XV-A77は、高さ45mmのスリムボディを採用し、DVDオーディオの再生にも対応したプログレッシブDVDプレーヤー。スリムなだけなら各社から類似製品が発売中だが、A77の特徴は、108MHz/12bitのビデオDAコンバータを搭載した上で、実売で3万円前後という価格設定にある。 108MHz DACの搭載モデルも出揃った感があるが、現在、他社製品の市場価格は10万円弱から10万円台半ばといったところ。その中で、かなり際だつのがA77の3万円前後という価格だ。2年前、10万円弱が相場のプログレッシブDVDプレーヤー市場に対し、ビクターは4万円弱の「XV-P300」を投入し、AVファンの話題を呼んだことがある。今回のA77についても、その実力が気になるところだ。
同時発表の「RX-ES1」は、同社製のアンプ技術「DEUS(デウス)」を搭載したAVアンプ。DEUS(Digital Emotional Universal Sound)とはPWM変調タイプのデジタルアンプで、LPF通過後の信号をPWM変調前へアナログでフィードバックする特徴を持つ。変換誤差やスイッチング歪みがなくなるため、0.01%以下の歪率(THD)が得られるという。一旦アナログに変換してからPWM変調回路に入力するため、同社では「ハイブリッドフィードバック」とも呼んでいる。 これまでにも同社の「MD aosis」などに採用例があるが、AVアンプへの搭載はRX-ES1が初めてになる。最大出力も100W×5chと、ホームシアター用途に十分なスペックだ。 また、「手をたたくだけでサラウンドのセットアップが完了する」という、「スマート・サラウンドセットアップ」も斬新な機能。自動音場設定の一種だが、専用マイクを使わず、ES1に接続したスピーカーをマイク代わりにするのが特徴。自動音場設定はこれから低価格機に浸透していく技術だと見られる。他社に先駆けて投入されたRX-ES1の精度と使い勝手に注目したい。 XV-A77とRX-ES1はデザイン面で共通点が多く、また価格帯から見ても組み合わせるのにちょうどいい。というわけで、今回は両機種を同時に試用した。
■ 「XV-A77」はDVD-RW/-RAMの音声付き早見再生も可能 XV-A77の外観は、最近のビクター製品に共通する逆台形のボディデザインと、前面中央の紫のイルミネーションが印象的。特にイルミネーションは、店頭でもかなり目を引く存在になるだろう。視聴時には目障りだが、リモコンのディマーボタンで強/中/弱/offの4段階に調整可能。前面左下の表示パネルも連動して明滅し、off時にはどちらも消灯する。 DVDビデオに加え、DVDオーディオの再生にも対応する。また、VRモードで記録したDVD-RWやDVD-RAMも再生できるので、DVDレコーダのユーザーのサブプレーヤーとしてもおすすめだ。さらに、CD-R/RWに記録したWMA、MP3、JPEGファイルの再生にも対応する。
DVDビデオを再生してみると、同社の「XV-HDV1」とは一線を画す高画質が得られた。元が高画質のディスクだと、透明感を伴う非常にすっきりとした映像が楽しめる。赤などの原色にも注視してみたが、クロマアップサンプリングエラーも確認できなかった。 プログレッシブロジックも優秀だ。フィルム素材は同社製プレーヤーでおなじみの「ダイレクトプログレッシブ」を採用。ビデオ素材もなめらかだった。2-3プルダウンモードとして、「ビデオ(ノーマル)」、「ビデオ(アクティブ)」、「フィルム」、「オート」を選択できるが、ほとんどオートで問題ないだろう。なお、ディスク再生時には本体前面の「PROGRESSIVE」ランプがフィルム収録で緑色、ビデオ収録で赤色に点灯する。 インタレース表示も美しい。解像感が非常に高く、DVDビデオの本領を感じることができた。プログレッシブ非対応のディスプレイでも、オーバーサンプリングの恩恵は受けられると思う。 画質調整項目は、ガンマ(-4~+4)、明るさ(-16~+16)、コントラスト(-16~+16)、色合い(-16~+16)、シャープネス(0~+3)、Yディレイ(-2~+2)の7つ。ノイズリダクション関連は用意されていない。種類や効き方は、同社の「XV-HDV1」と同じ感覚。プリセットの画質モードは「ノーマル」と「シネマ」の2種類で、さらにオリジナル画質モードを「ユーザー1」、「ユーザー2」に登録できる。
また、音声付き1.5倍早見再生も利用価値が高い。最近はDVDレコーダへの搭載で注目される機能だが、DVDビデオでも映像特典や音声解説などで威力を発揮しそうだ。加えて、VR記録されたDVD-RAMやDVD-RWでの早見にも対応しているので、DVDレコーダユーザーにはうれしい機能といえる。なお、レコーダで記録したハーフD1などの中途半端な解像度の映像も、比較的きれいにプログレッシブ化していた。 WMA/MP3/JPEGの再生機能は、XV-HDV1とまったく同じだったので、そちらを参照して欲しい。相変わらず、ID3タグに対応していないのがもったいない。
リモコンの形状もXV-HDV1と同じだ。再生、停止、カーソル、決定などの良く使うボタンが大きくレイアウトされ、使用感は悪くない。主要メーカーのテレビ操作に対応するのも便利だ。ただし、暗がりでの使用を想定し、ボタンは自照または蓄光にしてほしかった。
■ 拍手1発でスピーカー設定できる「RX-ES1」
ただし、本体上面と左側面からの放熱がはげしく、「ジー」という騒音が気になる。電源投入後、温まるまでしばらく待ってみたが、動作音に変化はなかった。ラックに収めれば気にならない範囲かもしれないが、音質が価値を左右する製品だけに、もう少し対策を徹底して欲しかった。 デコード可能なフォーマットは、ドルビーデジタル、DTS、AAC、ドルビープロロジック II。ドルビーデジタルに対しては「D.COMP」(ダイナミックレンジ圧縮)が、プロロジック II(MUSIC)ではPANORAMA(回り込み具合)が調整できる。AM/FMチューナも内蔵している。 また、オリジナルの音場プログラムとして、「LIVE CLUB」、「DANCE CLUB」、「HALL」、「PAVILION」、「ALL CH ST(オールチャンネルステレオ)」が用意されている。この辺りは他社製のAVアンプとさほど変わらない。 最大の特徴は、拍手1つでスピーカー設定を行なうという「自動スピーカー設定」。自動音場補正については、これまでにもパイオニアやBOSEの製品で可能だった。しかし、それらは専用マイクでサンプル音を取得するタイプ。対してRX-ES1では、本体に接続したスピーカーをマイク代わりに使用する。 従来の方式に比べ、手軽さとコストの面で魅力な方式だ。自動設定できる項目は、各スピーカーのレベルとディレイ値。サブウーファの有無やスピーカーサイズ(LARGE/SMALL)、サブウーファの有無とクロスオーバー周波数については、手動で設定することになる。
Entry L×4本、Center 3M×1本を接続して試したところ、確かに違和感のない調整が行なわれている。テストトーンを何度も聴きながら手動で設定したものと比べると、明らかに自動調整の方が適切に感じる。前後のつながりはとても自然だ。 ただし、テストした部屋は右壁からの反響がきつく、右からの音が微妙に速く聴こえる傾向にある。今回試した限りでは、その辺りまでは対応できていないようだった。 なお、ディレイ値を手動で設定する場合、設定範囲はセンタースピーカーが0~5ms、サラウンドスピーカーが0~15msの範囲で設定できる。サラウンドスピーカーは左右同値でしか設定不可能。また、サブウーファとほかのスピーカーとのクロスオーバー周波数は、80/100/150/200Hzの4段階を指定できる。この種の製品としては細かい方だろう。 視聴はXV-A77やEntry Lと組み合わせた状態で行なった。どちらかといえば、中域を力強く聴かせるタイプだが、DVDオーディオに入っている100Hz~16kHzのテスト信号をほぼフラットに再生するなど、実力は高い。ハイハットやウッドベースの立ち上がりが気持ちよく、大編成ものでは100W×5chの余裕も感じられる。価格やサイズを考えれば十分満足できるクオリティだ。 ただし、人によっては小音量時の動作音が気になるだろう。クラシックの再生には向かないかもしれない。なお、XV-A77とは同軸デジタルで接続し、ケーブルはサエクのEFF-2000を使用した。 面白いのは「オーディオポジション」という機能。プロロジック IIと2ch再生時におけるサブウーファの出力を、ボタン1つで変更できる。サブウーファを含む再生システムの場合、映画作品のDVDビデオなどを基準に調整すると、2ch時には低音過多になりがち。低音を控えめにした設定を登録しておけば、リモコンの「オーディオポジションボタン」ですぐに呼び出せる。 音声入力は、デジタル×3系統(同軸×1、光×2)、アナログ×4系統(マルチチャンネル入力×1系統含む)を装備。カジュアル系の見た目ながら、アナログ5.1ch入力を備えるところがうれしい。 また、D4入力×2系統、S映像入力×3系統、コンポジット入力×3系統、D4出力×1系統、S映像出力×2系統、コンポジット出力×2系統も搭載。ただし、OSD(オンスクリーンメニュー)機能はない。操作の確認はすべて表示窓で行なうため、最近のOSDに慣れた身だと、込み入った操作のときに若干もどかしく感じた。 リモコンは主要メーカーのテレビ、ビデオ、DVDプレーヤーが操作できる。音量切り替えボタンは、アンプとテレビの両方が設けられており、切り替えのための煩雑な操作は必要ない。また、主要ボタンが蓄光式なのはうれしい。DVDプレーヤーの操作もでき、主要操作が可能。XV-A77のリモコンが光らないため、今回はこちらで操作することも多かった。 入出力端子で気になったのは、クリップ式の小さなスピーカー出力。細くても高音質を謳うケーブルはあるが、購入後、手持ちの太いケーブルに代えられないのはさびしい。また、6.1chや7.1chに発展できないのも魅力に欠ける点だ。
■ まとめ 3万円前後の実売価格で108MHz DACを搭載するなど、XV-A77のコストパフォーマンスは高い。他社の10万円弱の高級機に比べた場合、ノイズの抑えこみや発色の自然さに若干の不満を覚えるものの、価格を考えると納得できる範囲。古めの27MHz DAC機や、プレーヤー内蔵5.1chシステムなどからの買い替えなら、間違いなく満足できると思う。 RX-ES1も、本体のコンパクトさや音質を考えると、性能と価格のバランスは悪くない。特に、この種の薄型AVアンプを探していた人には、音質面でもおすすめできる製品だ。次は静音化と6.1ch、7.1ch化に発展できる上級機も望みたい。
□ビクターのホームページ (2003年7月10日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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