■ 買っとけ! 史上初の洋楽DVDかも……
今回取り上げるのは、「レッドツェッペリン DVD」。この「買っとけ! DVD」では久しぶりの音楽DVDで、たぶん洋楽としては初めて。 いまさらいうまでも無いことだろうが、レッドツェッペリンは、ロバート・プラント(ボーカル)、ジミー・ペイジ(ギター)、ジョン・ポール・ジョーンズ(ベース)、ジョン・ボーナム(ドラム)からなるロックバンド。'68年の結成以来、'80年のジョン・ボーナムの死による解散まで'70年代のロックシーンを牽引したハード・ロックのトップグループであり、代名詞ともいえる。ロックファンにとっては基本と呼べる存在だ。 とはいえ、筆者は、オリジナルアルバムは大抵聞いてはいるが、熱心なツェッペリンファンではない。よりマイナーなUS/UKインディロックやテクノのファンであったので、どちらかと言うと、対外的には「オッサンが聞くもの」とか、「プラントの高音ボーカルが嫌い」とか罵詈雑言を述べたもの。 それでも音楽ファンとしては、やはり基本中の基本。高校の放送室にあったレコードから、こっそりテープにダビングしたりなど、さまざまな方法を駆使して音源を求めていたものだ……。それで年取ってから聞くと、いいんですよ。「レッドツェッペリン DVD」というシンプルなタイトルにも決定版との自信の程が伺える。ということで、発売からやや遅れているが、久しぶりの音楽DVD。先週は「エヴァ」ウィークで、先週のランキングの上位の占めるなどこのままではAV Watchがアニメ誌みたいだ……(私も見てますが)。ということで、性根を叩き直すべく「男は黙ってジミー・ペイジ」。 DVDとしては、本編として'70~'79年までの4箇所でのステージを2枚のDVDに収録。それぞれに特典としてテレビやラジオに出演時の映像、米国進出時のインタビュー、プロモーションクリップなどを収めている。 それぞれに英語版のブックレットを用意するほか、同ブックレットの翻訳や解説などを載せた小冊子が同梱されている。価格は初回特典版のみ6,000円で、以後の出荷から7,000円となる。
■ '70~'79年のライブを収録
本編の収録曲は以下の通り。ロックファンであれば、大いに楽しめる名曲のオンパレードで、基本的にDISC1から時系列で収録されている。 ・DISC1
01.ウィアー・ゴナ・グルーヴ 02.君から離れられない 03.幻惑されて 04.ホワイト・サマー 05.強き二人の愛 06.ハウ・メニー・モア・タイムズ 07.モビー・ディック 08.胸いっぱいの愛を 09.コミュニケイション・ブレイクダウン 10.カモン・エヴリバディ 11.サムシング・エルス 12.ブリング・イット・オン・ホーム
02.ブラック・ドッグ 03.ミスティ・マウンテン・ホップ 04.貴方を愛し続けて 05.オーシャン
06.カリフォルニア 07.ザッツ・ザ・ウェイ 08.スノウドニアの小屋 09.死にかけて 10.トランプルド・アンダーフット 11.天国への階段
12.ロックン・ロール 13.俺の罪 14.シック・アゲイン 15.アキレス最後の戦い 16.イン・ジ・イヴニング 17.カシミール 18.胸いっぱいの愛を DISC1の本編は、「THE ROYAL ALBERT HALL」での演奏をまとめたもので、収録年は本編ではもっとも古い'70年。画質など気になるところもあるが、まだ若い4人のエネルギッシュなステージングが楽しめる。特に「モビー・ディック」における、ジョン・ボーナムのドラムソロから、代表曲の1つともいえる「胸いっぱいの愛を」へ至る流れは、ロックファンであれば、誰もがうならざるをえないような圧倒的なパフォーマンスだ。 また、特典として、「コミュニケイション・ブレイクダウン」のビデオクリップや、デンマークのテレビ番組「TV-Byen」での演奏(4曲)や、イギリスのテレビ番組「SuperShow」、フランス「Tous En Scene」などでの演奏が収録されている。いずれも、ライブ会場での激しいステージパフォーマンスとは違った淡々とした演奏が赴き深い。また、プロモーションビデオは、まだまだビデオクリップという考え方がほとんど無かった時代('69年)のものだけににとてもシンプル。これはこれで、この時代の雰囲気が伝わってくる。 なお、TOUS EN SCENEは、この経験を機にツェッペリンのテレビ出演をやめたという「いわくつき」の番組だという。「コミュニケイション・ブレイクダウン」と「幻惑されて」の2曲のプレイはエネルギッシュではあるが、子供を抱いた女性や微動だにしない観客の前での演奏は、確かに惨めな経験だろう。また、この経験によりテレビ出演を回避するようになったことが、このDVDの存在をより貴重したと言えるのだろうが……。 DISC2は、「MADISON SQUARE GARDEN(1973)」、「EARLS COURT(1975)」、「KNEBWORTH(1979)」と時系列に並んだ3箇所のライブ映像と、冒頭に「移民の歌」のライブ映像を基にしたビデオクリップ収録される。「MADISON SQUARE GARDEN」では、冒頭の「ブラックドック」のややオーバーなステージパフォーマンスから、全米1位を果たしたバンドの充実が伝わってくる。 うって変わって、「カリフォルニア」のアコーステイックセットから始まる「EARLS COURT」も、終盤にかけての「トランプル・アンダーフット」、「天国への階段」へはこれぞハードロック的な展開。また、ステージ横に横9m、縦7mのスクリーンを設け、メンバーの様子を映し出すなどの試みも行なっている。 最後の「KNEBWORTH」も熱演だ。2日間で40万人が集まったという会場で、スクリーンを利用したステージングもこの頃になると、より洗練されていて興味深い。冒頭の「ロックン・ロール」から、6曲目の「カシミール」まで、息をつかせぬ展開で、また、ラストの「胸いっぱいの愛を」は、'70年のROYAL ALBERT HALLのコンパクトなバージョンと、このバンド末期の演奏を比較するとがらりと印象を変えている。それは、場数を踏んだステージングと、即興、機材の進化などの多くのファクターの融合によるものだが、9年という歳月(休止期間もあるが)にバンドの切磋琢磨してきた結実でもあり感動的だ(特に通して見ると)。ただし、DISC1からぶっ続けで見ると感動もひとしおだが、疲労度もかなり高いので、休日を丸一日つぶす覚悟が必要だ。 特典は、'72年収録の「移民の歌」のビデオクリップや、全米進出時のプレスカンファレンスの模様、ロバート・プラントのインタービュー、「丘のむこうに」、「トラヴェリング・リヴァーサイド・ブルース」のプロモなどの特典が収録されている。
■ 画質は悪いが、「味」であり「歴史」でもある
画質については、時代が古いこともありあまりクリアーなものではない。特に70年撮影の「ROYAL ALBERT HALL」では、明暗差のある映像は、ことごとく白飛びないし暗部が黒く沈んでしまう。また、解像感も当然低く、例えばジミー・ペイジのギターソロ時のアップでは、ギターのフレットは認識できるが、弦はほとんど解像できていない。ところによっては、レンタルビデオをコンポジットビデオ経由で3回位オーバーダビングして、輝度信号がボロボロになったような映像になっているが、70年当時の16mmカメラ2台による撮影なので、これは致し方ないところだ。 一部で気になることはあっても、これは70年代の現場と考えれば納得のクオリティ。貴重な記録であり、なにより主役は音楽。最新の映画と比較するのは野暮というものだろう。 DISC2に移れば、画質は結構改善される。もちろん、明暗の激しい箇所などでブロックノイズも散見されるが、年代順に画質が向上していることは手に取るように明らかだ。ただし、フィルムのノイズなどは結構気になる。例えば、DISC1の「胸いっぱいの愛を」のロバート・プラントのアップでは、レンズの汚れと思われるゴミがずっと画面下に出ていて結構気になる(正面のカメラの映像はしばらくの間汚れがついたままとなっている)。この辺り現在のデジタル補正技術をもってすれば修正はさほど難しく無いはずなので、どうにかしてもらいたい。しかし、熱のこもった演奏を体験していくうちに「演奏がいいしどうでもいいか」となってしまうのも事実。 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た本編のビットレートは、DISC1が7.39Mbps、DISC2が7.2Mbps。
音声は、DTS 5.1ch(768kbps)、ドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)、PCM 2ch(1,536kbps)が収録されている。デフォルト状態ではPCM。 もちろん収録して時代や機材の関係から、現在のハイファイな録音とは程遠い音質だ。特にDISC1は、SN比が低く、レンジの狭さは顕著だが、もちろんそれで、音楽が悪いわけではない。むしろこの音質こそが、彼らの時代のロックのリアリティを良く感じさせてくれる。ヌケは悪いがパワーは強烈に伝わってくる。 音質的には、もちろんPCM > DTS > DDとなるだろうが、やはりここは5.1chのDTSで楽しみたいところ。特にDISC2では、5.1chの効果は顕著で、ホールのアンビエンスやコールアンドレスポンスのほか、フェイザー(?)を使ったペイジのギタープレーや、プラントのハーモニカなどがうまくサラウンド感を演出している。LFE成分も多くなく、決して派手な音作りではないが、ツェッペリンの持つダイナミズムをうまく生かしたオーサリングだと思う。 後期に行くにしたがって、音質も向上し、5.1chの効果も大きくなっている。これは演奏機材または録音機材の進歩によるものが大きいが、こうした変化により、彼らの音楽性も変化してきたことを鑑みれば、70年代のロックシーンの歴史のドキュメントという意味も有してくると思う。そうした観点から見ても面白いDVDに仕上がっているのではないだろうか。なお、特典の音声は全てドルビーデジタル 2ch(224kbps)となっている。
■ ロックファンはもとより音楽ファン、AVファンも是非
貴重な映像を収めたDVDというだけで、ファンはもちろん買いだろう(既に買っているだろう)。しかし、アルバムでしかツェッペリンに触れてこなかった人、さほど興味を持っていなかった音楽ファンや、AVファンまで、強力に勧められるDVDだ。価格も5時間以上の収録時間で6,000円(初回版)とまずまずお手ごろだ。 パワフルな演奏や、巨大な会場での演奏など、ある意味での60年代後半から、70年代にかけてのロックの盛り上がりにおいて、重大な足跡を残した彼らの歩みを確認できるというのが最大の魅力だが、そのほかにも、機材やファン層、ライブ会場の変遷などさまざまな時代の流れを確認できるというのも面白い。 また、興味深いのが一部の映像にブートレグ(海賊版)を利用していること。MADISON SQUARE GARDENの一部のほか、KNEBWORTHのライブ映像では、客席から見たスクリーンの様子などが確認でき、このDVDの資料性とリアリティを高めている。もちろん権利者に無断で撮影し、売買するなどの行為は、決して勧められる行為ではないのだが、誰よりも映像を熱心に収集し、保存するのはファンである。そうした意味では、海賊版の映像が本家にフィードバックされるということは意義あることと感じる。どういう交渉があってこういう形になっているのかは知らないが、ファンと権利者の関係をうまく補完しているという意味で面白いと思う。 特に若いロックファンなどに、ぜひ見てもらいたいが、オーディオビジュアル機器に少しでも興味がある人であれば、さまざまな側面から楽しめる内容となっていると思う。とりあえず、大音量で楽しんでほしい。
□ワーナーミュージックのホームページ (2003年7月8日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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