■ 説明不要の人気作が、ハリウッドから逆輸入
日本版「リング」の製作費約1億5,000万円に対し、リメイク版は約70億円という大作になっている。また、「ザ・リング」の全米興行収入は1億ドルを突破しており、逆輸入となる日本国内でも20億円を超えるヒットとなった。 日本での「リング」人気は一種の社会現象となり、「貞子」や「見たら1週間後に死ぬ呪いのビデオテープ」の噂がメディアを席巻したのは記憶に新しい。そのおかげで、映画や原作小説を読んでいない人でも、だいたいどんな話かはご存知だろう。 かくいう私も、ホラー映画やホラー小説はあまり好きではなく、「ザ・リング」はもちろんのこと、日本版の「リング」も未見という状態だったが、井戸の中から気味の悪い女が這い出て来るというシーンはテレビで何度も見たことがあった。 ホラー映画に対し、「どうしてお金を払ってわざわざ怖い思いをしなきゃならないんだ」などと考えてしまうタイプの人間だ。しかし、今回「ザ・リング」を購入するにあたり、4月16日に発売されたDVD「リング Hi-Bit Edition」と、ついでに「らせん Hi-Bit Edition」も入手してしまった。まさに「毒食らわば皿まで」という心境だ。 観賞を始めるにあたって、「リング」と「ザ・リング」のどちらを先に観ようか迷ったのだが、レビューのメインである「ザ・リング」を優先することにした。休日の昼間から「リング」と「ザ・リング」のダブルパンチは正直いって気が重かったが、「これは映画だ、怖くない……、怖くない……」と、呪文のように唱えながら観賞を開始した。おどろおどろしいオープニングが始まると、部屋にいた家族は私を置いて、一目散にどこかへ逃げてしまった。
■ 怖くてもうVHSは見れません シアトルで、1本のビデオテープを見た少年少女が同時刻に謎の死を遂げた。この事件に疑問を持ち、調査を開始したジャーナリスト、レイチェルの耳に「それを見たら1週間後に必ず死ぬ」という謎のビデオテープの噂が入る。そして、調査の過程でレイチェル自らもビデオを見てしまう。7日間という期限が迫るなか、彼女は事件の鍵を握る「サマラ」という謎の存在にたどり着く。しかし、既にレイチェルとその周囲にも恐怖が間近に迫っていた。 大まかなストーリーは、日本版「リング」と同じ。舞台となっている場所や、登場する小道具などは異なっているが、基本的な場面展開も共通する部分が多い。リメイク作品は、原作や前作とまったくかけ離れた内容になってがっかりすることも多いが、この作品は原作小説ファンも日本版「リング」のファンも納得の出来に仕上がっていると感じた。同時に、初めて「リング」の世界に触れるという人も、安心して楽しめるだろう。私もテレビの砂嵐や、VHSテープを二度と見たくなくなったが、それこそ「楽しめた証拠」といって良いだろう。 映画の内容については、「呪いのビデオ」と「サマラ」というホラー要素がショッキングで、やはり一番強く印象に残る。だが、単純な「怖さ」だけでなく、ビデオの映像を分析し、徐々に謎を明らかにしていくサスペンス的な要素も面白い。特に、主人公のレイチェルに残された時間が7日間と決まっているので、終盤の盛り上がりは手に汗握ってしまった。 そして、怖さの「質」も、いわゆるハリウッドのホラー映画とは異なっており、何かが飛び出して観客を驚かすような手法はほとんどない。日本の怪談話のような「怨念」、「おどろおどろしさ」といったジワジワと浸透する恐怖を、よく表現していたと思う。 その最も印象的な例は、肝心の「呪いのビデオ」の映像の違いにある。見る人それぞれ印象が異なると思うが、「リング」のビデオは、「胡散臭さと紙一重の恐怖」だと感じる。確かに不安にかられる内容なのだが、今見ると作りの安っぽさが見え隠れしてしまう。 反面、「ザ・リング」のビデオは芸術性が高く、一見すると学生が作った実験映画のようだ。これは、日本的な恐怖を表現するための手法だろう。ビデオに登場する女性は、顔立ちの整った細身の中年女性で、どことなく中世の絵画を連想させる人物。抽象的な話で申し訳ないが、子供の頃、誰もいない学校の美術室や、近所のお金持ちの友達の家などで見かけた異国の人物画、人形などから感じた恐怖と似たものを覚えた。最近のハリウッド映画では、このタイプの怖さを持った映画は珍しい。 このように、「ザ・リング」は「リング」の魅力を損なうことなく、新たな観客を獲得するというリメイク作品の使命を見事に果たしていると思う。また、「リング」と比べ「ザ・リング」の方が優れていると感じた点も幾つか見受けられた。 それは、登場人物の違いだ。日本版は、真田広之演じる高山竜司という男が、人の考えていることや、未来の出来事がビジョンとして見えるという能力を持っており、その能力を使ってビデオの謎に迫っていく。見ている側としては「貞子の謎より、まず自分の能力の謎を解明しろよ」とツッコミを入れたくなってしまう。 その点、「ザ・リング」は、ジャーナリストのレイチェルが地道に調査をしており、物語としての無理が少ない。シリーズを未見の人は、「リング」よりも「ザ・リング」から見たほうが、よりスムーズに作品世界に入っていけるだろう。また、前述の通り呪いのビデオの内容が違うため、謎の解明過程も日本版とは微妙に異なっている。「リング」を見た人も楽しめるというわけだ。 また、俳優陣の演技も忘れてはならない。ナオミ・ワッツの熱演も良いが、エイダン役のデイビッド・ドーフマン君の演技が光っていた。エイダンは年齢のわりに大人びた少年という役柄なのだが、シックス・センスのハーレイ・ジョエル・オスメントに負けないほどの霊感少年ぶりを発揮しており、素直な口調で淡々と恐ろしいことを語る彼の姿に背筋が寒くなった。
■ 独特の画質、特典には呪いのビデオも…
映像はビスタサイズをスクイーズ収録。音声は、英語をDTSとドルビーデジタル5.1chの2種類、日本語をドルビーデジタル5.1chで収めている。 収録時間は115分だが、DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは7.69Mbpsとかなり高め。しかし、暗いシーンが多く、暗部ノイズが乗ることもしばしば。演出的な意図もあるのだろうが、全体的にザラついた絵作りだ。ただし、輪郭の破綻などは少なく、動きの多いシーンでも安心して見ることができた。また、全編を通して赤みの少ない、トーンを抑えた独特の色調となっており、恐怖の演出に一役買っている。 音声はDTSをメインに聴いたが、音場が広く、寒々としたBGMが恐ろしかった。また、雨のシーンでの包囲感や、鳴り響く電話の音などもリアルに録音されていた。しかし、突然大きな音がしたり、背後から物音がするなどの、いわゆるホラー的な演出は少なめだ。どちらかというと、BGMを徐々に盛り上げて、観客の心拍数を上げていく手法がメインとなる。 なお、余談だが、映画の中で効果的に使われる電話の音が、我が家の電話音と酷似していた。おかげで、劇中何度も本当に電話がかかってきたのかと思い、冷や汗どころか半泣き状態だった。
平均ビットレートが高いことからもわかるが、特典のボリュームは少なめ。具体的には、本編で使用されなかったシーンを集めた映像集「DON'T WATCH THIS」と、予告編集を収録している。特に「DON'T WATCH THIS」は、本編とは異なるラストシーンが収められており、必見の内容だ。 だが、メイキングやインタビューなどの一般的な特典は一切なく、サマラ役を演じた人が、笑顔で感想を話す姿を見ながら「今の映画は作り物だったんだ、サマラなんてものはいるわけないだ、どきどき…」と、恐怖に高鳴る鼓動を落ち着かせることもできない。考え方によっては、残酷な仕様になっている。 また、これら2つの特典映像に加え、パッケージには「呪いのビデオ・完全版」も収録していると書かれている。だが、メニューの中にそれらしい項目はない。結論から言うと、呪いのビデオは隠しコンテンツになっており、メインメニューの矢印が消える場所で決定ボタンを押すと見れるようになっている。
なお、この「呪いのビデオ・完全版」は、再生したら最後、早送りも巻き戻しもできず、最後まで見なくてはならないという手の込みようだ。だが、本編で使われた映像よりもかなり画質が綺麗なため、若干怖さが薄まっていた。なお、この隠しコンテンツには、もう1つの恐怖が隠されているのだが、これは観た人だけのお楽しみにしておこう。 余談だが、「ザ・リング」のDVDを5月3日にヨドバシカメラ 錦糸町店で購入したら、おまけで非売品の呪いのビデオ(VHS)をもらってしまった。「こんな怖いものいりません」と言うのも格好悪いので、とりあえず受け取ってしまったが、処分に困るプレゼントだ。おかげでAV Watch編集部でも「あげる」、「いりません」の押し付け合いに発展してしまった。
■ 完成度の高さに満足、続編にも期待 ほかにも、「洋画は好きだが、邦画はほとんど見ない」という理由でリングシリーズを観ていない人にもお勧めしたい。内容に大きな違いがないため、「ザ・リング」を観てから「らせん」、「リング 2」、「リング 0 ~バースデイ」などの作品を観ても、違和感を感じることは少ないだろう。 なお、ハリウッドでは続編の製作も決定しており、2004年の公開予定とのこと。監督は1作目と同じくゴア・ヴァービンスキー、脚本もアーレン・クルーガーが引き続き担当する。また、ナオミ・ワッツと続編出演の契約も既に結んでいるという。詳しいことは不明だが、ストーリーは「リング 2」や「リング 0」、「らせん」、「ループ」といったシリーズとは違う内容になるという。こちらの公開も今から楽しみだ。 また、「ザ・リング」の企画をDreamWorks SKGに持ち込んだプロデューサーのロイ・リーは、同じく鈴木光司原作の「仄暗い水の底から」や、北村薫原作の「ターン」などの作品のリメイク権も獲得しているという。今後も続々と逆輸入されるであろう和製ホラー作品を前に、私も「ザ・リング」を繰り返し観て、苦手なホラーを克服していきたいと思っている。
□アスミック・エース エンタテインメントのホームページ (2003年5月6日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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