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第71回:姿なき暗殺者、一撃必殺の美学
男は黙って見るべし!!「山猫は眠らない」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ スナイパーってなんですか

山猫は眠らない

価格:4,700円
発売日:2003年2月21日
品番:PIBF-7500
仕様:片面1層1枚
収録時間:本編約100分
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル2.0ch)
字幕:日本語
発売元:株式会社フルメディア
販売元:パイオニアLDC株式会社

 冒頭から個人的な話で恐縮だが、私は大の「スナイパー好き」だ。スナイパーとは、日本語で言うと「狙撃手」のこと。戦場におけるスナイパーは、草や木を貼り付けたボロ布のような服(ギリースーツ)を着込み、森や林、茂みと同化する。手には射程の長い「スナイパーライフル」という特殊な銃を持ち、音も姿も無く、ただじっと獲物を狙う。まさに戦場のハンターだ。

 私は学生時代、エアーガンを持って野山で戦う「サバイバルゲーム」というものを何度か遊んだことがあり、実際にスナイパーの役を担当したこともある。最近ではテレビゲームでも戦争や特殊部隊を扱ったものも多く、そうした作品には必ずといっていいほどスナイパーは登場している。

 だが、耳にする機会が増えたとはいえ、ほとんどの人は彼らがどんな存在なのかわからないだろう。それを見越してか、今回取り上げる映画「山猫は眠らない」の冒頭は、まさに「スナイパーとはこういうものだ」というシーンから始まる。

 舞台は湿気の多いパナマのジャングル。画面いっぱいに映し出された緑の茂みがゴソゴソと動き、突然中から人の顔が現れる。完全に自然の景色と同化しており、すぐそばにいた野鳥が驚いて飛び立つ。

 枯れ枝や草をまとったスナイパーは、無言で泥だらけの地面を這い、暗殺するターゲットの姿が見える場所へと移動する。映画は銃のスコープから覗いた画面に切り替わり、ターゲットの男の胸に照準が合う。放たれた弾丸はたった1発。しかし、その弾丸は確実にターゲットの心臓を打ち抜き、命を奪う。

 撃たれた方はまったくの不意打ちだ。突然の銃声と、倒れたボスに驚き、側近達は銃声が聞こえた方向の山に向かって自動小銃をやみくもに撃ちまくる。しかし、どこにいるかもわからない相手に当たるわけもない。枯れ草とゴミの山にしか見えないスナイパーは、また無言で這いずりながら山奥へと姿を消す。

 はっきりいって恐ろしい。生まれたからには、どこかの政府から命を狙われるほど重要な人物になってみたいと思うこともあるが、こんな暗殺者に狙われるなら願い下げである。

 無防備な敵を仕留めることは簡単だ。そして、自分の存在を悟られなければ、敵に攻撃されることはない。言葉にすると卑怯な印象を受けるが、スナイピングとは実に合理的な戦法である。「山猫は眠らない」は、そんな姿なき暗殺者を主人公にした映画だ。



■ B級と呼ばないで!! 渋い男の映画です

 人気作、話題作を取り上げることが多いこのコーナー。しかし、今回の映画は約10年前('92年公開)で、知名度は低く、興行的に成功したという話も聞かない。私が「この映画好きなんだよ」と言うと、大概の人はタイトルと出演者欄の「トム・べレンジャー」という名前を見て「B級映画だろ」と言ってしまう。確かに某テレビ局で、昼間に放送していることが多いのだが……。今回のDVD発売を良い機会と考え、めげずにお勧めしていきたい。

 主人公のトーマス・ベケット上級曹長は、今までに74人も狙撃してきた暗殺とジャングルのスペシャリスト。今回の任務は、パナマの麻薬組織をバックに、政権を狙うアルバレス将軍の暗殺だ。

 ベケットと初めてコンビを組むのは、元オリンピックの銀メダリストという経歴を持つ、エリート軍人のミラー。狙撃の腕はあるが、彼はジャングルの経験もなければ人を撃ったこともない。叩き上げの寡黙な軍人と、プライドだけは高く、経験の浅いエリートというコンビが上手くいくわけはない。2人は反発しながら、ジャングルの奥へと進んで行く。

 ベケットを演じるのは「プラトーン」や「戦争の犬たち」でもお馴染み、戦場の似合う男トム・べレンジャー。もう一人の主役であるエリートスナイパーを演じるのはビリー・ゼイン。名前を聞いてもピンとこないかもしれないが、「タイタニック」でヒロインの婚約者、金持ちの嫌味なプレイボーイを演じた俳優だ。

 この映画の最大の魅力は、べレンジャー演じるベケットのハードボイルドなカッコ良さに尽きる。アクシデントが起こっても激昂したり、取り乱したりしない。常に冷静沈着。静かに、ただ黙々と任務をこなす彼の姿は、まさにスナイパーそのものだ。余談だが、サバイバルゲームでスナイパーを務める人にとって、この映画はバイブル的な存在になっている。

 派手なアクションシーンはほとんどない。お金をふんだんに使ったハリウッドの戦争映画を「動」とするならば、これは完全に「静」の映画だ。しかし、「外すことは許されない」という、狙撃独特の緊張感が映画全体に漂っている。引き金を引く瞬間、思わず見ている側も息を止めてしまうほど。

 スナイパーはその性質上、単独行動や2人組みで行動することが多い。よって、敵に発見されることは死を意味している。何度も銃を撃てば、それだけ自分がどこにいるのか宣伝することになってしまう。そのため「One Shot One Kill」つまり、一撃必殺、一発必中が鉄則となる。これぞまさしく「男の美学」だ。

 しかし、この映画はスナイパーの凄さだけを描いたものではない。戦場における人間ドラマも忘れてはいけない。ボロ布にくるまり、ジャングルの中で敵を待ち続けるという、非人間的な任務の中で、人間の精神がどうなっていくのか? その点もリアルに描写されている。

 例えば、ジャングルで殺しに明け暮れるベケットは、遠い昔、故郷の平和な日々だけを心の支えに生きている。軍をやめたら、近所の川で釣りをして暮らしたいと語る彼は、もはやその川が埋め立てられ、テニス場になっていることも知らない。ミラーにその事実を伝えられても、彼は認めようとはしない。ジャングルで1人、過去の幻想のみにすがる男の姿は、哀愁すら感じさせる。

 また、「スナイパー VS スナイパー」という恐ろしい対決の場面では、獲物を狙う者から、一転して狙われる獲物になる恐怖が描かれる。必死に逃げ惑っても、「どこから狙われているかわからない」、という恐怖が心を支配していく。周囲の茂み、黒ずんだ土、妙なカタチの枝、そのすべてが銃を構えた人間に見え、半ば錯乱状態になってしまう。映画を見ている私も、思わず身を乗り出して、画面に映る茂みに目を凝らしてしまった。

 リアリティとスリルに溢れる内容は、決して大作映画に劣るものではない。B級映画などといっては失礼だ。これは“B級感の漂う”A級映画だ。

 また、映画としての志の高さもさることながら、映像の斬新さも特筆すべきものがある。およそ10年前の映画だが、ここぞという狙撃の場面では、スローモーションで空気を水のように切り裂いて飛ぶ弾丸のアップが表示されるのだ。映画「マトリックス」が弾丸が飛ぶ様子を描いて「新しい映像表現だ」と話題になったが、こっちが本家本元だと声を大にして言いたい。確かに、良くいえば手作り感溢れる、悪くいうとチャチな映像なのだが、妙な生々しさがあって私は気に入っている。

 また、映画とは直接関係ないが、「山猫は眠らない」という邦題もお気に入り。「SNIPER」というシンプルな原題に対し、「山猫は眠らない」というタイトルを付けるセンスが素晴らしい。洋画の邦題は首をかしげたくなるようなものが多いが、この作品には拍手を送りたい。


■ 特典までストイック

 店頭で購入する際、パッケージ裏に「片面・1層ディスク」と書かれており、覚悟はしていたが、DVDの収録内容は映画のストーリーに負けないほどストイックだ。

 まず、トールケースを開けるとディスク以外に何も入っていない。ライナーノーツも特典も、宣伝チラシもアンケート用紙も無い。入っているのは本編ディスクのみ。ディスクがピクチャーレーベルなのが唯一の救いだが、もちろん白黒仕様である。

 本編の収録時間は約100分。映像はビスタサイズをスクイーズ収録する。音声は、英語のドルビーデジタル2.0chのみ。字幕も日本語しか収録していない。

 さらに、特典が無い。少ないとかではなく、まったく無いのだ。DVDのトップメニューに表示されるのは、「再生」と「チャプター選択」と「日本語字幕の有無選択」の3つのみ。まるでSPEのSUPERBITの仕様のようだ。

 ここまでシンプルだと、逆にそのことに意味があるのではないかと考えてしまう。チャラチャラした余計なものはいらない。この映画をDVDで買うような人間は、それほどストイックでなければならないと言うことだろうか? 「これも美学なんだ」と無理矢理自分を納得させたが、一抹の寂しさを感じてしまったのも事実。メイキングを収録するのが難しければ、登場する銃器を紹介したり、キャストの略歴がわかるようなコンテンツくらい収録しても良かったのではないだろうか。

 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは、5.81Mbps。収録する内容が少ないのでビットレートはさぞ高いだろうと思ったが、片面1層ディスクということもあり、期待したほど高くはない。

 しかし、数字とは裏腹に、DVDとしての画質はかなりいい。古い映画なので目の覚めるような高画質ではないが、色乗りのいい映像が楽しめる。グラフを見ても、ビットレートの低いところも5Mbpsをほとんど切っておらず、暗闇のシーンも問題ない。また、舞台がジャングルなので、無数の木々がざわめくような厳しい場面もあるのだが、激しいアクションシーンと重なるわけではないので、画質の面では安心して観賞することができた。

 音声も良くまとまっている。特に銃声が良い。誇張もかなり入っているが、実に気持ちの良い音に仕上がっている。できればもう少しクリアで、分解能の高い音を聴きたかったが、映画の作られた時期や予算を考えると仕方ないだろう。

DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレート


■ 価格がネックだが、男の美学をぜひ!!

 個人的に思い入れのある作品なので、内容に関して客観的な評価を下すのは難しい。しかし、普通の戦争映画とは違った面白さを持つ作品であることは確かだ。「スナイパー」という言葉が、心のどこかに引っ掛かる人には、ぜひ観て頂きたい。スナイパーを題材とした最近の作品では、「スターリングラード」などが思い浮かぶが、あの映画をカッコ良いと感じた人にもお勧めである。

 また、奥の深いマニアックさもこの映画の魅力の1つ。例えを挙げると専門的な話になってしまうのだが、ミラーの持つ狙撃銃はドイツの「G3/SG1」をベースに、グリップやストックを、高価な「PSG-1」という銃の部品に変更した改造銃だ。ミラーという人間のエリートらしさをアピールするためにこの銃が使われているのだろうが、こうしたマニアックな点がファンにはたまらない。ホビーショップでは、劇中に登場する狙撃銃と同じ改造を施したカスタム・エアガンが発売されているくらいだ。

 だが、前述のようにボリュームの少なさが残念でならない。そのため、4,700円という価格も「高い」と言わざるをえない。声を大にしてお勧めしたいのだが「2,980円の再販シリーズ(スーパー・ベスト・プライス)になってくれたら皆買うかなぁ……」などと、弱気なことを考えてしまう。一方で、特典の寂しさや価格さえ気にならなければ、文句無しでお勧めだ。

 ちなみに私は発売日に標準価格で買うつもりだったのだが、近所の店で偶然見つけた、未開封品を2,300円で購入してしまった。ファンの風上にも置けない行為である。この場を借りてお詫びしたい。ごめんなさい。

●このDVDについて
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前回の「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲
のアンケート結果
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□パイオニアLDCのホームページ
http://www.pldc.co.jp/
□製品情報
http://www.stingray-jp.com/~pldc/view_data.php3?softid=155590

(2003年3月4日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]



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