■ PC業界大注目の「XVD」 動画の圧縮フォーマットでは、TV録画はDVDと絡めるためにMPEG-2が中心であり、しばらくはこの状況が続くと思われる。しかし目先を変えてPCやPDA、ケータイなどで動作すればいいというタイプの録画/再生コーデックに着目すると、高圧縮なMPEG-4技術を応用したものがかなりいい感じで盛り上がってきている。 筆者がDivXを使って、日々録画ファイルを圧縮しているという話は折に触れ何度か書いている。互換性という意味ではWM9も捨てがたいのだが、2Mbps以下のレートではDivXの画質を超えられないようなので、未だ乗り換えるに至っていない。 そんな中、突然BHAから発表されたXVDというコーデックは、「今更新しいコーデックかよ」、「なんでBHAが?」、「XVIDとは違うのか」などいろいろな疑問を持たれつつも注目度は高い。まさに鳴り物入りで登場といった感のあるXVDだが、ソフトウェアベースのほかの高圧縮コーデックと違って、最初からハードウェアエンコーダが提供されている点は興味を引くところだ。 アイ・オー・データから発表されたPCIキャプチャカード「GV-XVD/PCI」は、アナログAV入力を備えるハードウェアエンコーダカードだ。今回Electric Zooma!では、短い間ではあるがこのカードをお借りすることができた。さっそく話題の新コーデック、XVDの実力を試してみよう。 ※今回お借りしたカード、ソフトは評価版のため、製品版では画質などが異なる可能性があります。 ■ デフォルト設定はいまいち XVDにはまだソフトウェアのエンコーダがなく、動画をエンコードするには「GV-XVD/PCI」が必須となる。GV-XVD/PCIはリファレンスカードといった雰囲気のシンプルな設計で、S-Video、コンポジット、RCAオーディオ入力を持つ。メインとなるDSPはTIの「TMS320C6415」、上部にメモリチップが見えるが、これはバッファ用だろうか。ハードウェアエンコーダとはいえ民生用端子しか持たないことから、とりあえずはコンシューマー用途であることがうかがえる。
GV-XVD/PCIに同梱されるXVD関連のソフトウェアは以下の4つだ。
XVDのプレーヤーは表立っては同梱されていないが、XVD Editorで編集したものをビルドすると、そのフォルダ内に必要なDLLなどとともに入っている。またプレーヤーは、近日中にBHAから無償で公開されることになっている。今回掲載の動画ファイルは、後日プレーヤーを公式サイトからダウンロードして確認してみてほしい(5月21日現在、プレーヤーのダウンロードは始まっていない)。
まずはデフォルトの設定でエンコードしてみた。ビットレートは700kbpsとなっており、発表によるとS-VHS相当とある。しかし実際のファイルを見ると、このデフォルト設定では到底S-VHSの画質は出ていない。特に真ん中のラベンダーのカットでは、盛大なブロックノイズが出る。
動作モードでは「速度優先」か「画質優先」かを選択できるので、デフォルト設定から「画質優先」に変更してみた。すると、先ほどよりもブロックノイズが低減したのがわかる。エンコード速度は、「速度優先」ではほぼリアルタイムだが、「画質優先」でも25%増し程度の時間でエンコードできるので、無理に「速度優先」で使うこともなさそうだ。 Multi-Pass Encodingにも対応しているので、「画質優先」のまま2passでエンコードしてみよう。結果を見ると、ラベンダーのカットのブロックノイズはさらに減少した。2passは単純に時間が2倍になるが、低ビットレートでは確かに効果がある。ビットレートが測定できないので、どういう推移をしているのかはわからないが、今まで行なったエンコードのファイルサイズはほとんど変わらない。画質優先、2passと、時間をかけた分だけ確かに画質のいいエンコード結果が得られるようだ。
■ 1,500kbps程度で十分な画質 この時点での画質ならS-VHSとまではいかないが、VHS程度とは言ってもいいだろう。ただ気になるのは、右下にあるロゴがかなり汚い。字幕などが入っているソースでは、ここが問題になるだろう。 そこでビットレートを上げて、1,000kbpsで試してみた。公称ではDVD相当とされている値だ。画質優先、2passで試したところ、700kbpsに対してビットレートが増加した分だけ、きちんと画質も向上しているのがわかる。 さらに1,500kbpsでも試してみた。筆者がDivXでエンコードする場合は、だいたいこれぐらいの画質なら我慢できるかなというあたりのビットレートだ。現時点でのDivX最新バージョン5.0.5でも同ビットレートで2passエンコードしてみたので、比較してみてほしい。多くの人は画質はXVDのほうが上だと判断するだろう。
色の再現性でも、XVDのほうがオリジナルに近い。DivXでは若干クロマが減少しているがのがわかる。 また再生負荷の面でも、XVDのほうが軽い。DivXは再生時にデコード品質が変更できるのが特徴だが、最低画質に設定してもPentium4 1.7GHzのマシンでは、CPU使用率が97%を下回ることはなかった。しかしXVDでは、83%~100%の間で変動する程度である。 ただXVDも、弱点がないわけではない。ビットレートを上げても、細かいディテールの解像度はあまり上がらないようだ。空撮のシーンを見て頂ければわかるように、海面の細かなディテールを表現しようとしているのはDivXのほうだ。XVDの絵は、無理に細かいところを表現しようとして変になっちゃうよりも、丸めこんでなくしちゃおうというという傾向がある。比較的大柄な絵では綺麗だが、細かいディテールにこだわる場合は、評価が分かれるところだろう。 この傾向はオーディオにも言える。デフォルトではビットレートが32kbpsという、MP3などから考えたら非常に低いレートになっている。サンプルファイルのオーディオもこのレートだ。一方サンプルとして掲載したDivXのオーディオは、MP3 48kHz 128kbpsというMP3の一般的なレートなので、一応これが原音に近いと想定して、ヘッドフォンなどで聴きくらべてほしい。 XVDのほうは、高圧縮にありがちなギスギスしたノイズ感はあまり感じられず、ステレオセパレーションなどもそれほど悪くはない。ビットレートから考えれば、十分な音質に聞こえる。 しかしMP3と比較してみると、ドラムのライドシンバルやリムショットなどは、別ミックスですかと思うほど奥に引っ込んでいる。音の目立つところはそれなりに聞こえるが、目立たない部分は丸め込んでしまうようだ。オーディオに関する実験はこれ以上できなかったが、ビットレートを上げたらどうなるのか、機会があればまた試してみたい。
■ カット編集も可能 だいたいビットレートと画質の相関関係がわかったところで、今度はアナログAV入力からのリアルタイムエンコード録画と編集環境を試してみよう。この録画にはXVD Recorderを使用する。素材には以前Victorの「GY-DV300」で撮影したDVテープがあったので、それをキャプチャしてみた。 XVD RecorderはアナログAVをそのままデーッと録るだけのソフトウェアなので、設定はあまり多くはない。画質に関する設定はXVD Compressorとほぼ同じだが、入力はインターレースビデオオンリーで完全リアルタイム動作が必須のため、2passや画質優先、De-interlaceといった設定がない。
こちらもデフォルトは700kbpsとなっていたが、XVD Compressorの実験からあまり期待できないので、1,000kbpsに変更した。撮影したテープから27分をキャプチャしてみたが、できあがったファイル208MB程度であった。ただキャプチャ後に画質を確認すると、アナログ取り込みの場合は1,500~2,000kbpsぐらいあったほうが良かったかもしれない。それでもMPEG-2に比べれば、大幅なリソース削減になるだろう。 XVDファイルを編集するのが、XVD Editorだ。DivXのファイルがいっさい編集できないことを考えれば、このソフトウェアの存在もXVDのアドバンテージの1つであろう。ファイルの読み込みから編集、チャプタ打ち、CD-Rライティングまで流れでこなせるスタイルは、DVDオーサリングツールと感覚的に近い。 ただ編集の専門家から見れば、編集機能はお世辞にも快適とは言い難い。まず「トリミング編集」だが、通常の編集とは逆で、いらない部分をINとOUTで範囲指定する。あからさまにCMカット向きの設計だが、それ以外の編集ではすんげえ使いづらい。普通こういうのをトリミング編集といわないのでは。 また編集点もフレーム単位とはほど遠く、XVDにもGOP的なものあるのだろう、3秒ずつぐらいの単位でしか編集できない。CMカット程度の用途だとしても、あまりにもおおざっぱな単位だ。
一方チャプタのほうは、細かい単位で打てる。最小単位がフレーム表示ではないのではっきり確認できないが、フレーム単位の精度はあるようだ。編集点でチャプタが打てるように、トリミングしたリストのINやOUTの数値をダブルクリックすると、その地点に再生ポイントがジャンプするようになっている点はよくできている。ざっくり不要部分をカットして、あとはチャプタで飛ばしていけるようにファイルを作るという使い方になるようだ。 編集が完了したら、書き出しを行なう。プロジェクトをビルドしたものを直接CD-Rに書き込めるほか、ローカルのHDDにも保存できる。書き出す際には、たとえ編集していても再エンコードは必要なく、単にファイル連結で高速に書き出しているようである。MPEGのClosed GOPと同様の原理なのかもしれない。
今回はあまり使わなかったが、運用が軌道に乗ってきたら、Media Sinkは便利なソフトウェアだろう。これをフロントエンドにしてXVDを始めWM9などへバッチエンコードできる。
いやぁアイ・オーさんオイシイなぁ。もう大好き。
■ 総論 XVDの強みは、ハードウェアエンコーダや編集ツールなど、最初からある程度できあがった環境がポンと用意されているところだろう。事実上のライバルとも言えるDivXやWM9にはまだハードウェアエンコーダも編集ツールもないところから見れば、後発ではあるものの、大きなアドバンテージを持っている。 まあ逆に言えば、今のところハードウェアエンコーダしかないとも言えるのだが、もし今後XVD搭載のTVチューナカードや、スタンドアロンの録画機でもできたら、省リソースながらそこそこの画質を持つTV録画マシンができあがる可能性を持っている。 画質面では、ビットレートを1,500kbpsあたりに設定すればかなり満足できる結果が得られる。将来的にはHDをCD-R記録といった目標もあるようだが、現時点でDivXやWM9と比較してもエンコード速度は当然として、同ビットレートではXVDのほうが高画質なので、この面でも競争力は十分ある。ソフトウェアエンコーダが出るまでは、37,000円のエンコーダカードが必須というところが争点となるだろうが、筆者はこのスピードとクオリティなら買ってもいいと思う。 非常に将来性を感じさせるXVDだが、筆者がちょっと不安に思っているのは、本当にライセンス的にクリアなのか、というところだ。DigitalStream-USAが開発した独自コーデックだとは言うが、以前Sigma Designsが開発したというふれこみのRMP4が、実はXVIDから一部ソース流用が発覚してすったもんだしたというケチが付いている。XVDでは同じようなことがないようにお願いしたいものだ。
□BHAのホームページ (2003年5月21日)
[Reported by 小寺信良]
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