国産のMP3フリーウェアとして最も有名な「午後のこ~だ」のバイナリ配布が再開された。バイナリ配布が特許問題に抵触しないという判断からの再開であるが、今後MP3関連のフリーウェアはどうなっていくのだろうか? また、今回のバイナリ再配布にともない、機能もいろいろと強化されているので、実際に試すとともに、改めて音質も検証した。
前回、米Dolby LaboratoriesがMPEG-4 AACに関連する特許を一括してライセンスすることについてレポートしたが、その1週間後、あの「午後のこ~だ」がバイナリ配布を再開したというニュースが入った。
ご存知の方も多いと思うが、フリーウェアのMP3エンコーダ「午後のこ~だ」は2000年11月15日よりバイナリ配布を停止していた(一時再開したこともあったが)。その理由はMP3エンコーダの配布がドイツのFraunhofer IIS-Aと、フランスのThomson Multimediaの所有している特許にひっかかる恐れがあったからだ。
両社は3年ほど前からMP3利用においてライセンス料を支払うよう主張しており、MP3再生のためのデコーダが1つにつき0.5ドル、エンコーダが2.5ドル、さらにMP3で音楽配信を行なった場合は1ダウンロードにつきその料金の1%、最低でも0.01ドルという料金を設定している。
こうしたことから、各種フリーウェアもバイナリ配布を自粛し、ソースコードの配布のみにしていた。具体的には「午後のこ~だ」もそうだし、海外においてはLAMEなどがそうした措置を行なっていた。確かに、フリーウェアで配布しているのに、莫大な請求が来たらソフトウェアの作者はたまらない。そのためには、バイナリの配布停止というのも仕方ないところではあった。
一方で、「午後のこ~だ」はソースプログラムの提供は続けるとともに、フリーウェアであるということから、エンコードエンジンであるgogo.dllはいろいろな形で配布されていた。いくつかのMP3関連のフリーウェアにバンドルされていたり、以前紹介した「Audio TOYBOX」、「THE LEGEND of MP3」のようにパッケージソフトに入っているものもあった。
またgogo.dllに対応するフリーウェアなども数多くある。たとえば、CD-DAをリッピングするフリーウェア「CD2WAV」や、波形編集ソフトのフリーウェア「Sound Engine」などだ。ただ、こうしたソフトではgogo.dllを別途入手しなくてはならないのが面倒なところだった。
しかし、ここに来て「午後のこ~だ」がバイナリ配布を再開したのだ。これで面倒なコンパイル作業などなしに、誰でも簡単に利用することができる。なお、β2版のアーカイブには直接バイナリが入っていたが、4月8日現在公開されているβ3版をダウンロードしてみたところ、全バイナリをそのまま配布しているのではなく、ソースコードとコンパイルするためのバッチファイルがセットとなっていた。
Setup.exeが用意されているから、ユーザーはとくに難しいことを意識しなくてもいいようになっている。が、インストール時にDOS窓が開き、そこで時間をかけてコンパイルしてからインストールされる仕組みになっている。
今回配布を再開したことについて、@MARINECATのホームページでは弁理士と相談した結果、以下の回答を得たことから、再配布に踏み切ったとある。
※業:営利を目的とした事業に限らず、自己の危険と計算によって、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に行うものを広く対象とし、かつ社会通念に照らして客観的に事業の遂行とみることができる程度のもの。
特に、ローカルでコンパイルさせることについてのコメントはなかったが、もし海外で同様の動きが出てくると少し面白くなってきそうだ。もちろん、あまりにも目立つと、特許保持者側が権利を主張する可能性も無くはないだろうが、フリーウェアとは何であるかが示されることになるかもしれない。
ところで、この「午後のこ~だ」のエンコードエンジンgogo.dllは前出のLAMEが源流にあり、直接関連するのはLAME Ver3.88だそうだ。ちなみに現在、本家LAMEのほうは昨年末に更新されたVer3.91が最新版となっている。バイナリ配布を中止した時点ではVer3.6xベースであったので、いろいろと変わっている部分はありそうだ。
■ 「午後のこ~だ」Ver3.10の新機能
さて、最新版である「午後のこ~だ」Ver3.10を実際に動作させてみると、結構いろいろな機能があって面白い。その1つは、外部マイクやライン入力からMP3で直接録音する機能。リアルタイムエンコードが可能なので、アナログソースからの取り込みに大きな威力を発揮してくれそうだ。また、デバイスの認識もしっかりしており、サウンドマッパー経由のみならず、各ドライバを直接選ぶことが可能。現在入力中の波形も確認できるので、とても便利だ。
またエンコードエンジンによるベンチマーク測定機能「午後べんち」も機能追加されている。ここには「ノーマルベンチ」、「総合ベンチ」、「耐久ベンチ」と3つのベンチマークが用意されており、この結果を掲示板にアップロードして、ほかのマシンと比較することも可能になっている。
リアルタイムエンコード機能 | 「午後べんち」 |
WAVE→MP3変換 |
このソフト自体にはCDからのリッピング機能などはないため、WAVEファイルからのエンコードということになる。エンコードに関する設定は、簡易設定と詳細設定の2つがあり、簡易設定では推奨のビットレート5種類の中から選択することになる。
詳細設定では、かなりいろいろな設定が可能になっている。エンコードについてはビットレートの設定と、クォリティーの設定、VBRの設定の3つが基本。そのほかにも、CPUに最適化するための設定や異なるDLLを選択する設定などが用意されている。
簡易設定 | 詳細設定 |
ビットレート設定 | クォリティー設定 | VBR設定 |
■ 最新版の音を評価する
SoundForge 5.0 |
というのも、一般にMP3は128kbps以上にしても、あまり音質に変化はないといわれているが、「午後のこ~だ」のドキュメントでは160kbpsでかなりいい音質になるとあったからだ。ちなみに、「午後のこ~だ」にはデコーダが用意されていないため、今回はSoundForge 5.0を用いてMP3からWAVに変換の上チェックした。題材としたのは、いつものようにTINGARAの夜間飛行という曲の45秒と、1kHzのサイン波、20Hzから22.5kHzのスイープ信号だ。
グラフを見てみると、確かに高域は切れている。でも160kbpsでは、18kHz以上までしっかり音が出ている。多少、直線でないところはあるものの、これはスイープ信号でも同様だ。
夜間飛行 (TINGARA) |
1kHzのサイン波 | スイープ信号 (20Hz~22.5khz) |
|
128kbps | |||
160kbps |
サンプル音源「夜間飛行」のダウンロード | |
【128kbps】約703KB yakan128.mp3 |
【160kbps】約879KB yakan160.mp3 |
(C)TINGARA
「夜間飛行」(作詞:名嘉睦稔 作曲:名嘉睦稔、TINGARA)
□TINGARAのホームページ
http://www.tingara.com/
しかし、音を聞いてみてちょっと驚いた。MP3としては、非常に音の再現性が高くいい音なのだ。確かに128kbpsのものよりも160kbpsのほうがいいが、128kbpsでも非常にいい。私の主観でいえば、今まで試してきたMP3エンコーダの中で最高なのではないだろうか? 以前、Audio TOYBOXやTHE LEGEND of MP3のGOGOエンジンで、チェックしたことがあったが、当時のエンコーダよりもずっとよくなっているように思う。改めて、グラフだけで音質のすべてを知ることはできないことを実感した。
「午後のこ~だ」のようなソフトが、またフリーで手に入るようになった意義は大きい。これに触発され、また新たなツールがいろいろと登場してくれると、最近他のフォーマットに押されぎみなMP3界も面白くなりそうだ。
□「午後のこ~だ」(@MARINECAT)のホームページ
(2002年4月8日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp