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第81回:窪塚洋介婚約に、白装束、
ある意味時代とシンクロ「凶気の桜」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 最近のビックタイトル事情

凶気の桜

価格:5,200円
発売日:2003年4月21日
品番:DSTD02175
仕様:片面2層
収録時間:122分(本編)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーデジタル2ch(日本語)
発売元:東映ビデオ

 5月に入ってビッグタイトルのリリースも一段落。「ハリー・ポッターと秘密の部屋 特別版」や「ザ・リング」などの話題作は全部レビューしてしまったし……。要するに本コラムのネタに困っているというわけです。

 基本的にこの「買っとけ! DVD」、自分でほしいと思ったDVDを買ってレビューするというスタイルなのだけれど、やはりできる限り最新の話題作を取り上げたい。でも「なんかいまいちパンチの効いたのがないな~」などと思いながら、ニュースサイトを眺めていると窪塚洋介が結婚するとの報道。「そういえば窪塚主演のアレ売れてるみたいねえ」ということで、思い出したのが「凶気の桜」だ。

 折りしも白装束集団が、世を賑わしているご時世。白装束集団といっても、街頭で「モデムいりませんか~」と言っている人たちではなくて、キャラバン隊のあの団体のことですが、奇しくもこの「凶気の桜」も窪塚洋介率いる白装束のナショナリスト集団「ネオ・トージョー」の物語らしい。結婚も含め、タイミング的にはジャストじゃないっすか? ということで購入決定。

 早速、新宿の大手カメラ量販店を急襲するも、巨大なディスプレイはあるものの売り切れ! 弊誌の売り上げランキングでも初登場1位次週に9位、翌週8位ということで、なかなかの高セールスを記録しているようだ。

 ということで、別の店舗で10%引きの4,680円で購入。監督は本作が初監督となる薗田賢次、原作はヒキタクニオの同名小説。ディスクは本編ディスク1枚で、初回特典としてポストカード2枚が封入されている。



■ 不良少年達の青春群像もの。やや性急な政治性を含む

 あらすじは、渋谷を拠点とする山口進(窪塚洋介)ら、ナショナリストの結社「ネオ・トージョー」の3人を中心に、彼らの成長と挫折を描くというもの。

 山口と、小菅信也(須藤元気)、市川勝也(RIKIYA)の3人から構成されるネオ・トージョーは、白い戦闘服を身につけ、町の不良や不正をはたらく人々を「狩っていく」。日々の戦いを繰り返すうちに、彼らはやがて街の顔役となり、右翼団体や暴力団との接触も増えていく。「ナショナリスト」を自認する山口は、自らの信念を貫き通そうとするが、抗争の連続や反社会的団体と接触を繰り返す後、いつしか3人の結束も乱れていく……。

 基本的には、「不良少年達の青春群像もの」といった趣で、暴力に身を染めた少年達が、後半に向かうにつれて、大人たちに蹂躙されるというストーリー。おそらく多くの人が危惧しているように、特に前半の導入部は、やや極端というか、偏って感じられる発言、ニュアンスが気にかかることがある。

 その多くは、山口の発言だけれど、「馬鹿しかつくらねえテレビ」(マスコミ批判)とか、「ニッポンっていうかアメポンですね」、「アメリカのやりかたってのはいつもこうだ」、「アメリカ政府がくそだって言うのと同じぐらい当たり前」と言ったアメリカ批判などなど……。主張の是非は埒外においておくとして、ストーリにうまく溶け込んでおらず、やや収まりの悪い印象は拭えない。ここで、イヤになってしまう人も多いかもしれない。

 「歴史が無えから、モラルが無いんだ。だから思い出させてやるのネオ・トージョーが。暴力で(山口)」というのが基本路線で、暴力によるある精神性の回復というのがひとつのテーマとなっていると思うのだが、その主張とラストに向かっての青年達の暴走へ向かう動機付けが、今ひとつ組み合わないまあま終幕を迎えてしまう印象を持った。

 逆に、人殺しのみならず、その人が生きた痕跡までも消そうとする「消し屋三郎」を演じる江口洋介や、やや陰影のある右翼系の暴力団・青修同盟の会長 青田修三役の原田芳雄の好演は印象深い。メインの3人の個々の演技も最後に行くにつれて、落ち着きと深みが加わっていくように感じる。冒頭の政治色のバランスの悪さは、ややこちらをいらだたせるが、中盤過ぎに強気一辺倒だった彼らが、大人の世界に巻き込まれ、3人の友情にひびが入るシーンは、ある種の普遍的な文法をなぞりながらも、今日的なニュアンスを獲得しているような趣深いものだ。


■ 画質は良好。ドルビーデジタル2chという音声には物足りなさも

 本編映像は122分。音声はなんとドルビーデジタル2ch(ドルビーサラウンド)。何も調べずに買いに行ったのだけれど、最近の映画のDVD化、それもそれなりのヒット作であれば、基本的に5.1ch収録だろうと思い込んでいたので、驚いてしまった。

 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレートは6.65Mbpsと標準的だが、画質はかなり高品質。深夜の乱闘シーンなど暗い場面も多いのだが、大きな破綻は見られない。スモークがかかった夜のシーンでは、ノイズも若干感じられるが、雰囲気を壊すようなものではなく、総じてよくまとまっている印象だ。

DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレート

 音声はドルビーデジタル2chで、ビットレートは384kbps。ヒップホップアーティストのK DUB SHINEが音楽監督を務め、日本のヒップホップを全面に打ち出した音楽は、映画の内容に沿ったようなリリックが続くもので、メインのシーンで多く使用されている。しかし、やはり最新作で2chというのは寂しい。激しい乱闘シーンの多い映画だけに、マルチチャンネルでその躍動感までも表現してほしかったところだ。

 特典はごくシンプルで、本編ディスクに、トレーラーと舞台挨拶風景、出演者らのデータなどを収録。必要最低限といった感じで、最近のヒット作などの、てんこ盛りの特典と比べると若干物足りないものはある。


■ 見所は多いが、「考えてしまう」DVD

 正直、ノリと少しの怖いもの見たさで購入したのだけれど、居心地の悪さと、今っぽさを同時に感じるような不思議な感触を抱く作品であった。また、美術監督の佐々木尚氏による、桜の木や枯山水の庭などのセットや、日本刀など、日本情緒にあふれた映像を、さまざまなアングル/意匠で美しく描いているのも見所といえそう。

 ただし、たとえば、彼らの戦闘服に付けられているダビデの星風のマークなど、必然性を理解しがたいものがあるし、性急な少年達の暴力はともかく性急な政治性はやはり青臭さを感じてしまうのは事実。全肯定とはなかなか言いづらいものはある。また、DVDとしての仕様もやや寂しい。それに5,200円という価格も、最近のDVD相場から考えると購入を躊躇してしまう要因の1つだ。

 個人的には「考えさせる映画」というよりは「考えてしまう映画」という側面が強かった。挑発的な江口洋介の演技など見るべきところは多いのだが……。ちなみに、エンドロールが始まっても終わりじゃないのでちゃんと最後まで見るように。

●このDVDについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

前回の「ザ・リング」のアンケート結果
総投票数491票
購入済み
85票
17%
買いたくなった
272票
55%
買う気はない
134票
27%

□東映のホームページ
http://www.toei-video.co.jp/
□製品情報
http://www.toei-video.co.jp/data/hs/vcatalog_dvd/item/200304/dstd02175.html

(2003年5月13日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]



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