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第40回:ロシア/ソビエト映画の隠れた名作?
~タイトルにだまされてはいけません「鬼戦車T-34」~

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 意外と名作の多いロシア/ソビエト映画

鬼戦車T-34
価格:2,800円
発売日:2002年6月25日
品番:IVCF-2012
仕様:片面1層
収録時間:約89分
画面サイズ:4:3(スタンダード)
字幕:日本語字幕(常に表示)
音声:ドルビーデジタルモノラル
   (オリジナルロシア語)
発売元:アイ・ヴィー・シー
販売元:ビーム・エンタテイメント

 個人的に昔から興味を持っていた映画ジャンルといえば、ロシア/ソビエトの映画。「戦艦ポチョムキン」のエイゼンシュテイン、「惑星ソラリス」のタルコフスキーなど映画史の中で著名な人物も多い。最近でも旧ソビエト連邦の一国、ウズベキスタンの映画「UFO少年アブドラジャン」が一部で話題になったようだ。

 多くのロシア映画は、ハリウッド的な手法の作品に慣れた目で見るとかなり異色に映る。故に「好きな人は好き」という通好みの映画が多く、私も興味を引かれつつも、「惑星ソラリス」や「イワン雷帝」は最後まで視聴することができなかった。

 そんなロシア映画のなかで、比較的気軽に視聴できて、それでいてお気に入りの映画となっているのがこの「鬼戦車T-34」。昔レンタルビデオ店で何気なく手を取って以来、お気に入りの映画だった。が、そのレンタル店からいつのまにか姿がなくなり、内容の記憶が薄れていたところ、6月25日にDVDがトールパッケージとなって再販。マイナーなジャンルの割には価格も2,800円とお手軽だったので手を出してしまった。


■ タイトルから想像できないユーモラスな内容

 タイトルから受けた最初の印象は「T-34戦車が敵軍を蹂躙する」ようなノリだと思っていたが、実際に視聴してみるとコメディのようなノリ。より映画の内容に近い邦題をつけるとしたら、個人的には「馬鹿が戦車でやって来る・ソ連版」としたい。ちなみに原題は「Жаворонок」で、ヒバリという意味だそうだ。

 ストーリーは実話を元にしたもので、第2次大戦下、ドイツ軍の捕虜となった兵士たちが鹵獲されたT-34戦車に乗り込み、その戦車を標的にした新型対戦車砲の演習から隙を突いて戦車ごと逃げ出す、という内容。兵士たちは戦車を使って農場へ町へと繰り出し、それを追うドイツ軍との逃走/追跡劇が繰り広げられる。

 そんな内容を簡潔に説明するためか、パッケージの解説では「ソ連軍版大脱走」とされている。たしかにストーリー的には「大脱走」なのだけれども、脱走の緊張感よりも、戦車という非日常が、町や農場などの日常風景に入り込んだときの違和感から来るユーラスな印象が強い。

 演習場から逃げる場面では不意を突かれたドイツ兵が逃げ惑ってまぬけな姿をさらし、町に入れば味方の戦車とのんびり見ていた市民が、広場の銅像に戦車が突撃するのを見てあぜん。ビヤホールの前で停車した折には逃亡兵が「ビール持って来い」。脱走劇の緊張感がないとはいわないが、これでは「ユーモアを感じるな」といわれても無理だ。

 初公開が'65年と古く、映像もモノクロ。おまけに現代の映画に慣れている目からすると、カットのつなぎ方やテンポの取り方などには歯切れの悪さを感じてしまうが、それ以上に内容のユーモラスさ、そして逃亡する兵士たちの心理描写などが楽しめた。

 そして、登場人物たちよりも強く印象に残るのがやはりT-34戦車。演習場では対戦車砲を踏み潰し、町では壁をぶち抜き、蹂躙するさまはモノクロながらすごい迫力。

 しかもこの映画は実際のT-34戦車を使って撮影されていて、リアリティは高い。最近発売されている食玩模型「ワールド・タンク・ミュージアム」にもT-34戦車がラインナップされていて、私もこの模型を手にして見比べながら視聴した。私はあまり詳しくはないが「戦車好き」にも価値のある作品だと思う。


■ 実験的なアングルを多用したシュールな映像

 ソビエト時代の映画といえば、エイゼンシュテインが「戦艦ポチョムキン」でカットとカットをつなぎ合わせる、現在の映画の原型とも言うべき「モンタージュ技法」を確立したことが有名。その影響を受けてなのか、ソビエト時代の映画には実験的な映像が多いように感じる。

 劇中で特に印象的な映像といえば、戦車で花畑を疾走するシーン。のどかな花畑と、重厚な戦車の対比が違和感たっぷり。かなりシュールな映像になっていて、思わず笑いがこみ上げてくる。

 これが何両も同時に写っていたりすれば、「平和な風景が蹂躙される」風景になっていたと思うが、1両だけではなんともしまらず、非常に「まぬけ」だ。普通の戦争映画では味わえない「ほのぼのとした戦車」というシチュエーションを楽しめた。

 しかし、戦車はやっぱり戦車。間抜けな印象だけではなく、街道を走るシーンでは爽快に疾駆し、建物に飛び込めばいとも簡単に壁が崩壊。その中から何事もなかったかのように飛び出してくるなど、迫力を追求する映像も忘れてはいない。

 そのほかにもカメラを斜めにしたアングルを使って奥行き感を増したり、号令にあわせてカメラを縦横に振ったりと、あまり見かけられない手法も用いられている。

 逃亡兵たちの心理描写も秀逸で、徒歩で逃亡中に木に番号の振られた管理林に迷い込んだときの映像表現は追われる立場の不安が感じられて、なかなか興味深かった。

 現在の映画の映像表現は、ある程度定型化されて、視聴者に混乱を持たせないような、型にはまった作品が多い。しかし、この映画では多少理解しにくいとは思いつつも、なぜかのめりこんでしまう映像表現が多く、クラシック作品なのに新鮮な印象を受けてしまう。この感覚はロシア映画独特のものではなかろうか。


■ DVDの仕様は残念ながら貧弱

 DVDとしての仕様はかなり簡潔だ。ディスクは片面1層。音声はオリジナルのロシア語モノラルのみで、日本語字幕は常に表示されて、OFFにすることは不可能。仕様としては「ビデオテープ製品をそのままDVDにした」という感じだ。

 しかし、この映画はかなりマイナーな作品。DVD化されるだけでもありがたい。画質は少々明るめの印象ではあるが、モノクロの階調表現も良好で、コントラストもいい。フィルムに由来するノイズは多少感じられたが、ごみも少なく、なかなかの高画質。モノクロの'65年作品という事実を勘案すると妥当な仕様と言えるだろう。

 DVDメニューも用意されているが、ディスク挿入時は本編が自動的に再生され、プレーヤー側の「DVDメニュー」ボタンを押さないと表示されない。DVDメニューは、劇中の戦車の写真をバックに本編再生と、12チャプタに区切られたシーンセレクト、そして特典の選択が行なえる。しかし、収録特典は「兵器データ」という項目1つのみ。これは、T-34戦車の紹介とスペック表を静止画で表示するもので、それも2ページだけの簡単なものだ。

 しかもこの特典で紹介されているのは「T-34/85」型。食玩「ワールド・タンク・ミュージアム」のT-34/85型の模型と比べてみたところ、劇中の逃亡に使われている戦車は、どう見ても砲塔の形、砲身の長さが違う(あまり詳しくないが、私にはT-34/76型に見えた)。

 調べてみたところ、T-34/85型は'43年以降に生産されたもの。劇中では'42年6月22日と言明しているから、この戦車の劇中への登場は歴史的にはありえないと思われる。せっかく実車を使用しているのだし、2ページ目のデータは「渡河可能水深」などもあるかなりマニアックなスペック表。「戦車好き」に向けての特典と思われるから、こういう部分にも気遣って欲しかった。

 とはいえ、冒頭の演習シーンではT-34/85型と思われる戦車も登場するし、パッケージ写真もこの演習シーンのT-34/85型。確かにこちらのほうが有名だし、格好がいい。まあ、「映画ならではのフィクション」として納得することにしたい。

 仕様も特典も貧弱ではあるが、マイナーな映画を2,800円という低価格で入手できたことには満足している。今度は過去に挫折した「イワン雷帝」にもチャレンジしてみたい。

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□IVCのホームページ
http://www.ivc-tokyo.co.jp/

(2002年6月28日)

[fujiwa-y@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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