■ すいません、ノーマークでした……
世間の人も同じように思ったのか、興行的にも爆発的ヒットとはいかなかったようだ。そんなこともあって、DVD化が発表された後も、購入リストには加えていなかった。 しかし、実際にDVDが発売されてみると、弊誌のDVD売り上げランキングで1位を獲得。注目タイトルであることを再認識した。 そこで、弊誌の他のスタッフに聞いてみたのだが、誰も購入する予定はないという。購入するかどうか考えている時に、ちょうどこの連載の順番が回ってきた。価格もワーナーなので、特別版で2,980円ということもあり、「面白くなかったら他のタイトルをレビューするか」と、思いながら購入を決定した。 これが、実際に鑑賞すると、思わぬ拾い物だった。ワーナーさん、ノーマークですいませんでした。
■ 死という運命は避けられないのか? 1899年冬。ニューヨークに住む科学者アレクサンダーは、恋人エマにプロポーズするため、待ち合せをしたスケート場に向かった。しかし、婚約指輪を渡したその時、強盗にエマが銃殺されてしまう。その日から、アレクサンダーは、あの瞬間に戻って過去を変えるために、憑かれたように「タイムマシン」の研究に没頭する。 それから4年。遂にタイムマシンは完成。アレクサンダーは、運命のあの日に戻ることに成功した。しかし、エマはあの時とは違う死をとげ、命を救うことができない。「死という運命は避けられないのか?」。その疑問の答えを見つけるため、科学の進んだ未来、2030年へと旅立つ。しかし、その時代にも彼の求める答えは見つからない。
さらに7年後の2037年へ。そこは廃虚と化し、薄暗い空を見上げると、ひび割れて大きく変形した月が浮かぶ。その影響で、アレクサンダーの乗るタイムマシンはさらに未来へと飛ばされ、80万年後の世界にたどり着いてしまう……。
■ '60年版とはかなり異なるテイスト 小説「タイムマシン」といえば、いわずと知れた、H.G.ウェルズの代表作の1つであり、SF小説の金字塔ともいえる。この小説を原作に、ジョージ・パルが'60年に映画化し、アカデミー賞特撮賞を受賞した。そして、今回紹介するのは、ドリーム・ワークスがリメークした2002年版。デジタルドメインをはじめとする、ハリウッドが誇るVFXチームが総結集したという。 H.G.ウェルズの原作を読んだことのある人なら、2002年版ではタイムマシンを完成させる動機が、まったく原作と異なっていることに気がつくだろう。原作では、タイムマシンを作る動機は、ほぼ科学的好奇心のみでその意味では無邪気だったが、2002年版のタイムマシンでは、「愛する人をよみがえらせたい」という、かなり個人的な感情によっている。 '60年版では、原作にかなり忠実に映像化しているのに対し、2002年版では、現代ハリウッド的ストーリーを織り込んでいるともいえる。後半のパートでも、舞台設定や、登場人物などは、原作とほぼ同じなのだが、感情の描き方や、結末の付け方が、かなり異なっている。そのため、エンドマークが出たあとに残る視聴後感は、'60年版と2002年版では、かなり違ったものになる。 SFとしては、'60年版の方がよくできていると思うが、個人的には感情も描こうとしている2002年版の方が好みである。なお、本編の時間は'60年版が102分、2002年版が96分で、今見ると'60年版は、テンポがゆったりしていると感じるだろう。 もちろん、タイムマシンを現代によみがえらせたドリーム・ワークスは、そのブランドネームにかけて、ありとあらゆる特撮技術を駆使しているところも見所。どこがCGで実写なのか、完全に見分けるのはかなり難しいだろう。
また、2002年版では、監督をH.G.ウェルズの曾孫にあたる、サイモン・ウェルズを務めているのも話題の1つである。
■ ワーナーとしては、かなりの高画質・高音質 映像は、シネマスコープサイズをスクイーズ収録。平均ビットレートは6.49Mbpsと、本編96分+映像特典30分の割りには、少々低め。音声は英語、日本語ともドルビーデジタル5.1ch(ビットレート384kbps)。 画質は、思いのほか良好。「思いのほか」というのは今までの経験上、ワーナーが発売するDVDタイトルは、価格競争力は高いものの、あまり画質にこだわっていないと思っていたからだ。しかし、このタイムマシンはかなり画質がよい。 現在のDVDの最高画質とまではいかないが、十分高画質といえるレベルにある。ただ、高画質であるが故に、遠景の絵だと「この背景は描いているな」(マッドペインティング)と、わかるところが数箇所あった。 しかし、全体的にはドリーム・ワークスの仕事はすばらしく、ほとんどのシーンでCGと実写の境や、コンピュータ合成を見破ることは不可能だろう。「ハリウッド最強のVFXチームが集結し、世界最多の281兆色を超えるCGで映像世界を創造した」と謳うだけのことはある。 なお、チャプタ数は27個もあり95分の作品としては、かなり細かく分かれている。その点ではこだわりが見られるのだが、チャプタメニューの構成がわかり辛いのが難点ではある。 またサウンド面は、DTSを収録しないのは残念ではあるが、音質は良好。タイムマシンの稼動音や、アクションシーンなどのサラウンド感は十分で、迫力もある。
映像特典は、未公開オープニング・シーン(7分)、狩猟シーンの絵コンテ(6分)、メイキング集(モーロックの誕生[6分]、タイムマシンの設計[6分]、視覚効果について[4分]、スタントについて[1分])、オリジナル劇場予告編に加え、プロダクション・デザインギャラリーを収録する。 この中で、個人的に一番気に入ったのは、未公開オープニング・シーン。実際に採用されたオープニングシーンは、説明的なカットが省略されている。未公開オープニング・シーンには、今後のストーリーの伏線や、暗示するものが数多くちりばめられている。ぜひとも、一度本編を鑑賞した後で見ることをお勧めする。なぜ、このオープニングシーンがカットされたのか残念に思わなくもないが、監督としては、会話が長く続くと退屈だといいう方針で、説明的なシーンをできる限りカットしたという。 メイキング集の中では、やはり「タイムマシンの設計」が面白かった。灯台用のフレネルレンズを使用して、重量が1.8tもあることや、組み立てに20人のスタッフで2ヶ月半かかったことなどが解説される。この映画の主役でもある、タイムマシンという「大道具」に、並々ならぬ情熱とお金と、人力が注がれていることが理解できる。 映像特典は合計で約30分と、最近のDVDの傾向からすると、「特別版」の割りには少ないのが残念なことろ。また、オーディオコメンタリとして、サイモン・ウェルズ監督、編集のウェイン・ウォーマンの2人によるトラックと、製作ディビッド・バルディズ、視覚効果監修ジェイムズ・E・プライスの2人によるトラックの2つが収録されている。 最近、オーディオコメンタリが入っているDVDも増えたが、あまり喋ってなかったり、内容が退屈なものも結構多い。このDVDのコメンタリは、かなりよく喋っているし、内容も面白い。特に、ここは実写、ここはCG、ブルーバックを使った、ここの背景はマッドペィンティングということが随所で明かされ、これがCGで作られているのか、などと驚かせてくれるのは楽しい。 監督と編集のコメンタリは、かなり好き勝手に話していて興味深い内容が多い。小道具は買って、撮影後転売しものもあるとか、時計だけで1万ドル以上したとか、「この映像はスピルバーグにも負けていない」など、飽きさせない。 ただ気になったのが、カットしたシーンについて語り「今でも惜しいよ」と話しているところ。せっかくのDVDなので、ぜひとも映像特典で収録してほしかった。また、製作中に米国同時多発テロがあり、「未来のニューヨークで、月の残骸地球に落下し、ビルに衝突。ビルが崩れる」というシーンを、あまりに実際の映像に酷似しているということで、作り変えたと語っている。 80万年後の人類の進化型(?)のモーロックが、顔の部分がアニマトロニクスで作られているため、鼻にカメラを埋め込み、中に入っている人の目の近くにモニタを内蔵して、それを見ながら演技しているというのには驚かされた。そのため、モーロックの扮装をして演技すると、かなり痩せるとのことで、「モーロックで激ヤセ」とすればダイエットグッズとして売れると、冗談も飛ばしている。 まあ、とにかく聞いて損のないコメンタリなので、購入された方はぜひとも聞いてほしい。
■ 個人的にはオススメしたいDVDだ この作品は、ドリーム・ワークスが持つ技術力のショーケースとしての役割も果たしている。そういった視点で見ても面白いだろう。 しかし、個人的にはタイムマシンのデザインや、暖かみのある色彩など、2002年版タイムマシンの世界観がかなり気に入った。この作品がノーマークだったことを恥じるばかりである。映画の好みは人それぞれだろうが、もう少し評価されてもいい映画ではないかと思う。 価格は、ハリウッド・プライス2,500円よりは少々高い2,980円だが、それでも他社よりは安い。しかも、ピクチャーディスク仕様で、初回版にはメタル風パッケージが付属と、ワーナーとしては凝っている。映画の内容にも個人的には、この価格の価値は十分にあった。 ちなみに、ちょうど'60年版タイムマシンも、スーパー・ハリウッド・プライスの1,500円(2月21日)で販売中だ。まだ、未見の人は、これを機会に購入して、見比べるとより深く楽しめるだろう。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2003年1月21日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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