■ 今は亡き巨匠のアカデミー撮影賞受賞作
惜しくも1月4日に亡くなったコンラッド・L・ホールは、アカデミー賞ではノミネート10回、受賞3回という名匠中の名匠。本作以前の受賞作は「明日に向かって撃て!」と「アメリカン・ビューティー」で、どちらも芸術的なライティングと職人技ともいえるカメラワークが名高い。遺作となった本作でも、一見普通ながら、実は計算つくした美しい映像が見所だ。DVDでどこまで再現されているか気になる。 個人的にギャングものはさほど好みではなく、よほど話題作でない限り手を出したことはない。しかし、今回はコンラッド氏の最後の作品ということで、とりあえず購入することにした。価格も3,300円と、超大作並みに安い。国内ではそれほど盛り上がらなかった作品だが、海外では相当数が売れるのだろうか。 DVDは片面2層1枚で、映像はシネマスコープサイズのスクイーズ収録。20世紀FOXお得意のクリアタイプのトールケースは、黒地に金の特色でアクセントを付けた紙パッケージに入っており、3,300円にしては所有感が高い。音声はドルビーデジタル5.1chに加え、DTSトラックも収録。さすがに近作だけあって、ディスク仕様にも隙はない。
■ どのシーンも芸術性高し。1カットずつ堪能したい 1931年の冬、イリノイ州ロックランドでは、アイルランド系ギャングのジョン・ルーニー(ポール・ニューマン)が街を牛耳っていた。トム・ハンクス演じるマイケル・サリヴァンは、街中から恐れられる組織の幹部。ジョンの信任も厚く、ジョンの実子、コーナー・ルーニーですらマイケルを苦々しく思う日々。しかし、マイケルが最も恐れていたのは、息子達が自分と同じギャングの道を歩むことだった。折りしも12歳に成長した長男は、父の仕事について不信を覚え始める。 そんなある夜、長男は銃を乱射するマイケルの姿を盗み見てしまう。口止めを理由に、マイケル親子を罠に嵌めようとするコーナー。その日を境に、父と子の逃避行が始まった。親子を執拗に追う殺し屋、マグワイヤ(ジュード・ロウ)との死闘の中、マイケルは1つの逆転策を思いついた。 原作は製作のディーン・ザナックに売り込まれた1冊のグラフィック・ノベル。ただ逃げるだけでなく、最終的には組織に復讐を果たすところなどは「アメリカ版子連れ狼」といったストーリーだ。しかし、銃撃シーンは思いのほか少ない。激しいアクションを期待していると肩透かしを食うかもしれない。 もちろん、ジョンをめぐる跡目争いや、アル・カポネ率いるイタリア系組織との小競り合いなど、「ギャングもの」らしい展開もあるにはある。しかしあくまでも主題は「サリヴァン親子がいかにして絆を取り戻すか」という点。前半のギクシャクした父と子の会話の方が、銃撃戦よりもよっぽどスリルがあった。 映像は期待通りの出来。帽子の下の顔にかかる影や、月明かりに照らされた壁に映った窓を伝う雨の影など、光と影が織り成す1カット1カットの美しさは格別。すべてのシーンが一幅の絵のように決まっており、Iフレームをすべてキャプチャして、壁紙にしたいほどだった。また、フォーカスの位置や前後移動のスピードが非常に巧妙なのも特徴。当代きってのカメラマン、コンラッド・L・ホールの手腕をたっぷり味わえる。 コダックのエンタテイメントイメージング事業部のサイトによれば、彼はT1.9のワイドオープンレンズで撮影することで、前景と背景がやや軟調になるような撮影を狙ったという。屋内シーンでの使用フィルムは、感度500のKodak Vision 5279。それほど高性能なフィルムではないが、これだけの明暗バランスを完成させたのは、彼一流のライティングのなせる業なのだろう。
■ 屋内シーンは上質、しかし屋外では並み以下か むしろ気になるのは屋外シーン、特に陽光下のシーンだ。コートのふちなどに発生する擬似輪郭、空を舞うノイズ、ブロックノイズで覆われた草原など、気になる点は多い。通常のDVDの場合、屋内より屋外の方がきれいに見えるのだが、この作品の場合は逆だ。 そういえば、モノクロでの撮影が適わなかったコンラッド氏は、いくつかの屋外シーンで銀残し(ブリーチバイパス)を指定したという。その影響が多少出ているのかもしれない。また、終盤に向かってどんどん圧縮ノイズが増えていくのが惜しい。DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは6.51Mbpsだった。
音声はDTSが768kbps、ドルビーデジタル5.1chは、英語が448kbps、日本語が384kbps。静寂を破る銃声やエンジン音でLFEが効いており、ドアの閉まる音や機械の重々しさもとてもリアル。また、環境音の包囲による臨場感も素晴らしい。雨のシーンがいくつか出てくるが、降雨量ごとの音の違いも楽しめる。英語音声に関して文句はない。 唯一の難点は、日本語吹き替えのクオリティ。ビットレートが低いので仕方ないが、同じドルビーデジタル5.1chの英語トラックとの差は歴然としている。銃声は若干弱々しくなり、雨の音もかさつきが気になった。
■ 充実した音声解説に満足 未公開シーンは11シーンを収録。それぞれでサム・メンデス監督の音声解説をON/OFFできる。どれも興味深いシーンだが、最も楽しめるのはアル・カポネの登場シーンだろう。もともとカポネの右腕として名高いフランク・ニティ(スタンリー・トゥッチ)が出てくるが、カポネ自身は名前しか出てこない。このシーンを見ると、アイルランド系ギャングとイタリア系ギャング関係が、親子の逃避行で微妙な曲面を向かえつつあることがわかる。また、マグワイヤがカポネを恐れる様も描かれており、彼の執拗な追跡について説得力が増す。 未公開シーン全般の画質は良く、ここでも芸術的な画作りを楽しめる。できれば未公開シーンを本編につないだ完全版も見てみたいと思った。 気になったのは、フォト・ギャラリー、バイオグラフィーなどの静止画コンテンツがすべて英語のままだったこと。以前は良く見られたが、最近では珍しい仕様だ。権利関係で完全なローカライズが無理だとしても、せめてブックレットなどで対訳をつけて欲しかった。
■ 地味ながら、あらゆる面で魅せる1本 ともかく、コンラッド・L・ホールの最後の作品ということで、好きな人は間違いなく買いの1本。また、屋内シーンの美しさは、数あるDVDビデオの中でもトップクラスにある。その反面、屋外シーンや終盤は、現在の水準を下回っているのが惜しい。「中途半端に両立させるよりは」という判断なのだろうが、特典を削ってでも映像全体にビットレートを割いて欲しかった。もっとも、この作品の知名度では、特典ディスク付きの2枚組みは難しいのかも知れない。 また、1枚組みでのリリースを考えると、やはり「近いうち再販キャンペーンの対象になるのか」という点が気になる。もっとも、2,500円ないし2,980円が多い20世紀FOXの再販なら、今買っても差額はそれほどでもないだろう。
□20世紀FOXのホームページ (2003年4月8日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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