■ ゲームの映画化は鬼門というイメージが……
それに伴い、プラットフォームもプレイステーションからドリームキャスト、ゲームキューブに加え、Windowsにも広がっている。そして、次はいよいよスクリーンデビューというわけだ。 日本のゲームをハリウッドが映画化するという、言わば「逆輸入現象」で公開前から話題となった本作。だが、ゲームがヒットする要素と映画がヒットする要素は異なる。また、映画として成立するためには、ゲームファンも、そうでない人も楽しめる作品にしなければならない。双方に納得してもらえる映画を作るのは難しいことだろう。 その証拠に、映画化されたのは良いけれど、ゲームファンはガッカリ、そうでない人には「単なるつまらない映画」として片付けられた作品は多い。具体的なタイトル名を挙げるのは控えるが、成功と失敗、どちらの映画のほうが多いかは明らかだろう。 最近は日本のアニメやゲームがハリウッドで実写映画化するという話をよく耳にするが、過去の例を考えるとあまり期待していない自分がいる。 私と同じ認識を持った人は多いようで、同ゲームの大ファンだという主演のミラ・ジョボビッチも「最初はまったく期待していなかった」とインタビューで素直に答えており、思わず笑ってしまった。
しかし、監督と脚本を担当したポール・アンダーソンは、ゲーム「モータル・コンバット」を映画化し、全世界で1億5,000万ドルを稼ぎ出した人物。ゲームを映画化する際のテクニックや要点は心得ているのだろう。期待しつつも、一抹の不安を覚えながら「お手並み拝見」という気持ちで観賞を始めた。
■ 3分に1回!? ドッキリシーンの連発 映画の舞台はアメリカ中西部の都市「ラクーンシティ」。この街にある全米最大の企業「アンブレラ・コーポレーション」は、都市の地下深くに秘密の研究施設「ハイブ」を建設し、極秘に生物兵器「T-ウィルス」の開発を進めていた。 しかし、開発中のウイルスが何者かによって奪われ、施設内部に漏洩するという事件が発生。ウイルスの外部流出を防ぐため、AIを使用した警備システムが作動し、ハイブは完全に外部との接触を絶たれてしまう。この事態を受け、特殊部隊はハイブへの潜入調査を開始するのだが、そこには想像を絶する光景が広がっていた。 映画の大まかなストーリーは上記の通り。ちなみに、ゲームの公式サイトによると「バイオハザード」とは生物災害を現す新語で、人間や自然環境に対して脅威を与える生物学的状況や、危険のことを言う。なお、原題は「Resident Evil」で北米向けのゲームタイトルも同様。 登場するキャラクターに微妙な違いがあるが、物語の設定はゲームに忠実だ。その中で映画の主人公「アリス」は、記憶を失った女性として登場する。バスタブで倒れていた彼女は、突然現れた特殊部隊に連れられて、わけもわからないまま行動を共にすることになる。 現状を理解していない主人公に、登場人物が様々な説明をしてくれるので、バイオハザードの世界に初めて触れる人も戸惑うことはない。自然な流れでゲームファンとそうでない人の溝を埋める上手い演出といえるだろう。また、「失った記憶」という謎を取り入れることで、単純な内容になりがちなホラーアクション映画の中に、サスペンス的要素を追加してる。 映画の最大の目的は、ゾンビがひしめく研究所の中から無事に脱出できるか否かに尽きる。迫り来るゾンビ、予測しない場所から飛び出て来るモンスター、尽きる弾薬、倒れる仲間……と、ゲームファンの期待を裏切らない展開が続く。 バイオハザードの怖さは、怨念や恨み辛みといった日本的な、怪談的な怖さではない。突然何かが飛び出して来たり、暗闇から誰かが襲い掛かって来るような、突発的な怖さがメインだ。映画もそのあたりを忠実に再現しており、あらゆる手口で観客を脅かそうという企みに満ちている。 例えば、かすかな物音に気付き、周囲を警戒する。そして音楽が徐々に盛り上がっていき、次の瞬間 バン!と何かが出現するといった具合。効果的に音響を使っており、ショッキングなシーンが次から次へと連発される。早くなった鼓動が正常に戻る暇がないくらいなので、脅かされるのが嫌いな人は要注意だ。 だが、過ぎたるは及ばざるがごとし。サービス精神に溢れるのは結構だが、少々狙いすぎの面もあり、映画が終盤に差し掛かる頃には「音楽が盛り上がってきたから、そろそろドッキリシーンが来るぞ」などと予測しながら観賞してしまった。もう少し展開に強弱をつけて欲しいところ。 また、ゲームと違い、仲間が沢山いる状態で物語が始まるので孤独から感じる恐怖が少ない。冒頭の主人公が記憶を失った状態で、ゾンビとしばらく単独で戦ってから、特殊部隊に助けられるような展開でも良かったのではないだろうか。 それと関連して、主人公が強すぎる印象も受けた。彼女も特殊部隊の一員だったという設定ではあるが、銃すら使わず、マトリックスばりの動きでゾンビをなぎ倒し、宙を舞う飛び蹴りで犬の頭を粉砕するなど、無敵の強さ。「主人公だから」と言ってしまえばその通りだが、感情移入しづらい面があるのは確かだ。
以上のように挙げれば細かい不満はあるが、アクション、スプラッタ、ホラーといった要素を十分満たす内容は評価したい。もちろん、食事中には見たくないシーンも多々あるので、「バイオハザード = ぐちょぐちょのゾンビが山ほど出てくる作品」と、わかって見る分には良いのだが、「話題だから」と軽い気持ちで手を伸ばすのは要注意。逆に、その手の映画が好きな人にはたまらないだろう。散々脅かされたので映画を見終わったあとの満腹感も高く、期待を大きく超えることはないが、裏切らない映画に仕上がっている。
■ 恐怖を煽るサラウンド効果 画質は非常に良い。特にミラ・ジョヴォヴィッチのアップはきめが細かく、肌の色も美しく収録されている。映画の内容的に暗いシーンが多いので、暗部にノイズが出ることもあるが、明るい場面や人物のアップでは画質を向上させており、トータルでは高画質ソフトと言って良いだろう。 映像は、ビスタサイズをスクイーズ収録。平均ビットレートは7.1Mbps。本編が約101分で、約84分の特典を収録することを考慮すると、標準より高めだろう。音声は英語をドルビーデジタル5.1chとDTSの2種類、日本語はドルビーデジタル5.1chのみ収める。 主にDTS(ビットレート768Kbps)で聞いたが、音質は少々硬め。高く、鋭い音が良く録音されている。接続したスピーカーによっては、少しきつく感じる人もいるだろう。映画の内容から想像しがちな派手な音響ではなく、爆発なども少ないので若干迫力に欠ける印象を受けた。銃器の発射音を誇張して、もう少し低音を効かせてほしかった。サブウーファーのボリュームをアップしての観賞をお勧めする。 その反面、音響を使った演出は非常に良い。ゴソゴソという物音を突然リアスピーカーから出したり、凶暴化した犬の爪が床をひっかく「チャッ、チャッ、チャッ」という音が部屋に反響したり、サラウンドを使った恐怖の演出が楽しかった。ただ、怖さを煽るBGMの使い方も上手いのだが、効果音と混ざり合ってしまうシーンがあり、BGMの音にはもう少し広がりを持たせてほしかった。
特典は本編ディスクに収録されているが、ボリュームは満点。監督のポールアンダーソンと、ミラ・ジョヴォヴィッチの来日インタビューのほか、マリリン・マンソンのインタビュー、ゾンビ・メイキャップテスト、バイオハザード用語解説、予告編集などを収める。また、サウンドトラックに参加した「スリップノット」が、ゾンビ顔負けのメイクで歌うミュージッククリップも収録している。 注目すべきはインタビューで、主演のミラ・ジョヴォヴィッチは「歳の離れた13歳の弟がゲーム好きで、彼が喜ぶと思って映画の出演を決めた」という可愛らしいエピソードを話してくれる。また、弟と一緒に彼女自身もゲームに夢中になってしまい、1日5時間もプレイしたことがあるそうだ。 ゲームのファンだからこそ、良い映画にしたいという思いが出演者にもスタッフにもあるようで、監督のポールアンダーソンもゲームの映画化にかける思いを熱く語っている。また、ゲームの3作目「ラスト・エスケープ」をベースとした、映画の続編も製作しているという。 そのほかの特典として、劇中に登場した銃器の解説コンテンツを収録。データベースを閲覧しながら、その銃器が登場しているシーンに直接ジャンプすることも可能だ。また、ゲームのバイオハザードの歴史を紹介するコンテンツも用意。シリーズ各作品のデモムービーや、ゲームの様子などを動画で見ることができる。特に最新作「バイオハザード 0」の映像は映画に負けないほどリアルで、ゲームの進化のスピードに改めて関心してしまった。
■ 映画化として合格点を差し上げたい 冒頭、「バイオハザード」が映画として成立するためには、ゲームファンも、そうでない人も楽しめる作品にしなければならないと書いた。ゲームをプレイしている私としては、満点ではないが、十分合格点を差し上げたい。 ゲームの映画化とは名ばかりに、中身は完全オリジナルで、タイトルだけ同じという作品ではなく、かといって、ゲームのシナリオをなぞっただけの映画でもない。両者の中間にバランス良く立っている。鬼門と呼ばれる企画にあえてチャレンジし、成功を収めた稀有な例に加えても構わないだろう。 コアなファンは、ゲームで戦った敵キャラクターが劇中に登場するたびに、ニヤリとしてしまう。同時に、主人公の記憶喪失という要素が加わったことで、意外性のあるストーリーも楽しめる。 ガイド的な演出が用意されているので、初心者でも安心して観賞できるだろう。現に、ゲームのバイオハザードをまったく知らない家族も普通の映画として楽しんでいた。 内容的に万人にお勧めできるジャンルとは言えないが、ゾンビ映画の伝統的かつ、衝撃的な(?) 結末も用意されており、純粋なホラー映画として楽しんでみるのも良いだろう。
□アミューズピクチャーズのホームページ (2003年1月28日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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