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スピーカー1本で5ch再生を再現するシアターシステム
メカニカルリサーチ 「NIRO 1.1 STD」
発売日:10月上旬
標準価格:69,800円


※試作機のため、仕様が変更になる可能性があります。
※発売日が9月20日から10月上旬に変更されました。

■ NIROとは

オーディオファンの話題になった国産超弩級パワーアンプ「NIRO 1000」
 NIROという国内ブランドをご存知だろうか。'98年の設立以後、150Wモノラルアンプ「NIRO 1000」でピュアオーディオファンの注目を集め、2002年には前後2つのスピーカーで6.1chを再現する「NIRO TWO6.1」を発売、技術力の高さで話題になった。

 社名は株式会社メカニカルリサーチ。ナカミチの元社長、中道仁郎氏が起こした企業で、ホームシアター、オーディオ、カーオーディオなどを手がけている。また、2002年からは大手ゲーム機メーカーへの加工音源の提供を開始するなど、AV機器以外にも事業分野を広げている。

 そのNIROが、フロントスピーカーだけでサラウンドを実現する「NIROSON CINEMA 1.1方式」を開発し、今秋より新製品「NIRO 1.1 STD」と「NIRO 1.1 PRO」を発売する。元になった技術はTWO6.1のキーテクノロジー「NIROSON CINEMA」だが、1.1 STDと1.1 PROはリアスピーカーを必要としないところが目新しい。TWO6.1の248,000円に対し、STDが69,800円、PROが99,800円と、大幅に低価格化したのも特徴だ。

 なお、STDとPROの大きな違いは、フロントスピーカーのユニット数になる。PROは、STDの左右と前方の3つに加え、斜め前方左右に計2個のユニットを追加している。追加ユニットはリアL/Rの再現用で、発表文には「よりリアルなイメージを実現する」とある。

 「フロントスピーカー1本で5chを再現する」という触れ込みには、にわかに信じられないものがある。さらに、ハイエンドアンプメーカーとして、音質にも相当なこだわりがあるという。もし、これらが本当なら、セッティングの容易さや省スペース性、コストパフォーマンスで注目に値する製品だろう。今回は最もシンプルなNIRO 1.1 STDの試作機をお借りして、実力を試してみた。なお試作機に映像出力のトラブルが発生し、画質のチェックは行なえなかった。


■ シンプルなパッケージ。仕上げは高品位

 NIRO 1.1 STDは、デジタルアンプ内蔵のDVDレシーバ、サブウーファ、フロントスピーカーからなるシアターシステム。特徴的なのはフロントスピーカーで、前面と各側面(L、R)に、80mmのフルレンジユニットを1つずつ搭載しているところ。スピーカーとしてはいささか奇妙な構成だ。エンクロージャは木製で、タイプとしては密閉型に属する。

 出音までの仕組みは次の通り。L、Rスピーカーには5.1chの左右成分(フロントL/R、リアL/R)が、センタースピーカーにはセンターch成分が供給される。このとき、センタースピーカーにはDSPによって特殊処理された信号が、ほとんど聴こえないレベルで同時に送られている。この信号が重要なテクノロジーらしい。

キャビネットは木製 一見すると何の変哲もないペーパーコーンユニットを搭載している 本体背面に接続するコネクタ。ケーブルはスピーカー直付け

 さらに、スピーカーボックスの形状やスピーカーユニットの位置にも工夫があり、これらが組み合わさることで、左右の広がりと前後の奥行きが表現できるという。

 リアイメージに関しては、他のバーチャルサラウンド系に採用例が見られるHRTF(頭部伝達関数)に加え、同社独自の「SFN(Spatial Filter Network)」を適用。これもキーテクノロジーの1つで、バーチャルサラウンドにありがちな逆位相感がほとんど感じられず、非常にリアルなリアイメージが得られるという。

 DVDレシーバはプログレッシブ出力に対応。高さ53mmと薄型の筐体に、プレーヤー、AM/FMチューナ、30W×3ch+50W×1chのデジタルアンプなどを搭載している。デザインはシンプルで、すっきりした印象。天板のたわみもなく、7万円以下のシアターシステムとしては剛性感は高い。

 再生可能なディスクは、DVDビデオ、ビデオCD、音楽CD、CD-R/RW。SVCDも正式にサポートし、CD-R/RWに記録したMP3およびJPEGファイルの再生にも対応する。デコード可能なサラウンドフォーマットは、ドルビーデジタルとDTS。

シンプルなデザインのDVDレシーバ DVDトレイ 操作部

 サブウーファは20cmウーファを搭載したパッシブ型で、ポートは底面に設けられている。価格の割には表面仕上げが美しく、また大きなスパイクと受け皿が付属するなど、専業オーディオメーカーらしいこだわりが感じられる。フロントスピーカーとのクロスオーバーは300Hz付近だそうだ。

 なお、DVDレシーバとフロントスピーカーは同梱の専用ケーブルで接続する。サブウーファとの接続にも専用ケーブルが用意されている。どちらも特殊な形状のコネクタだが、ツメによりしっかりと接続できる。ただし、ケーブルの中身がコネクタ付近で露出しているなど、ユーザーの不安要素になりかねない仕上げの悪さが気になる。

バスレフ型のサブウーファに200mmウーファを内蔵。表面塗装は上質。キャビネットのビビリも少ない

 映像出力はコンポーネント、S映像、コンポジットを装備。コンポーネント出力時にはプログレッシブ出力も選択できる。プログレッシブ/インターレースの変更は、「ディスク停止中に停止ボタンを5回押す」というもの。

 早送り/早戻しは2/3/4倍速に対応。リモコンにコマ送り/戻しボタンはない。再生モードは「REPEAT ALL」、「REPEAT ONE」を選択でき、ABリピートも可能。しかし、いわゆるランダム再生は行なえない。

 メニュー言語は5カ国語から選べるが、日本語メニューは用意されていない。とはいえ、機能がシンプルなため、この種の機器に慣れていれば問題なく使用できるだろう。ただ、日本語メニューがないとなると、とっつきの悪さから「年老いた母にプレゼントしたい」といった要望には応えられないかもしれない。設置が簡単なだけに残念だ。


■ 濃密なサラウンド感と高音質を実現

【再生互換テスト】
ディスク種別 結果
DVD-R
DVD-RW(VRモード) ×
DVD-RW(ビデオモード)
DVD-RAM(VRモード) ×
DVD+R
DVD+RW
コピーコントロールCD
(michelle branch/hotel paper)
レーベルゲートCD
(SOUL'd OUT/ウェカピポ)
※この動作結果はあくまでチェックした個体での動作状況です。また、編集部では個別の動作状況についてお答えできません。ご了承ください。

 DVDビデオを再生してみたところ、確かにしっかりした包囲感が感じられた。前方から後方にかけ、音のカーテンが隙間なく広がっている印象。本来スピーカーがないはずの斜め前方からも濃密な音が聴こえてくる。ある意味、調整不足のリアルスピーカーより包囲感はしっかりしている。後方に関しては、斜め後ろまで音を感じることができた。

 たとえば、「グラディエーター」のコロシアムの歓声や反響音、「キャスト・アウェイ」の環境音などが得意。音を作りかえているのだが、帯域が狭まったり、逆位相感を感じることはないだろう。サラウンドの基本、包囲感については、大抵の人が満足できるクオリティだと感じた。

 また、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のチャプタ15、クィディッチのシーケンスでは、前方から斜め後方に抜けるブラッジャーの音もキチンと再現していた。比較的移動が遅めの場合、上下の移動感も感じられるほど。センタースピーカーを備えているためか、セリフもクリアで聞きやすかった。

 サブウーファのクオリティも高く、フロントとのつながりやビビリの少なさに感心した。シアターシステムの付属品としては高品位なサブウーファといえる。

 音楽CDなど、2chソースの再生時には「STEREO」と「PROLOGIC」が選択できる。ただし「STEREO」といえども、実際には上記のように3つのスピーカーを活用している。左右のスピーカーユニットは横向きに取り付けられているが、リスニングポイントだと、前方への指向性をしっかり感じるから不思議だ。

 最適な視聴ポイントはフロントスピーカーから1~5mと広い。また、左右に大きくずれたとしても、あまり位相の変化は感じられない。多人数での視聴やBGM用途にも向いているだろう。

 音楽CDも再生してみた。帯域はそれほど広くはないものの、解像感や滑らかさについては、セットで7万円のシステムにしてはすこぶる上質。特にインスツルメンタルものや、女性ボーカルが気持ちよい。さすがハイエンドアンプを手がけているメーカーだけあって、基本的なクオリティはしっかりしていると思う。

 5.1ch再生で気になったのは、やはりリアルスピーカーに比べて後方の移動感が希薄なこと。「U-571」で敵の魚雷が船体をこするシーンや、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」でスニッチがハリーの前方で左右移動するシーンなどは、いま1つ臨場感に欠けてしまう。どうやら、真後ろで鳴るべき音が前方に混じってしまうようだ。もっとも、こうしたシーンはそれほど多くはないので、必要以上に神経質になることもないだろう。

【メニュー画面例】
トップページ SET UP GENERAL PAGE
AUDIO SETUP PREFERENCES PAGE MP3再生画面

 そのほかオーディオ関連の機能としては、ダイナミックレンジ圧縮機能を搭載している。他の機種の場合、3段階程度の圧縮率が多い中、NIRO 1.1では8段階の指定が可能。適用できるのはドルビーデジタルのみ。本機の場合、デコード後に音声を一旦作り変えているので、どうせならDTSやPCMにも適用できれば面白かった。

 MP3再生機能も搭載しているが、ID3タグの表示には対応していない。日本語表示も不可能。多くのシアターシステムと同レベルの機能といえるが、再生音は良い。主に128kbpsのファイルを再生したが、オーディオ用途として十分実用的だと感じた。ただ、音楽CDと同様、ランダム再生は行なえない。

 なおNIRO 1.1は、背面にファンを備えており、「ゴーッ」という動作音が常に聴こえる。回転スピードはも一定で、ディスクの状態に関わらず常時ONになっているようだ。音質が良いだけに、静かなシーンやダイナミックレンジの大きい楽曲で気になってしまった。ただし、それほど耳につく音というわけではない。


■ 手軽なパッケージの割には本格的な音

 シアターシステムとしては、映画、音楽とも音質に大きな不満はない。機能はシンプルだが、最も重要な音質やサラウンド感で手を抜いていないところがうれしい限りだ。コンポーネント機器を下手に組み合わせるより、十分な満足感を得られるかもしれない。また、設置の手軽さも群を抜いており、シンプルなシステムを探している人にはぴったりの製品だろう。

 残念なのは、日本語表示が不可能なメニューなど、家電として細かい気配りがいま1つなところ。AV初心者層にこそすすめたい製品なので、細かいボタンで埋め尽くされたリモコンの操作性など、もう少しコストをかけても良いと思う。

 また、拡張性の低さも惜しい点。たとえば、デジタル入力が1系統あれば、任意のDVDプレーヤーと組み合わせることができる。すでにDVDプレーヤーを所有しているユーザーにもアピールできるはずだ。もっともこの製品の場合、多機能化やコンポーネント化は製品コンセプトに反するのかもしれないが。

 なお、スピーカーを5つ搭載した上位機種のNIRO 1.1 PROを聴いたところ、リアチャンネルの音がよりクリアに聴こえるように感じた。「ロード・オブ・ザ・リング」の地下洞窟では、方々から迫るオークの距離感や、主人公との高低差も確認できた。フロントスピーカーの大きさはそれほど変わらないので、予算があるならPROも検討したい。

NIRO 1.1 PROはフロントスピーカーのユニットを増やし、リアイメージのさらなる鮮明さを求めた上級モデル


【NIRO 1.1 STDの主な仕様】
DVDレシーバ部 再生対応ディスク DVDビデオ、SVCD、ビデオCD、音楽CD、CD-R/RW(MP3、JPEG可)
アンプ出力 30W×3ch、50W×1ch
チューナ FM76~90MHz、AM522~1,620kHz
周波数特性 4Hz~22kHz(DVD/PCM:48kHz)
4Hz~44kHz(DVD:96kHz)
4Hz~20kHz(CD)
SN比 96dB(CD、1kHz)
ダイナミックレンジ 95dB(リニアPCM、DVD)
94dB(CD)
音声入力 アナログ×2系統
映像出力 コンポーネント、S映像、コンポジット×各1系統
音声出力 アナログ入力、ヘッドフォン×各1系統
外形寸法 430×336×53mm(幅×奥行き×高さ)
重量 4.2kg
スピーカー 形式 フルレンジ8cm×3
インピーダンス
外形寸法 460×135×110mm(幅×奥行き×高さ)
重量 3kg(本体のみ)
サブウーファ 形式 20cmウーファ
インピーダンス
外形寸法 297×297×327mm(幅×奥行き×高さ)
重量 6.5kg(本体のみ)

□メカニカルリサーチのホームページ
http://www.niro.net/
□製品情報
http://www.niro.net/jp/niro/
□1カ月無料お試しキャンペーン
http://www.niro.net/jp/campaign/
□関連記事
【9月5日】MRC、フロント+サブウーファで5.1chを再現するシアターシステム
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030905/mr.htm

(2003年9月25日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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