中・大型のデータプロジェクタ分野で有名なNECビューテクノロジーにとって、国内初ホームシアターモデルとなるのが、この「HT1000J」だ。欧米では2002年秋に先行発売され、発売当時、国内でも公称コントラスト比3,000:1というスペックがファンの間で話題となった。今回はこの機種を取り上げる。
■ 設置性チェック~投写仰角は大きめ
吸気口と排気口が本体の両側面にそれぞれ配置されていることから、背面を壁に寄せての設置も可能。本体重量の軽さも考慮すれば本棚設置も十分可能だろう。 投写モードはリア、フロント、天吊り、台置きの全組み合わせに対応。なお、天吊り金具は純正オプション「LT60CM」(4万円)が用意されている。上下±10度、左右±10度の角度調整が可能だが、オフセット高は10cm程度しかないので高天井には向かない。一般家庭用向きと考えた方がいい。 専用台やチルトスタンドはないが、本体前面にチルトフットがあり、投写仰角を最大7度上方向へ調整できる。また、最大25mm伸ばせるリアフットも後部に装備している。リアフットは左右にあるので、左右の高さを変えれば、投写映像の回転方向の傾き調整も可能だ。台置き設置の際にこれらを活用すれば、たいていの場合は対応できるだろう。 投写仰角は最大ズーム時で18.8度と、かなり上向きとなっている。そのため、低目のリビングテーブルなどを使った設置に向いている。 逆に、天吊りする場合は設置位置を高めにしないと映像が下に出すぎる可能性がある。レンズシフト機能もないので、天吊り設置を考えている人は、あらかじめ設置シミュレーションをよく行なった方がいいだろう。 なお、入力映像のアスペクト比が16:9なら、「ズームポジション機能」を活用することで、映像を一切歪ませることなく、表示領域を上下方向に移動できる。4:3パネルに16:9ソースを投写したときの未使用領域を使った機能で、いわゆる「デジタル・レンズシフト」的なことができるわけだが、表示映像が4:3の場合はどうにもならない。やはりこのクラスなら、レンズシフト機能は欲しいところだ。
投写レンズは1.2倍ズームレンズを採用。アスペクト比4:3の100インチの最短投写距離(ズーム率最大時)は3.13m、アスペクト比16:9の100インチでは3.41mと、最近の機種としては及第点の短焦点。 フォーカスとズームは手動式。フォーカス調整リングは重くなっており、誤って触れた程度では合わせたフォーカスが狂わないのが心憎い。ただし、各調整ツマミはレンズの下に配置されており、台置きの場合はレンズ下、天吊りの場合はレンズ上に位置することになる。このあたりは改善を要する点だ。 また、本機には2枚羽アイリス(絞り)機能が搭載されているが、こちらも手動で絞り具合を調整できる。絞れば絞るほどコントラストが高くなり、最大絞り時には公称値3,000:1のコンラスト性能を実現する。 台形補正機能は上下±40度、左右±25度まで対応。上下だけでなく左右補正も可能なので、いわゆる斜め投写も可能となっている。そのほかに、「3Dリフォーム」機能と呼ばれるGUIベースでの調整方法も用意されている。これは、歪んだ投写映像の8点をつまんで移動させて四辺が直交するする長方形になるように調整する方法で、非常に直感的でわかりやすい。 もちろん、どちらもデジタル補正なので、補正が大きいほど画質は低下する。常設の場合はこの機能のお世話にはならない方がいいだろう。 光漏れは右側側面の排気口がほのかに光る程度で投写映像には影響なし。ファンノイズはランプモード(後述)が「ノーマル」だと旧型プレイステーション 2(SCPH-30000)よりも大きいが、「エコ」にした場合は、同程度以下となる。 なお、交換用ランプ「LT60LP」(45,000円)はユーザー交換が可能。ランプは本体右側面に搭載されているため、背面を壁に寄せて設置していてもランプ交換は本体を動かすことなく行なえる。ランプ寿命はランプモードをノーマルで1,500時間、エコで2,000時間となっている。
■ 操作性チェック~リモコンにバックライト機能なし、レスポンスは良好だが十字キーが使いにくい
リモコンは下部にくぼみがあり、右手で持ったときに人差し指を丁度ここに収めることができ、ホールド感は良好だ。本体のリモコンの受光部は前後にあり、スクリーンに反射させての使用も問題なかった。 意外なのは、ホームシアター向けなのにもかかわらず、リモコンにバックライト機能がない点。リモコン下部にボタンが密集しているので、暗い部屋では操作がしずらい。次期モデルではぜひとも付けてほしい。 基本操作は[MENU]ボタンでメニューをだし、十字パッドでアイテムを[ENTER]キーでセレクトという伝統的なスタイル。取り消しや一階層上への移動は[CANCEL]キーで行なう。メインメニューは左に表示され、サブメニューが右に開くデザインになっているので十字キーの[→]キーでも、メニューを選択したことになる。 なかなか、直感的なユーザーインターフェイスだが、好みが分かれそうなのが、十字キーそのもの。クリック感がなく、ふにゃふにゃしており、カーソルの移動が非常にやりにくく感じた。この十字キーは、拡大表示モード(ルーペ機能)時の表示エリア移動操作を想定して、実際には8方向入力が可能になっており、これが普段のメニュー操作をやりにくくしている。[↓]を押したつもりが[→]になっていたり、[↓]を1回押したつもりが2回押した判断されたりと、かなり煩わしい。この部分にも改善の余地はある。 入力切り替えは独立した切り替えボタンが5つあり、HT1000Jが持つコンポジットビデオ入力、Sビデオ入力、コンポーネントビデオ入力、アナログRGB入力、DVI-D入力の全入力端子に対してダイレクトに入力切り替えができる。入力切り替え所要時間はSビデオ→コンポーネントで実測3.6秒、コンポーネント→DVI-Dで3.6秒と、最近の機種にしては遅い。 色調モード切替は[PICTURE]ボタンの順送りで行なう。アスペクトモード切り替えは[ASPECT]ボタンで切り換え専用サブメニューを出してから選択する操作系になっている。切り替え所要時間はどちらもゼロに等しく高速だ。
なお、アスペクトモードは、設定したスクリーンモードによって選択できるモードが違う。簡単に解説しておこう。 ●アスペクトモード4:3時
■ 接続性チェック~一通りの映像入力端子を装備
DVI端子はデジタル専用のDVI-D端子を採用。これはPC映像の入力以外にHDCP規格のデジタルビデオを入力することが可能となっている。マランツやティアックなどから出ているHDCP対応DVI-D端子付きDVDプレーヤーと組み合わせれば、最終的に映像が投写されるまでの処理系をフルデジタルで実現できる。
アナログRGB(D-Sub15ピン)端子は「アドバンスドメニュー」の「セットアップ」で設定すれば、コンポーネントビデオ入力端子としても使用可能だ。D-Sub15ピン端子←→コンポーネントビデオ端子変換アダプタは、メーカー純正オプション「ADV-CV1」(1,500円)として用意されている。 音声入力端子はRGB/DVI兼用、コンポジットビデオ、Sビデオ、コンポーネントビデオの独立4系統ステレオ入力を装備。だが、内蔵スピーカーが2W×2chで、しかも2基のスピーカーが隣接設置されており、とてもAV用途に使えるものではない。なくてもよかったのではないだろうか。このスペースにD端子やもう1系統コンポーネントビデオ端子を付けるなどして欲しかった。
このほか、電動開閉スクリーンや電動開閉シャッターと同期を取るためのトリガ端子、PCからのリモート制御を行なうためのPCコントロール端子(インターフェイス自体はRS-232C)なども備えている。
■ 画質チェック~圧倒的なコントラストとダイナミックレンジが両立した画質
表示パネルはアスペクト比4:3、解像度1,024×768ドットの0.7インチ DDR DMDチップを採用する。振れ角12度の2世代目DMDチップの単板方式だ。 パネルのアスペクト比が4:3であることから、16:9映像はパネルの1,024×576ドットが活用されて表示される。これは、720×480ドットで記録されたDVD映像も情報欠落無しで表示できることを意味する。 パネル解像度が1,024×768ドットと高いこと、格子間が狭いDMDパネル特性との相乗効果で、100インチ程度では粒状感はほとんど感じられない。画素格子が目立ちやすい明色単色領域においてもザラザラした感じはなく、面が面として見える。 6セグメント4倍速相当カラーフィルター採用の効果も有ってか、色深度は深めで、グラデーションも鮮やか。マッハバンドは皆無だ。人肌の発色もリアルで、頬の丸みなどが立体的に見えてくるほど。ただし、グレースケールを表示させると黒から「うす灰色」にかけて、やはり、ディザリングノイズが出るが、単板式DLPの原理上避けられない特性なので致し方ないといったところ。ただし、単板式としてはよく頑張っている方で、画面から4m以上に離れればほとんどわからない。 コントラストはアイリス最大絞り時に3,000:1、アイリス解放時は2,000:1で、どちらにしてもクラス最高レベル。アイリスはアナログ的に無段階調整ができるが、結局のところ、もっともコントラストが高くなる最大絞り状態が「HT1000J特有の画」になる。 ランプモードはノーマルとエコが選べることは既に述べたが、ダイナミックレンジとコントラストが両立するのは「ランプ=ノーマル」と「アイリス=最大絞り」であり、この時がもっともインパクトのある画になる。「スターウォーズ・エピソード2 クローンの攻撃」のチャプター28のような、宇宙戦闘シーンを見ると、宇宙の黒さと閃光のまぶしさが両立したとても鮮烈な映像が楽しめる。 単板式DLP方式で、最も気になるカラーブレーキングは、一般的な映像ではそれほど気にならないものの、カメラがパンするような映像、あるいは移動するキャラクタを視線が画面上を追うような局面では、やはり見えてしまう。こうしたときには、全体的にざわついたような、毛羽立った感じの画に見えるのだが、これも単板式DLP方式の宿命なので仕方がない。
色調モードはプリセットが5つ、そしてユーザーメモリが4つある。なお、ユーザーメモリは、各入力ごとに4つではなく、全入力系統で共有利用するような仕様になっている。
▼プリセット色調モード一覧(ランプモードノーマル、アイリス最大絞り時) ガンマ補正は3つのモードから選択が可能となっているが、ユーザー色調モードでしか選択できない(プリセットではガンマ補正は固定となり調整不可)。これについても簡単なインプレッションを述べておく。
▼ガンマ補正モード一覧 HT1000Jには「SweetVision」というユニークな画質向上機能が備わっている。SweetVisionは、周囲の明暗の対比を利用することで、見かけ上コントラストを増強する「Craik-Obrien効果」を応用した技術。具体的にはオリジナルフレームをデフォーカス(ぼかす)したものとオリジナルフレームの差分を取ってエッジを抽出、これに対して画像処理を施して最終的にオリジナルフレームとブレンドして出力する。 実際にどんなものになるかと見てみたのだが、確かにパリっと引き締まった映像になる。オリジナルフレームに柔らかくブレンドされる処理系なので、ぼけるだけの一般的なフィルターと違い、解像度劣化が少ないのも好印象。このSweetVision機能を「切-弱-中-強」の4段階で設定できるが、お勧めは弱か中だ。強は若干だが解像感が落ちるようだ。
筆者は、「ムービー」に対してガンマ補正「ナチュラル」、SweetVision「弱」、色温度「7,800K」に設定したモードが映画からゲーム、ビデオまで万能に使えて気に入っている。 なお、SweetVisionはインタレース映像を入れた時にしか有効にならない。プログレッシブ映像でこの機能が有効にできないのは原理的な制約ではなく、HT1000J側のハードウェア的な制約とのこと。次期モデルではプログレッシブ映像やハイビジョン映像にも効かせられるようにしてほしいものだ。 続いて、各映像ソースをHT1000に入力して表示させた。なお、投写条件はランプモードノーマル、アイリス最大絞り時、そして色調モードは前述のムービーをベースにしたオリジナルモードを使用している。
▼入力ソース別インプレッション
撮影後、投影画像の部分を1,024×574ドットにリサイズしてから画像の一部分(160×120ドット)を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×359ドット)を表示する。
(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS
■ 特殊機能~これは便利! 投写映像をキャプチャしてPCカードに保存可能
HT1000Jにはユニークな拡張機能が搭載されている。本体にPCカードスロットを搭載し、JPEG、BMPなどが記録されたメモリカードを入れれば、HT1000J本体のみで閲覧することができる。
また、投写映像を任意のタイミングでキャプチャし、その静止画をJPEGで記録することも可能。映像ソースの種類によらずキャプチャできるので、テレビ番組の応募要項を撮ったり、あるいはゲーム画面を撮ったり……と単純な機能ながら活用の幅はかなり広い。
このほか、PCカードスロットにはLANカードも挿せるが、電源オン/オフ制御やHT1000Jのステータス監視用に使える程度でホームユースで活用できる機能ではない。LAN経由でプロジェクターに動画や映像を送信できたりすれば面白かったのだが……。
■ まとめ~画質に文句なし。操作性の向上に期待
コントラストだけでなく色深度の深さもなかなかのもので、単板式DLP方式のプロジェクタの画質としては最高クラスだと思う。ディザリングノイズやカラーブレーキングといった、原理上避けられない弱点を除けば、弱点らしい弱点もない。
採用パネルがアスペクト比4:3というのは、好き嫌いが分かれるところだが、映像鑑賞だけでなく、PCやゲームなどでの利用も考えれば、16:9よりも汎用性は高いともいえる。結局ユーザーが「どう使いたいか」で、この部分の評価は変わってくるだろう。
NECビューテクノロジー初のホームシアターモデルということもあり、操作性やメニューデザインが洗練されていない感があった。HT1000Jは基本設計をデータプロジェクタ「LT260シリーズ」と同じくしているため、このような仕様になったと思うが、リモコンや操作性に関しては、今後はホームシアターユースを前提にしたデザインを検討してほしい。
□NECビューテクノロジーのホームページ (2003年5月29日) [Reported by トライゼット西川善司]
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