR)
  8Mbps(CBR) 3次元YC分離ONの動画サンプル mtv2_8m.mpg(20.0MB)
5Mbps
(CBR)
  5Mbps(CBR) 3次元YC分離ONの動画サンプル mtv2_5m.mpg(13.0MB)
MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


■ ノイズリダクションの効果

番組予約ウイザード中に、入力パラメータの設定ができる

 今まで行なってきた設定は、リアルタイムの放送や外部ビデオ入力に対して使用するもの。従って既に録画してしまったMPEG-2ファイルの再生時には、これらビデオプロセッシング機能を利用することはできない。

 なーんだ、と思うにはまだ早い。MTV2000では、録画予約設定時にこれらのパラメータを設定することができるのである。こうして最適化された画像をエンコードして記録するわけだから、エンコードの効率も良くなる。すなわち、つまらぬノイズ成分のために無駄なデータを消費することなく、ビットレートに応じた画質が得られる。

 実際にアンテナを使ってのTV視聴では、VHFとUHF帯域では見え方が違うというケースも多い。またロケ取材が中心の番組や、16mmフィルムのテレビ映画のみノイズリダクションを、というケースもあるだろう。予約データにこれらの設定を含めることで、チャンネル単位は当然、番組ごとに最適なセッティングを行なうことができる。

 MTV2000によるノイズリダクションは、よくあるノイズリダクションのようにONにすると映像全体がぼやけてしまうようなものではない。旧来のノイズリダクションは、画面の周波数特性をいじる「フィルタ」であるため、ノイズ以外の部分にも影響が出てしまう。一方MTV2000のデジタル3次元ノイズリダクションは、ノイズには時間に対して関連性がないという特徴、つまりこのフレームにはあるが次のフレームにはないといった時間軸に対する特性を読みとってリダクションする。そのため、ベースの画像に対して影響が少ないのが特徴だ。新搭載のTriple 3D Video Processorとは、このあたりの時間軸に関係した補正を行なう機構と言っていいだろう。この技術は俗に言うフィルタとは違うレベルと考えるべきだ。

 そしてTriple 3D Video Processorの提供する機能がもっとも効果を発揮するのは、録り貯めたVHSなど、劣化が始まったアナログソースのデジタル化ではないだろうか。試しに筆者が10年以上も前に録ったビデオをMTV2000に入力し、ノイズリダクションを行なってみたところ、単色部分で感じるVHS特有の粒子ノイズもなめらかになり、しかも輪郭のヨレヨレした部分もかなり綺麗になった。ノイズリダクションだけでなく、デジタルTBCの効果と相まって、VHSをそのまま見るよりも遙かにいい感じだ。もともとの輪郭の甘い部分はそのままだが、それでも10年余の歳月を考えれば完全に映像が蘇ったと言っていいだろう。


■ DVD-RAMへ直書きサポート

MTV2000に付属するDVD-MovieAlbum for Canopus

 カノープスのMTVシリーズがPanasonicのDVD-MovieAlbumへの正式対応したという点は、実は意外に大きな意味合いを持つ。DVD-MovieAlbumは、DVD-RAMに対してビデオレコーディングフォーマット(VR)で書き込みができる数少ないアプリケーションの1つ。しかし、今までDVD-MovieAlbumがリアルタイム書き出しをサポートしていたハードウェアは、アイ・オー・データのGV-MPEG2/PCIしかなかった。(このあたりのレポートはすでに行なっている。忘れちゃった人はバックナンバーで復習しよう)

 ところが、GV-MPEG2/PCIはチューナのないただのMPEG-2ハードウェアエンコーダなので、実質パソコン上でテレビ番組をDVD-RAMにVRでダイレクトに録るということはできなかった。このあたりは家電のDVD-RAMレコーダの方が進んでいたのである。

 では具体的にどうやるか。通常HDDに録画する際には、予約設定の録画動作を「TV Recording Managerで録画する」を選択するのだが、ここを「DVD-MovieAlbumで録画する」に指定するだけ。続いて録画クオリティの設定をする。ところがなぜかここでフォーマットが違う旨のアラートが出るんだなぁ。ありー? と思ってUDF2.0でフォーマットし直したりしてみるのだが、必ずこのアラートが出る。とりあえずほっといても録画はできるのだが、このあたりDVD-RAMフォーマットの複雑さと相まって、なんだかよくわからない。

 まあそんなこんなで予約設定をこなすと、予約時間にはDVD-MovieAlbumが自動的に起動して、DVD-MovieAlbumがDVD-RAMに対して番組録画を行うという寸法だ。

録画動作から「DVD-MovieAlbumで録画する」が選べるようになっている 続いて画質と録画解像度を指定。この設定はDVD-MovieAlbumに引き渡される なぜかフォーマットが違う旨のアラートが出る

「DVD-MovieAlbumインポート情報の出力」をチェックしておくと、別ファイルにインポート情報が出力される

 またHDDへの録画でも、「DVD-MovieAlbumインポート情報の出力」をチェックしておくと、後からVR互換フォーマットのMPEGファイルとしてDVD-MovieAlbum内のプログラムへインポートできる。すなわちDVD-RAMへVR録画されたものと同じ状態としてコピーすることができるのだ。

 こういったHDDとDVD-RAMとのやりとりはHDD/DVD-RAMレコーダでは実現できていたわけだが、今回MTVシリーズがDVD-MovieAlbumへ正式対応したことで、ようやくパソコンのテレビ録画も家電レコーダに追いついたことになる。

 それを助ける形で、MTVシリーズで録画した映像をビデオ出力するためのカード、「VideoGate1000」も最近発売になった。ようやくこの面でも家電レコーダと同等の環境を構築することができるようになったわけだ。もっともVideoGate1000はMPEGの再生画面しか出力できないので、パソコンの近くにテレビがあるかどうかが問題になるが……。


■ 総論

 MTV2000のエッセンスを取り出すと、やはりTriple 3D Video Processorに集約される。コンシューマでここまでやるか、という技術レベルに足を踏み入れた感じだ。目玉であるノイズリダクション機能は、VHSなどの古いコンテンツをブラッシュアップしてキャプチャする用途では絶大な力を発揮するだろう。

 一方で放送受信状態が悪いというケースでは、キャプチャカードで無理に補正する前にまず、根本的にRF信号の改善を試みるべきだと思う。アンテナまでの結線を見直すとかブースターを入れるとかといった手段だ。

 このように受信に関してはまだ改善方法があるのに対し、古いビデオの映像というのは、今までコンシューマではそう簡単に手が出せなかった部分。ここに手が入れられるのは、MTV2000の大きなポイントだろう。

 機能的に優れているのはよくわかったが、64,800円のTVキャプチャカードという存在をどのように考えるか、人によって意見が分かれるところであろう。単にTVキャプチャするだけなら、この値段で先週紹介した「DHD4000K」が楽々買えてしまうのである。あるいはすでに土台となるPCはあるにしても、「MTV2000+VideoGate1000+DVD-RAM/R+HDD」で、Panasonic「DMR-HS1」の実売価格と並んでしまう。すでに十分良好な受信状態であったり、VHSからのキャプチャなどを行なうつもりがない人にとっては、メリットが見えにくい製品ともいえる。

 ある意味MTV2000とは、Triple 3D Video Processorの機能に価値を見いだせる人のためのツールという気がしないでもない。

□カノープスのホームページ
http://www.canopus.co.jp/
□製品情報
http://www.canopus.co.jp/catalog/mtv2000/mtv2000_index.htm
□関連記事
【1月11日】カノープス、TVキャプチャカードのフラグシップ「MTV2000」
―3次元Y/C分離、GNR搭載。DVD-RAMへの直接録画も可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020111/canopus1.htm

(2002年2月13日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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