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第65回:VSTプラグインを生成できるフリーウェア「Synthedit」


 VSTプラグインというものをご存知だろうか? このDigital Audio Laboratoryでも何度か登場しただが、音楽ソフトの世界で現在デファクトスタンダードとなっているプラグインの規格。これに準拠したエフェクトやソフトシンセが数多く存在している。

 このVST準拠のプラグインを簡単に生成するという、ユニークなソフト「Synthedit」が登場した。今回は、そのSyntheditというツールについて紹介しよう。



■デファクトスタンダードとなったVSTプラグイン

 今回は、「Synthedit」というフリーウェア(正確にはシェアウェアだが、まだバージョンが1.0に至っていないため、フリーウェアとなっている)について紹介するが、その前に、VSTプラグインというものについて簡単に解説しておこう。

 VSTというのは「Virtual Studio Technology」の略で、独Steinbergが開発したソフトウェア上で、スタジオを再現するための技術である。これは同社のCubaseやCubasis、NUENDO、WaveLabsといったソフトウェアに搭載されているだけでなく、オープンな規格なので、EmagicのLogic、また最近ではSonicFoundryのACIDの最新版などがVSTに対応している。

 VSTに対応すると何が嬉しいのか。それはすでに豊富に存在するVSTプラグインと呼ばれるツールを利用できるからだ。このVSTプラグインには、大きく分けて以下の2種類が存在する。

 VSTエフェクトというのは、プラグイン型のエフェクトであり、リバーブやコーラス、ディレイ、ディストーション、イコライザ……とさまざまなエフェクトが存在している。一方のVSTインストゥルメントとは、プラグイン型のソフトウェアシンセサイザになる。アナログ系のソフトシンセやサンプラー、ドラムマシンにFM音源シンセサイザなど、こちらもいろいろ登場している。

 いずれも、メーカーが開発した商品もあれば、フリーウェアやシェアウェアなどでも存在している。また、単体では発売されていないが、シーケンスソフトや波形エディットソフトなどにバンドルされているというケースもある。

 これらのプラグインは、リアルタイムで動作可能というのが大きな特徴。ある音を再生しながらエフェクトをかけるというのはもちろんのこと、レコーディング中のサウンドに対してエフェクトをかけたり、MIDIの入力に対して、リアルタイムでソフトシンセを鳴らし、PCを楽器として利用することも可能。

 エフェクトにせよシンセサイザにせよ、実物(ハードウェア)を購入するとかなり高価だが、ソフトウェアなら安く手に入るというのが1つのメリット。もちろん、フリーウェアなら無料だ。気になる音質や性能はというと、これがハードに勝るとも劣らない。特に最近多いアナログシンセをエミュレーションするソフトなどは、本当にアナログそのものの音が出てくるので、ハードよりも安定していて使いやすい。

 もちろん、複数のエフェクトやソフトシンセを同時に使うとなると、それなりのCPUパワーを消費するが、最近のPCなら、かなりの数のプラグインを同時に立ち上げることができる。そんなプラグインのデファクトスタンダードがVSTなのだ。



■ソフトシンセをモジュールベースで組み立てるSynthedit

さまざまなモジュールをつなげて音源を組み上げる

 今回の本題であるSyntheditは、Jeff McClintock氏制作のフリーウェア。Syntheditという名前からも想像できるように、元々はソフトウェア上でシンセサイザを編集して作るためのソフトである。

 同様のソフトとしてはNative Instrumentsの「Reaktor」が存在するが、実際見た目にもよく似ている。画面上にさまざまなモジュールを置き、それをつなげていくことで音源を組み上げていくという発想のソフトである。

 モジュールをつなぐとなると、当然そのモジュール自体が必要になるわけだが、これがたくさん揃っている。

1 Pole LP、All Passなどのフィルタ

 具体的にあげていくと、フィルターとして「1 Pole LP、All Pass、BiQuad Filter、SV Filter」、論理回路として「AND、NAND、NOR、NOT、XOR……」、「Binary Counter、Decade Counter、Monostable……」。

 また、モディファイアは「Inverter、PAN、Sample and Hold、VCA……」、波形整形器として「8 Stage Env、ADSR、Oscillator、Phase Dist Osc」などがある。

Inverter、PANなどのモディファイア Delay、Flangerなどのエフェクト TR-808やTB-303をエミュレートするシンセサイザ

 また、予めいくつかのエフェクトやシンセサイザも組み込まれており、たとえば、エフェクトとして「Delay」、「Flanger」、「Ring Modulator」が、シンセサイザとしては、TR-808やTB-303をエミュレートする「808 drums」、「CZ-303」のほか、FM音源、アナログポリフォニックシンセなどが用意されている。

 こうしたモジュールを並べ、それを線で接続していくことで、新たな音源を作ることができる。その過程で、MIDIの入力やオーディオの出力なども設定していく。やろうと思えばかなり大規模なシステムまで構築できる。実際に作ってみるとなかなか楽しい。

 ここで、面白いのは作った音源を、また1つのモジュールとして扱うことができるということ。実際予め組み込まれているモジュールの中にも、複数のモジュールの組み合わせでできたものがいくつもあり、それぞれの中身を見ることもできる。

かなり大規模なシステムまで構築可能 複数のモジュールを組み合わせて1つのモジュールとして扱える

 ただし、配線しただけでは使い勝手は良くない。そこで、Syntheditでは、ノブやスライダなどのユーザーインターフェイス部分を別途構築できるようになっている。実際、あらかじめ組み込まれているモジュールの中にも、ユーザーインターフェイスをしっかり作りこんでいるものもある。

 ここではパラメータを並べたり、インジケータをつけたりするだけでなく、バックのデザインなどもSKINSというフォルダを利用することで変更することが可能。凝れば、かなり作りこむことが可能になっている。

作りこまれたユーザーインターフェイスを持つモジュールもある

 なお、このSyntheditで構築した音源は、リアルタイムで外部のMIDI機器から演奏できる。そのほかにも、MIDIプレーヤーのモジュールを用いて演奏させたり、簡易シーケンサのモジュールを用いて鳴らすことも可能だ。



■VSTエフェクト、VSTインストゥルメントも利用可能

オーディオ出力

 Syntheditは本来ソフトシンセ作成用のソフトだが、何もソフトシンセにこだわらなくても構わない。MIDIプレーヤーの出力を外部のMIDI機器にしてしまえばMIDIプレーヤーになるし、オーディオ入力にエフェクトをかけ、それをオーディオ出力してやれば、リアルタイム動作のエフェクトになる。またオーディオの出力をそのままスピーカーに出すのではなく、ファイルに出力することもでき、そうすれば簡易的なレコーダになる。使い方によって、何にでも変身してくれる非常に便利なツールである。

 このように数多くのモジュールが予め用意されているSyntheditだが、ときどきバージョンアップしては、新たなモジュールを追加している。しかし、これだけですべてが実現できるわけではない。

 実際に使っていて、欲しいモジュールがなかったり、作れなかったりということもあるだろう。そんなとき、Syntheditでは既存のモジュールを利用することが可能になっている。平たくいえば、「SyntheditはVSTプラグインに対応」しており、VSTエフェクトやVSTインストゥルメントを1つのモジュールとして利用するできる。

VSTプラグインに対応している

 実際に、こうしたVSTプラグインを利用するためには、デフォルトで指定されているSynthedit内のVSTPluginsというフォルダにプラグインのファイルをコピーするか、別の場所にプラグインの入ったフォルダが存在しているなら、そのフォルダを指定すればいい。

 すると、追加するモジュールのメニューの中に、VST Pluginsという項目が現れる。ここにプラグインが表示され、選択することが可能になる。もちろん、VSTエフェクトもVSTインストゥルメントもブラックボックスとして機能するため、その中身がどうなっているかは知りようもない。しかし、VSTプラグインをほかのモジュールと同じように利用できるのは便利だ。



■保存形式としてVSTプラグインを指定可能となった

 さて、ここまでごく簡単にSyntheditを紹介してみたが、だいたいおわかりいただけただろうか? フリーウェアとは思えないほどすごい機能を持ったソフトだが、さらに面白いのはここからだ。

 今回のタイトルにもある通り、Synthedit上で構築したソフトシンセやエフェクトは、VSTプラグインとしても保存できるのだ。Fileメニューに「Save as VST」というメニューがある。これを選択することで、VSTプラグインを生成できる。生成するファイルがVSTエフェクトなのか、VSTインストゥルメントなのかは、自動的に判別してくれるようで、特にユーザーが指定する必要はない。指定するのはファイル名と4文字の名前だけだ。

 保存した結果は他のVSTプラグインと同様にDLLファイルとなる。これをCubaseやLogicなどのVSTPluginsフォルダにコピーして持っていけば、そのまま利用可能になる。

Save as VST 指定するのはファイル名と4文字の名前だけ

 ただし、作る際には多少のコツがいる。まずモジュールの中で作成した「コンテナ」でないと保存できない。また、VSTに引き渡すためには、入出力とも「IO Mod」というモジュールを介す必要があるなど、決まりごとがある。また生成したファイルのサイズを見てみると、ほかのプラグインと比較して大きめだ。簡単なものを作っても1MB程度となってしまい、大きなものでは5MBやそれ以上になる。やはり、まだVSTプラグインとして最適化されていないのかもしれない。とはいえ、実際に使ってみてとくに重いというほどではないので、気になることはないだろう。

 これをCubaseVST上で使ってみたところ、とりあえず動作はしてくれた。この際、Syntheditを起動しておく必要などもなく、完全に独立したプラグインソフトとして機能する。ただ、挙動がおかしいことも多い。組み込んだはずのプラグインが読めたり、あるいは読めなかったりすることがあるのだ。また、インサーションエフェクトとしては使えるが、センドエフェクトやマスターエフェクトとして利用できなかったりする場合もある。この辺はまたバージョンが0.59であることを考えると、解決までもうしばらく待つ必要があるのかもしれない。

 もう1つ気になるのは、先ほどのように既存のVSTプラグインを用いて新たなプラグインを生成できるのかということ。まず、この場合、パラメータを画面表示させることができないので、そもそもうまく使うことはできないのだが、実際に「Save as VST」とすると、保存できてしまった。ただし、実際に使ってみると、どうもうまく動いてくれない。さすがに、既存のVSTプラグインを使って生成できるほど、柔軟な設計ではないのだろう。

 VSTプラグインとして保存する機能だけを見ると、まだ未成熟といえるSuynthedit。しかし、こうした問題も徐々に洗練されていくだろう。今後が非常に楽しみなソフトである。




□Syntheditのホームページ(英文)
http://www.synthedit.com/
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(2002年8月5日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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