“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第63回:こっ、こういう進化なんですか「SONY DCR-TRV950」
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■ コンパクト3CCDの頂点へ
DV方式が主流になって以来、ビデオカメラのスタイルは、いわゆる「横型」と「縦型」に大きく分けられることとなった。縦型のカメラは、携帯性を重視した小型モデルという位置付けで、最近の主流となっている。
一方でオーソドックスな横型のカメラの人気も根強いものがある。実際に持ってみればわかるが、横型は目の高さで撮る分には安定したホールド感を得ることができる。また性能も安定しており、機能比でいうと縦型よりもコストパフォーマンスが高い。縦型ほど小型化に関するコストがかからないということだろう。
SONYの横型DVカメラ「TRVシリーズ」にはラインナップが多いが、その中でも長年にわたり最高峰の座に君臨し続けたのがコンパクト3CCDの名機「DCR-TRV900」である。画質にこだわるマニア層から業務に至るまで幅広いユーザーに人気のある同機は、'98年9月発売以降、TRVシリーズの頂点として揺るぎない地位を固めていたが、ようやくその座を後継機に譲ることとなった。
その新モデルとは、6月10日発売の「DCR-TRV950」(実売26万円、アクセサリキット別売り)。型番は50しか違わないが、その間4年近い開きがある。4年といえば、ハードウェア的には相当の技術革新が行なわれてしかるべき年月だ。TRV950の特徴としては、1/4.7型総画素数107万画素メガピクセルCCDを3つ搭載した3CCD機であり、1,152×864ドットの静止画記録を実現している点があげられる。
これまで3CCDで高解像度静止画記録というのは他社に先を越されていたわけだが、CCD自体がメガピクセルというSONY期待のハイエンドモデルということで、買うつもりになっている人も少なくないことだろう。この新メガピクセル3CCDビデオカメラTRV950、その実力をさっそく試してみよう。
■ 外見は今風にすっきり
TRV950の外観は、前モデルTRV900のイメージを継承しつつも、今風にスマートになった感じだ。目に付くところから順に違いをあげると、まずレンズ周りではフィルタ経が52mmから37mmへと大幅に小さくなった。実機同士で並べてみたわけではないが、レンズそのものの経も小さくなったようで、これはCCDの面積が1/4型から1/4.7型へ縮小したことに合わせたものだろう。またバッテリパックも、従来のLシリーズから、一回り小さいMシリーズへ変更になっている。
フィルタ経はかなり小さくなった | バッテリは一回り小さいMシリーズに変更 |
この2点だけ取り上げても、TRV900からリプレースしようと思っていた人にはちょっと辛いことになる。というのも、ワイコンや予備バッテリなど、せっかく揃えたアクセサリが使えないということだからだ。もっともTRV900用チャージャは、L型とM型兼用の作りになっているので、アクセサリキットまるごと買い直す必要はなさそうだが。
そのほか、静止画撮影を強化ということで、TRV950ではポップアップフラッシュが内蔵となっている。従来3CCD機の弱点であった静止画機能を、1CCDメガピクセル機並みに引き上げた結果として、妥当な装備といえるだろう。
またDCR-PCシリーズで採用された、タッチパネル式液晶モニタが搭載された点も大きなポイントだ。PCシリーズと違い3.5型の大型液晶なので、メニューだらけで画面が見えないということにはならない。さらにタッチパネル操作用として、グリップベルト部にスタイラスペンが格納できるようになっている。
最近のSONY製カメラの傾向として、Bluetoothでインターネット、という機能があるが、そういう細かいものになると指での操作が難しいという不具合が生じていた。まあスタイラスペンがその究極の解決法ということではないにしろ、何らかの形で操作性を向上させることになるだろう。
静止画撮影時に自動的にポップアップするフラッシュ | ベルト部に格納できるスタイラスペン |
ゆとりある3.5型液晶モニタ |
それから表には出てこないが意外に大きなポイントとして、NDフィルタのON/OFFまでも自動制御になった点にショックを覚える人もいるだろう。これに関しては後述する。
■ 完全自動化された撮影メカニズム
カメラというのは、高級機になればなるほどマニュアル操作ができるようになっていく。TRV950もその例に漏れず、プログラムAEでも撮れるのだが、ある程度マニュアルでも撮れるようになっている。ある程度と断わったのは、完全にフルマニュアルというわけではないからだ。
例えばシャッタースピードをマニュアルで決めてから「明るさ」を調整すると、もうシャッタースピード調整に戻れなかったりする。いったん「明るさ」をオートに戻してやらないと、再びシャッタースピードを調整することができないのである。どうも傾向として、「シャッタースピードはオートが基本」みたいなところがあるように思える。
またこの「明るさ」というパラメータ自身も、フルマニュアルという見方からするとかなり曖昧で、アイリスとゲインコントロールとNDフィルタを一緒くたに操作するようになっている。つまり絞りに応じてNDフィルタが自動的にONになったり、光量が足りなければ自動的に増感が始まる。しかしその境目はユーザーにはわかんないのである。まあ「明るさ」というパラメータの意味合いではそれでいいような、やっぱよくないような。
撮影時には被写界深度を浅くするために、増感せずにアイリス解放、ND入れてシャッタースピードで輝度調整、という設定になると思うが、こういった撮影はTRV950ではやりにくい。本当にマニュアルになれた人にはとまどってしまう操作性だ。なんか基本的にはオートマ車なんだけどマニュアルシフトチェンジできます、みたいな車を連想させる。
したがってTRV950で許された範囲での自由度にしたがって、マニュアル撮影を楽しむことになる。今回採用されたタッチパネルによる明るさとフォーカスのコントロールは、素早く設定を決めたいときには便利だ。画面に映っている部分をタッチするだけで、そこをターゲットとした明るさにできる。またフォーカスも、中心を外れたところに素早く合わせることができる。
シャッタースピードは、ビデオモードなら1/10,000秒まで設定できる。しかしここまで高く設定してしまうとどんどん色味が浅くなってしまうので、あまり実用的ではない。こういう色味の落ちは従来機種では特に感じなかったもので、原因は特定できないが、TRV950固有のクセとして捉えておいていいだろう。また静止画モードでは、シャッタースピードは1/500までとなる。
レンズ周りだが、いろいろ撮って感じるのはやはりWide端の圧倒的な不足だ。ビデオモードでは35mm換算で49mmしかないため、目視よりも狭くなってしまい、「あれっ? こんだけ?」みたいにどうしても映像に閉塞感を感じてしまう。室内などを撮る場合には、実用的な意味でもワイコンは必須となるだろう。一方静止画モードでのWide端は41mmで、このぐらいがビデオカメラとして普通という感じだ。ちょっとレンズ周りの設計が静止画に寄りすぎているようにも思える。
ビデオモードのWide端とTele端 |
ビデオモードのWide端(49mm) | 静止画モードのWide端(41mm) |
ぼけ足だが、やはりレンズ経やCCDの面積が小さいこともあり、あまり大きくぼけない。ここは読者諸氏も一緒に見て貰いたいのだが、ぼけた光の形から推測するに、どうも絞りは4枚羽根の菱形絞りではないだろうか。カタログには出てこないところであるが、やはりこのあたりでVXクラスとは差が出てくる点だ。
(左)ビデオモードでのぼけ足はやや短い (右)同ポジションでの静止画 |
薄暮の雰囲気は出るが、全体的にノイジーだ |
しかしやはりCCD感度の影響か、光量の十分なところではかなりいい絵が撮れるのだが、曇天や日陰のように光量が不足していると、静止画はざらついた映像になる。せめて増感が自分でコントロールできればもう少しなんとかなると思うのだが、いかんせんそのあたりの自由度がないので、もういろんなことが成り行きになってしまうのは残念だ。
■ 総論
そもそも撮影するぞーというエネルギーの発生源というのは、「あ、これ撮ったら面白いかも」というひらめきである。そんな気持ちに応えてくれるカメラというのは、目で見ているよりも思いがけずいい感じになるという、カメラ独特の魔法を楽しむという要素があるもの。
しかしTRV950で撮った限りでは、割とフツーというか見たまんまというか、いつも同じような映像が撮れちゃう。まあどんな条件でも撮影に失敗しないカメラではあるものの、「うわあカメラで撮ったらこんなにキレイー!」という素朴なオドロキが少ないのも事実だ。せっかくメガピクセル3CCDなんて変なことやってるんだから、もうちょっと「味のある偏り」みたいなものが欲しかった。
もっとも、TRV950の評価は、撮る人のライフスタイル次第でどうにでも変化するだろう。今回のTRV950で筆者の評価が全体的に良くない感じになっているのは、TRV950のベクトルが筆者の求める方向と違うからに過ぎないのである。もしあなたが今まで1CCDのビデオカメラを使っていたなら、3CCD特有の色のノリの良さに驚くだろう。遊園地のアトラクションに一緒に乗って子供を撮るみたいなことをさせたら、オートのままでガンガン撮れてしまう、TRV950はそういうカメラだ。
頭のいいカメラが必要な人にとっては、こんな楽ちんなものはない。もちろん静止画が大きく撮れるというところをポイントと考える人もいるだろう。デジタルスチルカメラで光学12倍ズームといったら大変なことだが、その辺はビデオカメラのメリットである。いままで学芸会などで歯がゆい思いをしてきたお父さん大満足だ。言い方は悪いが、これはある意味「究極の父ちゃんカメラ」なのである。
TRV900が出たときには、こんなサイズで3CCDかよ!という素朴な驚きがあった。そしていずれは世の中の流れ的に「3CCDでメガピクセル」はやるだろうとは思っていたが、こんなに早く実現するとは予想外だった。正直なところ、もうちょっとそのあたりの特徴が静止画にでもガーンと出てくればセンセーショナルだったのだが、やはりTRVシリーズはファミリーユースということで、使いやすくおとなしめにまとめて来たという印象を受ける。
もしあなたが「撮る」という行為自体に面白さがほしいというのであれば、がんばってもう1ランク上のVX2000のほうが納得いくだろう。実売でTRV950よりも4~5万高いが、TRV950は決してVX2000の代わりにはならない。おなじファミリーカーを買うにしても、最初にワンボックスから検討する人とセダンを検討する人では、ライフスタイルが違う。要は、そういうことなのだ。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.ecat.sony.co.jp/camera/handycam/products/index.cfm?PD=7099
□関連記事
【4月4日】ソニー、3板式メガピクセルDVカメラ「DCR-TRV950」
―タッチパネル式液晶モニタ搭載、Bluetooth内蔵
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020404/sony.htm
(2002年6月12日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp