■ 売れ行き好調で、特典も満載
「ジョンQ」は、デンゼル・ワシントン扮する主人公ジョン・クインシー・アーチボルド(ジョンQ)と、その家族が、米国の医療保険制度に翻弄されながら、家族の絆を確認しあうドラマだ。 個人的には公開時に気にとめていなかったし、DVD化の予告の際も特にビッグタイトルだと思っていなかった。しかし、4月2日の発売以来好セールスを記録しているようで、弊誌の週間ランキングでも初登場2位を記録している。店頭の展示も完全にビッグタイトル扱い。カジュアルな服を着たデンゼル・ワシントンが受けているのだろうか? 初回限定版となる「デラックス版」は、特典ディスクが付属する2枚組みで、特製ケースが付属する。DVDは片面2層2枚で、映像はシネマスコープサイズのスクイーズ収録。特典ディスクは本編を丸々収めており、本編の場面に応じてメイキングなどの特典を呼び出せる「インフィニ・フィルム」仕様。音声はドルビーデジタル5.1chに加え、DTSも収録するなど、豪華仕様。このあたりも好セールスにつながっているのかもしれない。 監督はニック・カサベテス。出演は、デンゼル・ワシントン、アン・ヘッチ、レイ・リオッタほか。ちなみに、監督は、「アメリカの影」や「グロリア」などで知られるジョン・カサベテスの息子で、フェイス/オフなどの作品で俳優としても活躍しているという。
■ 米国の医療保険制度の矛盾
妻のデニース(キンバリー・エリス)と息子のマイク(ダニエル・E・スミス)の3人で幸せに暮らしていたジョンQ。不景気により勤めている工場からは半日勤務を言い渡され、生活はかなり厳しい。妻の資産である車も、銀行により接収されてしまい、喧嘩も度々。しかし、息子であるマイクを支えに貧しいながらも結束を固めていく。 しかし、突然息子が重い心臓病で倒れてしまう。彼の命を救うには心臓移植しか方法はないが、その費用は25万ドル。しかも、雇用形態の変化に伴い、会社側が勝手に保険を切り替えており、会社の保険支援はわずかに2万ドル。保険ではとても費用をまかなえなず、資金集めも難航する。 ジョンQは必死に会社や、病院の担当医レイモンド・ターナー(ジェームズ・ウッズ)、院長のレベッカ・ペイン(アン・ヘッシュ)と交渉するが、保険がなければ移植者リストにも登録できない。また、そのリストに登録するだけで75万ドルという大金が必要となる。だんだん手詰まりになるジョンQ。マイクの容態は日に日に悪化していく……。 ジョンQは、レイモンドに直接交渉に行く。しかし拒絶され、どうにもできなくなったジョンQは、患者たちを人質に病院を占拠してしまう。 本作が、米国でヒットした理由は、やはり保険制度の不備とそれに対する不満というのがあるのだろう。大統領選の争点になるなど、米国的には大きな社会問題であるということは認識しているものの、個人的にはあまり実感がわかないので、ジョンQが犯罪を犯してまで立て篭もるといった状況について釈然としないものがあった。 むしろ、緊急病棟に立て篭もり、「新しい病院運営をやるぞ」といって、「治療はタダ」で、医師に手術を強いたりしている様は理解不能で、不愉快に感じてしまった。しかも立て篭もっているのは緊急病棟……。 本作で個人的に、一番気に入ったのはマイク役のダニエル・E・スミスの演技。いかにも無邪気で、ややオーバーアクション気味の「快活な子供」であるマイクが力を失っていく様は、心臓疾患の恐怖、ジョンQらが感じていたであろう不安が、彼を通して強く伝わってくる。
■ 画質/音質はまずまず。充実の特典 映像はビスタサイズをスクイーズ収録。音声はドルビーデジタル5.1ch(英語/日本語)、DTSに加え、オーディオコメンタリ(ドルビーデジタル2ch)と種類が多い。 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは6.71Mbpsと、まずまずの高ビットレート。若干、暗部ノイズが見えることもあるが、大きな破綻は感じられない。ライトと暗部の輝度差が大きい病院内のシーンなどでもなかなかのクオリティで、満足できる画質だ。 音声はDTSとドルビーデジタルを収録している。ビットレートは、DTSが1,536kbps、ドルビーデジタル(英語/日本語)が384kbps。オーディオコメンタリ(ドルビーデジタル)が192kbps。基本的に派手なアクションや音響効果も無いのだが、病院が群集に囲まれるシーンや、冒頭の音楽が流れるシーンでは、DTSとドルビーデジタルで差が感じられる。
特典ははかなり充実している。本編ディスクにオーディオコメンタリと未公開シーンを収録しているほか、特典ディスクとなるディスク2は、インフィニ・フィルムと呼ばれる方式の特典を収録。本編の映像を全て収録しており、場面場面で、そのシーンのメイキングやドキュメンタリーを表示する形式となっている。 特典ディスクには、「治療のための戦い」と題された34分のドキュメンタリーを収録している。高コストな移植治療の実態などを描いたもので、集中治療室に1日入ると1万ドルかかるなどのコスト面での不満や、保険会社の問題などを現実の患者が解説するというものだ。法律や制度などの整備が不十分なアメリカの保険制度の実態を確認することができる。こちらを見ることで、かなりジョンQの物語への理解が深まるだろう。 個人的に面白かったのは、未公開シーンだ。監督らのコメントとともに解説されるのだが、例えば、いやみな人質「ミッチ」をドラマに入れた理由について、ジョンQの行動が観客の支持を得られない場合に、ミッチを見たらジョンをみな支持するだろうと思ったという。アメリカの現状を把握していれば、ジョンの行動は理解できるのかな? などと思っていたのだが、やはり製作者サイドでも、一見突飛に見えるジョンの行動を正当化して見せることに苦心しているさまが見えて面白かった。 また、手術室の前(なぜか十字のスリットが入っている)で、ジョンが神に祈るシーンや、マイクの手術シーンなど、多くのクライマックスシーンを削っているのが印象的。物語をコンパクトに収めるのに腐心していることが伺える。
■ DVDでこそ楽しめる作品 劇中、立て篭もるジョンQに、多くの市民がエールを送るシーンがあるのだが、なぜ、彼の行動がここまでの支持を得ることができるのか今ひとつピンとこなくて、物語に集中できなかった。しかし、特典ディスクのドキュメンタリーや未公開シーンなどを見るうちに、ジョンQらの感じる怒りの一端が見えてきた気がする。 もっとも米国に住んできれば、医療保険問題はよりリアリティをもって感じられるのだろう。ブッシュ大統領やヒラリー・クリントンなどの実在の政治家のテレビ演説を交えるなどの演出で、問題を紹介しており、そうした雰囲気はドラマを通しても伝わってくる。しかし、日本の保険制度下で暮らしている私にとっては、あまりリアルな問題ではない。そうした意味では、多くの特典を収録できて、より深い理解を得られるDVDというメディアは、この作品に対して最適なのかもしれない。 ということで、個人的には本作を特典盛りだくさんのDVDで見ることができてよかったと思う。米国の医療保険問題への理解も無く、劇場で見たら、「たんなる犯罪者だろ? ジョンQ」みたいな、後味の悪さを残すことは必至だったろう。ついで、保険制度に関していえば日本に住んでいてよかったのかな。と思わせる。 ちなみに未公開シーンの解説によれば、撮影の前年に、トロントで息子への治療を行なわなかった病院に、おもちゃの銃を持った男が立て篭もった事件があったそうだ。救命室に立て篭もり、映画のワンシーンのジョンQと同じように表に出てきた彼は、その瞬間射殺されたそうだ……。
□パイオニアLDCのホームページ (2003年4月15日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
|
|