4月3日、Steinberg Japanから「Cubasis VST 3.0 for Windows」が発売された。これは人気のMIDI&オーディオ・シーケンスソフト「Cubase VST」のエントリー版に位置付けられるもの。今回のバージョンアップにより使い勝手が大きく向上するとともに、Cubase VSTと見た目もソックリになった。
さらにこのCubasis VST 3.0には、Cubase VSTの次期バージョンであるCubase SXのユーザーインターフェイスの一部を先取りしている。そこで今回は、Cubasis VST 3.0の概要を紹介するとともに、Cubase SXに関するニュースについてもお届けする。
シーケンスソフトの世界をご存知の方なら、誰もが知っているドイツSteinbergの「Cubase VST」。WindowsでもMacintoshでも大きなシェアを握るソフトで、プロミュージシャンのユーザーもかなり多い。
まさに最先端の「DAW」(Digital Audio Workstation)ソフトなわけだが、これについては、以前Digital Audio Laboratoryの第36回で紹介しているので、そちらを参照していただきたい。
その記事にもある通り現在、そのCubase VSTはWindows、Macintoshともに5.1というバージョンであり、以下の3つのラインナップがある。
Cubase VSTがスタンダード版、Cubase VST Scoreでは譜面機能が強化され、Cubase VST/32はさらに32bitオーディオに対応するとともに、最大同時128チャンネルのオーディオ再生に対応している。
一方、Cubase VSTの下に位置するのが、今回紹介するCubasis VST。価格も15,800円と安く、誰でもすぐに購入して使えるエントリー版という位置付けだ。3.0というバージョンからもわかるように、これも今回はじめて登場したというものではなく、1.5、2.0といったバージョンを経て現バージョンへと進化してきた。バージョン1.5のカスタマイズ版が、Sound Blaster Live!やSound Blaster Audigyにバンドルされているため、実際持っているという方も少なくないだろう。
Cubasis VST 3.0 |
ただし、こうしたバンドル版を使いこなしているという人はあまりいないかもしれない。確かにこのソフト、エントリー版ではあるものの非常に高性能・高機能。またバンドル版にはマニュアルが添付されていないので、初めて触ってすぐ理解できるというソフトではない。有効に使うためには、一般的なミキシングコンソールに関する知識がいるし、オーディオシーケンス、MIDIシーケンスに関する知識も必要になる。しかし、その辺さえ理解できれば、かなりわかりやすい強力なソフトなのである。
そのCubasis VSTがバージョンアップし、3.0となったのだ。バンドル版を含めたCubasis VSTユーザー、さらにはすでになんらかの音楽制作用ソフトを使っているユーザーには優待パッケージが2002年5月31日までの限定で発売されている。価格は9,800円となっているので、これを利用するのも1つの手だ。
■ Cubasis VST 3.0の新機能
では、このバージョンアップで何が変わったのか。
最大のポイントはユーザーインターフェイスの改良だ。これまでのCubasis VSTはCubase VST Ver3.xと見た目が同じユーザーインターフェイスだったが、今回のバージョンでVer5.xと同じになった(Macintosh版はCubasis VST 2.0で、Cubase VST Ver5.xと同じになっていた)。また、データの互換性もとれるようになり、Cubase VST Ver5.xのデータがそのまま読み書きでいるようになっている。
逆にいえば、抜本的な改善点があるわけではない。しかし、それでも操作性が向上し、データの互換性が取れるようになった意味は大きい。というのも、これでCubase VSTユーザーがスタジオでCubase VSTを、自宅でCubasis VSTを使って作業することが自在にできるようになったからだ。Cubase VSTの場合、ドングルをつけないと起動しないため、自宅とスタジオなどで作業するためにはドングルを持ち歩かなければならないが、Cubasis VSTならそうした面倒がない。
では、その機能だが、Cubase VSTと比較すれば制限されているが、それでもCubas VSTの特徴的機能はほぼすべて残されている。まずは、いまやデファクトスタンダードとなったプラグイン形式のエフェクトであるVSTエフェクト。Live!やAudigyにバンドルされているバージョンではデフォルトでは4つしか用意されていないが、この3.0ではコラース、テープエコー、ディストーションなど10種類のエフェクトが入っている。もちろんプラグインだからいくらでも拡張することが可能。またCubasis VST 3.0に特別バンドルされているM-Driveというオーバードライブも利用することができる。
コーラス | テープエコー | ディストーション | オーバードライブ |
またもう1つのプラグインがVSTインストゥルメントというソフトウェアシンセ。ここにはCubase VSTのVer5.0と同じものがバンドルされており、ドラムマシンや物理モデリングベースシンセなどがあるほか、やはりCubasis VST 3.0に特別バンドルされているMuon Tauというものがある。これはRolandのレトロ・ベースシンセ、TB-303を復刻させたものであり、いかにもそれっぽい音がする。
ドラムマシン | ベースシンセ | Muon Tau |
こうしたプラグインを使う前提として、Cubase VSTと同様のミキサーが利用できるし、各チャンネルごとに設定できる2バンドイコライザなどもある。また、MIDI機能に関しても、リストエディタや譜面エディタなども一通りそろっていて、シーケンスソフトとして十分に使うことができる。使い込んでくると細かいエディット機能などが弱く、物足りなく感じるかもしれないが、ラフなエディットであれば十分だろう。
ミキサー | イコライザ | リストエディタ | 譜面エディタ |
Cubase VSTと大きく異なるのが、波形編集機能が搭載されていないこと。ただし、Cubase VSTには入っていないWaveLab Lite 2.0というソフトが別にバンドルされており、これを関連付けることで、ほぼ同様のことができるようになっている。
さらにCubasis VSTには、音楽CD制作専用ソフトCleanの簡易版ともいえるMaster Unitというソフトもバンドルされており、これを利用することで音楽CDの作成も可能だ。
WaveLab Lite 2.0 | Master Unit |
ところで、このCubasis VST 3.0の画面を見ると、確かにCubase VST 5.xとそっくりなのだが、1つだけ見慣れないツールバーがある。このツールバーにより、簡単にミキサーやエフェクトのラック、エディタを起動できるようになり、非常に便利になっている。これは次世代Cubaseに搭載される機能だそうで、それが先取りされた格好となっている。
■ 次世代Cubaseで注目されるVST System Link
さて、ここで6月ごろに発売が予定されている次世代Cubase「Cubase SX」について少しだけ触れておこう。ユーザーインターフェイスも大きく変わるが、エンジン部分からまるっきり異なる新ソフトになる。そのため、バージョンも1.0からスタートするという。実はこれCubase VSTとは別ラインナップであるNUENDOの直系ソフトとなっている。これにより、オーディオ処理機能が大幅に強化されるのだが、もう1つの大きな特徴が「VST System Link」という機能に対応すること。
Cubase SX |
これはASIO対応サウンドカードをデジタルオーディオケーブルで接続するだけで、リアルタイムにオーディオとMIDIの転送を行なうことができるコンピュータのネットワーク技術。複数のコンピュータのパワーを1つのVSTシステムとして使用することができる分散処理の技術である。最近ソフトシンセ機能も強力になり、CPU負荷がかなりかかるようになったため、1台のマシンでHDDレコーディングも、ソフトシンセもエフェクトも全部動かしてしまうというのはなかなか厳しくなってきた。そこで、VST System Linkを用いれば、それぞれを別のマシンで動かしながら、すべて統合して利用することが可能になる。
詳細については、ぜひ今度製品がリリースされたら使った上でレポートしてみたいと思うが、ここに1つお得な情報がある。それは、いまCubase VST/32を購入すると、Cubase SXに無償アップグレードできるということ。それだけならば、よくある話だが、実はここには大きな秘密がある。前述したとおり、Cubase VSTを動作させるためにはドングルが必要であり、現在のCubase VST/32のドングルはパラレルポートに付けるものとなっている。
それに対して、今度のCubase SXはUSB接続のドングルなのだ。そして、このアップグレードの際に、古いパラレルポートのドングルを返還する必要はない。したがって、アップグレード時には、手元に2つのドングルが残ることになる。すごいのはここから。実は、Cubase VSTはCubase SXのリリース後、5.2というバージョンが無償でリリースされる予定となっている。恐らくこれが最後のバージョンアップであると思われるが、この5.2の目玉機能が、VST System Linkへの対応なのだ。
ここまでで、おわかりだろうか? 手元にドングルが2つあり、VST System Link対応のソフトが2つあることになる。したがって、ソフトを1本しか買わないのに、VST System Linkを使ったネットワークを構築することができる、というわけだ。
残念ながら、Cubasis VSTは今後もVST System Linkに対応する予定はないため、VST System Linkを使うためには、それなりのコストが掛かってしまう。でも、今ならそれを安価に手に入れることが可能。ちなみに、Cubase VSTおよびCubase VST Scoreに対応する次世代ソフトはCubase SLというものに一本化し、今年の末か来年にリリースされる予定。当然これもVST System Linkに対応するが、無償アップグレードなどのサービスはないとのことである。
以上、今回はCubasis VST 3.0を中心に、新世代Cubaseについても触れてみた。このCubase SXについては、製品がリリースされ次第、VST System Linkの同期がどうなっているかなど、じっくりと検証してみる予定だ。
□スタインバーグジャパンのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□Cubasis VST 3.0の製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/cubasisvst/pc/index.html
□関連記事
【2001年11月26日】第36回:「CubaseVST」が5.1にバージョンアップ
~ その機能と性能を検証する ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011126/dal36.htm
(2002年4月15日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp