第8回:DVDの忠実再生に挑戦したDLPプロジェクタ ~ 詳細な設定項目を持つ「マランツ VP-16S1」 ~ |
ハイエンドユーザー向けのAV製品メーカーとして知られるマランツが、限定200台生産のDLPビデオプロジェクタ「VP-16S1」を発売した。価格帯的には大きく異なっているが、映像生成エンジンやスペックは、すでに紹介しているプラスビジョン「Piano Avanti」に近い。
■ 設置性チェック~アルミボディは静音性に優れるが重い
VP-16S1。実売価格は75万円前後 |
また、光学および映像エンジンの密閉性も高いようで、ボディからの光漏れが全くない。ボディの完成度は非常に高いといえるが、その代わり、本体重量が13kgとかなりある。設置は常設を基本にするべきだろう。
100インチ投射時の最短距離は、4:3で約4.9m、16:9で約4.0mと平均と比べるとやや長めということになる。ちなみにPiano Avantiでは、100インチ(4:3)の最短投射距離は約3.2m。
最近のホームシアター向けプロジェクタとしては多少長めの焦点距離だが、天吊りなど、部屋の後部での設置を前提としているのだろう。なお、光学エンジンはミノルタ製で、同社のクリーンルームで組み立てられているとのこと。
投射パターンは、リア、フロント、天吊り、床置きの全組み合わせに対応する。手動式のレンズシフトに加え、水平垂直のデジタル台形補正が可能なため、ある程度の斜め投影が可能となっている。ただ、デジタル台形補正を利用すると画素情報が欠落するのは避けられないため、臨時用途以外に使用することはないはずだ。
天吊り金具は、純正オプションとして「MOUNT12」(標準価格42,000円)を用意。さらに、高天井用として、「MOUNT12」と組み合わせて使う延長ポール「EXT-81」(標準価格32,000円)もラインナップしている。本体が非常に重いので、天井補強は不可欠だろう。
本体デザインはハイビジョンDMDを搭載する「VP-12S1」とほとんど変わらない | 本体上面の操作スイッチ類。レンズ脇のつまみでレンズシフトが行なえる |
天吊り金具の「MOUNT12」(実際のカラーはオフワイト) | 延長ポール「EXT-81」 |
■ 操作性チェック~操作性は高いが、入力切り換え速度は遅い
シンプルなリモコン。入力切替やアスペクト比切り替えの各ボタンが並ぶ。ボタンは蓄光式だ |
電源オンから映像が出てくるまで約24秒(実測)。ここから徐々に明るくなり、スペック輝度になるまではさらに約30秒(実測)。平均的なスピードだと言える。
リモコンは蓄光式を採用し、自発光ボタンは無し。リモコン受光部は本体前面と背面の両方にあるため、操作レスポンスは良好。ボタンの機能割り当ても秀逸で、入力切り換え、色調モードの切り換え、アスペクト比の切り換えも独立ボタンに割り当てられており、1ストロークで切り換えられる。
フォーカス合わせ用のテストパターンも1キーで呼び出せ、プログレッシブ変換モード(2-3プルダウン処理)のオン/オフまでも、メニューをたどることなくワンタッチで設定変更できる。ユーザーが視聴時に行なう基本機能操作は、全て独立キーに割り当てられているため、普段の使用でメニューを呼び出す機会はほとんどないと思われる。
ただ、操作系で1つ気になったのは入力切り替えの遅さだ。実測で約7秒。最近の製品としてはかなり遅い部類に属する。
■ 接続性チェック~一通りの入力端子を備えるが、D端子とDVI端子はなし
入力端子パネル。右端の「LIGHT」スイッチを入れると周辺が明るくなる |
接続端子はビデオ系がコンポーネント端子、S映像端子、コンポジット端子を1系統ずつ装備。PC入力はアナログRGB(D-Sub15ピン)が1系統あるのみだ。実売価格が約75万円の製品としては、入力系統が少ないといわざるを得ない。今の状態に加え、せめてビデオ系はD端子を、PC系はDVI端子が欲しかったところ。
RS-232C端子やリモートコントロール端子、トリガ端子も実装されているが、それよりもD端子やDVI端子があったほうが一般ユーザーに喜ばれると思うのだが……。
■ 画質一般~中間色表現が鮮烈だが、暗色表現にDMD単板式DLP特有のノイジー感が漂う
メニュー画面の拡大写真。画素の隙間が目立たないのがDLP方式の強みだ |
公称コントラストは1,000:1で、ホームシアター向けとしてはトップクラスの数値。実際に映像を見ると、そのハイコントラストぶりにハッとさせられる。中間階調の発色のダイナミックレンジが素晴らしく、色乗りも濃厚だ。DMD特有の画素の高密度感もあり、映像の立体感は特筆に値する。原色の発色も鮮烈だ。
公称輝度は550ANSIルーメンだが、体感的には700ANSIルーメンクラスの製品と比べても遜色ない。実際、部屋が明るくても投射映像がそこそこ見えてるほど。価格が高いだけあり、コントラストや輝度性能は、Piano Avantiよりも上を行っている印象がある。
しかし、気になる点もある。まず、表示映像の左右に縦の光漏れが発生する点だ。もちろんスクリーンの端でクリップアウトしてしまえば目立たないが、それが不可能な場合、明らかに黒レベルよりも明るい縦帯が見えてしまう。
また、単板式DLPの宿命とも言えるのだが、高周波ノイズのようなチラチラとしたノイズが暗部にのる。遠目だと明部の輝きに引きつられ気にならないのだが、シーン全体が暗いとこの現象が目立つようになり、さらに暗い物体が移動したりすると顕著になる。人によってはまったく気にならない性質のものだが、これは単板式DLPのクセなので、購入前にこの特性を納得しておく必要がある。
色調調整機能は、コントラスト、ブライトネス、色合い、シャープネス、色温度(LOW=5,250K、MID=6,500K、HIGH=9,500Kからの3択)といった基本項目はもちろんのこと、垂直/水平各方向の細部表現の強調度や、輪郭強調の度合いをを色信号と輝度信号の個別に調整できる。さらに、RGB各チャンネル毎のコントラスト、輝度までを設定可能。自分好みの画作りを細かくカスタマイズできるポテンシャルを備えている。
こうして作り込んだ色調モードは、12個までストア可能。プリセットの色調モードは、「THEATER」、「STANDARD」、「DYNAMIC」の3種類で、それぞれにデフォルト設定1個と、3個のユーザー色調モード記憶用のメモリを持っている。さらに、これとは別にユーザー1、2、3のメモリがある。
作り込んだ色調モードは、入力種別の区別無く適用できる。つまり、ビデオ映像で作り込んだ色調モードをPC映像に対して適用することも可能ということだ。各プリセット色調モードのインプレッションは以下のとおり。
○THEATER以上3つの色調モードは、どれに設定しても階調バランスが大きく崩れることがなく、中間階調の発色も正確だ。また、光量モードとして「ハイブライト」モードというのが設定でき、ランプの明るさをブーストする機能がある。かなり明るくなるが、階調表現の相対性は保たれるので、ハイブライトモードにしたからといって不自然さがでることはない。明るい部屋でスポーツ中継などを楽しむ際に利用すると良さそうだ。色温度がLOW(5,250K)になり、白が柔らかく黄色みがかる。肌色と赤の表現が美しく、人物の登場シーンが多い映画ソース向き。
○STANDARD
色温度はMID(6,500K)になり、明るさと暗さの表現バランスが良くとれているモード。万能な色調モードで、映画ソースはもちろんのこと、ゲームにも向いている。悩んだらこのモードが便利だろう。
○DYNAMIC
色温度がHIGH(9,500K)になり、白が青々と輝く。全体として青が強くなり、赤が沈み込み気味になる印象。人肌は冷たくなるので映像鑑賞向きではない。また、過剰なくらいのハイコントラストになるのため、PCでのプレゼンにも向く。
メニュー画面。左からコントラストなどを調整する「Picture Adjust」、ハイブライトのON/OFFが可能な「Setting」、台形補正を行なう「Display」。 (c)Disney Enterprises,Inc. |
■ 各ソースごとの表示映像インプレッション
●DVDビデオ(コンポーネント接続)
映画タイトルにもよるだろうが、人肌の質感が美しいTHEATERモードがお勧め。VP-16S1側の2-3プルダウン機能は優秀。プログレッシブ出力未対応のDVDプレーヤーを接続してインタレース映像(480i)を入力した時と、プログレッシブ出力対応のDVDプレーヤーでプログレッシブ映像(480p)を表示した場合を見比べても、ほとんど差は感じられない。動きの激しい映像でも目立ったコーミングが無く、その映像はフレーム単位で美しい。
暗部表現のざわつきはかなりあるが、Pianoシリーズよりも映像がハイコントラストのためか、それほど気にならない。
●VHSビデオ(S端子接続)
ビデオデッキを地上波チューナ代わりに使い、その映像をSビデオ経由で視聴してみた。ファロージャのDCDiが効くためだろうか、DVDなみの解像感のある映像を出してくれた。色モードはTHEATERかSTANDARDがお勧め。
●ハイビジョン(コンポーネントビデオ接続)
解像度的には480p相当しかないが、ダウンスキャンコンバータを搭載しているため、ハイビジョン映像(1080i/720p)の入力も可能としている。
実際にBSデジタルチューナのハイビジョン映像(1080i)を、コンポーネント端子に入力してみると、解像感はそれなりに出ており、目立ったジャギーもなく好印象。さすがに高解像度パネルを持つ機種と比べるとその差は実感するが、実用度は高い。
●ゲーム(コンポーネント接続)
目立った残像もなく、ちらつきもない。プレイステーション 2の映像出力はインターレース映像(480i)だが、これもきっちりプログレッシブ化されており、フレーム単位で美しい映像が得られていた。
●PC(アナログRGB接続、ビデオカードGeForce3Ti200使用)
PC映像は、文字の視認性からいうと800×600ドット、1,024×768ドットまでが実用限界。このほか、各画面モードにおいて以下のような結果が得られた。DMD素子自体の解像度は低いものの、表示適応能力はかなり高い。
1,600×1,200ドット | ○ |
1,600×900ドット | × |
1,360×768ドット | ○ |
1,280×1,024ドット | ○ |
1,280×960ドット | ○ |
1,280×768ドット | ○ |
1,280×720ドット | ○ |
1,152x864ドット | △(表示可能だが表示の一部が欠ける) |
1,024x768ドット | ○ |
800×600ドット | ○ |
640×480ドット | ○ |
なお、リアル解像度の848×480ドットを入力したところ、表示の左側と上側が微妙に欠けてしまっていた。それでもパネル全域を使いつつ、リアル表示に近い状態で表示できるので、実用度は高いと思う。PCゲームなどで16:9表示に対応したものは、この解像度を使うといいかもしれない。
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視聴機材 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A」 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m) |
■ まとめ~"生"のDVD映像が見たい人に
静音性に優れ、中間階調の発色もよく、ハイコントラストな映像が得られるものの、単板式DLPプロジェクタとしてはかなり高価な部類に入る。なおかつパネル解像度も848×480ドットしかない。この特徴をどう受け止めるか、という点にかかってくると思う。
マランツによれば「848×480ドットとしたのは、DVDビデオの720×480ドットという映像をスキャンコンバートせずに出力するため」だそうだ。つまりVP-16S1は「現行のDVDビデオ映像出力に特化した製品である」ということである。この点はをあらかじめ認識しておかなければならない。逆に言えば、PC映像やハイビジョンを高品位に映したい、と考えているユーザーには、VP-16S1は不向きということになる。
確かに、最近の低価格帯のプロジェクタは汎用性重視で設計されており、1つの目的に特化した製品というのはない。VP-16S1は、現行のDVDビデオの映像を余計な処理を通さずに「生の形」で見たいという、そこに「こだわり」をもつユーザーのための製品ということなのだろう。
※台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態 |
投影デバイス | 0.67型DMD単版(848×480ドット) |
レンズ | 光学1.2倍手動ズーム |
明るさ | 550ANSIルーメン |
光源 | 150W SHP |
コントラスト比 | 1,000:1 |
投影サイズ | 40~250インチ |
映像入力 | コンポーネント、S映像、コンポジット、アナログRGB(D-Sub15ピン)各1 |
騒音 | 32dB |
対応ビデオ信号 | 1080i/1035i/720p/480p/480i |
消費電力 | 250W(待機時3W) |
外形寸法 | 404.5×471×158mm(幅×奥行き×高さ、脚部含む) |
重量 | 13kg |
□マランツのホームページ
http://www.marantz.co.jp/
□製品情報
http://www.marantz.co.jp/ja/marantz/h_theater/vp16s1.html
□関連記事
【9月4日】マランツ、DVD再生に特化したDLPプロジェクタ
―DMD素子をワイドVGAに変更、限定200台を生産
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020904/marantz3.htm
【2001年9月12日】マランツ、i.LINK端子を搭載したDLPプロジェクタ
-ファロージャ製回路、ハイビジョン対応「HD DMD」を採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010912/marantz3.htm
(2002年9月19日)
= 西川善司 = | ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。 |
[Reported by トライゼット西川善司]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp