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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第52回:DVD+R対応リコー「MP5125A」登場
~ これで役者は揃ったが…… ~


■ 再生互換大幅アップ

 1度しか書けないという不自由なCD-Rが広く普及した理由を分析してみると、パソコンのデータが書けるというだけでは全然ダメで、既存メディアである音楽CDとして利用できるというところが大きな意味を持っていた。CD-Rは、1台のドライブ、また1種類のメディアが複数の目的に利用できるところが便利だったのである。

 もちろんDVDも、多目的用途を前提に策定された。DVDのVはVersatile(多方面の、用途の広い)のVなのである。ウソツケ最初はVideoのVで、後からVの付くほかの単語一所懸命調べて持ってきたくせによ、などと突っ込んではイケナイのだよその辺の事情はわかってやれみんなオトナなんだからな。もっともVersatileには「変わりやすい」、「気まぐれ」という意味もあるから、別の意味でツッコミがいのある語源となってしまったというネタは後々使えると思うので、各自記憶するなりしておくといいかもしれぬ。

 ある程度パソコンに詳しい人なら、その多くは新しいストレージメディアである書き込み型DVDには興味のあるところだろう。しかしストレージとはいえ、実際には一般のパソコンユーザーが持つデータで4.7GB(1,024繰り上がりで計算すると約4.3GB)にもなるものというのは、ほとんど動画ぐらいしかない。市販メディアのDVD-Videoがバックアップできるわけではない現状では、なきゃないで済むモノであることもまた事実だ。

 そんな書き込み型DVDメディアのメリットをうまいこと活用するには、どうしてもビデオに手を出さないことにはおもしろくないわけであり、さらにCD-Rの時のようなうまみを味わうには、既存メディアとのコンパチビリティが重要になってくる。つまり市販品と同じようにDVDプレーヤーにかかる代物ができないことには、DVDという規格のメリットの半分は捨てているようなものなのである。

 Electric Zooma! でも最初のDVD+RWドライブ「リコー MP5120A」を検証したが、当時は後々DVD+Rメディアも出るってのもどーだろうと思ったものだ。というのもすでにDVD+RWである程度の互換は達成しているという印象を持っていたため、ライトワンスのメディアが必要なのかと思ったからだ。しかし実際にDVD+R対応ドライブとメディアを使った再生互換テストの結果を見ると、意外にDVD+RWが読めなかったプレーヤーやドライブ多くがあり、それらが+Rでは読めるようになっている。それなら存在意義もあろうかというものだ。

 ちなみに先週掲載されたこの再生互換テストは、1GB未満のデータを書き込んで、ダミーデータを書かない状態でのものだ。2GB以上のデータを書いたところ、すべてのプレーヤーで再生できることが確認されたので、ここで表を再掲載しておこう。

メーカー 型番 動作検証
DVD+R 【参考】
DVD-R DVD+RW DVD-RW
Ver1.1
専用プレーヤー
ZENIX Z-2000
Z-315L
サムスン DVD-618J ××
ソニー DP-F21
DVP-CX860 ×
日本マランツ DV7000 ※1××
パイオニア DV-S747A
DV-525
DVL-919
ビクター XV-D721 ※2
ブエナ・ビスタ BVHE-SN1
松下 DVD-E20 ※1×
DVD-RV70 ××
DVD-ROMドライブ
AOpen DVD-9632
DVD-1240/ASH ××
アイ・オー・データ機器 CDRWD-i1210J/1394
東芝 SD-M1502
SD-M1212 ××
パイオニア DVD-103R ××
DVD-116
松下 SR-8587 ※1××
リコー MP5125A(DVD+R/RW)
MP9200A
ロジテック LDV-A16040F
LDR-214F(DVD-R/RW) ×
ゲーム機
SCEI プレイステーション2
SCPH-10000 + DVD プレーヤー Ver2.01
※1××
SCPH-30000 + DVD プレーヤー Ver2.02 ××
マイクロソフト Xbox ※1
※1=1.1GB以上書き込んだ場合は再生可、それ以下では不可
※2=再生できない場合があった
※この動作結果は、あくまでチェックした個体での動作状況であり、同じ型番の全ての製品の動作・非動作を保証するものではありません。また、編集部では個別の動作状況についてお答えできません。ご了承ください。

 さてElectric Zooma! でも4月12日に発売予定のDVD+R対応ドライブ、リコー「MP5125A」を発売に先駆けてお借りすることができたので、その使用感などを試してみよう。なお今回お借りしたのはまだ最終製品版では無いため、発売時には何らかの変更があるかもしれないことをお断わりしておく。


■ バンドルソフトに微妙な変化

 「MP5125A」は、前モデル「MP5120A」の後継モデルとなる。つまり「MP5125A」がリリースされたら、「MP5120A」は市場から消えるということになる。外観はほとんど変わらず、性能面では新たにDVD+Rの書き込みに対応した以外は、大きな変化はない。いやもちろんDVD+Rが使えるようになった意味合いは大きいのであるが、見た目は一緒なのである。従ってドライブ云々というところよりも、前モデルとの大きな差はバンドルソフトによる使い勝手の差にあると言えるだろう。

 前モデル「MP5120A」と、今回の「MP5125A」のバンドルソフトを比較してみると次のようになる。

内容MP5120AMP5125A
ソフトウェアDVDプレーヤーWinDVDWinDVD
DVDオーサリング、ライティングMyDVDneoDVD standard
総合ライティングソフトB's Recorder GOLDB's Recorder GOLD
UDFパケットライトB's CLiPB's CLiP
ビデオ編集MotionDV StudioWinProducer
画像管理DIGICLIP
ミュージックプレーヤーEarjamEarjam
ライティングソフトDrag'n DropCDDrag'n DropCD
リコーのバンドルソフトは、単一のインストールメニュからインストールできるのが特徴

 画像管理ソフトがなくなって、ビデオ編集ソフトがDV系だった「MotionDV Studio」から、MPEGにも対応した「WinProducer」に変更されているのは興味深い。またオーサリングソフトも、「MyDVD」から「neoDVD standard」へ変更されている。そのあたりを中心に触ってみよう。


■ フレキシブルな「WinProducer」

独特の操作性を持つ「WinProducer」

 WinProducerは、ソフトウェアDVDプレーヤーでおなじみWinDVDの開発元、InterVideoの製品だ。発売されたのは去年の暮れだが、今回のバンドルではVersion2.0となっている。

 対応ソースはMPEG、AVIの動画をはじめ、静止画はBMP、GIF、JPEG。オーディオはMP3、WAVといったところだ。まあ標準的であろう。一見するとオーソドックスなレイヤー型編集アプリケーションのように思えるが、ちょっと癖のあるソフトだ。左のエリアに素材をインポートし、タイムラインに並べることで編集するわけだが、タイムラインに並べたクリップ同士を吸着する機能がないので、隙間が空きやすい。

 一方隙間ができないようにクリップをぎゅーっとくっつけてゆくと、今度は同じトラック内で重なって、その部分がトランジションとして設定される。1つのトラックでトランジションが設定できるのはいいアイデアだが、吸着機能がないので、それが裏目に出ている感じだ。

 しかしかなり革新的なところもあって、1本のトラック内でトランジションが設定できるので、複数のトラックでトランジションが同時に使えたりする。またトラックごとにエフェクト用のトラックが用意されるので、トランジションをまたいで全体にフィルターをかけるとかいったことができる。こういった機能を組み合わせていけば、結果として非常に複雑な映像を作ることができる。

キーフレームの設定変更はかなり煩雑

 弱点といえば、キーフレームの基本設計にかなり問題がある。例えばビデオに文字を入れるには、入ってきて、止まって、出て行く、という3つの動きが必要だ。動きの境目にそれぞれキーフレームが必要になるので、スタートからエンドまでで合計4カ所のキーフレームが必要になる。多くのソフトでは、文字は文字、動きは動きと別々に制御するのだが、WinProducerの場合は文章の内容も全部キーフレームの中に格納するので、動きはそのままで文書だけ変えたい場合には、4つのキーフレームを全部エディットしなければならない。

 タイトルの動きをプリセットしたパターンも大量に用意されているのだが、そこにはサンプル文字「Your Title, Your Name, Jan, 1 2002」というのが入っており、自分なりのタイトルにするときは、この4つのキーフレームの内容をいちいち全部書き換えるのである。しかもキーフレームをマウスで直接選ぶことはできず、現在時間を示す赤い線をチョー小さいキーフレームマーカーの上に正確に置いてからマウスを右クリックしなければならない。筆者はその事実を知ったとき、これは何かの修行デスカと思った。

 編集の細かいことを言い出すときりがないので、あーそーですかと放置しておいて、出力を見てみよう。出力フォーマットはプリセットから選択するようになっており、DVD、VideoCDなどのMPEG系、AVI、ASF、WMVとなっている。エンコーダは独自のものを搭載しており、ちなみにDVDはというと、プリセットでは6.4MbpsのCBRである。

 [クローン]ボタンを使ってプリセットをコピーすると、若干ではあるがパラメータを変更できる。だいたいはおなじみのものだが、モーションベクトルの縦横をユーザーが指定できるのは珍しい。モーションベクトルは動き検索を行なうときの触手のようなもんである。モーションベクトルが長いほど正確な動き予測ができるので画質が向上するが、あんまり長すぎるのもDVDの規格違反になるそうである。WinProducerでは16×16まで設定できる。

出力のプリセットは現実的なものが揃っている コーデックは自社開発。拡張設定ボタンで細かい設定ができる ビデオの拡張設定では、モーションベクトルも設定できる

 多くの人は、MPEGファイルの編集が気になるところだろう。ライバルと目されるPowerDirectorには、再エンコードせずに編集できるモードを備えていたが、WinProducerにはそのような設定はなく、残念ながら全体的に再エンコードされるようだ。ただエンコーダ自体はなかなかできがいいようで、元のデータが良ければ再エンコードでもそれほど画質は落ちない。エンコード速度は実時間の4倍程度であった。

 実はオンラインマニュアルにはオーサリング機能もあると書いてあるのだが、今回インストールしたものではその機能が出てこない。正式出荷バージョンにはあるのか、あるいはバンドルバージョンにはもともとその機能がないのかは、現時点では不明である。


■ 将来的にも期待できる「neoDVD」

 オーサリングソフトとしてバンドルされているメディオストリームの「neoDVD standard」は、昨年11月末に日本でも単体売りがスタートしたオーサリングソフトである。バンドル製品としてはそれより1カ月ほど前からお目見えしていた。

 実はこのソフト、筆者は早くから注目しており、いつか取り上げようと思っていたのだが、のちのち上位エディションの「neoDVD plus」が出るよー、という話だったので、じゃあそのときにしよー、と思っていたのである。

 neoDVD standardは、前モデルにバンドルのMyDVDの代わりというだけあって、機能的にはかなり近い。操作性の面では機能が整理され、むしろMyDVDよりも簡単に感じる。ファイルをインポートするだけで自動的にDVDメニュー作成が完了するフレンドリーさや、DVカメラから入力した映像をダイレクトにDVDメディアに書き込むという機能も、基本的にはMyDVDと同じだ。

各種ファイルをビデオリストに読み込むと…… 「メニュー」タブにはすでにメニューができている

 ただこのダイレクトディスクレコーディング機能に関しては、動作的にちょっと違う。MyDVDがキャプチャの際のバッファ領域をHDD上に大量に必要としていたのに比べ、neoDVDはHDD上にあまりバッファを必要としない。リアルタイム書き込みが間に合わなくなったら一時的に書き込みを止めて、DVD+系の特徴である「ロスレスリンキング」機能を使い、メディア上で繋ぎ録りしてしまうのである。同じようなことができても、よりDVD+系の特徴が出せるということで採用されたようだ。

 ダイレクトに映像をディスクに書くという機能は、パソコン上ではパナソニックのDVD-RAMとDVD MovieAlbumの組み合わせで、DVD VRフォーマットで書き込むことにより実現されている。しかしDVD-RAMでは、ハードウェアのMPEG-2エンコーダの出力結果を書き込むというスタイルだ。ところがneoDVDは、ソフトウェアエンコードだけでリアルタイムにメディアに書き込むわけである。

 DVD+RWには、「DVD+RW VR」という記録フォーマットがある。これはDVD VR規格の+RW版に相当するもので、DVD+RWのビデオレコーダなどメディアに直接レコーディングする機器で採用されている。面倒なしにメディアにばんばん書けるのは結構だが、あとでいらないところを取ったりといった編集ができないのでは、保存メディアとして本格的な使用は辛い。このあたりはDVD-RAMではDVD MovieAlbumで可能だが、現状のneoDVD standardではできない。

 しかし将来的にはバージョンアップによりこの機能を搭載する計画があるという。そうなるとDVD-RAM陣営は、アドバンテージの一つを失うことになる。


■ 総論

 強力な再生互換というメリットをひっさげて登場したDVD+R対応のMP5125Aは、ドライブの価格は前モデルと大差ないことから、おそらく従来通りのペースで受け入れられるだろう。+Rの書き込み速度だが、+Rでも+RWでも同じ2.4倍速というスペックは、CD-RとRWの関係を想像していた人には残念だ。しかしそれだけ+RWが完成された技術であるということかもしれない。

 ライトワンスのメディアにはそれなりの価格メリットがあってしかるべきだが、今のところ+Rメディアの価格は、1,000円前後と予想されている。対する-Rはすでに600円を切るものも登場したことから、台湾勢の本格参入による低価格化の目星はついているが、+Rメディアの製造に関してはまだ国内大手が数社手を挙げている程度で、大幅な低価格化はまだ具体的な手応えがない。

 ではリコーのDVD+R/RWがシェア的に不利な立場にあるかというと、そうでもない。現在書き込み型DVDには規格が5つもあるが、ドライブごとの実態で見ていくと、DVD-R/RWはパイオニアだけ、DVD-RAM/Rはパナソニックだけが製造している。規格は5つあるが、ドライブは三つ巴というか三すくみというか、そういう状況なのである。ユーザーとしてはリライタブルメディアに互換性がなくても押さえで-Rがあるからいいや、という考えがあり、台湾系メディア製造メーカーは-Rが2つのドライブでサポートして頭一つ分抜け出しているから参入してきているに過ぎない。

 +Rの登場は、ある意味+RWの存在を補強する材料と見ることもできる。しかし意地の悪い見方をすれば、すでに決戦の鍵を握るのは規格の優位性よりも、導入・ランニングの両コストに移っている。完全に消耗品となるライトワンスメディアをどのぐらい低価格で供給できるかが勝負だ。

 リコーとしては、メディアの値段が下がればドライブは普及するが、自社のメディア売り上げが下がるのもまた困るという、微妙なバランスの綱渡りをしばらく続けなければならないだろう。

□リコーのホームページ
http://www.ricoh.co.jp/
□製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dvd/drive/mp5125a/index.html
□関連記事
【3月11日】リコー、DVD+R書き込みにも対応したスーパーコンボドライブ
―プレイステーション 2でも再生可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020311/ricoh.htm

(2002年3月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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