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第39回:ストーリーが地味? 見てると恥ずかしい?
そこが良いんです!! 「耳をすませば」

 怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ ありふれた中学校のひと夏の出来事

耳をすませば

(c)1995 柊あおい/集英社・二馬力・TNNG
価格:4,700円
発売日:2002年5月24日
品番:VWDZ-8004
仕様:片面2層×2枚
収録時間:約111分(Disc1 本編)
      約128分(Disc2 本編+特典)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:日本語(ドルビーデジタルステレオ)
    日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語(Disc1 本編)
制作:スタジオジブリ
発売元:ブエナ ビスタ ホーム エンターテインメント

 今回取り上げる「耳をすませば」は、お馴染みのスタジオジブリが製作した劇場用アニメーション。ジブリと聞くと、すぐに「宮崎駿」と連想してしまいがちだが、この映画の監督は近藤喜文氏。ジブリで長年作画監督などを務めていた人物だ。

 原作は柊あおいの同名少女漫画。魔女の宅急便などの前例はあるが、原作付きのジブリアニメは珍しい。もっとも、脚本と絵コンテは宮崎駿が担当しているので、絵柄やキャラクターの見た目は、宮崎アニメのそれといっていいだろう。

 主人公は、中学3年生の読書好きの少女「月島雫」。ごく普通の家庭に育った彼女は、中学生最後の夏休みに受験のことで親や学校と衝突したり、恋や進路をめぐり友人と悩みながら暮らしている。

 そんな彼女の前に、イタリアに渡ってバイオリン職人になろうとしている少年が現れる。大人びた彼に惹かれるうちに、彼女は自分自身のこと、これからの夢や現実について真剣に考え始めるようになる。

 やがて雫は、自分のやりたいことを見つけるため、アンティークショップ「地球屋」にある猫の置物「バロン」を主人公にした小説を書き始めるのだが……。

 以上が簡単なストーリーだ。原作漫画よりもドラマチックになっているものの、突然空から女の子が落ちて来たり、巨大な虫が襲いかかって来ることもなく、ジブリ作品としては実に“日常的”である。

 しかし、この“日常的”なところこそが重要であり、この物語の一番の魅力といっていいだろう。


■ 恐ろしいまでにこだわった“日常”の表現

 耳をすませばの特徴は、舞台が「現代」であるということだ。ジブリアニメでは、いったい何処の国の、何時代なのかわからないような世界が描かれることが多く、登場する人物や町並みも空想の産物がほとんど。その点、耳をすませばには誰もが目にしたことのある風景や人物が登場し、逆に新鮮な気分を味わえる。

 また、身近にある物が描かれてることで、ジブリアニメのクオリティの高さを改めて実感できる。特に印象的なのは雫の家だ。雫の暮らす家は、原作では比較的裕福に描かれていたが、これが何処にでもある「ザ・団地」になっている。思わず“ザ”をつけたくなるほど、彼女の家は生活観たっぷりに精密描写されているのだ。

 麦茶を取り出す冷蔵庫や玄関の傘立て、汚いテーブル、頼りない親父、古い2段ベッド、適当な性格の母親、嫌味で口うるさい姉、などなどなど。日本人なら誰でも目にしたことがあるだろう風景が、次々とリアルに描写される。あまりにリアルで恐ろしくなってくるほどだ。

 現代をリアルに描いた1番の理由は、「夏の日に、誰もが持っていたはずの憧れを描きたい」という宮崎駿のメッセージからも読み取れる。何処にでもある2人の淡いラブストーリーは、観客自身の想い出と重なってゆくのだ。

 物語のテーマは成長。入学、卒業、就職、と時間が経てば自動的にスタートラインに並ばされ、走り出さなくてはいけない現代社会の中で、少女の心は限りなく不安定なものとして描かれている。

 そんな状況の中で、学校や社会に疑問を抱き、親に反抗し、彼女が自分なりの答えを出すこと。そして、納得して前へ歩き出すまでが、この物語の全体像だといえるだろう。

 近藤監督は、思春期を生きる2人の姿を、温かな視点で見事に描き出している。映画の中から強いメッセージをヒシヒシと感じる宮崎監督の作品と比べてみると、両者の対比は非常に面白い。

 走り出す前の人には憧れとして、走り初めた人には照れくさい過去として見える……。そんな映画だ。


■ 画質、音質は?

 DVD化といえば、画質や音質が気になるところ。「となりのトトロ」や「紅の豚」など、今までのジブリのDVDでは輪郭を強調するようなキツさが感じられたが、耳をすませばの画質はどちらかというと大人しい印象だ。

 映像はビスタサイズでスクイーズ収録。平均ビットレートは8.15Mbpsと高めだが、全体的にくすんだ色になっており、発色や色ぬけはいまひとつに感じる。

 描かれる舞台が夏ということもあり、照りつける日差しや緑の木々、空の青といったものを期待したのだが、個人的にはもう少し鮮やかさが欲しいと思った。画質調整が可能な人は、少しコントラストを上げてもいいかもしれない。

 その反面、雫が帰宅する時に見られる、雨雲と晴れ渡った空が同居する夏ならではの美しい景色や、色鮮やかな空想の世界「イバラート」など、雰囲気重視のシーンは滑らかな画質に感じられた。

Bit Rate Viewerで見た本編のビットレート

 音はドルビーデジタルステレオとドルビーデジタル5.1chの2種類を収録。マルチチャンネルとなると、露骨に背後のチャンネルに音を振るアニメ作品が多い中、使い方としては自然でセンス良くまとめられている。ドルビーデジタルが使われ始めた初期の作品と考えると、クオリティは高いといっていいだろう。

 具体的にサラウンドが効果的だった場面を挙げると、冒頭の主題歌「カントリーロード」や、校庭でのサッカーのシーン、犬の鳴き声など。あくまで雰囲気を盛り上げるために使っているといった印象だ。


■ シンプルだが鑑賞に堪える特典

 特典ディスクには、ジブリ作品のDVDではお馴染みとなった絵コンテが収録されている。マルチアングルで本編と切り替えながらの視聴ができ、製作現場の裏側を覗いている気分で面白い。

 キャプションでは絵コンテの担当は宮崎駿となっているが、中には「近藤監督の絵では?」と思われる若干タッチの違う絵が混じっているのも楽しい。まあ、あくまで私の想像なのだが……。

 また、本作品ならではの特典として、画家の井上直久氏の作品が収録されている。井上氏は、異郷「イバラート」をテーマに作品を作り続けており、耳をすませばの劇中劇「バロンがくれた物語」の美術製作を担当している。

 「遠くの物ほど大きく、近くの物ほど小さく見える」。美しい色彩で描かれるイバラートとは実に不思議な世界だ。DVDでは、音楽に合わせて井上氏の絵画が表示され、幻想的な世界をたっぷり楽しむことができる。

 個人的な意見だが、一度プレイしたら二度とやらないであろうゲーム形式の特典よりも、じっくり鑑賞できるこの手の特典の方が好みである。


■ とりあえず押さえておきたい1枚

 ジブリの作品というと、どうしても現代社会へメッセージとか、日本のアニメーション文化が何だとか、映画の裏側を感ぐってしまいがち。

 しかし、この作品は素直に見て、素直に恥ずかしがるのが正しい鑑賞の仕方であると言いたい。男性には「少女漫画が原作のアニメだろ?」と、偏見の目で見られてしまうかもしれないが、世代や性別を問わず、誰にでもお勧めできる映画だと思っている。

 ただ、気になったのは価格とクオリティ、そしてパッケージデザインだ。4,700円という価格は、低価格DVDが溢れる最近では高価とも安価ともいえない微妙な値段設定。パッケージは「ジブリがいっぱいシリーズ」に共通していえることだが、あまりセンスの良いものではない。

 個人的にジブリ作品は「リリースされたら、とりあえず買う」というスタンスなので、作品を所有する喜びを感じたいところ。いっそ2,500円くらいの低価格路線と、9,800円くらいの画質、音質、パッケージすべて最高の「永久保存版」をリリースして欲しいところだ。

 最後になったが、この映画を製作後、47歳という若さで亡くなった近藤喜文監督のご冥福を祈りたい。彼の画文集「ふとふり返ると 近藤喜文画文集」(徳間書店:ISBN4-19-860832-6:2300円)も、素晴らしいのでお勧めだ。

 そして、今夏には再び男爵猫のバロンがスクリーンに登場する。原作はもちろん柊あおい、タイトルは「猫の恩返し」だ。今度バロンに連れられて不思議の国を旅するのは、雫よりも少し年上の、17歳の女子高校生ハル。もしかしたら近藤喜文監督の第2作目になるはずだったのかもしれない。

 公開に備え、予習の意味も込めて前作「耳をすませば」を振り返ってみるのも、一興ではないだろうか。

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□ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテインメントのホームページ
http://club.buenavista.co.jp/index.cfm
□製品情報
http://club.buenavista.co.jp/search/title-info.cfm?p_movie_id=404

(2002年6月21日)

[yamaza-k@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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