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第55回:ストーリーって何?
「マルホランド・ドライブ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 「いままで見た中で、最も意味がわからない」との評。ということで買ってみました

マルホランド・ドライブ
価格:3,800円
発売日:2002年8月21日
品番:PCBE-50340
仕様:片面2層
本編収録時間:約146分(本編)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
    日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:ポニーキャニオン

 友人などと一緒に映画に行った後、その感想を言い合ったり、気に入ったシーンについて熱く語ったり、いかにダメだったかとこき下ろしたり…… といったことは、「映画を見に行くこと」にまつわるもうひとつの楽しみといえると思う。その映画が良かったにしろ悪かったにしろ、興味深い内容であれば自ずと話も盛り上がるというものだ。

 そんなこんなで、部内の有志が集まる飲み会からの帰り道、最近見た映画/DVDの話をしていたら、PC Watchのw氏が「マルホランド・ドライブを見ろ」という。いわく「今までで一番意味がわからない映画。終わった後、皆が語ろうとせずショボーンとしていた」という。

 「そんなにわけがわからないのならばとりあえず見なければ……」ということで、DVD化されたそいつを買って見ました「マルホランド・ドライブ」。表示価格買いの税込み3,990円。デイビット・リンチ監督の最新作。カルトな人気を誇る監督なだけに熱心なファンも多いだろうが、一般的に有名なのはTVシリーズを含めた「ツイン・ピークス」シリーズの監督としてだろう。

 筆者は熱心なファンといったことはないが、ものすごーく簡単に言うと、このマルホランド・ドライブも“郊外の中流~上流階級らしい何か問題を抱えていそうな人々を、様々なエピソードを交えて描いていく”といった、わりといつものデイビッド・リンチものといった感じだ。

 だが、「マルホランド・ドライブ」では、とにかく、いろいろな人のエピソードが交錯しつつ、時系列も場所も無視してぐしゃぐしゃに描かれている。一度見た後に残るのは、ただ「見た」という事実と、印象的なシーン/音楽の断片が思い起こされるのみ。ストーリーについては「よくわからなかった」という他はない。



■ ストーリーはとにかく伏線だらけ。何度見ても良くわかりません

 ということで、ストーリーを説明するのはこの上なく難しい。マルホランド・ドライブ(ハリウッドにある実在の通りの名前)で、後部座席に女性(ローラ・エレナ・ハリング)を乗せた車が突然止まり、彼女は運転手に銃を突きつけられる。その時、前方から猛スピードで走ってきた2台の車と激突し、大破。女性はなぜか現場を逃げるように立ち去り、警察が駆けつける頃には、高級アパート前に倒れ込んだまま意識を失う。

 カナダから叔母を頼って、ハリウッドに出てきたナオミ・ワッツ扮する女優の卵ベティ(登場時の名前)がアパートに入ると、事故により記憶を失った女性がなぜかアパート内におり、彼女は「リタ」と名乗る。その後は、2人を軸に様々な人のエピソードが時系列、場所を無視しながら展開していく。なにしろさっきまで「リタ」の本名だと思われ、その名前を元に捜し歩いていた「ダイアン・セルウィン」が、突然ベティ(というかナオミ・ワッツ)により演じられるといった具合で、いちいちストーリーにつじつまをあわせて考えると、ただただ疲労してしまう。

 ちなみに、パッケージには、「この映画の謎を解く、監督からの10のヒント」なる冊子が入っている。「映画の始まりに特に注意。少なくとも2つのヒントがクレジットの前にある」とか、「赤いランプシェードが出てくる場面に注意」といったちょっとしたことが書いてある。まあ、ちょっとしたヒントということで、頭においておくとちょっとは理解が早まるのかもしれない。

 冊子のヒントのほかにも、青い宝石箱と鍵は一体何? とか、意味深なコーヒーショップのウインキーズ、マルホランド・ドライブとサンセット通りの標識など「ここで伏線を張っています」というような、気になるポイントが無数にある。何度も見返して自分なりの解釈を見つけ出す、というDVDならではの楽しみには最適といえるかもしれない。

 個人的に印象に残ったのは、女優を目指すベティの映画のオーディション場面や、2人が連れ立って劇場へ出かけるシーン。特にチャプター10の劇場のシーンで、「楽団はいない。これは全てテープだ」とどこの訛りだかよくわからない英語で繰り返されるシーンが印象深い。

 また、チャプター8は「I've Told Every Little Star」、チャプター11は「ジョランドー(ロスアンゼルスの泣き女)」といった具合に、実際にそのシーンで流れる曲名が各チャプターのタイトルとなっており、まるで音楽のためにシーンがあるような一体感がある。チャプターごとにストーリーも大きく変化するので、ある意味15のプロットを詰めた短編集的に楽しむこともできるかもしれない。なお、音楽は、ツインピークスやロストハイウェイなどと同様にアンジェロ・バダラメンティが担当している。


■ DVDとしては?

 映像はビスタサイズのスクイーズ収録。音声は、英語/日本語をドルビーデジタル5.1chで収める。本編の収録時間は約146分で、Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.41Mbps。

 映像は、明度が低く、粒状感のあるフィルムらしい印象。もちろん、リンチ的なダークな空間に薄暗い照明を配した、フォーカスのぼやけたようなシーンがとても多く、この映像のテイストだけで、ぐっと来る人も多いだろう。筆者はその類の思い入れをあまり持ち合わせていないが、この映像の雰囲気はとて魅力的に感じた。

 暗いシーンが多いということもあるが、画質的には、暗部にノイズがのりがちなのが気になった。また、音響的には、ドアの閉まる音や電話といった具体音の配置がよく、驚かされるシーンが多い。

Bit Rate Viewerで見た本編のビットレート

 特典は、ディヴィッド・リンチ監督のインタービューと、インターナショナル版、日本語版の予告などが含まれている。

 インタビューに監督の意図を少しでも明かすようなヒントがあるかと思ったが、「テーマは何か?」と尋ねられた監督は、「全て作品で語り尽くしているのに、言葉での解釈を求められるのはとても不本意だ。完成した映画以上に説得力のある言葉は存在しない」などと取り付くシマもない。

 ちなみにインタビューアは、「テーマを教えてください」、「どこがみどころですか」、「この映画についてコメントお願いします」などと、同じようなことを聞いていて、そのたびに監督に「作品を体験して、主体的に感じて欲しい」といった一般論で切り替えされていてあまり面白くない。もっとも、不機嫌そうな監督の表情やしぐさは、いかにもこんなテイストの映画を作りそうな雰囲気を醸し出していて興味深いのだが……。


■ 「意味がわからない=つまらない」ということではない

 既に数回見直しているが、いまだに見返すたびに、「ああ、あそこで出てきた鍵がここでも」とか、伏線をザクザク発見できる。繰り返し見て、こうした謎解きや解釈を、ひとつづつ時間が許す限り行なえるのもDVD化のよいところだ。もっともそうした小さなフックをいくつ見つけたところで、映画全体の理解にどれだけ近づいているのかは怪しいものだが……。

 個人的には、たとえ意味がわからなくても映像や、音響、音楽の雰囲気だけでも十分楽しめる作品と感じた。自分の解釈が正しいのかはさておき、ストーリーを超越したところで驚きがいくつもある。「意味がわからない」=「つまらない」ではないということを十分に教えてくれる作品だと思う。特典のインタビュー中監督は、「理解に苦しんだら自分を信じることだ」といっています。そういうことですよ。たぶん。

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前回の「「天空の城 ラピュタ」」のアンケート結果
総投票数2,011評
1,003票
50%
824票
41%
184票
9%

□マルホランド・ドライブのホームページ
http://www.mulholland.jp/index_f.html

(2002年10月18日)

[usuda@impress.co.jp]



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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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