米Dolby Laboratoriesが3月26日(現地時間)、音声圧縮技術「MPEG-4 AAC」に関連する特許を一括してライセンスすることを発表した。AACは、Digital Audio Laboratoryの「圧縮音楽フォーマットを比較する~その3」で検証したが、ここで改めてAACの存在意義や今後の見通しなどについて、考えてみたいと思う。
AACは映像圧縮規格MPEG-2または、MPEG-4で使われる音声圧縮方式である。'97年4月に国際標準化機構(ISO)及び、国際電気標準会議(IEC)による共同監督の下に、ISO 13818-7として標準化されており、もともとの正式名は「MPEG-2 Advanced Audio Coding」というものであった。そして、MPEG-2ベースで放送される国内でのBSデジタル放送においてAACが採用され、その意味では実用化が進んでいる方式である。
MP3がMPEG-1のAudio Layer 3として位置付けられているのと同様、AACはMPEG-2の音声圧縮方式という関係になる。その後、より低ビットレートが要求されるMPEG-4でも採用されている。一般的にはMPEG-1ベースのMP3よりもMPEG-2ベースのAACの方が高音質とされているが、実際に本コーナーで行った検証データからすると、MP3のほうが高音質という結果ではあった。おそらく、AACに比べ、既にかなりチューニングが進んでいるMP3のほうが、現状では結果として音がいいということなのだろう。
兄弟関係ともいえるMP3とAACだが、こと音楽データフォーマットとして見た場合の普及具合いには、雲泥の差がある。もちろん、MP3のほうが圧倒的に普及しているのだ。やはりその背景には、プロテクト、著作権保護機能の問題があると考えられる。
■ 著作権保護機能とセットで提供されるAAC
AAC自体にはMP3と同様に著作権保護機能などは装備されていない。しかし、実際に流通しているAACのデータは著作権保護機能がセットとなっている。例えば、「Liquid Audio」は圧縮技術にAACを採用しているが、SDMIに対応したオリジナルの著作権保護機能が搭載されており、この2つがセットとなっている。これにより、MP3のように簡単にコピーすることはできない。また、パナソニックのSDオーディオプレーヤーや、東芝のモバイルオーディオプレーヤーでもAACが使われているが、これもやはりLiquid Audioとは異なるが、著作権保護機能が搭載されている。
おそらく、こうした著作権保護機能を嫌って、音楽データフォーマットとしてAACが一般に普及していないのだろう。ただ、ちょっと調べてみると、AACに対応した製品というのは結構いろいろとあることに気づく。代表的なものを、下表に掲載したので参考にしてほしい。この表を見ると、実はこんなにいっぱいあったのか、という印象を受ける。
また、あまりポピュラーとはいえないものが多いが、フリーウェアやシェアウェアでもAACをサポートしているものがある。なお、この表に掲載したのは、基本的に音楽データフォーマットを扱うハードやソフトで、BSデジタル関連のデコーダやテレビチューナなどは省略している。
○ポータブルプレーヤー
日立 HDM-MP1 TDK D-XS2 三洋 SSP-HP7、SSP-PD7、SSP-PD10 東芝 MEA110AS、MEA212AS アイオーデータ MDM-H301、 MDM-H2X パナソニック SV-SR100 、 SV-SD80 、 SV-SD75 、 SV-SD70 、 SV-SD01 ビクター XA-SD1 MPman MP-D100 、 MP-D200
○カーナビ、ポータブルナビ、カーオーディオ
パナソニック KX-GT100V 、 KX-GP1L 、 CQ-SRX7000
○PHS端末および関連製品
パナソニック Picwalk P711m 、 Picwalk SH712M サンヨー RZ-RM1
○メーカー製ソフトウェア
NEC スマートジュークボックス Ver2.0 パナソニック SD-Jukebox Ver2.0、ED-Jukebox Liquid Audio Liquid Player
○オンラインソフト
そのほかにも、AACを用いた音楽配信サイトというのある。正確にはいろいろあったというべきだろう。AVEXが運営する「@music」や、ぴあの「@PIA TRACKS」、インディーズ系の「MusicWeb」、また@niftyの音楽配信サイト「music@nifty」などがLiquidAudioを用いたAACの配信をしていた。しかし、現在これらはすべてサービスを中止している。唯一配信を行なっているのがビクター・エンターテインメントが運営するサイト「なあ!(na@h!)」だ。これはパナソニックのSDオーディオプレーヤーで再生可能となっている。
また、インターネット上ではないが、PHSを用いた音楽配信サービスとしてNTT DoCoMo「M-stage music」と、DDIポケット「SOUND MARKET」があり、それぞれパナソニックのSDオーディオプレーヤー、東芝のモバイル・オーディオ・プレーヤーなどで利用可能。
■ 米Dolby LaboratoriesがMPEG4 AAC関連の特許を一括ライセンス
そんな中、3月26日に米Dolby Laboratoriesが、MPEG-4 AACに関連する特許を一括してライセンスすることを発表した。MPEG-2 AACではなく、MPEG-4 AACとなっているのが面白いところだが、ライセンスの中身を見てみるとMPEG-4 AACはMPEG-2 AACのライセンスを含むとある。基本的には同じ技術なので当たり前ではあるが、MPEG-4 AACのほうがより低ビットレートを実現したもの。ステレオでは40~48kbps、モノラルでは24~30kbpsの範囲で効果が発揮されるようチューニングされた技術である。
以前も紹介したが、このAACには特許がいろいろとあり、DolbyのほかにAT&T、Fraunhofer IIS-A、そしてSonyが保有している。それに今回Nokiaが加わり、5社の特許となった。したがってAACを利用するには計5社の許諾が必要となるが、Dolby Laboratoriesが窓口となり、一括許諾を可能にしたというのが、今回の発表の主旨だ。
気になる価格はコンシューマ用とプロ用、ハードとソフトでそれぞれ別々に設定されており、数によって価格が変わるようになっている。まずコンシューマ用のハードはデコーダが0.12~0.50ドル、エンコーダも同じく0.12~0.50ドル。一方ソフトはデコーダが0.25ドルで、エンコーダが0.27~0.50ドルに設定されている。プロ用は、デコーダが2.00ドル、エンコーダが20.00ドルという設定だ。
この価格を見ると、MP3よりも安い設定のように見える。MP3の場合ソフトのデコーダが0.75ドル、エンコーダが2.50ドルで、ハードのデコーダが0.75ドル、エンコーダが2.50ドルだからだ。ただし、よく読んでみると、このAACのライセンス価格はすべてチャンネル当たりとなっている。これはどういうことかというと、AACはモノラル、ステレオはもちろんのこと、最大48チャンネルのサラウンド・マルチチャンネルが可能なフォーマットとなっている。したがってステレオの場合2チャンネル分となり、価格は倍。MP3と同等かそれ以上の価格となる。ただし、ソフトの場合、上限がチャンネルあたり25,000ドルとなっているため、大量に生産するのであれば、MP3より安くなるかもしれない。
■ まとめ
まあ、価格はともかく、制度がしっかりし、ライセンスさえ受ければ問題のない製品が作れるようになったのは大きなポイントだろう。だからといって、即普及するとは到底思えない。しかし、ポストMP3として、AACがWMAやATRAC3と戦っていくなかで、ライセンスが明確化されたことで、一歩前進したとは確かだろう。
□http://www.dolby.com/のホームページ(英文)
http://www.dolby.com/
□ニュースリリース(英文)
http://www.dolby.com/press/aac_pr_0203_MPEG4.html
□AAC (Advanced Audio Coding)のホームページ(英文)
http://www.mpeg.org/MPEG/aac.html
□【3月27日】米Dolby、「MPEG-4 AAC」特許の一括ライセンスプログラムを開始 (INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0327/mpeg4.htm
(2002年4月1日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp