■ 意外性が楽しい、異色のアメコミヒーロー
全米で「スターウォーズ エピソード2」の出足を押さえ、ジョージ・ルーカスをして「大切なのは映画を製作すること。興行収入を争っているわけではない」とうそぶかせた「スパイダーマン」が、いよいよDVDで発売された。しかも、米国盤に先行して国内盤がリリース。こうしたケースは珍しく、日本人の一AVファンとして素直にうれしい。 さて、そのスパイダーマンだが、これほど映画化が難航した作品も珍しいという。当初、カロルコが取得した映画化権は、同社の倒産を機に転売が繰り返され、ソニーピクチャーが製作に着手するまでに、結局18年もの年月がかかったそうだ。 製作後は、同時多発テロのため再編集を余儀なくされ、2001年冬から2002年春に公開を延期。公開時には、待ち望んでいた米国民が一気にとびつき、最短9日で2億ドルというオープニング記録や、全米歴代5位という大ヒットとなった。40年以上も愛され続けているという、原作コミックの底力を感じずにはいられない。ちなみに、日本国内でも7週連続1位、80億円という記録をうちたてている。 ところでスパイダーマンは、我々と同じように恋や友情、世論に心悩ませるという、ヒーローらしかぬ庶民性を持っている。そこで、「ダークマン」のサム・ライミが監督に起用されると聞いたとき、「なるほど」と手を打ったのは私だけではないだろう。単純な善対悪の構図になっていないところも、彼の作品ならではといったところである。また、移動視点を取り入れたソニーイメージワークスによる高速VFXも、サム・ライミの世界だろう。 もっとも、この作品のキモは、アメリカン・グラフィティばりの青春ドラマにある。各所で語られている通り、この作品はスパイダーマン=ピーター(トビー・マグワイヤ)の成長物語であり、これに準じた演出や台詞がたくさん出てくる。学食、ロッカーでの喧嘩、卒業式、初めての都会生活など、次々と出てくるこじんまりとしたシーケンス。原作になじみの薄い日本人にとっては、この意外性も楽しさの1つだ。ちなみに、日本国内での興行収入は80億円で、動員数500万人以上、興行成績7週連続1位だそうだ。 なかでも、ピーターと彼が思いを寄せるメリー・ジェーン(キルスティン・ダントン)との会話は、なんともいえない初々しさ、微笑ましさにあふれており、見ている方の恥ずかしさは満点級。また、主役級3人がほろにがく成長したラストには、だれもが思わず感無量になることだろう。公開時のコピーから受ける印象は「製作費166億円のVFX超大作」や、「ついに実写化した最後のアメコミヒーロー」なのだが、実は異色の青春ドラマだったのだ。
■ 摩天楼を横目にした高速「ウェブ・アクション」がすばらしい パッケージはトールサイズで、スパイダーマンだからなのか、色は赤。赤いトールケースといえば、某社が展開中の1,500円シリーズと同じだ。個人的な先入観なのだが、一見安っぽい雰囲気を受けた。さらに、1,500円シリーズと間違えてレジに持っていってしまった消費者が、店頭でクレームをつけている姿が目に浮かぶ。よく見るとホログラム印刷やデコレーションがパッケージに施されており、実は3,980円にしてはかなり凝った仕様である。 映像はビスタサイズのスクイーズ収録。本編収録時間は約121分で、ディスクは片面2層。DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた本編の平均ビットレートは5.8Mbpsだった。2時間で5.8Mbpsは多少物足りないが、これは本編ディスク内にコメンタリ2つと複数の隠しメイキングを入れたためと思われる。 実際の画質はシーンの差が激しく、輪郭がぼろぼろのところもあれば、目を見張るほど滑らかな場面もある。どちらかといえば、ラストに向けて徐々にきれいになっていく印象で、後半のアクションシーンは全般的に美しい。スパイダーマンのマスク越しの顔の凹凸や、衣装の網目の盛り上がりなどもくっきりと表現されている。夜間のシーンも多いが、後半はノイズも少なく特に問題なく視聴できる。
音声は、英語、日本語ともにドルビーデジタル5.1chの448kbps。このクラスの大作になると、ドルビーデジタルEXやDTS-ESなどの高次フォーマットを期待してしまうところだが、5.1chでも十分楽しめた。 この作品の場合、サラウンドでの聞かせどころはたくさんある。どこからともなく聞こえてくるグリーンゴブリンの笑い声、摩天楼をバックにした高速移動シーンなど。特に、上下の移動感まで感じとれる空中移動シーンが秀逸。スピード感が怖いくらいだ。製品発表会のデモでもよく使われており、自室のリファレンスディスクとして役立つだろう。 画質、音質のクオリティは総じて高め。さすがSPEといったところだが、本編ディスクの特典を少なくし、もう少し画質にディスク容量を割いても良かったのではと感じる。
■ 音声解説を自作する? バラエティ豊かな特典 次は特典の紹介。Disc1、Disc2をあわせると、とにかく盛りだくさんの特典が入っている。以外にも、原作ファン向けのコンテンツが充実しているのが特徴だ。まず音声解説は、サム・ライミ(監督)、グラント・カーティス(製作補)、ローラ・ジスキン(製作)、キルティン・ダンスト(メリー・ジェーン役)の4人によるものがまず1つ。さらに、ジョン・ダイクストラ(視覚効果デザイナー)、スコット・ストックダイク(視覚効果スーパーバイザー)、アンソニー・ラモリナラ(アニメーション監督)の3人が参加するバージョンがある。VFXの多い映画なので、後者の視覚効果スタッフによる音声解説が興味深かった。使用した主要技術1つ1つを解説してくれるので、興味のある方にはためになる内容だろう。 また、本編視聴時には、「スパイダーセンス」、「クモの巣を張ろう! 飛び出すインフォメーション」というメニューも選択できる。 「スパイダーセンス」は、本編視聴中、スパイダーマンのアイコンが表示されたときにリモコンの決定ボタンを押すと、隠されたメイキング映像が見れるというもの。「マトリックス」の「白ウサギを追え」と同じと言えば、お分かりになる方も多いかもしれない。隠し映像の全部はまだ見ていないが、いまのところ4種類を確認できた。 「クモの巣を張ろう!」の方は、本編に連動してメッセージボックスがあらわれるというもの。メッセージボックスには、ちょっとした製作裏話が綴られている。「スパイダーセンス」、「クモの巣を張ろう!」とも、特殊な本編再生の一種といえ、2回目、3回目の視聴時に選択したい。ただし、サブピクチャを使っているので、字幕が表示されなくなる。また、アイコンやメッセージボックスは、それほど頻繁に出るというものでもない。隠しメイキングという趣向は面白いが、今回はせっかく特典ディスクという別盤を用意しているので、個人的にはそちらにまとめてほしかった。 Disc1、Disc2ともにDVD-ROMコンテンツも入っている。ドライブにディスクを入れると、おなじみのInterActual Playerが勝手にインストールされ、スパイダーマンのスキンをまとって起動。 Disc1のDVD-ROMコンテンツで強烈なのは、その名も「自分の音声解説を録音しよう!」。DVDビデオ初の試みだそうだ。要するに、画面を見ながらPCに音声を録音し、その後、本編にあわせて再生するだけというもの。しかし、これが結構面白かった。録音するものは音声解説でなくとも、ツッコミとか台詞のまねとかでもいい。映像にシンクロする自分の間抜けな声に、思わず爆笑間違いなしである。なお、録音はチャプタ毎に行われ、11kHz/8bitモノラル、88kbpsで記録される。 Disc2は、コミックを中心にした「スパイダーマン・ウェブ・コミックの世界」と、映画のメイキングが主な内容の「ゴブリンの隠れ家 映画の世界」に分かれている。前者には原作監督のスタン・リーへのインタビューや、コミックの表紙集、敵キャラクタ集などが収められている。 一方、「ゴブリンの隠れ家 映画の世界」には、メイキング、サム・ライミ、ダニー・エルフマン(音楽)へのインタビュー、スクリーンテスト集、NG集などが含まれている。コミックを中心にした「スパイダーマン・ウェブ・コミックの世界」に比べるとマニアックな情報量が少なく、ファンには少し物足りないかもしれない。
■ アメコミファンならずとも楽しめる、期待通りの良作 もちろん、DVDビデオとしてもクオリティは高い。画質の面で少々不満がないわけでもないが、あの空中移動や、壁のぼりのシーンを何度でも体験できるという意味では、AVファンなら持っていて損はないソフトだろう。セッティングを変えるたびに再生してみたい。接客デモ用としても活躍してくれそうだ。 2枚組み3,980円という価格も標準的。内容や話題性を考えれば、買って損のないソフトといえる。1つ心配なのは再販キャンペーンの件。次回作は2004年なので、それまではキャンペーン対象にならないと思うのだが……。
□SPEのホームページ
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