リビングルームにサラウンドシステムを構築するとき、とりわけやっかいなのがサラウンドスピーカーの設置場所の確保と、サラウンドスピーカーに接続するスピーカーケーブルの引き回し方法だろう。どちらも目障りなため、導入に当たっては家人の反対も受けやすい。そのため、サラウンドシステムの導入になかなか踏み切れない人も多いだろう。 こうした問題をサラウンドスピーカーのワイヤレス化で解決しようとしたのがパイオニアの「HTZ-500DV」で、本体からサラウンドスピーカーへの信号伝達には、2.4GHz帯のデジタル無線伝送を利用。サラウンドスピーカー用のスピーカーケーブルを引き回すことなく、サラウンドシステムをリビングに導入できる。 2個のサラウンドスピーカーは、本体と別電源で動く「ワイヤレススピーカーシステム」に搭載。つまり、サラウンドスピーカーをアンプ内蔵のアクティブスピーカーとし、そこにサラウンドチャンネルの音声を飛ばすという仕組みだ。ただし、フロントスピーカーとセンタースピーカーは従来通りスピーカーケーブルで接続する。
ワイヤレススピーカーシステムは、通常2台必要なサラウンドスピーカーを1台にまとめている。設置位置は視聴者の真後ろ。また、耳より下の高さへの配置を薦めており、視聴席が比較的低い場合は、床への直置きもできそうだ。スタンド設置や壁掛けを強いられる通常のサラウンドスピーカーに比べると、設置の自由度は飛躍的に高い。 パッケージは、DVDプレーヤー一体型の本体とワイヤレススピーカーシステム、フロントスピーカー×2、センタースピーカー、パッシブ型のサブウーファ、トランスミッター、各種ケーブル類で構成。 システムとしての機能は、D2出力端子によるプログレッシブ出力、MPEG-2 AACのデコード機能、DVD-RW VRモードやWMA/MP3/JPEGファイルの再生機能など、最近のトレンドを過不足なく網羅した印象。ドルビープロロジック IIやオリジナルサラウンドモードによる2chソースの5.1ch化も可能で、ワイヤレス化による設置性を軸に、改めて「リビングでのサラウンド再生の楽しさ」を提案した製品といえる。
■ ワイヤレススピーカーは十分実用的 本体からの送信には、同梱のトランスミッターを使う。本体とトランスミッターの接続は、本体背面の「ワイヤレス出力」端子を使用。トランスミッター自体はコンパクトだが、本体とは別にACアダプタを必要とする。本体内蔵が見送られたのは、ワイヤレス機能を省いた下位モデル「HTZ-300DV」との共通化を図ったためだろう。 フロントL/Rスピーカーとセンタースピーカーは、フルレンジユニットを搭載した密閉型。キャビネットは樹脂性で、壁掛けにも対応する。なお、本体側のスピーカー端子には、モジュラー形状を採用。好みのスピーカーケーブルに変更するのは難しいだろう。また、サラウンドチャンネル用のスピーカー端子も備えているので、ワイヤレススピーカーシステムを一般的なスピーカーに置きかえることも可能だ。 スピーカー設定は「ルーム設定」、または「システム設定」で行なう。ルーム設定は、部屋の大きさ(S/M/L)、リスニングポジション(Fwd/Mid/Back)の組み合わせで設定する簡単なもの。Sは約6畳、Mは約12畳、Lは約18畳となっている。操作が簡単なので、初心者向けの設定方法だ。 一方、システム設定では、各スピーカーの距離(0.3~9m、0.3m刻み)と音量、サブウーファのアッテネータなどを個別に調整できる。ルーム設定で満足できなければ、ここで細かい設定が可能。ただし、フロントL/Rや、サラウンドL/R(ワイヤレススピーカーシステム)を個別に設定することはできない。 早速、5.1ch収録のDVDビデオを何枚か再生してみたところ、サラウンド感は見事に再現されていた。残響音や効果音の回り込み具合に問題はなく、前方から後方に抜ける効果音のつながりも良い。最初に抱いていた不安をかき消すほどの、十分な臨場感が得られた。 意外だったのは、ワイヤレススピーカーシステムの位置決めがシビアだったこと。真後ろに配置しているせいか、後方の左右バランスの微妙な違いがはっきり判別できてしまう。特に、残響の深い環境音で気になることが多かった。ただし、サラウンドL/Rそれぞれの音量を調節できるので、それほど大きな問題にはならないだろう。 ワイヤレススピーカーシステムを使った機能では「バーチャルサラウンドバック」が面白い。サラウンドバックチャンネルを擬似的に再現する機能で、5.1chや6.1ch収録のソフトに適用できる。もともとワイヤレススピーカーシステム自体が後方中央に位置しているため、バーチャルといえども再現性は上々だ。6.1ch収録のドルビーデジタル EXやDTS-ES音声を収録したソフトで試したところ、確かに中央からの音圧をはっきりと感じることができた。すべてのタイトルで有効ではないものの、場面によっては、バーチャルサラウンドバックを切った5.1ch再生よりも、大幅に臨場感が向上した。
全体的な音質は中低音よりのどっしりした音で、映画再生に向いている印象。この種のサラウンドシステムにしては、サブウーファがしっかり鳴っているためだろう。もう少し解像感がほしいところだが、付属の樹脂製のスピーカーでは、これが限界かも知れない。音楽再生も物足りなさを感じる。もっとも、ロックやポップスをBGMとして鳴らすのなら、それほど気にならないかも知れない。個人的には十分楽しめた。 ワイヤレススピーカーには「サラウンド」、「ステレオ」、「オフ」の3モードを選択できる。通常は「サラウンド」だが、「ステレオ」モードは、前方チャンネルと同じ音をワイヤレススピーカーから鳴らすというもの。ワイヤレススピーカーを単体で持ち出し、別室などで楽しめるという機能だ。そのため、ワイヤレススピーカーには専用のボリュームノブが設けられている。 面白い試みだが、ワイヤレススピーカー単体の音はかなり貧弱。さらに、重量が4.2kgある割には持ち手もなく、さほど実用的には思えなかった。モード切替はリモコンの「ワイヤレスボタン」とワイヤレススピーカーのモードスイッチの両方を切り替える必要がある。 なお、ワイヤレススピーカーのモードスイッチを「SURROUND」にしたまま、リモコンでステレオモードに切り替えると、ワイヤレススピーカーは自動的に最大音量になってしまう。しかも音量調節は不可能。気をつけていれば回避できるものの、うっかりそのまま切り替えて、近隣に大迷惑をかける可能性は高い。 なお、本体の動作音は多少気になる程度。かすがだが、電源を入れるとファンノイズと思われる「ブーン」という音が出る。ワイヤレススピーカーシステムは静か。若干の動作音が聞こえるものの、よっぽど静かな環境でないと確認できないだろう。
■ 画質は良好。サラウンドモードは豊富
プログレッシブ表示も問題ないレベル。ビデオ素材、フィルム素材にあわせたプログレッシブモードは持たないものの、どちらも滑らかに再生できた。クロマアップサンプリングエラーも見られない。 サラウンドフォーマットはドルビーデジタル、DTS、AAC、ドルビープロロジック、ドルビープロロジック II(Movie、Music)に対応。ドルビープロロジック II ミュージックモードについては、センターチャンネルの音を左右に振り分ける「CENTER WIDTH」(0~7)、後方の音を大きくする「DIMENSION」、音の回り込み度を調整する「PANORAMA」を設定可能。最近、サラウンドシステムでは、こうしたパラメータを開放しているケースが多い。 また、オリジナルサラウンドとして、「ミュージック」、「ムービー」、「エキスパンデッド」、「TVサラウンド」、「スポーツ」、「ゲーム」、「エキストラサウンド」、「5ch Stereo」を選択できる。それぞれ2chを5.1化が可能で、とりわけリビングでは、モノラルソースもサラウンド化するTVサラウンドの利用価値が高い。
ドルビーデジタルにはDRC(ダイナミックレンジコントロール)をOff/Mid/Highの3段階で適用可能。さらに、ドルビーデジタルを含むすべてのソースに、小レベルの音を持ち上げる「ミッドナイト」、大音量のピークを抑える「マナー」を利用できる(共用は不可)。加えて、リモコンのダイアログボタンでセリフやボーカルを強調して再生することも可能(AACは非対応)。他機種に比べ、音量圧縮系の機能が充実している。深夜の視聴や大きな音を出せない環境で、威力を発揮するだろう。
リモコンは、スライド式のドアパネルを装備したタイプ。各社のテレビコントロールに対応する。リモコンを操作していて不満なのは、カーソルボタンと再生関連のボタンが、同じデザイン、同じ大きさな点。どちらも黒い菱形なので、慣れるまで間違えることが多かった。また、リモコンの操作に対し、メニュー動作がワンテンポ遅れるのも気になる。 ドア内のボタンにはそれぞれ機能が2つ割り振られており、一番手前の「メイン/サブリモコン切り換えスイッチ」で機能を変更するタイプ。モード切り換え式は誤動作が多いので敬遠されがちだが、ボタン数の削減のためにやむをえなかったのだろう。個人的には、ディスプレイにつなげる製品なので、もう少しOSDメニューに頼っても良かったのではと思う。また、ドアを開ききる直前に引っ掛かりがあり、切り換えスイッチを操作できるほど十分開ききらないことも多かった。
■ WMA/MP3/JPEGファイルの再生にも対応 WMA/MP3の再生機能は、この種の製品には不可欠な装備になった。フォルダやファイル構成は「ディスクナビゲーター」で確認でき、ランダム再生はディスク全体、フォルダ単位で設定可能。DVDビデオや音楽CDと同じく、ドルビープロロジック IIやオリジナルサラウンドプログラムを適用できる。ディスクの読み込みも速く、機能に過不足はない。ただし、LosslessやVBRのWMAには対応していない。 JPEG表示機能は、ディスクを入れると自動的にスライドショーになるタイプ。ディスクナビゲーターや、ディスクナビゲーターから移動できるフォトブラウザでは、サムネイル表示が行なえる。画像の表示スピードは、XGAが実用限界。ビクターのRX-DV3などと同じく、VGA画像が最も美しく表示できる。
■ 実はワンルーム1人暮らし向き?
また、ディスク再生関連の機能も豊富で、画質も含めて物足りない点はない。価格は高いものの、ワイヤレス機能の利便性と本体の多機能ぶりを考えると、コストパフォーマンスもまずまずなので、「とりあえずサラウンドを体験してみよう」という人にはぴったりの製品といえる。 残念な点は、フロントを含めた総合的な音質があまり上質とはいえないところ。映画がメインで、しかもHi-Fi再生にそれほど興味がないなら、画質の良さからも導入して損はないだろう。
□パイオニアのホームページ (2003年7月18日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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