■ HD民生カメラの登場 民生機のHDカメラなんていう画期的なモノを初めて見たのは、昨年のInterBEEであった。Victorのブースに1台だけ展示してあったその試作モデルの周りは、当然業界人で黒山の人だかり。しかしその時は実機で撮影できるわけではなく、そのカメラで撮影したと称する映像を流しており、我々業界人は「なーんか嘘くさーい」感じを受けたものである。 その実力が知りたいと思い、「GR-HD1」が発売というタイミングと前後して、なんとかVictorにデモ機を貸して貰えないか延々交渉してきた。「もう売ってんならオマエ買ってこいヨ」と担当にむちゃくちゃなことを言いながらも待つこと1カ月あまり、ようやくデモ機をお借りすることができた。もしかしてAV Watchは貸し出しリストのずーっと後ろの方にありますか。もしこの記事をお読みのビクター関係者様は、こっそり貸し出しリストの順番を改竄しといてくれよ、もう。 などと読者には関係のない、公共メディアにあるまじき発言をしながら今回のElectric Zooma!は、民生機初のHDカメラ、GR-HD1のレポートをお送りする。コンシューマでは大絶賛、プロでは大敬遠と評価がきっぱり分かれるこのHDカメラ、その実力を検証しよう。
■ 造りはがっちり まずはいつものように外観とスペックからチェックしてみよう。ボディはマット地だがややツヤありのブラックで、樹脂製ながらも結構しっかりしている。以前レポートした同社の業務用DVカメラ、「GY-DV300」の「指で弾くとポコポコいいますけど大丈夫なんでしょうか」感からすれば、わりと硬質で中身ぎっちりといった手応えが感じられる。サイズはHDカメラとは思えないコンパクトさで、筆者手持ちのSONY PD-150と比べても一回り小さい。キヤノンの「XV2」とだいたい同じ大きさだろう。 デザイン的に目を引くのが、丁字型のグリップだ。アクセサリーシューもかねるこの部分は、ネジ1つで簡単に取り外せる。ただグリップとしては従来の穴型ではないので、手を入れて軽く握っているだけで落ちないという安心感がなく、割とシッカリ掴んでいないとツルッと滑り落ちそうで怖い。垂直部分を指の間に入れるような握り方にするよう注意したい。
レンズは光学ズーム10倍で、光学手ぶれ補正機能を持つ。フィルター径こそ52mmだが、実際のレンズ径は32mm程度しかない。Victorの大型カメラはだいたいそういう傾向があるのだが、太いボディの割にはレンズが小さい。ただ解放F値は1.8なので、かなり明るいようだ。CCDは1/3型118万画素(有効画素114万画素)のプログレッシブスキャンの1CCDである。フィルターが補色系なのか原色系なのかは、残念ながら資料がない。
内蔵マイクは、レンズ上に張り付くように装備されている。一応ステレオマイクだが、指向性はほとんどない。またすぐ上にグリップがあるので、ここを掴んでの撮影ではグリップノイズが入りやすい。三脚を立てての風景撮影には支障ないだろうが、人物撮影では別途指向性のマイクがあったほうがいいだろう。 VTR部は、最近流行のローテーションするタイプだ。下向きに90度回せるので、ローアングルの撮影に便利。ただ難点は、三脚の船を付けたままだと微妙に引っかかって回せなくなる。三脚からスパッと外してローアングル、なーんてことができるのかと期待したのだが、残念だ。
カメラ左側には、逆コの字型に動く撮影モードの切り替えスイッチがある。GR-HD1ではHDとSDの切り替え、16:9と4:3、さらに動画と静止画の撮影機能があるので、組み合わせが非常に複雑だ。スペックを表でまとめてみよう。
さらに再生時は、480pや720pの映像を1080iに変換して出力できる。またレンズの画角が撮影モードによって変化するので、撮影時もなかなか複雑だ。
■ 撮る絵はしっとり
では撮影に出てみよう。GR-HD1には撮影モードがたくさんあるわけだが、モードごとの画角は、以下のようになっている。 撮った感じでは、HDモードならワイド端は十分だ。テレ端の10倍というのは数字的に物足りない感じもするが、実際に撮影してみるとそれほど不自由はなかった。やはり解像度が高いので、それほど寄らなくても十分に見えるからだろう。 一方でSDモードではかなり狭い。特にDVでの67.8mmってなんだヨそんなカメラ見たことねえヨ(笑)という感じである。機能的にはDV撮影ができるものの、このカメラでわざわざDVを撮るメリットはないと考えていいだろう。 フォーカスは、当初懸念したよりも取りにくくはない。というのも、液晶のドットの少なさから、フォーカスが合ったところでは輪郭部分にジャギーが出るからである。これを頼りにフォーカシングするというのはなーんか怪我の功名といった感じだが、実用性はある。 撮影していて気になったのは、オートフォーカスの動きだ。FIXで録っていても、フォーカスポイントを探してじわっじわっと動いている。オートフォーカスで使うにしても、ピントが決まったらすぐマニュアルにして固定するといった使い方がいいだろう。なおMPEG-2 TSの画像は普通のPC環境では見られないので、今回の動画サンプルはDVD用に再エンコードしたものだ。
レンズが明るいのは、かなり助かる。日没近くでも解放にすれば、かなり明るく撮影できる。撮影メニューに「感度アップ」という増感パラメータがあったので、もしかしたら暗いところに弱いのかとも思ったが、そうでもないようだ。 総合的には、HDならではの高解像度を十分に楽しめる仕上がり。液晶モニタでも若干ドットが荒いが、ちゃんと雰囲気はわかる。もうどこにカメラ向けても「小さな旅」状態。じっくりと古き良き風景などを撮ったら、たまらないだろう。
■ 編集もできる ではうちに戻ってプレビューしてみよう。本体にはD1からD4までに対応した端子がある。D4モニタに映像を出すと、そりゃあもうものすごい威力だ。野良猫の細かい毛並み、鴨の水に濡れてつやつやした羽毛など、今まで写真ではそのぐらいの表現力は経験があるが、動画でこのクオリティは新鮮な感動がある。デジタル放送を見ているのならともかく、自分でそのへんの公園で撮ってきただけで、気分は「小旅」なんである。 ただ大きな画面に出してみて気が付いたのだが、淡いグラデーションの部分では、若干MPEG圧縮特有の階調差と、その部分にジラつきが見られる。もちろんこれは残念なところだが、BSデジタル放送でもこれぐらいはよく見られるので、仕方がないところだろう。 ちょっとわからないのは、撮影中に勝手にfpsが30を割り込むことがあることだ。考えられる原因としては、
2.アイリス固定でゲインが足りないときに、15fpsに落ちた 3.テープNGもしくはヘッドの目詰まりで、一時的に転送レートが落ちた 映像のプレビューには、便利な機能が付いている。撮影時にSDメモリーカードに対してナビ情報を記録することができるのだ。撮影後にナビボタンを押すと、撮影カットごとにサムネイルが表示される。見たい画像を選んで決定すると、自動的にそこへテープがキューアップして再生が始まる。
どういうデータが記録されているのかとSDメモリーカードの中身を覗いてみると、NAVIというフォルダ内にJPEG画像が格納されている。ファイル名が16進数になっており、どうもこれがタイムコードと対応しているようだ。なかなか優れたアイデアなので、これから業界で標準化してほしいぐらいだ。
一方で編集環境はどうなるかというと、アクセサリーキットにちゃんとキャプチャ用と編集用、DVD制作用ソフトウェアが付属している。接続にはDV端子を使い、MPEG-2 TSの映像を伝送する。 キャプチャ用ソフトウェア「HD Capture Utility」からは、テープコントロールはできるものの、バッチキャプチャといった機能はない。ただほしいところからスタートボタンで取り込めば、カットごとにファイル分割はしてくれるので、それほど不自由はないだろう。 映像の取り込みでは、信号のコンディションに対してかなりデリケートだ。ヘッドの汚れがあると、映像はきちんと表示されているように見えても、全然取り込めない。アクセサリーキットにクリーニングテープが同梱されているのには、そういうわけがあるようだ。 編集ソフトは「MPEG Edit Studio Pro LE」。KDDI製というちょっと変わった素性のソフトだ。単にMPEGが編集できるというだけではなく、720pのMPEG-2 TSが扱えるという点で、かなり特殊である。
基本的には編集ソフトなんだが、微妙に毛色の違ったところが見られる。例えばサマライザというウインドウは、ここにクリップをドラッグするとフィルムロールを表示してくれるので、クリップの内容をざっと把握できる。履歴も残るのでクリップが少ないときには確かに便利だが、その履歴はファイル名でしか選べない。クリップが多いときに、一度見たクリップをドラッグしても「既に履歴にあります」として受け付けてくれないので、今度は履歴が邪魔になってくる。
しかし便利なところもある。複数の編集プロジェクトを同時に開いて切り替えられるのは、いいアイデアだ。だがどうせこれをやるなら、ビンウインドウの内容が共通化できる機能はほしいところ。また最終出力時にはMPEGのプログラムストリームなどに変換できるのだが、複数のタスクをスプールしてバックグラウンドで処理できるなど、見所も多い。まだ編集ツールという点ではブラッシュアップが必要な部分も多いが、マルチタスク的な要素を加えたところなど素性は良さそうなので、これから期待したいソフトだ。
■ 総論 GR-HD1は、民生機初のHDカメラとしては十分な実力を持っている。ボディの造りはしっかりしているし、画質も十分だ。何しろ手軽に自分の手でHD画質を体験できるという点では、大いに評価できるだろう。また価格面でも既存のDV技術をうまく流用していることもあって35万円程度と、高くて手も足も出ないという印象はない。 多少圧縮ノイズを感じるとかラティチュードが狭いとか細かいマイナス点は、民生機だからということで我慢できる範囲だ。人によっては気が付かないだろう。ただコマを落とすのだけはなんとかならないかなと思う。コレさえなければ、100点差し上げたところだ。 これの業務用機である「JY-HD10」も出たが、基本スペックはあまり変わらないようなので、業務用途でもGR-HD1で十分じゃないかという気もする。ではプロユースでどうかというと、やはり現状ではオールマイティには使えずシーンを選ぶという面もあり、そこまではちょっと辛いだろう。 現在DVカメラ市場は、あきらかに頭打ちの状態である。民生用HDカメラというジャンルはまだこのカメラしか存在しないが、大いに期待できる突破口だと思う。それにはやはり早急に各メーカー間で規格の標準化を図る必要があるだろう。 また編集結果をHDクオリティのまま見せるソリューションが少ない点も問題だ。いまのところ、このカメラに書き戻すか、D-VHSを使うしかない。Blu-RayでもAODでもHD-DVD9でも何でもいいが、記録型HD-DVDとバランスを取ることで、成長が期待できるだろう。そうなればカメラ側でも、無理にDVをサポートする必要もなくなるので、スペックに無理が出なくなるし、コストも下がる。 GR-HD1には、そんな将来性をいろいろ感じさせる魅力がたくさん詰まっている、実に意欲的なカメラだ。今後の民生機HD市場を引っ張っていくリファレンスモデルとして、歴史に名を残す逸品だろう。
□ビクターのホームページ (2003年5月14日)
[Reported by 小寺信良]
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